図5.2 図5.1のEQEとΔEQEの,各バンド間励起波長ごとのプロット.(a)800 nm励起のEQE, (b)800 nm励起のΔEQE. (c)サブバンドギャップ励起のEQE. (d)サブバンドギャップ励起のΔEQE.
一方で印加電圧を逆方向に大きくすると,励起された電子の
QDSL
への緩和が妨げられ るため,ΔEQEは減少する.このようなGaAs
を励起した際の傾向とは異なり,サブバン ドギャップ励起の際のΔEQEは内部電界の増大とともに単調に増大し,やがて飽和する傾 向を示した(図5.2(d))
.さらに,内部電界をより大きくすると,ΔEQEは減少に転じた.ΔEQE のこの変化は少々不思議である.内部電界の増大とともに
EQE
の値が増大すると いうことは,中間バンド内の電子密度は減少しているということになり,2
段階目の光励起 過程は減少するはずである.しかしながら,ΔEQEは内部電界の増大とともに増大してい る.これは,QDSL
ミニバンド内でのキャリア分離効果を考慮することで説明できる.内部 電界の増大とともに,生成した電子と正孔はES
ミニバンドで分離され,再結合が抑制され ることで再結合寿命が長くなり,2
段階目の光吸収を増大させる.そのため,電界の増大と ともにΔEQEの値は増大するのである.しかしながら,電界が大きくなりすぎると,中間 バンドからの電子の引抜きが支配的となり,2段階目の光吸収は減少する.5 . 3 まとめ
内部電界によるキャリア分離の促進が二段階光励起過程に与える影響を調べるため,内 部電界を変化させて
EQE
を測定した.また,サブバンドギャップ励起光を追加で照射した 際のEQE
の増分(ΔEQE)も測定した.内部電界の変化にともない,EQE,ΔEQEスペク トルの形状は変化した.これは超格子内部でのキャリアダイナミクスの変化を反映した結 果である.また,励起波長ごとに内部電界に対する傾向を解析した.EQEはいずれの励起 波長においても,内部電界とともに単調に増大する傾向を示した.これは,QDSL
からのキ ャリア脱出過程の促進,およびキャリア収集効率の向上による結果である.すなわち,QDSL
における捕獲,再結合過程が内部電界の増大とともに減少したことを示している.一方でΔEQE
は,ある内部電界において最大となった.大きすぎる内部電界は,キャリアの脱出を 促進することで中間バンド内のキャリア密度を低下させ,二段階光励起電流を減少させた と推測される.以上のとおり,内部電界によるキャリア分離効果が,二段階光励起電流生成 に影響することが実験的に明らかとなった.
ドキュメント内
博士論文 ( 論文題目 ) 量子ドット超格子中間バンド型太陽電池の エネルギー変換特性 平成 29 年 7 月 神戸大学大学院工学研究科 ( 氏名 ) 加田智之
(ページ 39-42)