前節までの事前検定(単位根検定、共和分検定)、同時性の識別、ラグ次数の決定を経 て、VARモデルが推定される*7。本節では推定結果から計測されるインパルス反応関数 を用いて、(2.1)式における構造的なショックϵtに対して、各変数がどのように反応する のかを動学的に観察する。(2.9)の仮定は、構造ショックに対する同時点での影響を示す ものである。したがってその推定値はインパルス反応関数のゼロ期の値と等しい。
図2.2、図2.3ではそれぞれ、構造ショックに対するインパルス反応関数を描いている。
階差系列である純輸出(DN EX)と金利(DR)は四半期でみた前期との水準差の反応を
*7観測後期については誤差修正項を含んだVECモデル。
示している。一方、対数階差系列である生産(DLGDP)、為替レート(DLER)は前期比 成長率でみた反応と解釈することができる。
まず、図 2.2 の結果を解釈しよう。図の 1 列目は純輸出増加のショック (Impulse Responses)に対するGDP、金利、為替レートの反応(Responses of)を表す。純輸出 ショックに対して有意でない部分があるものの、GDP、金利、為替レートは概ね上昇して いる(為替レートの上昇は自国通貨の増価を意味する)。この解釈として、純輸出の増加が 時間経過とともにGDPを押し上げ、景気の拡大から資本市場に需要超過が発生して金利 が上昇し、金利の上昇が国内に資本流入をもたらして増価圧力となっていることが考えら れる(ただしGDPの反応は有意ではない)。
2列目はGDPショック(需要ショックと解釈される)の反応をみたものである。ショッ クに対して金利は有意に上昇しているものの、純輸出や為替レートには有意な反応が見ら れない。3列目は金利上昇ショックの反応をみたものである。金利上昇ショックはGDP に対して若干の引き締め効果を持つものの、純輸出や為替レートには有意な反応を示さな かった。
4列目は為替レートの予期しない増価ショックに対する反応をみたものである。この反 応から、為替レートのマクロ調整について考察することができ、本章の問題意識と対応す る。純輸出の反応を見ると、為替レートの増価に対して初期にはむしろ増えている。これ はいわゆるJカーブ効果と解釈することができ、Boyd et al. (2001)を支持する結果とい える。純輸出はJカーブ効果を経て、その後は有意に減少している。これは、為替レート が持つ純輸出に対する調整のメカニズムが機能した結果と解釈できる。
また為替レートの増価は景気を悪化させ、金利の下落をもたらしている。以上から、少 なくとも1973年から1989年に関しては、マクロ経済変数は概ね期待される反応を示し ているといえる。また、為替レートのマクロ調整機能についても確認できたといえよう。
続いて、図2.3を図2.2と比較しながら確認しよう。純輸出ショックに対する反応(1 列目)は、図2.2とほぼ同じであるが、金利の反応が有意でなくなっている。金利は他の ショックに対してもほぼ有意でなくなっていることから、バブル崩壊後の景気悪化に伴っ て政策金利が継続的に引き下げられ、特に1999年以降はゼロ金利となっていることが影 響していると思われる。これと同様に、この間の金利上昇ショックの反応(3列目)もほと んど観察することができない。また需要ショックの反応(2列目)も有意な結果は得られ ない。
しかし為替レートショックに対しては(4列目)、純輸出は図2.2と同様に減少している。
GDPの反応は有意でなくなったものの減少しており、金利は有意に下落している。これ らの結果は重要な意味を持ち、本章の主要な結論の一つでもある。まず、図2.3において GDPや金利の反応が弱くなっていることから、バブル崩壊を期に日本経済のマクロ構造 が変化した可能性が指摘できる。さらに、そうした構造変化を経てもなお、為替レート のマクロ調整機能に限って言えば依然有意に働いていることも指摘できよう。すなわち、
2.2節で言及した仮説(構造変化に伴うマクロ調整機能の消失)は否定される。