スクールソーシャルワーカー活用事業の職務内容にも記されているように、環境への働きかけはソー シャルワーカーの特色といってよい。「学校等における児童虐待防止に向けた取り組みについて(報告 書)」(2006)では、「環境に働きかけるプロセスにおいては、連携、仲介調整などの機能が不可欠であり、
それらの機能を発揮することがソーシャルワーカーの特性であり、役割でもある」と示されている。し かし、環境に働きかけるには子どもたちの権利擁護や自立支援の視点があることが重要である。
権利擁護と自立支援の視点について、自閉症スペクトラムの子どもを例に考えてみよう。今現在は学 校で適応をみせている場合、スクールソーシャルワーカーの介入は不要だと判断されることがある。確
かに、大きなトラブルはなく、子ども自身も安心して学校生活を送れている。しかし、それは学校とい う守られた環境であるから安定していると推察できる。学校という枠組みから出て社会で生活し始める と、これまで守り支えていた教員等の不在によって不安定な生活を強いられる危険性を推察できよう。
このようなケースに対しては、スクールソーシャルワーカーは予防的な観点で関わることができる。学 校というサポートシステムがなくなった後も社会生活を安心して送れるように、保護者の子どもの将来 に対する不安な思いを軽減するために、在学中からしかるべき社会資源と繋ぎ、権利擁護と自立支援に 向けた新しいサポートシステムを構築するという支援が必要である。
このように、スクールソーシャルワーカーは現在目の前にある課題解決のために環境に働きかけるだ けではなく、将来的な自立支援の視点をもって子どもの状況をアセスメントし、予防的に環境に働きか けることができる。これは安心安全な生活という子どもの権利を擁護する働きかけでもある。そう考え ると、顕著な生活上の課題などはなく教員間で対応できていて、スクールソーシャルワーカーの直接介 入は必要ないと思われるケースであっても、子どもたちが安定しているという状況からスクールソー シャルワーカーがアセスメントに加わることに意味がある。そもそも、誰がどのように支援するのかと いった分担はアセスメントの結果として導き出されるものである。スクールソーシャルワーカーやス クールカウンセラーの勤務時間が限られる中で、多職種で集まるという状況を作り出すこと自体が容易 ではない。しかし、早期段階で多職種が集まってアセスメントをすることで、短期介入での状況改善や 予防的介入が期待できる。この早期段階の多職種によるアセスメントの有用性をスクールソーシャル ワーカーが教員に伝え続けることは、子どもたちの権利擁護と自立支援の視点からも意義があると考え る。
おわりに
複合化した様々な問題が子どもたちを取り巻く中で、スクールソーシャルワーカーの有用性が評価さ れ配置拡充が広がっているにもかかわらず、学校現場ではスクールソーシャルワーカーが十分機能しき れていない状況について、その要因を検討した。
学校が困惑している要因としては、①これまで教員が行ってきた生徒指導とソーシャルワークとの違 いが見えにくく、役割分担の混乱が生じていること、②スクールソーシャルワーカーに相談を持ちかけ るのは学校対応の限界を感じた場合であること、③スクールソーシャルワーカーの配置目的と配置状況 が市町村レベルで曖昧であること、が挙げられる。これらを踏まえ、スクールソーシャルワーカーは自 立支援の視点や権利擁護という観点から早期にアセスメント場面に加わることの重要性を強調する必要 がある。また、学校・教員もスクールソーシャルワーカー自身も、スクールソーシャルワーカーの配置 拡充に至った政策的な背景を理解し、限られた勤務時間数で活動する目的と活動することの意義を各学 校・市町村教育委員会で検討する必要がある。
スクールソーシャルワーカーの本格的な導入は1995年に始まったばかりである。スクールソーシャ ルワーカーが学校のスタッフとして自然に認識されるようになるまでにはしばらく時間が必要かもしれ ない。しかし、スクールソーシャルワーカーが自分たちの役割を理解し、チーム学校の一員として自覚 し、積極的に教員にアプローチしていくことが求められる。
一方、スクールソーシャルワーカーの必要性が認められ配置拡充されることは、子どもの健全育成の 観点から望ましいことではあるが、その一方で課題も出てきている。筆者の経験から最も大きな課題の 一つと感じるのは、スクールソーシャルワーカーの導入について具体的なビジョンを持たないまま配置 だけを拡充している都道府県・市区町村教育委員会が少なからずあるということである。既に述べたよ うに、文部科学省はスクールソーシャルワーカーの職務内容を明示しているが、限られた勤務時間の中 で何をどこまでするのか、優先順位をどうつけるかを判断する基準は、雇用側がスクールソーシャルワー カーの配置によってどのような状況を目指しているのかというビジョンに係わる。ビジョンの不明確さ は、教員だけではなくスクールソーシャルワーカーも困惑させ、有用性を妨げる結果を招くことになる。
「学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策の推進」や「ニッポン一億総活躍プラン」で は、スクールソーシャルワーカーを1万人に増員し、中学校への配置、あるいは中学校を拠点校として 校区内の小学校を管轄する中学校区モデルという実施方法を掲げている。一方で、「学校教育法施行規 則の一部を改正する省令」においては、「スクールソーシャルワーカーは、小学校における児童の福祉に 関する支援に従事する。」と明文化されている。中学校区モデルは校区内の小学校も管轄するとはいえ、
実際は問題が山積している中学校の対応で手一杯で、小学校までなかなか手が回らないというところも 少なくない。また、スクールソーシャルワーカーの人材不足は顕著で、社会福祉士や精神保健福祉士の 有資格者を確保できない地域も多い。支援の質を担保するためにも、今後研修やスーパーバイズの体制 を整えていくことや、安定した人材供給を目指していかなければならない。
引用・参考文献
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注ⅰスクールソーシャルワーカーに厳密な資格要件はない。文部科学省や各自治体は社会福祉士や精神保健福祉士 の国家資格を所持していることが推奨されているが、有資格者を確保することは地域によっては非常に難しく、
複数のスクールソーシャルワーカーが配置されていても、そのほとんど、あるいは全員が有資格者ではない場合 もある。退職校長など教員経験者や臨床心理士などの心理系の資格を有する者も少なくない。よってスクールソー シャルワーカーとしての価値観・倫理観や方法論を学ぶために本来十分な研修等が必要であるが、研修費やスー パーバイザーを雇用する予算がなく、十分な研修やスーパービジョンを受ける機会がないまま実践しているケー スも少なくない。