第7章 電磁波吸収複合ゴム材の吸収特性と 接触熱抵抗の評価
7.3 実験結果と考察 .1 電磁波吸収特性
7.3.4 各ステンレス網を用いたときのTCRの複合ゴムの 充填率依存性
各ステンレス網(ネット)について,各種の充填量の複合ゴムを用いて TCR を 測定し,さらにTCRの減少率 Kを算出した。目開きの大きく,且つ厚さの厚い ステンレス網(SNo.2)を用いた場合のKをFig. 7.10に示す。30 vol%の充填量では
Kの値50~60 %と小さかった。これは複合ゴムシートが比較的柔軟なため密着
性は高いが,複合ゴムシートの熱伝導率が小さいためであると考えられる。
また70 vol%のように高い充填量でも,Kは充填量が30 %の場合と同様に小さ
かった。これは,複合ゴムシートの熱伝導率は高くなるが,柔軟性が損なわれ るため複合ゴムシートとステンレス網間の空隙が大きくなったからであると考 Fig. 7.8 TCR between SUS304 sheet and copper sheet with thickness of 0.777 mm.
15
10
5
0 TCR [cm2 ·K/W]
80 60
40 20
0
Fe content [vol%]
Fig. 7.9 Decreasing rate of TCR between SUS304 sheet and copper sheet.
-250 -200 -150 -100 -50 0
Decreasing rate of TCR [%]
80 60
40 20
0
Fe content [vol%]
92
えられる。したがって,複合ゴムシートの高熱伝導性と柔軟性のバランスの取
れた50 vol%付近の充填量でKが最大になったと考えられる。
目開きが小さく且つ比較的厚さの薄いステンレス網(SNo.5)を用いた場合の K
をFig. 7.11に示す。30 vol%および70 vol%付近でKが小さくなるのは目開きの
大きく厚いステンレス網(SNo.2)を用いた場合と同様であるが,K の最大値50~
60 vol%付近となった。これはSNo.2のステンレス網の場合に比較して,SNo.5
のステンレス網の空隙の大きさが小さいため,複合ゴムの柔軟性の効果より高 熱伝導化の効果の方がより重要になったためと考えられる。
また加圧処理を施した場合,目開きが小さいあるいは目開きが大きいステン レス網を用いたいずれの場合においても K は増加した。つまり接触熱抵抗を下 げることができた。この結果より,ステンレス網との密着性を促すための複合 ゴムの柔軟性は非常に重要な要素であることが再確認された。そして目開きが 小さく且つ比較的厚みの薄いステンレス網を用いた場合(SNo.5),加圧処理によ り K の最大値は充填量が 60 vol%付近に移行した。これは複合ゴムシートの柔 軟性が不足している場合においても,加圧処理により複合ゴムをステンレス網 の空隙に強制的に押し込めて空隙率を減少させることにより,熱伝導率の効果 が増大したためであると考えられる。
以上よりH-NBRにカルボニル鉄を充填した複合ゴムを用いる場合には,その
充填量を増加させると吸収中心周波数は低周波側に移行する傾向がある。した がって電磁波の吸収特性と接触熱抵抗低減率の両方を最適値にすることは困難 である。しかしながら,各充填量に対してステンレス網の目開きや加圧処理の 付与により接触熱抵抗低減率を大きくすることが可能であることが本研究から
Fig. 7.10 Decreasing rate of TCR between SUS304 sheet and stainless steel net (SNo.2).
100 80 60 40 20
Decreasing rate of TCR [%] 0
80 60
40 20
0
Fe content [vol%]
with pressing without pressing
93
明らかとなった。
またTable. 7.4に示すように,センダスト粒子を用いた試料番号No.6の熱的性
質は磁性金属の充填量が等しいNo.4のものとほぼ同等であった。しかし吸収中 心周波数に関しては,Fig.7.4に示すようにH-NBRにカルボニル鉄を70 vol%以 上充填しないと,EARにセンダスト粒子を60 vol%充填した混練物(No.6)と同等 にならない。Fig.7.6に示すように充填が増加すると柔軟性が低下することから,
柔軟性を維持しながら吸収中心周波数を低周波側に移動させたい場合には,球 状のセンダスト粒子を充填する方が適切であることが分かる。
Fig. 7.11 Decreasing rate of TCR between SUS304 sheet and stainless steel net (No.5).
100 80 60 40 20
Decreasing rate of TCR [%] 0
80 60
40 20
0
Fe content [vol%]
with pressing without pressing
94