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第 3 章 表面加工層が低サイクル疲労強度に及ぼす影響 28

3.3 低サイクル疲労試験

3.3.1 疲労試験方法

低サイクル疲労試験はJIS Z2279(43)に準拠し実施した.試験機には容量±100 kN電気油圧 式疲労試験機(MTS製)を用い,室温大気中で行った.標点間長さ12 mmの伸び計を用いて軸 方向変位を測定し,軸方向ひずみに変換した.疲労試験は軸方向ひずみ制御で行い,ひずみ

速度は0.4 %/sとした.試験条件はひずみ範囲 = 0.8および1.4 % とした. = 0.8 %では弾

性変形内で,1.4 %では塑性変形が生じると考えられる.疲労試験片の破断は,1サイクル中 の最大応力maxがほぼ一定となる疲労寿命中期におけるmaxの75 %までmaxが低下した時点 または試験片の破断時とした.

3.3.2 疲労寿命

図3.2および表3.3に破断繰返し数Nfとの関係を示す. 有意水準5 %としてt検定を行っ た.疲労寿命が対数正規分布であることを仮定し,等分散を仮定した. = 1.4 %の場合,疲 労寿命に有意な差は見られなかった.一方, = 0.8 %の場合,T1とT2の疲労寿命に有意な 差は見られなかったが,EP1はT1およびT2よりも有意に短寿命であった.試験本数が1本 のEP2に対してはt検定を行わなかったが,いずれの表面仕上げよりも疲労寿命は短かった.

図3.3(a)にT1の応力ひずみ関係を示す.また,サイクル中の最大応力および最小応力の

変化を図bに示す.の場合,繰返し数では塑性変形は生じない.その後,

わずかに塑性変形が生じるが,疲労寿命の中盤以降でもほぼ弾性変形であった. = 1.4 %の 場合,N = 1から塑性変形が生じていた.N = 5 程度までは繰返し硬化を示すが,その後緩や かな繰返し軟化を示した.結果は省略するが,応力-ひずみ関係および繰返し硬化軟化挙動に 表面加工層の影響は見られなかった.

3.3.3 破面観察側面観察および切断面観察

疲労試験後の試験片表面の観察結果を図.4に示す.図3.4(a)および(b)はT1の = 1.4 %試 験の試験片表面である.T1 および T2の場合,多くのき裂は加工傷から発生していた.しか

し,図3.4(b)に示すように,発生起点が不明確なき裂も存在した.図3.4(c)および(d)はEP1の

= 1.4 %試験の試験片表面である.EP1およびEP2の場合,き裂は結晶粒内のすべり帯を起 点として発生していた.

Table 3.3 The results of fatigue lives Nf[cycles].

 = 0.8 % = 1.4 % 

T1 83275 EP1 60812 T1 3745 EP1 4951

103449 57803 4312 4343

71433 53321 4983 5570

T2 110920 54863 T2 5844 5950

96391 EP2 42691 4930 EP2 5401

102613 6282

Fig.3.2 The relationship of strain range and fatigue lives.

10

3

10

4

10

5

0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 2

Number of cycles to failure N

f

, cycles

St ra in r an g e  , %

EP1 T1 T2

EP2

1.5

T1の = 1.4 %試験の破面および側面の観察結果を図に示す.図aに赤矢印で示すよ うに,破面の外周には複数のき裂が確認できる.複数のき裂が発生し,合体を繰り返しなが ら成長したと考えられる.矢印(1)および(2)の方向から光学顕微鏡観察を行った結果を図b)

(b)Max and minimum stress variation.

(a)The relation between stress and strain.

10

0

10

2

10

4

10

6

−1000 0 1000 2000

Number of cycles N, cycles

T ru e st re ss  , M Pa

 = 0.8 %

 = 1.4 %

max

min

T1

−1 −0.5 0 0.5 1

−1500

−1000

−500 0 500 1000 1500

T1

N =1

True strain  , %

Tr u e s tres s  , MPa

N =50000

= 0.8 %

= 1.4 % N =1 N =2000

Fig.3.3 Stress-strain response of T1.

および(c)に示す.加工傷に沿ってき裂が進展したと考えられる.図3.5(a)の破線部の EDS観 察を行った.その結果を図3.6に示す.図3.6に示すように,Nb,Moを主成分とする介在物 が確認された.T2の破面はT1と同様であった.EP1の破面および側面の観察結果を図3.7に

Fig.3.5 Macro observation of fracture surface under =1.4 % condition of T1(a). (b) and (c) are the picture of side surface.

200 m (c)

1 mm

(1) (2)

(a)

200 m (b)

Longitudinal direction

100 m 100 m

100 m

Fig.3.4 Observation of fatigue crack under  =1.4 % condition of T1 (a)(b) and EP1(c)(d).

(a) (b)

(c)

Longitudinal direction

(d)

20 m (d)

示す.T1と同様に,複数のき裂が確認できることから,複数のき裂が発生し,合体を繰り返 しながら成長したと考えられる.図 3.7(a)を矢印(1)の方向から光学顕微鏡を用いて観察した.

その結果を図3.7(b)に示す.き裂は屈曲しており,すべり帯に沿ってき裂が進展していたこと やき裂が合体したことを示している.エネルギー分散型X線分析装置EDSを用いて破面を観

Fig.3.6 Results of Energy dispersive X-ray spectrometry observation for crack origin.

10 m

Nb SEM Mo

200 m

10 m 10 m

1 mm (a)

(1)

Fig.3.7 Macro observation of fracture surface under=1.4 % condition of EP1(a). (b) is the picture of side surface.

200 m (b)

Longitudinal direction

察したが,破壊起点に介在物は確認されなかった.EP2の破面はEP1と同様であった. 発生起点が不明確なき裂が確認された T1 に対し,疲労試験後の試験片を軸方向に切断し,

観察を行った.切断面のFESEM観察写真を図3.8示す.FESEM観察にはCarl Zeiss ULTRA を用いた.図3.8(a)および(b)に示すように,表面および表面近傍の介在物が割れ,そこから疲 労き裂が進展していた.そのため,図3.8(b)に示した発生起点が不明確なき裂は,内部き裂が 表面に達したものだと考えられる.また,図3.8(c)および(d)に示すように,加工傷から発生し たき裂も確認された.介在物や加工傷以外から発生したき裂は確認されなかった.