第 4 章 シミュレーションの結果と考察 24
4.2 所得の残高基準モデル
消費者が持つ重視度が所得を基準にして変化する場合の企業と消費者の振る舞いをみ る.
図 4.3: 所得の残高基準モデル:消費者の重視度αの時系列 横軸:時間:消費者数
図 4.4: 所得の残高基準モデル:企業の採用する投入割合θの時系列 横軸:時間:企業数 図4.3は消費者の持つ重視度の全体における採用数を示している.企業の場合と同様に,
該当する投入割合に対応する色が大きいほど,その重視度が採用されていることを示して いる.図4.3より,一様な初期設定から開始し,時間の経過とともに0−0.1,0.1−0.2の 重視度が拡大していることがわかる.その一方で,それ以外の重視度にかんして,値が高 いほど縮小している.図4.4は企業の企業の採用する投入割合の全体における採用数を示 している.企業と消費者を比較した場合,企業は,時間の経過とともに0−0.1,0.1−0.2 の投入割合が増加し,0.2以上の投入割合が縮小している.企業に関しては,0−0.1の投 入割合の広がり方が,消費者の場合よりも緩やかになっている.また,図4.4より全体の
0−0.1,0.1−0.2の投入割合が増加しつつも,各投入割合の採用数が上下に変動してい
ることがわかる.
図 4.5: 所得の残高基準モデル:時間t = 500における各乱数での状態 横軸:消費者の重視 度αの平均 縦軸:消費者の重視度αの標準偏差
図4.5は,あるパラメータ設定において初期値を変えて50試行したときに結果であり,
ドットはある試行における時間t= 500のときの,消費者持つ重視度の状態を示している.
横軸が重視度の平均値であり,縦軸が重視度の標準偏差である.標準偏差の大きさは,採
用される重視度の幅の広さを表している.図4.5より,平均はほぼ一致し,標準偏差に関 しては0.1程度の差異であることが読み取れる.
消費者が持つ重視度が所得を基準にして変化する場合の結果は以下の特徴を持つ.
• 消費者において0−0.2の重視度が増加
• 企業においても0−0.2の投入割合が増加
• 企業の0−0.1の増加の仕方が消費者の場合よりも緩やか
• 企業の投入割合の変化において上下の変動
消費者において0−0.2の重視度が増加するのは,所得を基準とした模倣を導入したため である.重視度が高い消費者は,同程度の投入割合を持つ企業を選択する可能性が高い.
したがって,重視度が高い消費者は所得が小さくなる傾向にある.そのため,隣接する消 費者と自らの所得を比較し,所得の高い,すなわち,低い重視度を持った消費者を模倣す る.この模倣行動が繰り返されると,隣接する消費者に自らの所得よりも低い所得の消費 者がいることによって,それまで模倣の圧力にさらされていなかった消費者においても模 倣を行うようにある.このようにして,重視度の高い消費者は自らの重視度を変更せざる を得なくなり,消費者全体として0−0.2の重視度が大半を占めることになる.
企業においても0−0.2の投入割合が増加するのは,消費者のおいて0−0.2の重視度 が増加したことに起因する.企業は消費者から選択される数に反応して,唯一の戦略であ る投入割合を変化させる.したがって,企業は消費者側での重視度の変化を受け,その選 択の変化を通じて投入割合の変化を迫られる.そのため,消費者側での重視度において 0−0.2が増加したことを受けて,企業においても0−0.2の投入割合が増加したといえる.
企業においても0−0.2の投入割合が増加する際に,企業の0−0.1の増加の仕方が消 費者の場合よりも緩やかであった.これは,消費者が企業を選択する際に,必ずしも自ら の重視度と同じ投入割合を持つ企業を選択するとは限らないからである.消費者は,自ら の重視度の値に近い投入割合の企業を選択する可能性が高いだけである.また,選択が確 率的になされることから0−0.2以上の投入割合を採用する企業も選択され得る.企業は
隣接する周囲の企業と消費者に選択された数を比較して,投入割合を変化させる.そのた め,0−0.2以上の投入割合を採用する企業も選択され得るということは,0.1−0.2の投 入割合を採用する企業にとっては自らが投入割合を変化させる理由をもたない状況を作り だすことになる.したがって,企業においては投入割合の近い0−0.2の採用数は消費者 同様に増加するが,0−0.1の増加の仕方は,0−0.2以上の投入割合を採用する企業がい なくなってから調整が始まることとなり,結果的に企業の0−0.1の増加の仕方が消費者 の場合よりも緩やかとなる.
企業の投入割合の変化において上下の変動が見られるのは,重視度の変化がない場合 と同様の理由である.0−0.1の投入割合に着目すると,大きな上昇のトレンドに乗りな がらも上下に変動し,調整を繰り返していることがわかる.これは,消費者の重視度の変 化があるので大局的には0−0.1の投入割合を採用することは企業の戦略としては正しい が,各時点において局所的には過当競争状態に陥り,企業の近視眼的,合理的な判断によ り投入割合を変更していることを表している.