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(1) 影響を受ける可能性のある野生動植物等の特定

宿主の属する分類学上の種であるトウモロコシは、我が国において長期にわたる使 用等の実績があるが、野生動植物等に対して影響を与える有害物質の産生性は知られ 15

ていない。

3272、Bt11、MIR604及びGA21において、鋤込み試験、後作試験、土壌微生物相 試験を行った結果、いずれの試験でも対照の非組換えトウモロコシとの間で有意差が 見られなかった。よって、本スタック系統トウモロコシにおいても意図しない有害物 20

質の産生はないと考えられる。

本スタック系統トウモロコシで発現している改変AMY797Eα-アミラーゼ、改変

Cry1Ab蛋白質、改変Cry3Aa2蛋白質、PAT蛋白質、mEPSPS蛋白質及びPMI蛋白質

については、既知アレルゲンとのアミノ酸配列の構造相同性検索の結果から、アレル 25

ギー性を持つ可能性は極めて低いと考えられる。

改変AMY797Eα-アミラーゼ、改変Cry1Ab蛋白質、改変Cry3Aa2蛋白質、PAT

蛋白質、mEPSPS蛋白質及びPMI蛋白質は、その局在性や蛋白質の特性から、それぞ

れ宿主の代謝経路に影響を及ぼすことはないと考えられた。したがって、これらの蛋 白質が原因で、親系統である3272、Bt11、MIR604及びGA21中に有害物質が産生さ 30

れることはないと考えられる。

以上のことから、本スタック系統トウモロコシにおいて、野生動植物等に影響を及 ぼす可能性のある意図しない有害物質が産生される可能性はないと考えられた。そこ で、以下に本スタック系統トウモロコシで発現しているチョウ目昆虫及びコウチュウ 目昆虫に殺虫活性を持つBt蛋白質が、我が国の野生動植物等に影響を及ぼす可能性に 35

ついて検討を行った。

【Bt11の影響を受ける可能性のある野生動植物等の特定】

Bt11には改変Cry1Ab蛋白質の産生性が付与されている。Cry1Ab蛋白質は、米国

に お け る ト ウ モ ロ コ シ 栽 培 上 の 重 要 害 虫 で あ る ヨ ー ロ ピ ア ン コ ー ン ボ ー ラ ー 5

(Ostrinia nubilalis)、コーンイヤーワーム(アメリカタバコガ) (Helicoverpa zea)、フ ォールアーミーワーム(ツマジロクサヨトウ) (Spodoptera frugiperda)等のチョウ目 昆虫に対して高い殺虫活性及び特異性を示すことが確認されている。したがって、

Bt11を栽培した場合に、生育している植物体を直接摂食する、もしくは飛散した花粉 を食餌植物とともに摂食するチョウ目昆虫に何らかの影響を与える可能性がある。

10

そこで、Bt11によって影響を受ける可能性のある野生動植物等として、チョウ目昆 虫を特定した。

【MIR604の影響を受ける可能性のある野生動植物等の特定】

15

MIR604には改変Cry3Aa2蛋白質の産生性が付与されている。生物検定試験により、

改変Cry3Aa2蛋白質は4種のコウチュウ目昆虫(ウエスタンコーンルートワーム

(Diabrotica virgifera virgifera)、 ノ ー ザ ン コ ー ン ル ー ト ワ ー ム(Diabrotica

longicornis barberi)、コロラドポテトビートル(コロラドハムシ) (Leptinotarsa

decemlineata)、バンデッドキューカンバービートル(Diabrotica balteata))に殺虫活

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性を有することが示されている。したがって、MIR604を栽培した場合に、生育して いる植物体を直接摂食する、もしくは飛散した花粉を食餌植物とともに摂食するコウ チュウ目昆虫に何らかの影響を与える可能性がある。

そこで、MIR604によって影響を受ける可能性のある野生動植物等として、コウチ ュウ目昆虫を特定した。

25

【本スタック系統トウモロコシの影響を受ける可能性のある野生動植物等の特定】

本 ス タッ ク系 統ト ウ モロ コシ はBt蛋白 質 であ る改 変Cry1Ab蛋 白 質及 び改 変

Cry3Aa2蛋白質を発現することから、影響を受ける可能性のある野生動植物等として

30

は、親系統であるBt11及びMIR604の生物多様性影響評価で特定された種と同じであ ると考えられる。

よって、本スタック系統トウモロコシにより何らかの影響を受ける可能性がある種 としては、Bt11で特定されたチョウ目昆虫及びMIR604で特定されたコウチュウ目昆 虫が挙げられた。

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(2) 影響の具体的内容の評価

【Bt11の影響の具体的内容の評価】

5

本スタック系統トウモロコシの親系統であり、改変Cry1Ab蛋白質を発現するBt11 の隔離ほ場試験において、Bt蛋白質に対する感受性が高く、集団飼育がしやすいチョ ウ目昆虫のヤマトシジミ(Zizeeria maha argia)1齢幼虫に、Bt11花粉を500~4,000粒 /cm2の花粉密度で摂食させて死亡率を調査した。その結果、摂食開始から7日後まで の間にヤマトシジミの半数個体の致死が観測された花粉密度は2,000~4,000粒/cm2 10

であった。

【MIR604の影響の具体的内容の評価】

本スタック系統トウモロコシの親系統であるMIR604の生物検定において、改変 15

Cry3Aa2蛋 白 質 へ の 感 受 性 が 高 い ウ エ ス タ ン コ ー ン ル ー ト ワ ー ム(Diabrotica

virgifera virgifera)に対する殺虫活性を調査した結果、ウエスタンコーンルートワー

ムの半数致死濃度は1.4 mg改変Cry3Aa2蛋白質/ml人工餌であった。

【本スタック系統トウモロコシの影響の具体的内容の評価】

20

生物検定の結果から、本スタック系統トウモロコシのヨーロピアンコーンボーラー に対する抵抗性は、Bt11と同程度であることが確認された(表 7、24ページ)。また、

本スタック系統トウモロコシのウエスタンコーンルートワームに対する抵抗性は、

MIR604と同程度であることが確認された(表 8、25ページ)。よって、チョウ目昆虫 25

及びコウチュウ目昆虫が本スタック系統トウモロコシから飛散した花粉を食餌した 場合に影響を受ける可能性は、親系統であるBt11及びMIR604と同程度であると考え られる。

(3) 影響の生じやすさの評価 30

本スタック系統トウモロコシから飛散した花粉を、特定されたチョウ目昆虫が摂食 する可能性について、トウモロコシほ場からの距離と周辺に生育する植物の葉に実際 に堆積する花粉量を調査することにより推定した。

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我が国において、トウモロコシほ場周辺におけるヒマワリ(Helianthus annuus)と イヌホオズキ(Solanum nigrum)の葉への花粉の堆積密度の調査が行われている(文献

13)。調査の結果、トウモロコシほ場の縁(0 m)での最大花粉堆積密度はヒマワリの葉 で81.7粒/cm2、イヌホオズキの葉では71.1粒/cm2であった。しかし、ほ場から5 m離 れると花粉の最大堆積密度はそれぞれ19.6粒/cm2と22.2粒/cm2に減少していた。ヒマ ワリについては5 m以上離れた場合についても調査されているが、10 m離れると花粉 堆積密度は全て10粒/cm2以内であった(文献 13)。

5

北米でも、トウモロコシほ場周辺のトウワタ(Asclepias syriaca)について、堆積し た花粉密度の調査が行われている(文献 61)。調査の結果、トウモロコシほ場から1 m、 2 m、4~5 m離れるごとに、花粉の堆積密度は平均で35.4粒/cm2、14.2粒/cm2、8.1 粒/cm2へと減少することが明らかとなっている。さらに、カナダのトウモロコシほ場 10

周辺のトウワタの葉上に堆積した花粉密度が調査され、ほ場の縁から1m及び5m離れ た地点での堆積密度は、それぞれ平均で28粒/cm2及び1.4粒/cm2であったと報告され

ている(文献 62)。このように、我が国で行われたトウモロコシほ場周辺での花粉堆積

密度に関する調査結果と同様の結果が、北米で行われた調査からも得られている。

15

これらの調査結果から、トウモロコシほ場周辺に堆積する花粉量は、トウモロコシ ほ場から10 m以上離れると極めて低く、50m以上離れるとほとんど無視できると結論 された。本スタック系統トウモロコシを直接摂食する可能性のある、もしくは本スタ ック系統トウモロコシから飛散した花粉を食餌植物とともに摂食する可能性のある チョウ目昆虫及びコウチュウ目昆虫が、本スタック系統トウモロコシの栽培ほ場から 20

半径50mの範囲に局所的に生育しているとは考えにくい。このことから、チョウ目昆 虫及びコウチュウ目昆虫が個体群レベルで本スタック系統トウモロコシを直接摂食 することによる影響を受ける可能性、もしくは飛散する花粉による影響を受ける可能 性は極めて低いと判断された。

25

したがって、特定されたチョウ目昆虫及びコウチュウ目昆虫が、Bt11由来の改変

Cry1Ab蛋白質及びMIR604由来の改変Cry3Aa2蛋白質に曝露されることにより、個

体群レベルで影響を受ける可能性は極めて低いと判断された。よって、本スタック系 統トウモロコシに起因する生物多様性影響が生じるおそれはないと結論された。

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(4) 生物多様性影響が生ずるおそれの有無等の判断

以上のことから、本スタック系統トウモロコシは、有害物質の産生性に起因する生 物多様性影響を生じるおそれはないと判断された。

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