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以上の考察からは、事業法人による安定株主比率が高い場合には、機会主義 的な会計戦略が助長される可能性が高まる一方、金融機関による安定株主比率 が高い場合には、企業価値の向上につながりうるような会計戦略を経営者が選 択する可能性が高まることが示唆されよう98

(3)資金調達構造 イ.負債比率

(企業価値との関係)

負債は、企業の資金調達方法の

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つであると同時に、経営者の行動を規律付 けるガバナンス機能があると考えられている。第

1

に、負債発行は、経営者に 元利金の支払いを強制することを通じてフリー・キャッシュ・フロー(経営者 が利用可能な資金)を削減するため、経営者による過剰な投資を抑制し、経営 の効率化につながることが期待される。第

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に、負債を返済できない場合(債 務不履行時)には経営権が債権者に移転し、経営者は交代を余儀なくされるた め、経営者に対して負債を返済しうるだけの収益を上げるよう効率的な経営を 行うインセンティブを与える。第

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に、実際に企業が破綻し、経営コントロー ル権が債権者に移転した場合には、債権者により経営計画が再検討され、既存 の経営者が行えなかった資産の売却・人員整理などを通じて過剰規模の問題が 解決され、経営が効率化される。こうした負債の機能に着目すれば、企業の負 債比率が高いほど経営の効率化、ひいては企業価値の向上につながることが推 定される99

その一方で、負債には、優良な投資機会を持つ企業に対しては、経営の効率 性を引き下げる可能性もあることが指摘されている100。すなわち、金融市場に おいて情報の非対称性の問題があり、投資資金を必ずしも有利な条件で調達で

97 なお、創業者一族などの支配株主の存在が経営者の利益調整に与える影響について分析した ものとして、例えばKim and Yi[2006]は、韓国企業を対象として、議決権とキャッシュ・フロー 権が乖離する企業ほど、経営者の機会主義的な利益調整が増加することを示している。

98 ただし、(3)ロ.でみるように、安定株主である金融機関がメインバンクである場合には、

ガバナンス機能を果たさない場合もあると考えられている。

99 以上につき、例えば広田[1996]250~251頁、岡田・佐藤[2005]4~5頁を参照。なお、

これらのほか、負債による節税効果も企業価値にとってプラスに働く(清水[2007]45頁)。

100 例えば広田[1996]250頁参照。

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きない場合には、企業の負債の返済による手元資金の減少は、有益な投資の実 行を妨げる(いわゆる「デット・オーバーハング問題」)。また、負債発行から 起こりうる財務危機・倒産という事態も、優良な投資機会を持つ企業において は、経営の効率性を阻害する要因となりうる。こうした負債のネガティブな側 面は、負債のエージェンシー・コストと呼ばれている。

このように、負債には企業価値にとってプラスの効果(経営者に対する規律 付け)とマイナスの効果(投資抑制)の両方があり、そのいずれが大きいかに よって、負債比率が経営の効率性ひいては企業価値に与える影響が異なってく る と 考 え ら れ る 。 こ の 点 、 先 行 研 究 を み る と 、 例 え ば

McConnell and

Servaes[1995]

は、米国企業を対象として負債比率と企業価値(トービンの

q

の関係を実証分析し、成長機会の少ない企業(低成長企業)においては両者の 間に有意な正の相関が認められる一方で、成長機会の豊富な企業(高成長企業)

については、負の相関があることを確認した。広田[

1996

]も、日本企業を対 象として、低成長企業においては負債比率と企業経営の効率性101との間に有意 な正の相関が認められるとの実証結果を報告している。さらに宮島ほか[

2004

] は、高成長企業においても、負債比率と

TFP

成長率との間に正の相関が認めら れる(もっとも、その程度は低成長企業と比較して半分程度に低下する)を確 認している。

これらの実証結果からは、低成長企業と高成長企業とで負債によるガバナン ス効果が異なることが示唆される。その理由として、例えば宮島ほか[

2004

] は、高成長企業では、負債は投資制約というマイナスの側面と規律付け効果と いうプラスの側面があり、本研究では後者の効果が前者を上回ったと考えられ るのに対し、低成長企業では、負債はプラスの効果のみを有するため、その効 果が強く出るのではないかと推察している102

101 同研究では、企業経営の効率性を表す指標として、営業利益に人件費と福利厚生費を加えた ものの総資産に対する比率(「付加価値/総資産比率」と呼称)を計算し、その値の以後3年間 の平均値を用いている。その理由として、企業経営の効率性は、通常、トービンの q や総資産 営業利益率(営業利益の総資産に対する比率)で測られることが多いが、近年のコーポレート・

ガバナンスの文献では、企業価値の構成要素として、株式価値・負債価値とともに従業員の取り 分(従業員余剰)をも含めて考えるのが通常となっており、この従業員余剰は日本企業において は特に重要と考えられるためと説明している(広田[1996]255頁)。

102 すなわち、負債利用の効果が成長性に依存するとの従来の仮説は、負債を過大に利用すると 資金調達の自由度が失われ、成長機会の豊富な企業(高成長企業)では投資水準が過小となる一 方、成長機会の少ない企業(低成長企業)では、負債の利払いによりキャッシュ・フローが削減 されるため、過剰投資が抑制されるとしている。これによれば、過少投資問題が生じやすい高成 長企業では、負債利用のマイナスの面が出やすく、過剰投資問題が発生しやすい成熟・衰退企業 では、そのプラスの面が出やすいことになる。これに加えて、負債には、前述のように、経営者

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(会計戦略への影響)

以上を前提として、負債比率と会計戦略との関係に関する先行研究をみると、

例えば

Trueman and Titman[1988]

は、負債比率が高い企業は、債務不履行の

確率を低めて負債コストをより低くする動機が生じることから、利益平準化を 行 う 傾 向 に あ る こ と を 理 論 的 に 示 し た 。 こ れ を 踏 ま え て 、

Carlson and Bathala[1997]

Grant, Markarian, and Parbonetti[2009]

は、長期債務比率が 高い企業では、利益平準化を行う傾向が高まることを確認している。また、日 本企業を対象とした分析でも、例えば内田[

1997b

]は、負債比率と利益平準化 の間には正の相関があるとの実証結果を報告している。同研究は、メインバン ク(3.(3)ロ.参照)との関係が強い企業と弱い企業との間で利益平準化の 程度の差があるかを分析したものであり、メインバンクとの関係が強い企業ほ ど利益平準化を行う傾向が強まることを確認している。その一方で、メインバ ンク借入依存度と利益平準化との間には有意な関係が認められなかったことか ら、メインバンク関係の強い企業において利益平準化の傾向が強まるのは、そ うした企業は負債比率や非メインバンク借入依存度が高いためであり、メイン バンク以外の貸し手(金融・資本市場全体)に対して自社が優良な借り手であ ることを示そうとするインセンティブが強まるため(内田[

1997a

]参照)では ないかと解釈している103

また、2.(3)でみたように、

Ahmed et al .[2002]

や薄井[

2004

]は、負債 比率が高く、配当政策に関して株主と債権者の利害対立が大きい企業(債権者 が経営をコントロールする企業)ほど、保守的な会計処理を選択する傾向にあ るとの実証結果を報告した。こうした結果について薄井[

2004

]は、債権者は、

の自律的な努力を高めるという規律付け(インセンティブ)効果がある。したがって、高成長企 業では、負債は、投資制約というマイナスの側面と規律付け効果というプラスの側面を持ち、ど ちらが強く出るかは両者のトレードオフに依存する。他方、低成長企業では、負債はプラスの側 面しかなく、高成長企業よりもそのプラスの効果が強くなるとの解釈が示されている。なお、広 田[1996]も、負債と経営効率との負の相関が低成長企業のみで有意に認められたことについ て、低成長企業では高成長企業と比べて、負債のエージェンシー・コストが小さいことが反映さ れている可能性もあるとの見方を示している(264頁)。

103 このことは、経営者の利益平準化を助長するのは、メインバンクとの関係の強さではなく、

負債比率の高さや非メインバンク借入依存度の高さにあることを示しており、実際、内田[2001]

では、負債比率や企業集団等が利益平準化に与える影響をコントロールしなければ、メインバン ク関係が強い企業ほど利益平準化が抑制されるとの実証結果が報告されている。なお、この点に ついては、例えばKwak and Lee[2008]も、日本企業における利益平準化の決定要因について実 証分析したなかで、負債比率と利益平準化の間に負の相関があることを確認している。もっとも、

その理由としてKwak and Lee[2008]は、日本企業のように社債よりも銀行借入による資金調達 の割合が大きい場合には、債権者(銀行)による密接なモニタリングを通じて経営者の利益平準 化が抑制されるためと解釈している。

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