表 5.1 わが国における伝統的な主な接着剤
縄文時代〜江戸時代まで(天然系接着剤) 溶媒:水系 被着材:多孔質が主
年代 接 着 剤 備 考
縄文
・ 弥生
・ 古墳 時代
天然アスファルト ●鏃、銛の接着 東北地方の縄文遺跡に広くみられる 漆喰
原料は石灰岩(CaCO3)→
CO2→生石灰(CaO)+水→
消石灰 Ca(OH)2 +海草、ワラ
●高松塚古墳の壁画へ塗りその上より壁画を描く
●石と石との隙間を詰める(シーリング材)
奈良
・ 平安 時代
漆
主成分ウルシオール(カテコール 誘導体)、その他ゴム質、含窒素物、
酵素、水
(漆は単独では接着力に乏しいため 小麦粉、続飯などと混合して使用)
●土偶や土器の補修 下宅部遺跡
●棺や仏像(乾漆)の作製 当麻曼荼羅厨子
●脱乾漆像:東大寺四天王立像、唐招提寺鑑真和座像
●木心乾漆像:東大寺法華堂金剛力士立像 (乾漆仏は奈良・平安時代の複合材料)
●中尊寺の金色堂、金閣寺でみられる金箔のバインダー
●陶器の修理 平安
時代
膠(にかわ) ●武具に必須 鎧、大刀、馬具、墨のバインダー、楽器 でんぷん糊
(姫糊、続飯、寒糊、正麩)
●手紙の封、書画の装丁、屏風の紙糊、和傘、障子貼りなど
石膏
(硫酸カルシウム)
わが国では一般的でない。
漆喰と比較すると耐水性が劣る。
着剤の応用範囲が拡大した。また石炭化学工業の一 環として、フェノール、酢酸、ホルマリンなどが合成 され、合成樹脂が次々に誕生した。これらの合成樹脂 は成形品として使われると共に接着剤として発展して いった。ニトロセルロース系、フェノール樹脂系、ユ レア樹脂系、ビニル樹脂系などである。従来の天然系 接着剤の欠点であった接着強さ、耐水性、耐熱性、耐 久性などが改良された合成系接着剤が主流となった。
19 世紀後半になると欧米で有機化学が急速に進み、
合成化学時代となる。第二次大戦後の接着の進歩は飛 躍的に発展した。その主要因は接着という操作が、能 率化、性能向上に直接つながっているからである。市 場での競争の激化、人件費の高騰に対してコストの低 減のために接着が大きい役目を果たし、数多くの接着 剤が戦後にあらわれた。接着剤の進歩は、プラスチッ ク工業の発展によって接着剤の原料が多量に安価に得 られるようになり、合成ゴム、ビニル樹脂、エポキシ 樹脂など新しいプラスチックが誕生すると共に接着剤 としても用途開発された。20 世紀中頃になると、高 分子化学、石油化学の発展により、数多くの合成樹脂 が生まれ、汎用化されるようになる。そしてこれらを 主成分として取り入れて多様な接着剤が誕生し、接着 特性も飛躍的に向上した合成系接着剤時代となった。
今日では、接着剤技術は日常の中ではもちろん、生活 と合板・木工、建築・土木、紙・包装、自動車・車両、
電気・電子、航空・宇宙、繊維などあらゆる分野で重 要な働きをしている。例えば近年、炭素繊維と変性エ
ポキシ樹脂の接着技術を組み合わせた新規な複合材料 は、軽量化・省エネなどの利点を生かして航空機産業 では、アルミ合金の代替として機体の構造部材に適用 されている。さらに、自動車や風力発電装置の羽など の新規用途の開拓が進んでいる。今後も省資源・省エ ネ・省力化や環境問題などの分野で重要な役割を期待 されている。
合成系接着剤の出現は、1909 年ベークランドによ るフェノール樹脂の発明以降のことである。ベークラ イトは 1914 年にわが国に輸入され、翌年には国産化 された。しかし、接着剤として大量に使用されたの は、1930 年以降のことで、それまではノボラック形 フェノール樹脂系の電球口金接着などの使用等範囲が 限られていた。その間一般用途でチューブ品が輸入さ れ、国産品が出現し、膠からデキストリン、ミルクカ ゼイン、アラビアゴムなどを経てニトロセルロースに 至り、日華事変から太平洋戦争におよぶ国威発揚時期 の模型飛行機ブームによって世間一般に接着剤がよく 知られるようになった。フェノール樹脂系接着剤は今 までの接着剤である天然系接着剤と基本的に異なる点 について次に述べる。天然系であるデンプン、膠、天 然ゴムも高分子である。ところがフェノール樹脂系接 着剤は最初、低分子である。加熱(硬化)して初めて 高分子となって接着力が出てくる。フェノール樹脂系
5.2
合成系接着剤の登場表 5.2 わが国にて主な接着剤を使いはじめた時期
年 代 接 着 剤
江戸時代以前 アスファルト、漆、漆喰、石膏、膠、ゼラチン、でんぷん(姫糊、続飯、寒糊、正麩)
デキストリン、カゼイン、松脂、珪酸ナトリウム(水ガラス)、こんにゃく 1868 年〜1911 年
明治時代
ゴム糊、盤石糊、天然ゴム、アラビアゴム
1912 年〜1925 年 大正時代
カゼイン、フェノール樹脂、大豆グルー 1926〜1945
昭和元年〜昭和 20 年
ニトロセルロース、レゾルシノール樹脂、ユレア樹脂、ポバール、酢ビ溶液
1946〜1955
昭和 21 年〜昭和 30 年
酢ビエマルション、アクリルエマルション、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ニトリ ルゴム、クロロプレンゴム
1956〜1965
昭和 31 年〜昭和 40 年
ホットメルト、ウレタン樹脂、嫌気性接着剤、瞬間接着剤、構造用接着剤(ビニルー フェノリック、ニトリルーフェノリック、変性エポキシなど)
1966〜1975
昭和 41 年〜昭和 50 年
EVA エマルション、アルファオレフィン、水性ウレタン、ポリイミド 水性高分子−イソシアネート、変性シリコーン樹脂、導電性接着剤 1976 年以降
昭和 51 年〜
第二世代アクリル、紫外線硬化(ラジカル・カチオン重合)、電子線硬化 解体性接着剤、反応形ホットメルト、可塑剤フリー酢ビエマルション
接着剤は接着という工程の中で低分子から高分子へ、
という化学反応が起こっている。この点が従来の接着 剤と違っている。フェノール樹脂系接着剤のもう一つ の特徴は合成物であることである。デンプンも膠も 天然ゴムも天然の動植物からとったものである。フェ ノール樹脂系接着剤の原料のフェノールもホルマリン も合成物であり、フェノール樹脂というものは天然に 存在しない。このようにフェノール樹脂の発明の意義 は大きく、現在の合成系接着剤の基礎になっている。
第二次大戦に入り、フェノール樹脂、ユレア樹脂の 高度の接着性、耐水性、耐久性などの特徴を生かし、
航空機用合板の接着に広く応用された。ビニル樹脂の うち接着剤に多く使われたのは酢酸ビニル樹脂、ポ バール、塩化ビニル樹脂である。酢酸ビニル樹脂は 1924 年(大正 13 年)ドイツで工業化され、昭和のは
じめわが国へ輸入されて塗料や接着剤として試験され た。昭和 10 年頃には日本窒素と日本合成化学で少量 作られているが、接着用途よりも酢酸ビニル樹脂から 作ったポバールが合成繊維の原料に注目されていた。
エマルション接着剤として大きく発展するのは戦後の ことである。塩化ビニル樹脂が IG 社で生産されたの は 1931 年(昭和 6 年)であり、わが国では昭和 16 年 に日本窒素の生産サンプラントが完成しているが、プ ラスチゾルとして自動車の接着などに使われたのは昭 和 30 年代になってからである。
参考引用文献
1) 本山卓彦:接着の秘密、ダイヤモンド社(昭和 54 年 11 月 25 日)
接着剤の種類は多く、分類の方法も主成分による分 類、固化及び硬化方法による分類、形態による分類、
接着強さによる分類などがある。主成分による分類が 一般的であるが、ここでは接着強さによる分類を次に 示す。
6.1.1 構造用接着剤の特徴
JIS K 6800 の接着剤・接着用語では構造用接着剤 とは「長期間大きな荷重に耐える信頼できる接着剤」
となっている。構造用接着剤は航空機産業と共に発展 してきたものであるが、今日ではリベット、スポット 溶接、ハンダなどの代替として自動車、鉄道車両、電 気・電子、建築、航空・宇宙産業で応用される。次ぎ に構造用接着剤の特徴を示す。
長所
1)異種材料の接合ができる
2)応力が均一に分布して疲れ強さを増大する 3)密封作用がある
4)表面が平滑になる 5)電気絶縁作用がある 短所
1)一般に表面処理が必要である 2)加熱、加圧硬化が必要である
6.1
構造用接着剤とは 3)初期接着性に乏しい6.1.2 構造用接着剤の種類と特性
構造用接着剤は、せん断、はく離、曲げ、クリープ などの高性能な接着特性のほか、耐熱性、耐水性、耐 薬品性が要求されるので熱硬化性樹脂を主成分とした 接着剤が主体となっている。しかし、熱硬化性樹脂 は、せん断接着強さ、耐クリープ接着強さなどに優れ ているが、はく離接着強さ、可とう性に乏しいので この欠点を補う目的で熱可塑性樹脂、エラストマー、
スーパーエンプラとの複合により強靭化された複合形 接着剤(アロイ化)が使用されている。複合形接着剤 としてはニトリル・エポキシ、ニトリル・フェノリッ ク、ナイロン・エポキシなどがあり、次に航空機用に 使用されている代表的な構造用接着剤を示す。
<構造用接着剤>
ビニル・フェノリック、 ニトリル・フェノリック エポキシ・ナイロン、 エポキ・ニトリル 変性エポキシ、 エポキシ・フェノリック ビスマレイミド、 ポリイミド
<先進複合材料マトリックス>
熱硬化性タイプ 熱可塑性タイプ ポリイミド ポリイミド
ビスマレイミド ポリエーテルスルホン 変性エポキシ