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(1)インフラ整備に関する域内協力の必要 性(注36)

①ASEANInfrastructureFund

本節では、まず、インフラ整備に関する域 内協力の現状と課題について述べる。域内 協 力 の 一 例 と し て、2012年 に

ASEAN Infrastructure Fund(AIF)が設立され、域内

の連結性の強化とインフラ・ギャップの縮小 が図られている。AIFはASEAN諸国が3.35億 ドル、ADBが1.5億ドルを出資し、マレーシ アに設立された。年間6件前後のプロジェク トに、各7,500万ドルを上限に融資を行う。

実施基準は貧困削減・貿易増加・投資促進に 資することである。ADBは、AIFを管理する とともに各プロジェクトに追加的な協調融資 を行うことをコミットしている。

2013年にはインドネシアでAIFを利用した

初のプロジェクトが行われ、2014年にはイン ドネシア・ラオス・ベトナムでプロジェクト が行われている。リスクの高い建設段階の資

金調達をカバーし、インフラ整備に関する域 内協力を促すことが主な目的となっている。

AIFは、MDBsなどと同様に民間部門の参加

を促す触媒としての役割を有するといえよ う。

AIFは、2020年までに約40億ドルの融資を

行うことを予定しており、ADBやその他の 金融機関の協調融資を合わせれば130億ドル 以上になるという。今後、日中韓などの参加 を促し、ファンド規模を拡大することも選択 肢の一つとなろう。

②保証制度

インフラ整備に伴う多様なリスクに対し、

保証が必要であることは前述の通りである。

しかし、政府保証が得られても、保証能力が 懸念される場合もある。また、政府系機関が 契約を順守しない場合も多い。ADBやMIGA

(世界銀行グループの保証機関)などの国際 開発金融機関が一定の保証機能を担っている ものの、専門の保証機関が設立され、これら を補完することが望ましいといえよう。

その例として、欧州諸国やオーストラリア の政府系援助機関が出資し、GuanrantCoと呼 ばれる保証ファンドが作られている。資本金 は3億ドルであり、15億ドル超の保証が可能 な仕組みとなっている。ただし、現地通貨建 ての融資や債券発行のみが保証対象となって おり、外貨建ての資金調達には対応出来ない ため、資金調達コストが高くなるケースもあ

るなど、限界がある。

アジアのインフラ整備のためには、出来れ ばアジア諸国による保証機関を設立すること が望ましいであろう。ただし、アジア諸国の ソブリン格付けは総じて低いため、ADBや その他の国際機関などが参加して保証機関の 枠組みを支援する必要がある。

アジア諸国による保証機関の例として、

2010年11月にADBの信託基金として設立され

CGIF(Credit Guarantee and Investment Facility)がある。その役割は、域内の投資適

格企業(現地格付け機関の格付けにより判断)

の現地通貨建て債券発行を100%の元利支払 保証により支援することにある。CGIFは、

スタンダード・アンド・プアーズ社からAA+

の格付けを得ている。主な保証対象としては、

①クロスボーダー発行となる債券、②投資適 格ではあるが単独では債券発行が困難な比較 的格付けが低い企業が発行する債券、③保証 により発行期間が伸長出来る債券、などが想 定されている。

インフラ・ファイナンスにおいて、このよ うな仕組みを検討することも考えられよう。

各国ベースでは、韓国(Korea Infrastructure

Credit Guarantee Fund)、インドネシア(Indonesia Infrastructure Guarantee Facility)、マレーシア

(Danajamin)などにインフラ関連の保証を行 う仕組みがある。域内での情報交換や相互の 技術支援等により、効果的な仕組みが創設さ れることが期待される(注37)。

(2)インフラ・ファイナンスの課題に関す るまとめ

①公的部門の役割

次に、インフラ・ファイナンスの課題につ いて、本稿で述べたことをまとめる。インフ ラ・ファイナンスは、現状、大半が公的資金 によって賄われている。インフラ整備が政府 系企業によって行われている場合も多い。

インフラ投資は民間資金では対応しにくい 性質を有しているうえに、世界金融危機以降、

先進国の銀行の経営悪化やそれに伴う経営の 保守化、国際金融規制改革の進展などを受け、

銀行による長期資金の供給が伸び悩んでお り、今後もある程度抑制されるものとみられ る。

アジア諸国の政府は景気刺激や構造改革の 観点からインフラ整備に積極的であるが、総 じて財政収支に大きな余裕はなく、政府資金 の拡大には限界がある。アジアのインフラ整 備需要は膨大であり、域内の貯蓄も豊富であ ることから、民間部門を通じて資金を導入す ることが不可欠である。

とはいえ、その前提として、政府・政府系 企業・輸出信用機関などを含む公的部門の役 割は重要である。その活動を可能な限り組織 化するためにも、政府が経済発展戦略とそれ に基づくインフラ整備戦略を確立することが 求められる。これがなければ、公的部門によ るインフラ整備は非効率的なものとなり、税

金の無駄遣いや環境破壊などに結びつく恐れ もあろう。

また、官民を含め、インフラ・ファイナン スの手法は多様である。それらに共通して重 要なことは、リスクを正しく認識し、その軽 減や分担を適切に行うことである。

インフラ投資に伴うリスクは図表10にまと めた通りであるが、これに沿って考えれば、

政府に求められることは、第1に、政治や経 済の安定を図ることである。第2に、社会全 体の法規制整備に努め、汚職を減らし、ガバ ナンスや透明性を改善して、投資家の信認を 獲得することである。

第3に、インフラ整備に直接関係するPPP などの法規制や制度を作り上げることであ る。その際、官民の適切なリスク分担がポイ ントとなる。PPPの枠組みに関しては、①法 規制枠組みの整備、②プロジェクト形成過程 における契約や入札基準などの制度の整備、

③官民双方における人材育成、④資金調達環 境の整備、⑤域内協力の強化とその前提とな る地域のPPPユニットの設立、などが課題と なる。

②MDBsの役割

各国の公的部門に加えて、国際開発金融機 関の果たす役割が重要性を増している。その 内容は、プロジェクト推進のための資金提供・

保証・技術支援、インフラ・ファイナンスの 枠組み作りに対する支援、プロジェクトに関

係する経済主体間の調整、などである。また、

インフラ整備に関する域内協力の推進におい ても、その役割は大きい。特に、連結性の強 化に向けたクロスボーダーのインフラ整備に おいて、MDBsや域内協力の果たすべき役割 が大きいといえる。

重要な点として、民間資金を引きつけるに は、プロジェクトの収益性やリスクが民間部 門にとって受け入れ可能(bankable)なもの とならなければならない。そのために公的部 門に求められる努力が上記の諸点であり、そ のなかでも特に直接的で重要なポイントは、

PPPの制度の透明性を高めること、市場ベー

スの使用料金や適切な補助金などによって採 算性を確保すること、などであろう。

③金融システムの整備

ASEAN+3における域内金融協力は、「ア

ジアの貯蓄をアジアの投資に」という目的の もとで展開されてきた。インフラ投資は、「ア ジアの投資」のなかで最も重要なものの一つ と考えられる。アジア諸国における現地通貨 建ての金融、特に長期金融手段の提供には現 在も課題が残っており、金融システム整備の 努力を継続することが必要である。

銀行によるプロジェクト・ファイナンスに 関しては域内の銀行がビジネスを拡大してお り、それらの銀行のリスク管理能力の向上に 注意を払うことが求められる。また、長期金 融手段を拡充するために特に重要なことは、

資本市場の整備・活用と、それを可能とする ための機関投資家の育成である。

債券市場に関して具体的に求められること は、インフラ整備戦略の確立によりプロジェ クトの件数を増やすとともに、その収益性や リスクに関するデータを整備すること、ハイ イールド債の市場整備や証券化取引の拡大に より市場のリスク対応能力を高めること、債 券市場の規模の拡大や安定化に努めて投資家 の信認を改善すること、機関投資家や格付け 機関を育成し、その専門性を高めること、な どである。

なお、クロスボーダーのインフラ整備や経 済統合を推進する観点からは、域内金融統合 を促進し、資金余剰国(例えば日中韓など)

から資金不足国(例えばインドネシアやフィ リピンなど)への資本移動を拡大する重要性 が増しているといえよう。

(3)日本のインフラ輸出推進戦略の課題

(注38)

①インフラ輸出推進戦略展開のポイント

最後に、日本のインフラ輸出推進戦略の課 題について考える。インフラ輸出を含む対外 援助政策に関し、今後、日本は、途上国の経 済成長がもたらす利益が貧困層にまで行き渡 るような政策をバックアップしていくべきで ある。その際、その国の発展が日本のために どのような役割を果たすか、という戦略的思 考が不可欠であり、現状ではこのような議論

が不足していると考えられる。

また、相手国の政策立案において、マスター プランの作成など上位のレベルに関与するこ とが重要であるが、この点に関して日本は相 手国との人脈の弱さなどから必ずしも国際競 争力を有しておらず、大きな努力が必要と なっている。

日本は援助対象国との間に密接な人的関係 を作り上げ、途上国の優秀な人材を活用し、

一種の共同体意識を持って相互に経済発展を 図っていくことが求められる。そのためにも、

日本における外国人留学生の受け入れ態勢を 強化することが重要である。

次に、インフラ輸出に関しては、中国・韓 国・インド・ブラジルなどの新興国が参入し、

価格競争が激化している。日本は、技術力、

安全性、低いライフサイクルコストといった 質の高さを強みとしており、その重要性を強 調し続けることは不可欠である(注39)が、

同時に、価格面における戦略転換・対応が求 められる。また、日本の得意分野といえる防 災・環境などのプロジェクトに注力していく ことも、当然必要である。厳しい競争に勝つ ためには、官民連携を効果的に実施する体制 の構築が重要であることもいうまでもない。

例えば、現在、東南アジアやインドなどに は多くの高速鉄道建設計画が存在する。これ に関し、激しい受注競争が繰り広げられてい るが、日本の最大のライバルとなっているの は、自力で車両を製造する技術を獲得し、か

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