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第3章 スウェーデンの税制改革

第 2 節 スウェーデンの議会制度

前節ではスウェーデンにおける税制改革の政策形成過程を検証した。検証を通して①政 策形成を担う政府調査委員会が与党だけでなく野党の議員も含めて構成されている点、② 野党との合意形成が重視され政策変更が加えられている点が特徴として挙げられた。本節 では議会制度の検討を通して上記 2 つの要因を明らかにする。検討の結果、野党との合意 の必要性が議会の審議過程における与党モードの機能を強固にしたことが示される。

スウェーデンの議会制度

本項では議会制度の検討を通じ、スウェーデンにおける立法過程の基本構造が欧州大陸 型モデルであることを明らかにする。スウェーデンの議会は以下の 3 点から欧州大陸型モ デルの議会制度といえる。第一に法案提出が議員と内閣の双方ともできる点である。第二

21 ただし新聞など一部物品で軽減税率適用が拡大された(飯野2011: 184, 186, 191)。

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に閣僚と議員の兼任が禁止されている点である。選挙時から代理人を指定し、議員が閣僚 に指名されると指定された代理人が議員に代わって代表権を行使する。代理人制度により 議会から閣僚を選出しても政府に対する与党会派の自律性を維持できる。第三に常任委員 会の権力が強い点である。以上のようにスウェーデン議会は内閣が議会の外部にある点か ら与党会派の自律性が強いと言える。したがってスウェーデン議会は与党会派と政府が議 会の審議過程で交渉する「与党モード」が中心の議会であると言える。

野党との合意形成を促進する要因

しかし、「与党モード」が中心の議会審議過程というだけでは前節で提示された2つの特 徴を説明することはできない。本項ではスウェーデンにおける政治制度の検討を通して、2 つの特徴それぞれから生じる以下のような疑問の答えを明らかにする。特徴①に対する疑 問は政府調査委員会になぜ野党議員も招集されたのかということである。政権党(本事例 では社民党)からみれば選好が一致する社民党議員だけを委員会のメンバーとした方が同 党の選好をより正確に表明できるはずである。にもかかわらずわざわざ野党議員を政策形 成過程に巻き込むのはなぜだろうか。特徴②に対する疑問は政権党を担っているにもかか わらず、なぜ野党との合意形成が必要とされるのかということである。

2つの疑問の答えは「少数内閣」という1点に集約される。「少数内閣」とは政権党(最 大多数の党)だけで法案の可決(否決)に必要な過半数を有していない内閣のことである。

例えば1988年の選挙の議席分布(図3-1参照)では政権党である社会民主党は156議席で あり過半数の175議席に達していない(ハデニウス2008: 234)。したがって政府の提案を 議会で承認するには野党の協力が不可欠となる。「世紀の税制改革」の場合にはより政府案 に近かった国民党と合意を形成しなければ法案を成立させることができなかった。実際に 税制改革と異なる問題で国民党の支持を得られなかったために経済危機克服プログラムに 関連する法案が否決され、一度は内閣が総辞職する事態となっている。

図3-1 1988年総選挙後のスウェーデン議会における議席分布

※全議席数は349、過半数は175議席

【出所】ハデニウス2008: 234より筆者作成

34 少数内閣が可能となる理由

ここで根本的な疑問が生じる。なぜ議会の過半数を有していない少数内閣を組閣できる のだろうか。今日の議会政治における「議会内議席の過半数を制した者が勝利者である」

という基本ルール(岡沢2009: 12)を念頭に置くと、少数内閣はあり得ないと考えられる。

基本的にあり得ないと考えられる少数内閣がスウェーデンにおいて継続的に形成されえた のは「消極的議院内閣制」(アイロット2014: 261)という政治制度が存在するからである。

「消極的議院内閣制」とは「首相が議会の信任を得ていると認められるために、現実に 多数派から支持される必要がないかわりに、絶対多数が首相およびその政府への不信任を 支持しない」(アイロット2014: 261)ということが求められる制度である。政権形成時の 首班指名を含め、政府に対する信任投票は反対者が過半数とならない限り否決されない(棄 権は消極的賛成とみなされる)ため、少数内閣の誕生・存続が相対的に容易となる(渡辺 2011: 66)。

実際にスウェーデンの戦後政権のほとんどが少数内閣である。岡沢(2009)は戦後スウ ェーデンにおける政権パターンを分類している22。これによれば戦後スウェーデンにおいて は 5 つの政権パターンが観察される。最も多い政権パターンは「単独少数政権」である。

政権の運命を他党に委ねたまま長期政権を担っている点でこのパターンは政党政治の基本 常識からは逸脱している。次に多いパターンは「最小勝利連合政権」である。この政権パ ターンは議会内で過半数確保に必要なだけの政党を閣内に含み、余分な党は含まない。多 党制議会の政党は政権参加と戦略的・長期的な内閣支配権の極大化を望む限りこの最小勝 利連合に入り込もうと努力する。残りの 3 つ(一党優位型・単独過半数政権、第二党以下 の政党による単独・少数党政権、過小規模連合政権)は戦後スウェーデンの政権において 例外的である。(岡沢2009: 10-13)。単独過半数を獲得できなかった場合に安定的な政権を 築くには最小勝利連合政権を目指すことが合理的と考えられる。しかし戦後スウェーデン においては社民党政権のほとんどで単独少数政権が維持されている。加えて連合政権を樹 立したにも関わらず過半数に満たない過小規模連合政権が組織されたこともある。スウェ ーデンの消極的議院内閣制が脆弱な基盤の少数派政権の存続を可能にしている(アイロッ ト2014: 276)と言える23

野党モードの与党モード化

消極的議院内閣制に基づく少数内閣の維持は議会における野党の合意の重要性をもたら した。近代的な政党政治の下での議院内閣制では野党がどんなに激しい政府批判を展開し てもそれだけで政府が倒れることがないと考えられる(大山2003: 208)。しかし、この命

22 岡沢(2009)では2006年に政権についたラインフェルト内閣までを対象としている(岡 沢2009: 11)

23 スウェーデン憲法では議員任期を残したまま解散・総選挙を行ったとしても、次の手活 け選挙は通常通り行われると規定されている。この規定により議会が解散総選挙を行おう とする可能性を小さくしている(アイロット2014; 262-263)。

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題は多数派政権を前提としており、少数内閣の場合は例外(大山2003: 208)である。すな わち少数内閣の場合は野党の激しい政府批判が倒閣に直接結びつくと同時に政府の法案を 成立させるには野党いずれかの同意が必要である。税制改革も国民党の協力があって初め て成立した。したがって少数内閣では野党との合意形成が不可欠である。

野党との合意形成の重要性は野党モードのあり方に変化をもたらした。元来野党モード は「政府の方針に対して野党が論争を挑む対抗関係」である。しかし、政府法案の可決に 野党議員の賛成が欠かせない少数内閣においては政府と野党の関係が協議・妥協に重点を おいたものになる。すなわち少数内閣における野党モードは実質的に与党モードに近づく。

(大山2003: 207)

少数内閣における野党モードの与党モードへの接近は、野党モードが完全に与党モード になることではない。しかし野党モードにおける対抗関係が弱まり、協議・妥協の重視さ れることで議会の審議過程における「与党モード」機能の拡大につながる。すなわちスウ ェーデン議会は元来持つ「与党モード」中心の立法過程に加え、「野党モードの与党モード 化」によってさらに「与党モード」の機能を強化した審議過程を有するといえる。

合意形成を促す補完的制度

少数内閣は野党との合意形成を促進する補完的な制度ももたらした。本項では 2 つの制 度について簡単に紹介し、補完的制度が議会における合意を促進していることを明らかに する。第一の補完的制度は政策形成過程の初期段階における野党の参加である。議会で最 終的に野党の合意が必要となることは政策決定における合意重視の傾向を強めている。各 野党も委員会の見解が議会外の関係団体への意見聴取手続きに付される前も含め、政策決 定の比較的早い段階で過程に組み込まれている。例えば「世紀の税制改革」においても政 府調査委員会に野党議員が加わっている。委員会では中立的な立場から政策に関する議論 や政策提言が行われるため、大山(2003)で示された政府と議会のモードのうちノンパー ティーモード(大山2003: 208)での議論が行われている。委員会における徹底的な事前調 査・研究活動を通じ広範な意見が集約され、法案の枠組みを形づくりながら事前合意を生 み出していく(岡沢2009: 43-44)。

第二の補完的制度は世間一般から広範囲な支持獲得である。第 1 節で紹介したレミス制 度によって利益団体・市民は決定の前に意見表明の機会を与えられている(岡沢2009: 44)。

あらゆる利益が審議・調査の過程で表出される点で、レミス制度は受容可能な妥協の調達、

合意の形成、公正で実際的な意思決定の基礎力として機能している(岡沢1988: 123)。野 党との合意を不可欠としていることが広範な合意形成の必要性を生み、意思決定の基礎力 となるレミス制度を生んだと推測される。

強く機能する与党モード

本節ではスウェーデンの議会制度を概観してきた。本節の議論は以下のようにまとめら

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