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インドネシアの大学および専門校における キャリア支援に関する調査報告

塩 谷 も も

(総合文化学科)

A Study on Career Support for Undergraduate Students and Vocational School Students in Indonesia

Momo S

HIOYA

キーワード:キャリア支援 Career Support、インドネシア Indonesia、

大学 University、専門校 Vocational School

〔島根県立大学短期大学部松江キャンパス研究紀要 Vol. 52 159 ~ 167(2014)〕

はじめに

 本稿の目的は、インドネシアの大学と専門校の キャリア支援の特徴を現地調査に基づいてまとめる ことである。

 インドネシアは、近年安定した経済成長を続けて おり、なかでも中間層の拡大が顕著である(佐藤 2011)。高校卒業後、高等教育機関への進学率は2 割程度であるが、経済成長を背景に教育にも以前に 増して力が入れられるようになってきている。大学 を選択する際に卒業生の進路が関心の対象となるの は、日本と同様である。こうした状況の中で、近年 では大学がキャリアセンターを設立し、就職支援を 行なうようになってきている。

 インドネシアでは、大学卒業後に本格的な就職活 動が始まるのが一般的である。卒業後、すぐに正規 雇用で採用されることは少なく、非正規雇用の仕事 で経験をつみながら、正規雇用を目指すことが珍し くない。このように就職の仕方が日本とは異なるイ ンドネシアでは、どのようなキャリア支援が行なわ れているのであろうか。中部ジャワ州スラカルタ市

とジョグジャカルタ特別州の5大学を対象として実 施した聞き取り調査の結果をまとめる。

 また、就職率の高さから近年インドネシアで人気 が高まっている専門校(高校および短期大学)2校 についても記述する。大学と異なり技術の習得に重 点を置いている専門校では、教育を通じた人格形成 にも重点が置かれている。そのため、専門校につい ては教育を中心とした記述を行なう。

1.現地調査と調査地について 1)調査地について

 スラカルタとジョグジャカルタは、ジャワ島中部 に位置している。ジャワ島中部は、17世紀にイスラ ム・マタラム王国の中心となり、現在もジャワ文化 の中心とされる地域である。18世紀半ばに王国は二 分され、スラカルタとジョグジャカルタがそれぞれ 都となった。現在もイスラム・マタラム王国から分 裂した4つの王家が存在している。

 中部ジャワ州スラカルタ(略称:ソロ)市はろう けつ染バティック布の製作・販売で有名で、王宮や

-160- 島根県立大学短期大学部松江キャンパス研究紀要第52号(2014年)

伝統芸能など「ジャワ文化」の観光地としても知ら れている。ジョグジャカルタ特別州は、仏教遺跡の ボロブドゥールも近く、王宮も含めてスラカルタと 同様にジャワの中心的な観光地でもある。また、名 門ガジャマダ大学をはじめとして、大学が集中する 街である。学ぶ環境が整っており、インドネシアの 中では物価も安く生活がしやすいため、就学のため に全国から若者が集まってくる。

2)現地調査について

 インドネシアでの現地調査は、2013年9月に実施 した。スラカルタの2大学(スラカルタ・ムハマディ ア大学、スブラス・マラット大学)、ジョグジャカ ルタ特別州の3大学(ガジャマダ大学、サナタ・ダ ルマ大学、インドネシア・イスラム大学)、スラカ ルタの専門校2校(ビナ・ディルガンタラ航空専門 校、ATMI工業専門校)、を訪問し、教職員および学 生に対する聞き取り調査を実施した。専門校のうち、

航空専門校は高校、工業専門校は3年制の短期大学 部を対象とした調査を実施した。本稿では主にキャ リアセンター担当職員、教員へのインタビューに基 づいて、各校がどのようなキャリア支援をしている かを記述する。

2.スラカルタ市の大学

1)スラカルタ・ムハマディア大学(略称UMS)

 インドネシアで2番目に規模の大きいイスラム組 織ムハマディアが運営する大学である。ムハマディ アは、インドネシア各地に学校と病院を持っている。

UMSはジャカルタのムハマディア大学教育学部の 一キャンパスとして1950年代に作られ、1981年に独 立した大学となった。学部学生数はおよそ2万3千 人で、教育学部、経済学部、心理学部、医学部、工 学部など11の学部から成っている。

 就職支援を行なっているのは、同窓生・キャリ アと雇用センター(Almuni Career & Employment Center略称:ACEC)であり、センターは事務棟2 階の一室にある。

 センターの運営担当者であるリハビリ科教員のト ト氏に聞き取り調査を行なった。訪問時には、その

他に心理学専攻の学生2人がインターンとして、仕 事を手伝っていた。インターンは、他にも4人おり 交替で仕事を手伝っているとのことだった。

 ACECは2007年に設立され、キャリアに関しては 主に4つの業務を担当している。それらは、①キャ リア相談、②面接等の就職スキルの訓練、③求人情 報の提供、④企業からの求人と選考に関する業務で ある。また、センターの名前にも表れているよう に、同窓生に関する業務も担っている。インドネシ アでは大学卒業後に本格的な就職活動が行なわれる ため、キャリア指導と同窓生に関する部署が連動し ているのである。学生が就職活動を始めるのは、卒 業研究の口頭試問に合格した後であるため、キャリ ア支援の対象は、卒業間際の学生と卒業後2~3年 の同窓生が中心となる。

【写真1:ACECのオフィス】

 トト氏によれば、学生が就職の際に頼るのは、両 親や教員などからの情報と紹介、そしてインター ネット情報の2つである。センターでは、求人情報 を学生の携帯メールに送信したり、フェイスブック を活用して情報提供をしている。センター内には、

プリントアウトした求人票も貼られていた。また、

就職試験のために大学を会場として提供することも あるそうで、企業から試験官がやってきて選考試験 を実施する。

 就職している卒業生が、企業の求人情報を伝えて くれる場合もある。企業とのつながりについては、

トト氏が属するリハビリ科を例にすれば、教員が企

塩谷もも:インドネシアの大学および専門校におけるキャリア支援に関する調査報告 -161-

業とのつながりをもっており、そこから求人情報を 得ることがあるとのことである。

 就職に関する技術を磨くために、外部講師を招い て6か月に一度、セミナーを実施しており、履歴書 の書き方や面接練習などをしている。最近のインド ネシアでは選考の際、グループディスカッションも 活用されるなど、個人でもチームでも働ける人材が 求められている。また、心理学が専門の教員が、選 考の際に行われる適性試験の準備について、学生に 助言をすることがある。

 学生の起業もサポートしているとのことで、リハ ビリ科では、義足やコルセット製造、フィットネス の仕事などが対象になったことがある。学生が自分 で起業できるように、最低賃金を支払って企業で4 か月の研修などを実施している。賃金の25%は大学、

75%を研修先の企業が負担している。この研修に参 加できるのは、卒業が近く取得単位数が110以上の 学生である。トト氏によれば、インドネシアは人口 に対して自営業の占める割合が低く、今後、拡大の 可能性があるため、企業支援をしているとのことで ある。

2)スブラス・マラット大学(略称UNS)

 スラカルタにあった8大学が統合する形で1976年 に開学した国立大学で、学生数はおよそ3万5千人 である。教育学部、経済学部、工学部、農学部、医 学部等の9学部から成る。キャリア支援は、もと は学生課の中でボーイスカウト部門が担当してき たが、3年ほど前に同窓会・学生担当部門のCateer Development Center(略称CDC)に受け継がれた。

学内で企業説明会を実施し、大学に求人に訪れる企 業の人事担当者の対応等も行なう。学生の調査研究 を支援するための企業奨学金募集の情報も管理して いる。

 CDCは事務棟の2階の一室にある。センターは非 常勤事務職員3人で運営しており、学部の教員(心 理学中心)が協力している。訪問時は2人の職員が 対応してくれたが、1人はこの大学の経済学部卒の 男性で、就職を目指して経験を積むために、インター ンとしてこの仕事をしているとのことである。もう

一人の女性は他大学出身者で、このセンターに非常 勤で雇用されている。

 CDCの仕事で一番重要なのは、卒業生に求人情報 を伝えることである。大学のホームぺージ、フェイ スブック、携帯メールを通じて、学生や卒業生に情 報を発信している。インターネットを使った情報発 信は、他大学でも行われることなのでそれを参考に 始めた。企業からの奨学金情報も学生に伝えている が、就職支援に関する業務が優先になっている。

 就職セミナーについては、卒業前の最終学期か卒 業したばかりの人を対象に実施する。企業が複数参 加して、企業説明を行なう。就職試験については、

希望する企業には大学を会場として提供している。

就職に関する相談受付もしている。心理学専攻の教 員が協力しており、面接での受け答えや適性試験に ついて助言をしている。インターンシップは、学部 を通じて実施しているため、CDCは担当していない。

 卒業後の追跡調査を2009年から実施しており、対 象となるのは卒業して2年目の卒業生である。調査 は、電話、質問票の郵送、オンライン入力で行って いる。仕事の内容や給料等、細かな項目についても 調査し、25%程度の回答が得られているとのことで ある。その結果は、詳細な報告書にまとめられてい た。

【写真2:卒業後動向調査報告書】

3.ジョグジャカルタ特別州の大学 1)ガジャマダ大学(略称UGM)

 1949年に開学したインドネシアの中でも古い歴史