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わが国の支援の方向性および方策にかかる提案

ドキュメント内 様式第1号 (ページ 129-156)

5-1 問題解決に向けた地域連携支援の取るべき方向性

5-1-1わが国のあるべき支援の取り組みにかかる基本方針

本調査の対象とする地域は、容易に解決できない歴史的なひずみを背負っている。すな わち、独立後に自国の国作りを優先する各国にとって、旧ソ連時代に中央の統制の元、地 域全体の最適化のために計画・建設された水資源と電力に係る設備の構成や運用方法は必 ずしも最適ではなく、これを改善するための新たな連携枠組みの合意は、各国の既得権や 利害に直結し容易でないことから、国間の調整をますます困難にしている。

問題の解決のためには、長期的な視点を持って継続的に対話を進め、徐々に理想的な姿 に近づけていく努力が必要と考えられる。2005 年に実施した JBIC 調査では、今後の具体 的な取り組みを選定していく上での留意点を提示したが、本調査ではその後の状況変化を 踏まえて、下記に示す事項を基本方針とすることを提唱する。

(1) 地域内各国との継続的な対話による相互信頼関係の強化

「中央アジア+日本」対話の継続的な取り組みにより、域内各国と日本および各国間の相 互信頼関係を強化していくことが問題解決の糸口になると考えられる。これを有効に活用 するには、現況のアセスメントやシミュレーション解析等技術的手法を導入して計画実施 時の影響を具体的に想定するなど、客観的情報を地域内で共有することにより、事実に基 づいた現実的協議を側面から支援することは、Win-Win 施策の協議を推進するために有効 と考えられる。

なお、地域内の対話にあたっては、特定の国を孤立させることのないよう各国の事情を 理解し状況に応じた調停策を立案し協議していく必要がある。

(2) 長期的な視点に立った継続的な支援

課題が複雑で政治問題化しており、理想的な解決策が即座に受け入れられる状況ではな い。従って、目標として定めたゴールに到達するために、長期的な視点に立った継続的支 援の取り組みが必要と考えられる。

(3) 各国の独自性の尊重と、発展状況に応じた支援

現状では、各国とも復興の過程であり、自国の国作りを優先せざるを得ない状況にある ことから、それぞれの取り組みと、経済力や資源量などの国情を尊重し、その上に立って 現実的に受け入れられる具体策を検討する姿勢を取ることが、各国との対話の原点になる と考えられる。

(4) 各国間に不公平感を生じさせない支援

地域間連携を支援していくためには、中立の立場を保つことによる信頼の醸成が必要で ある。従って、支援にあたっては、情報の透明性や、不公平感が生じないように配慮した 支援の配分が必要と考えられる。また、関係各国すべてにメリットのある事業(Win-Win 施 策)が望ましく、特定の国に負の影響のあるプロジェクトは選択しない、あるいは緩和策を

講ずるなどの留意が必要である。

(5) 先行している他ドナーとの協調

世界銀行、アジア開発銀行をはじめとする多くのドナーが十数年に渡って水資源・電力 分野の支援を実施してきており、失敗もしている。現状で、各ドナーは今までの経験を踏 まえて連携しながら継続的な支援を実施している。従って、日本が今後中央アジア地域に 対する支援を拡大していくためには、まず先行するドナーと協調すること、また共同もし くは分担してプロジェクトに参画して、地域の特殊性にかかる情報やノウハウを習得しな がら徐々に範囲・規模を拡大していくことが効果的な手法と考えられる。

(6) 日本の得意な分野を生かせる支援

日本が他ドナーとの協働でプロジェクトに参画する場合、日本の得意とする技術等を活 かすことにより、支援効果を高めることが理想的である。

具体的には下記の分野があげられる。

① 水資源分野

ⅰ)水資源管理の基本となる水理・水文データのモニタリング技術支援<技術支援・イン フラ支援>

ⅱ)水資源関連インフラの機能診断、リハビリ、新規建設に対する支援<技術支援・イン フラ支援>

ⅲ)効率的水資源管理の為の O&M の向上支援<技術支援・制度的支援・インフラ支援>

ⅳ)水質保全の支援<技術支援・インフラ支援>

ⅴ)水利用の効率化による節水プログラム支援<技術支援>

ⅵ)水利用や水配分のための組織・制度面の強化に関する支援<制度的支援>

ⅶ)国家 IWRM 計画に対する支援<制度的支援>

各支援項目の位置づけは、図 5-2 の支援の進め方に示した。国家あるいは地域の水資 源管理の向上のためには IWRM を導入することが効果的であり、IWRM 増進の基礎となる技 術に関する支援項目がⅰ)~ⅴ)、組織制度などソフト面の支援項目がⅵ)~ⅶ)である。

流域管理の面で先進国の日本の制度面、技術・インフラ面の支援は、水資源がコローズア ップされる 21 世紀における、中央アジアと日本の連携への寄与と、将来にわたっての両者 の交流に繋がる取り組みとして重要である。

② 電力分野

ⅰ)域内の電力供給量の増進<インフラ支援>

ⅱ)水力発電所の発電運転操作計画の最適化<制度的支援・インフラ支援>

ⅲ)電力需要想定量の見直し、電力開発・改修計画の最適化<制度的支援>

ⅳ)電力事業の健全運営にかかる支援<制度的支援>

ⅴ)経済的融通スキームの導入に係る支援<技術支援>

ⅵ)電源開発・設備改修などの施設支援<インフラ支援>

ⅶ)省エネルギーに関する支援<技術支援>

ⅷ)新・再生エネルギー

各支援項目の位置づけは、図 5-3 の支援の進め方に示した。域内の電力需要に対する 電力不足が課題であり、現況の受給状況の精査から、電力開発・改修の最適化と必要なイ ンフラ建設に結びつく支援として重要である。他方で、域内の電力取引きの健全化を図る

ことや、省エネルギー、新・再生エネルギーなどの先進技術の適用も有効である。

域内は電力増が早期に必要な状況であり、このためのインフラ整備や、域内の電力融通 の促進などへの日本の支援は、中央アジアにとっての課題解決に対する効果が期待され、

日本との将来の関係強化に繋がる取り組みとなりうる。

5-1-2 水資源・電力分野における支援ビジョン

中央アジア地域において、水資源と電力は相互に密接な関係にある。従って、この分野 の支援にかかる最適化検討は両者を併せて考える必要がある。地域内ではこのために、水 資源と電力を合わせた総合的な協議の場として CACO の下に WEC を設立し、長期的なビジョ ンの基に各国の合意形成を進める努力がなされてきた。CACO はユーラシア共同体に吸収さ れ、さらにウズベキスタンがユーラシア共同体を脱退する事態となっているが、各国は WEC 設立に基本的には同意しており、現時点において障害となっているのは、各国間の具体的 な解釈の違いであるといわれている。

2008 年 11 月に CAREC は、エネルギー分野における地域内協力を推進していくための基 礎的戦略について合意を取りまとめた。今後は、CAREC の協議の中で、WEC の設立もしくは これに代わる具体的な合意形成が進められることが期待される。いずれにしろ、地域の水 資源と電力の最適利用を協議する機関として機能するまでには、長期を要すると想定され るが、継続的な協議とこれに対する支援が必要と考える。

従って、今後の水資源・電力分野の支援は、長期的には両分野さらにこれと密接に関係 する環境問題を総合的に検討することが必要だが、当面は、水分野・電力分野それぞれで、

世銀が提案している長期ビジョンに照査して必要と考えられる水資源・電力の各分野の現 実的な課題解決に取り組み、徐々にレベルアップさせていく支援が望まれる。

電力分野 水資源分野

水資源・電力両分野の 協議調整の場

・WECの設立準備中

・域内各国の協議推進、

枠組み合意形成

・CAREC 協議促進のスキーム

・『中央アジア+日本』対話

・ADB,GTZ(準備中).

電力融通近代化 の準備

・CDC設立

超長期中長期短期現状

水資源利用に係る協議調整の場 ICWC: 配分協議

BVO : モニタリング・調整 各国の電力安定供給

・電力供給力

・ロス低減

・発変電・流通設備改善

・最適計画の最適化、

事業運営体質の強化 等による原価低減

域内融通の近代化

・電力融通制度の改善

・電力市場導入準備

・ハード/ソフトの整備 経済的な電力システム

・経済的な電力供給実現

・地域市場への融通

水資源・電力両分野+環境を俯瞰した、最適な資源利用に係る地域内協力の確立

各国固有の 課題改善

・洪水被害 軽減策

・渇水被害 軽減策

・水質管理

・塩害対策 効率的な地域内の水資源利用

・各国・各地域の水利用効率化

・各国間の水配分ルールの確立

地域共通の視点に 立った課題改善

・小流域を対象とした IWRMの導入と普及

・モニタリング等近代化に よる水管理向上

・水利施設機能診断と リハビリによる水ロス軽減

・大規模貯水池、調整池 などハードインフラ整備

環境保全

・環境との共生

・負の影響緩和

各国の協議・合意

・電力供給力不足

・Tokutogul貯水量 低下対策

・渇水年対策

各国の 水資源政策

・国家IWRM 計画策定

図 5-1 水資源・電力分野の支援にかかる長期ビジョン

ドキュメント内 様式第1号 (ページ 129-156)

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