研究静崇
移植医療の拡大に伴い各種臓器で、そのドナー不足が深刻な問題となっている。そ
の解決策の一つとして異種移植つまり、人間以外の動物からの臓器を人間に移植す
るということが注目されるようになった。異種移植ドナーの候補としては歴史的に みるとヒツジ、ブタ、チンパンジー、ヒヒ等が挙げられるが、倫理、生理学、感染 症学、交配の観点からブタが最も適したドナーであると最近考えられるようになっ た。カロリンスカ研究所では、ブタ胎児のislet細胞を糖尿病性腎不全で腎移植した
1 0例の患者に移植し、ブタのC‑peptideが患者の尿に出ていることを確認してい
こるということが・最近報告されている7・8) 。この細胞性拒絶反応を引き起こす
細胞成分の中では・宿主のT細胞の関与について多く論じられてきた9・10・11) 。
異種細胞に対して反応するT細胞のprecursor frequencyが低い12)こと、異種移植
の組み合わせでは・ T細胞を活性化するための細胞表面どうしの特異的あるいは補 助的な結び付きに欠陥があると予想されることから、 T細胞の異種移植における反 応は・ヒトの同種での反応に比べ軌、と考えられてきた・.しかし、これらはマウス やラットに関しての報告である13・14) 。
今回われわれは・異種移植を実際の臨床の場で行うためには、ヒト対ブタにおける
I
研究が必要であると考え・ヒトのブタに対する細胞性拒絶反応に関して検討をした。
郁男囲蹄
ブタのislet細胞は、異種の補体存在下では、抗体による組織傷害やaJl亡ibody一
mediated cellular cytot0Xicity (ADcc)に対しては抵抗性であることが報告されて
いる15) 。そのような状況下では、異種特異的な細胞性の反応がまず起こり移植 片を破壊する過程が進行すると考えられる。また、ヒト同種での急性拒絶反応は主 にT細胞により起こっている。以上のことから、ヒトのブタに対する細胞性拒絶反 応のうち、 T細胞に的を絞って研究を行うことにした。そして以下の疑問に対して 主に研究を行った。 1)異種であるブタの細胞は、直接的に.完全に純粋なヒトT 細胞を活性化し、また傷害性T細胞を分化誘導することができるか。 2)ヒトT細 胞は、ブタMHCを認識しているのか。 3)ヒト傷害性T細胞は、ブタ細胞に対して どのような接着分子を介して反応しているのか。 4)ヒトT細胞をさらにCD4細胞 とcD8細胞に分けると、それぞれの細胞は、ブタに対して直接反応するのか、また は、他の細胞の介在が必要なのか。などである。
郡究冴映
ブタ細胞
ブタ末梢血からFicoll‑Hypaqt)e gradient CeJltriftlgaCion (LymPhoprepTM・ Nycomed・
oslo, Norway)によりブタ末梢血リンパ球を分離した。
ヒトT細胞の分離
健康なボランティアからヒト末梢血を採取。ヒト末梢血からFico山一Hypaqt)e
gradient centrifugation (Ly皿P血oprepTM, Nyco皿ed, Oslo. Norway)によりヒト末梢
血リンパ球を分離し、
血清の入っていないPBSで3回洗浄した。次に、このヒト末梢血リンパ球を自己血
清1 0 %入ったRPMI 1640(Gibco, Paisley, UX)に浮遊させ、プラスチックの培葺
フラスコで3 7℃で一晩培糞した。非付着細胞はプラスチックの培兼フラスコを静 かに揺すって取り出した。集められた細胞は、抗ヒル,Y,α.7(,九鏡抗体(DAKO
AS.Glostrt)p, Denmark)が結合しているSepharose 6MBカラム
(Pharmacia,Uppsala,Sweden)にいれ4 0分間室温で培兼した。次に、カラムを血清 の入っていないRPMI 1640で流し、細胞を採取、遠心し一塊としてから抗
CD14,CD16(Becton Dickinson,SAD Jose,CA), CD56(Coulter,maleah,FL),
cD57(BectonDickinson)のモノクローナル抗体を加え、撹拝し、 3 0分4℃で培養
し、ウサギの補体を加えた。 3 7℃で3 0分培兼した後、 LymP血0‑KwikT(One Lambda,LosAngeles,CA)を加えて、 3 7℃で3 0分培兼。その後2回洗浄し、採
取された細胞をきわめて純粋なT細胞とした。
CD4細胞とcD8細胞の分離
CD4細胞とcD8細胞の分離は、それぞれ抗cD8.抗CD4モノクローナル抗体(DAKO) を使用した、皿egative selecCionで行った。まず、純粋なT細胞にそれぞれ抗CD8、
抗cD4モノクローナル抗体を入れ3 0分4℃で培兼、その後洗浄し抗マウスIgGモ
ノクローナル抗体がついたDynabeadsTM(Dynal,Skoyen,Norway)とともに培糞した。
抗体がついている細胞は、磁石により取り除かれた。この磁石による除去は2回繰 り返された。こうしてできたcD4細胞の中に残ったcD8細胞と、 cD8細胞の中に残 ったcD4細胞は1 %以内であることが、フローサイトメーター(FACScan
analyzer,Becton Dickinson)により確認されている。
リンパ球混合培兼試験(MLR)
MLRは・ 96穴の平底の培養プレート(Nunc,Roskilde,Denmark)に1 ×105佃の反応細
胞と30Grayで照射した4×105個の刺激細胞を、ペニシリン、ストレプトマイシン、
しグルタミン、非劫化したFCS10%が入ったRPMI1640とともに入れ培養した。阻
筈試験では、刺激細胞に抗豚MHC class IIモノクローナル抗体(ISCR3, IgG2b,
SLA class II mAb, Dr・ D・H・ Sac血S, Transplantation Biology Researc血Center,
Massachusetts General Hospital, MA)を加え、 30分後洗浄せずに培養した。培糞
は・ 5%CO2・ 37℃で行い、第3日から第9日にかけてsemi‑atlto皿atic血arvest装置
(skatron,Lier,Norway)で血arvestした。 harvestの24時間前に2pCiの【3H]サイミ
ジン(Amers上は皿,Btlckingha皿Shire,UK)を各穴に入れ、液体シンテレーシ訂ンベー
タカウンター(wallac,Ttlrkt',Finland)で測定した。
細胞性リンパ球傷害試験(CML)
24穴の平底の培兼プレート(costar,cambridge.MA)に1.5× 106佃の反応細胞と
30Grayで照射した2×106個の刺激細胞を2.5皿1の培兼液とともに入れ、反応細胞を
第7日に血arvestした。標的細胞は、 CML3日前からPBLを4.5pg血1の
PHA(Wellco皿e・DBtrtford,England)で培兼した後、 100pCiのSlcr(Amers血aJn)で1時
間ラベルした。反応細胞と標的細胞の比を40:1,20:1,10:1,5:1にして 丸底の培葺 プレート(Nunc)に入れ・ 5%CO2・ 37oCで3時間培兼した。培糞後、その上清を集・
めガンマカウンター(Wallac)で遊離51crを測定した。 cyto'oXicityは、次の式により
計算した;
Percent SPeCific lysis = 100X (experimental(cpn)‑Spontaneot)S(cpm)) /
spontaneous releaseは、 maximum releaseの10%から20%の間であった。阻害試験
では、 7日間反応細胞を培糞した後、標的細胞に抗ブタMHCclass I抗体(2.27.3,
IgGl, SLAclass IAb, Dr. DrH. Sacbs) 、反応細胞には抗CD2,抗CDlla.抗CD45
モノクローナル抗体(Becton DickiLISOn)を30分間混ぜ、洗浄せずに実験をした。
標的細胞に5%Triton X‑100液を加えたものをmaXimum releaseとした。自己細胞を 標的としたときのpercentspecificlysisは、 E/T比40.I.1で、常に5%未満であった。
各測定値はtriplicate samPlesの平均値である。
IL‑2産生能の測定
MLRは、上記の要領で行った。第2日から第5日までの上清を100plとり、 IL‑2に 特異的なcTLL細胞株5Ⅹ103に加えた。陽性反応のコントロールとしては、 10%ラ
ットconA上清、またはヒト組み替えIL‑2(Genzy皿e,Boston,MA)をcTLLに加え、
陰性反応のコントロールとしては、培兼液のみ、またはヒト組み替えIL‑1α.IL‑
1β.IL‑6を加えた。細胞は30時間培糞し、最後の18時間を2pCiの【3H】サイミジ ン(AmerSbam)とともに培葺した。サイミジンの取り込みは上記の要領で測定した。
MitOgenでの培葺
1Ⅹ105の反応細胞を4.叫g/皿1のPHA(Wellcome)とともに96穴の培養プレートで培養。
3から4日間培葺後、最後の24時間を2pCiの【3H]サイミジン(Amersbam)ととも に培糞した。サイミジンの取り込みは上記の要領で測定した。
IL‑2 receptor (CD25)の発現
24穴の培葺プレート(Costar)に1×106個の反応細胞と30G岬で照射した2×106個
の刺激細胞を2.5皿1の培糞液で培兼。第3日に細胞を集め、 fluoro‑
isot血iocyaLnate(FITC)接合坑cD8モノクローナル抗体とpbycoerythrin(PE)接合坑
CD25モノクローナル抗体(Bec°on DickiJISOn)で染色した.解析は、フローサイトメ
ーター(FACScaLn aエalyser,BeccoJI DickiJISO皿)で行った。染色されていない刺激細胞
は、反応細胞と区別するためゲートをかけた。
サイトカイン
MLRとcMLでは、ヒト組み替えIL‑1α.ILllβ.IL‑2,IL‑6(Genzy皿e)が【結果】の項
で示す様にさまざまな濃度で加えられた。
免疫染色とフローサイトメーター
フローサイトメーターによる解析は. FACSscan analyzer(Becton Dickinson)で行っ
た。リンパ球は、体積(forward scatter)と穎粒(sidescatter)により区分された。細
胞は、それぞれのモノクローナル抗体で4oC30分で染色し. 0.1%NaN3‑PBSで2回 洗浄した。陰性コントロールとして細胞をマウスIgGlとIgG2で染色した。それぞ
れのサンプルから、 1Ⅹ104佃の細胞がConsor亡30 software(Becton Dickinson)によ
り解析された。
統計処理
統計処理はsnldenH teS亡で行った。
研究静品
T細胞の純度
この実験ではヒトT細胞がブタ刺激細胞を直接認識しているかを明らかにすため、
完全に抗原提示細胞を除去した、高度に純化されたヒトT細胞を使用した。
精製されたT細胞に関し、 pbenotypeと披能の両面から検討した。フローサイトメ トリーによる解析では、このT細胞は95%以上cD3陽性で. CD14とcD19陽性細胞 は、ともに1%未満であった(図日。 T細胞の検能的特徴を調べるために、 PHA を用いて実験した。 pHAによる活性化試験では、純化していないPBLに比べるとこ のT細胞の増殖能は、 2%未満であった(図2) 。 PHA刺激試験は、抗原提示細胞 の除去のモニターとしてルーチンに使用されている。
さらにT細胞をcD4細胞とcD8細胞に分けたが、これらの過程は、すべてJlegadve selectionで行われ、純化の過程で反応T細胞を活性化させることを避けた。 NK細胞 もヒト反応細胞から除去されているが、これはNX細胞がもともと持つ細胞傷害性
やブタ刺激細胞により活性化されて出現する細胞傷害性を取り除くためである。
CD8細胞の中にフローサイトメトリーによる解析で、数馬のNK細胞が残存してい る可能性があるが、ヒトのブタに対するCMLで、 CD8細胞単独では細胞傷害性が ないことから、その影響はないと考えられる。
異種および同種におけるヒトT細胞のブタ刺激馴包に対する反応
ヒト同種、ヒト対ブタ異種のMLRを行いその増殖能を比較した。ヒトT細胞. PBL ともに、ブタ異種に対しても同種と同様に活性化され増殖し(図3) 、その時間経 過も反応の最大が7日目または、 8日目にある類似したものであった(図4) 。ま た、ヒトT細胞のブタ異種に対する増殖能は、抗ブタclassII抗体で抑制された(図
5) 。
異種および同種での細胞傷害性T細胞の出現
ヒト同種、ブタ異種において細胞傷害性T細胞の分化訣導について比較した。ブタ 異種に対してもヒト同種と同様、 7日間のリンパ球混合培糞の後、ヒトT細胞は、
細胞傷害性を獲得し(図6A,ら) 、それは抗ブタclassI抗体でブタ標的細胞を処理 すると、部分的に阻害される(図7) 。さらに.反応細胞であるT細胞仰の接着分 子の候補として考えらるCD2、 CDlla、 CD45に対するモノクローナル抗体を. 7
日間の培善後、反応細胞に用いて、阻害試験を行ったが.同様に部分的な阻害を得 られた(図8A) 。また、標的細胞を坑ブタclassI抗体で処理して阻害言式験を行う と、さらに細胞傷害性が減少した(図8B) 。次に、ヒトT細胞をブタ末梢血細胞
とMLRを作成して、細胞傷害性T細胞を誘導し. effectOrP血aseで3rd partyのブタ
標的細胞とcMLをおこなうと.刺激細胞と同じ標的細胞には俵等性を持つが. 3 rdparlyのブタ標的細胞に対しては、細胞傷害性がほとんど得られなかった(図9)。