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イメージのための家具

ドキュメント内 室内の庭 : ドメスティックアートの手法 (ページ 75-80)

第三章  もてなしと美術

4.2  触覚

4.2.2  イメージのための家具

 四方山荘では、南に面した一番広い大広間が仏間で、そこに仏壇を置いていたで あろう、くぼんだ一角の場と、その真上に神棚がある。神様に一番明るく広くてよ い部屋を割り当てたことは、現代人には失われつつある発想を感じさせる。

 かつて、あの世のご先祖様は、現世に生きる我々ともっと密接に繋がっていた。

生きているのは一瞬で、重要なのは死んでからのことであるかの様である30。そこ から、神棚や仏壇といった家具が生まれた。神棚は、神社でもらったお札を収納し、

毎日水を供えて家中を清浄に清めておくためであるし、仏壇は先祖の遺影を置いて 毎日水や花、線香をあげて、子孫の繁栄と家内安全を祈るためのものである。家族 と先人を繋ぐあの世(非現実)への入り口が、生活の傍らに存在している。仏像は 厨子に収納されて像周辺の世界観が保たれ、薬師如来ならば浄瑠璃浄土へ、阿弥陀 如来ならば西方浄土への入り口としての意味も持っていた。考古学的にもまだ謎の 多い飛鳥時代の石造物は、日本庭園の枯れ山水のように流れを感じさせる意匠を持 つものがあり、それを作った人々の手跡や、使っていた人々のいる遠い時代のこと を想像させる(図 147~149)。先述のように(2.1.3)、これらの家具道具や造形物 が、見えないものを見えるようにしていたり、触れられないところを触れられるよ うにしている点で、その制作者の意図が芸術的であるといえるだろう。

図 147 益田岩船

(2006 年撮影 奈良県橿原市)

図 148 酒船石

(2013年撮影 奈良県明日香村)

図 149 亀形石造物

( 2013 年撮影 奈良県明日香村)

 街角をあるいていると、祠に遭遇することがある。震災で流された土地でも、神 社の跡には流されていない文字の刻まれた大岩と神社の形跡があった(図 150、

151)。

 四方山荘の仏壇と神棚は、大広間の部屋の中で南に面した一番大きな部屋の北西 の角に位置する。その裏手には、敷地の北西の竹やぶの隅に、稲荷の祠がある。裏 庭の祠の位置も、やはり大広間の神棚の位置と同様、北西の角であった。暗部に照 明を置くように、空間の一番奥のへその部分に、祠が設置されているようだ。それ によって空間に邪気を吸い取る吸引口ができたようになり、流れのイメージが生じ る。

 四方山荘で筆者が、「よいイメージの家具」を置く場所としたのは、室内空間での 光と視線の方向性に合わせて、室内前方の右上だった。四方山荘で前方右といえば、

南西であり、式台(目上の来客用の入り口)となっている。2008 年に制作したのは、

「よいイメージのための棚」(図 152)である。部屋の壁に対して左上の光のきれい な角を、未来、希望、理想といった、よいイメージを置くための棚とした。日常に まみれ、理想と反対のことをしなければならなくなった時などに、一時的に希望を この棚に置いておくと、イメージをフレッシュなまま維持できるかもしれない。清 浄な方角、不浄な方角を見極めることで、イメージ上の空気の流れを作り易くなる。

図 150 街角の稲荷 

(2012 年撮影 東京都小金井市)

図 151 気仙沼で震災後の神社跡に建 てられた仮設の鳥居(2012 年撮影 宮城県 気仙沼市)

図 152 (上方)菅野麻依子 「よいイメージのための棚」

2008 年 トレーシングペーパー

(下方)菅野麻依子「ほこりのための棚」2008 年 トレー シングペーパー、ほこり サイズ可変 

Photo by Akira Yasuda

図 153 菅野麻依子 「影の為の棚」 

2008 年 布、ウール、光、影 120×12

×6cm Photo by Akira Yasuda

図 156 菅野麻依子 「借景(滝)」2008 年 髪の毛 洗面台 60 × 60 × 100cm 

Photo by Akira Yasuda

図 157 同前 Photo by Akira Yasuda

図 154 菅野麻依子 「借景(氷山)」 2008 年 ラード 風呂 水 100 × 100 × 100cm 

Photo by Akira Yasuda

図 155 同前 Photo by Akira Yasuda

 同様に日常生活空間の各場所のイメージを借り、室内の借景としたのが、「借景シ リーズ」(図 153~164)である。ヴォインパフォイン(

Voin Pahoin

)の主催で、横 浜中華街にある鉄筋コンクリート造りのアパートで、月一回行われるイベント「今 日の家の具」展に出品した時の展示風景である。

図 160 菅野麻依子 同前 Photo by Akira Yasuda

図 158 菅野麻依子 「借景(暗雲)」 2008 年 ブラックウール、洗濯物干し場 サイズ可変 Photo by Akira Yasuda

図 161 菅野麻依子 同前 Photo by Akira Yasuda

図 159 菅野麻依子 「借景(山)」 2008 年 味噌、トイ レタンク 60 × 25 × 5cm Photo by Akira Yasuda

図 164 菅野麻依子 同前 Photo by Akira Yasuda

図 163 菅野麻依子 同前 Photo by Akira Yasuda

図 162 菅野麻依子 「ぬくもりのある空気のための棚」2008 年 布団、テグス 120 × 210 × 210cm Photo by Akira Yasuda

 

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