• 検索結果がありません。

スピン角運動量

ドキュメント内 Planck Bohr (ページ 66-69)

軌道角運動量以外の量子数とは何なのだろうか?ここで思い出して欲しいのは、角運動

量代数(160)の表現である。あらたに角運動量演算子をJˆiとすると、代数の交換関係は

[ ˆJi,Jˆj] =iϵijkJˆk, i, j, k=x, y, z, (307)

であり、11.5節の議論を繰り返すと

Jˆ2|j, jz=ℏ2j(j+ 1)|j, jz⟩, Jˆz|j, jz=jzℏ|j, jz⟩, j = 0, 1

2,1, 3

2,2,· · · , jz =−j, −j+ 1,· · · , j−1, j, (308) のような状態を構成することができる。jの値に応じて(2j+ 1)個の状態が存在する。従っ て角運動量がjの状態を(2j+ 1)次元表現と呼ぶ。jの値が整数値の場合には軌道角運動 量を対応させることができた。Stern-Gerlachの実験を説明するためには新たな自由度が 必要だが、それをj= 12の状態、つまり2次元表現によって実現することを以下で考える。

このように角運動量の大きさが 2 となるような量子数をスピン量子数と呼ぶ。

まず、角運動量代数と本質的に同じLie代数(285)を考えよう。既にみたように3×3

列(283)1つの実現例であり、3次元表現と呼ばれる。もう一度明記しておくと

3次元表現: R=eiXi, (Xi)jk=−iϵijk, (309) である。次にPauliによって導入されたパウリ行列

σ1 = (

0 1 1 0

)

, σ2 = (

0 −i i 0

)

, σ3 = (

1 0 0 1

)

, (310)

を考えると、

[σi 2, σj

2 ]

=ijkσk

2 , (311)

なので、σ2iXiと同じ交換関係を満たすことが分かる。パウリ行列は2×2行列なので、

2次元表現と呼ばれる。すなわち

2次元表現: Σ =ei σi2 , σi : パウリ行列, (312) である。実は2次元表現と3次元表現には次のような関係がある。

Σ−1σiΣ =Rijσj. (313)

この関係式の証明を与える。まずMi(t)ΣtσiΣtと置いて、tで微分すると dMi(t)

dt = Σti

2θkk, σit=−θkϵkijMj(t) = (−iθkXk)ijMj(t), (314) となる。よって解はMi(t) = (eitθkXk)ijMj(0) = (Rt)ijσj となり、t = 1とすれば式 (313)が得られる。

3次元表現によって回転変換を受けるベクトルを3成分で表すように、2次元表現によっ て回転変換を受ける波動関数は2成分で表される。2成分の波動関数をψα(x)(α= 1,2) 書くと、ψα(x)の回転変換は

xi =Rijxj, ψα(x) = Σαβψβ(x), (315)

のように与えられる。これより例えばψσiψはベクトルとして変換し、ψσiiψはスカ ラーとして変換することが分かる。

スピンを含む場合の回転対称性と角運動量保存について考察しよう。ここで、ポテンシャ ルエネルギーが空間回転で不変であるとすると、波動関数は空間回転対称性をもつ。微小 な空間回転はxi =Rijxj ∼xi−ϵijkθkxjであり、2成分波動関数ψαの微小変換は

ψα(x)∼ψα(x)−ϵijkθkxjiψα(x) (316)

= Σαβψβ(x)∼ψα(x) i

2θkk)αβψβ(x),

なので、空間回転のパラメータをθk → −ℏθkのように再定義すれば、波動関数の微小変 換は

δkψα(x) =−iϵkijxijψα(x) +ℏ

2(σk)αβψβ(x), (317) となる。従って、回転対称性があれば全角運動量

Ji =Li+Si, (318)

は保存する。ただし、軌道角運動量Liおよびスピン角運動量SiLi =

d3x ψα(x)(

−iϵijkxjk) ψα(x), Si =

d3x ψα(x)

2(σi)αβψβ(x), (319) のように表される。α, βは和をとっている。

2成分波動関数を

ψα(x) = (

ψ+(x) ψ(x)

)

, (320)

のように表すことにする。波動関数がψ+(x)のみ0でないときスピン角運動量は

S =

 0 0 +2

, (321)

であり、波動関数がψ(x)のみ0でないときスピン角運動量は

S =

 0 0

2

, (322)

となる。

このようにスピン角運動量を導入したので、弱磁場中のハミルトニアン(305)に現れる 磁気モーメントは

µˆ = eℏ 2me

(Lˆ ℏ +ge

Sˆ ℏ

)

, (323)

のように修正される。geは電子のg因子と呼ばれる無次元量で、この値は電子がどの程度 の大きさの磁石なのかを計る量である。geの値は量子力学では理論的に決めることができ ないが、実験ではge 2となることがわかる。相対論的な量子力学であるDirac理論で は、ge= 2となる。Stern-Gerlachの実験では、銀原子は軌道角運動量は0だけれどもス ピン角運動量は±2 をとるので、スピンと磁場の相互作用によって銀原子の位置が2か所 に分かれたのである。

ドキュメント内 Planck Bohr (ページ 66-69)

関連したドキュメント