本章では、励磁コイル加振ドップラ計測によって加振している針金の振動振幅を算出し、
その値とマイクロレーサセンサで測ったときの値との比較検討を行い、加振ドップラ計測 の理論の検証について述べる。
5-1 実験概要
励磁コイルと針金を3cm 程度離したところで、ある一定の加振周波数における針金の振 動振幅をマイクロレーザセンサを用いて計測する。その際、加振用発振器の振幅値を針金の 変位が切りの良い値になるように変えていく。レーザーマイクロセンサを用いて変位計測 を行ったときと同じ条件でドップラ計測を行い、針金の振動振幅を算出する。励磁コイル加 振ドップラ計測による振動振幅𝛿の算出方法を以下に示す。
直流計測のときの振幅𝐴DCとドップラ計測のときの振幅𝐴𝑑から加振波の振動係数𝑘𝑠𝛿は (2.11)式より以下のように表される。
𝑘𝑠𝛿 = 𝐴𝑑
𝐴DC (5.1)
ここで、波数𝑘𝑠は以下のようにして求められる。ただし𝜆は波長、𝑐は光速である。
𝑘𝑠 =2𝜋 𝜆 =2𝜋𝑓
𝑐 (5.2)
よって、振動振幅𝛿は
δ = 𝐴𝑑 𝐴DC× 𝑐
2𝜋𝑓 (5.3)
によって求められる。ただし、δは片側振幅であり、マイクロレーザセンサによって求めた 変位はピークtoピークであったためその振幅の2分の1の値になることが理想的である。
5-2 変位計測
計測時のパラメータをTable.5-1に示す。
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Table.5-1 計測時の機器のパラメータ 使用機器 設定値
Network Analyzer
Start:1GHz Stop:13GHz
Power:0dB IF Band Width:10Hz Number of Points:301
Modulation Oscillator
Amplitude:1.5Vp-p Offset:0.75V Frequency:50Hz Phase:CH1=0°、CH2=90°
Wave:sine
Vibration Oscillator
Amplitude:10~0.1Vp-p Frequency:25Hz
Phase:0°
Electric Actuator
Measurement Range:150mm Measurement Distance:3mm Number of Movements:50
マイクロレーザセンサを用いたときの針金の振動変位を5mm、2mm、1mm、0.5mm、0.2mm、
0.1mm、0.05mm、0.02mmにしたときの励磁コイル加振ドップラ計測を行う。計測の様子を
Fig.5-1に示す。
40
(a) 励磁コイル周辺
(b) 真上から見た写真 Fig.5-1 計測の様子
41
励磁コイル-針金間の距離が3cm、アンテナ-針金間の距離が5cm、アンテナ給電点間距 離が4cm で設置する。また、アンテナは偏波方向が針金の長さ方向と平行になるように設 置する。
以下に振幅算出の流れを示す。
まず始めに、ICM 部で変調を行わずに直流成分の計測を行う。このとき反射体がある場合 とない場合の2パターン計測を行い、減算処理を行う。そのときの結果をFig.5-2に示す。
Fig.5-2 直流成分計測結果
反射体がある場合の波形から反射体がない場合の波形を減算処理することで、アンテナの 直達波を減算することができるため、針金からの反射波の正確な振幅値を計測することが できる。次に、ICM部で変調を行い、計測を行う。その後針金を加振させ計測し、減算処理 を行うことで針金のみのドップラ成分を検出する。その加振周波数を25Hzに、センサによ る振幅値が2mmのときの結果をFig.5-3に示す。
0 5 10 15 20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
Propagation Distance[cm]
Amplitude
反射体有り
反射体無し
直流成分
42
Fig.5-3 ドップラ成分の検出
(加振周波数:25Hz 振幅値:2mm 中心周波数:10GHz)
減算処理でドップラ成分のみを検出することができているため、アンテナの直達波(2cm付 近)やコイルからの反射波(13cm付近)が無くなり、針金が振動している5cm付近のみの 反射が残っているのが確認できる。Fig.5-2とFig.5-3によって得られた直流成分とドップラ 成分の針金位置での振幅値を前節の式に代入することで加振ドップラ計測による振幅値を 算出する。ただし、中心周波数はフィルタをかけたときの値を用いる。
針金の振幅値をセンサで測ったときの振幅値を基準としたときに、5~0.02mmまで変化さ せたときの加振ドップラ計測による直流成分とドップラ成分をFig.5-4に示す。
0 5 10 15 20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2
Propagation Distance[cm]
Amplitude
加振無25Hz
加振有25Hz
ドップラ成分
43 (a) 5mm
(b) 2mm
0 5 10 15 20
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分 直流成分
0 5 10 15 20
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分
44 (c) 1mm
(d) 0.5mm
0 5 10 15 20
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分 直流成分
0 5 10 15 20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分(10分の1)
45 (e) 0.2mm
(f) 0.1mm
0 5 10 15 20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分(10分の1)
0 5 10 15 20
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分(10分の1)
46 (g) 0.05mm
(h) 0.02mm
Fig.5-4 中心周波数10GHzにおける各振幅値での直流成分とドップラ成分の振幅値比較
0 5 10 15 20
0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012 0.014
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分(100分の1)
0 5 10 15 20
0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012 0.014
Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分
直流成分(100分の1)
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Fig.5-4 より加振している針金の振幅値が小さくなるにつれてドップラ成分による振幅の
強さが小さくなっていることがわかる。また、励磁コイル加振ドップラ計測は空中において
振幅値が0.02mmまでならドップラ成分を検出することができることがわかる。
計測した波形に中心周波数が5、8、11GHz、周波数帯域幅が2GHzのフィルタを掛け、各 中心周波数における加振ドップラ計測による振幅値を算出する。Fig.5-4 より得た振幅値を 前章で述べた式に代入して求めたレーザ変位計による振幅値と加振ドップラ計測による振
幅値をTable.5-1に、各中心周波数でのフィルタの波形をFig.5-5に、レーザ変位計による振
幅値に対する加振ドップラ計測による振幅値の波形をFig.5-6に示す。
Table.5-1 レーザ変位計と加振ドップラ計測のそれぞれの振幅値
レーザ変位計による振幅値[mm]
加振ドップラ計測による振幅値2δ[mm]
中心周波数[GHz]
5 8 11
5 5.9 3.3 3.5
2 2.5 1.4 1.5
1 1.4 0.7 0.8
0.5 0.76 0.43 0.47
0.2 0.30 0.17 0.19
0.1 0.15 0.09 0.10
0.05 0.045 0.035 0.042
0.02 0.016 0.017 0.018
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Fig.5-5 各中心周波数におけるフィルタ波形
Fig.5-6 レーザ変位計による振幅値に対するドップラ計測による振幅値
2 4 6 8 10 12
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Frequency[GHz]
Amplitude
5GHz 8GHz 11GHz
10
-210
-110
010
110
-210
-110
010
1振動変位[mm]
振動振幅2δ[mm]
5GHz
8GHz
11GHz
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Fig.5-6 からどの中心周波数においてもレーザ変位計による振幅値の変位量に対するドップ
ラ計測による振幅値の変位量がほぼ一定になっていることがわかる。Table.5-1 よりセンサ の振幅値に最も近い値になったのは中心周波数が11GHzのときであった。𝑘𝑠𝛿は周波数に依 存する関数であり、周波数が大きい値であるほどより精度の高い計測ができると考えられ ている。また、振幅値が大きい 5~1mm において、加振ドップラ計測で求めた振幅値 2𝛿が 0.7倍程度の値になっていることがわかる。この要因の一つとして、加振ドップラ計測の原 理において式(2.7)を算出する際に𝑘𝑠𝛿 ≪ 1である場合を条件としているが、振幅値が5~1mm においでは直流成分とドップラ成分の比である𝑘𝑠𝛿の値が大きくなったことで𝑘𝑠𝛿 ≪ 1が成 り立たないために値のずれが生じたと考えられる。また、もう一つの理由として計測方法の 違いが挙げられる。Fig.5-6 にレーザ変位計で計測したときとボウタイスロットアンテナを 用いて計測したときの計測イメージを示す。
Fig.5-7 レーザ変位計とボウタイスロットアンテナの計測方法の違いイメージ図
Fig.5-7 よりレーザ変位計は振動が一番大きい場所の振幅を計測しているのに対して、アン
テナは振動が一番大きい場所から少し離れた場所を計測しているのがわかる。これにより 振幅値に誤差が生じたのではないかと考えられる。振幅値の低い0.5~0.02mmにおいては振 幅値が小さいため計測角度による誤差が生じにくいため誤差が小さくなって入るのではな いかと考えられる。以上のことから、レーザ変位計による振幅値と加振ドップラ計測による 振幅値の変位量がほぼ同じであることが確認できたため、励磁コイルによる加振ドップラ 計測の理論が成立していることがわかる。
次に、加振ドップラ計測を用いてどの程度の振幅値まで計測できるかについて述べる。
Fig.5-8 にレーダ変位計の振幅値が 0.02mm のときのドップラ成分とノイズ成分を時間波形
を用いて比較した図を示す。
50
Fig.5-8 振幅値が0.02mmのときのドップラ成分とノイズ成分
Fig.5-8 より本実験で計測した振幅値が一番小さい 0.02mm のドップラ成分とノイズ成分は
まだ識別化できることが分かる。これよりドップラ計測を用いた変位計測は0.02mmまでな ら変位を計測できることが確認できる。
0 5 10 15 20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
4 x 10
-3Propagation Distance[cm]
Amplitude
ドップラ成分(0.02mm)
ノイズ成分
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