第 3 章 日本語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能
3.3.4 より 生産 的な パター ン
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先述 した よう に、「ご飯 」の前に 何も つ いて いな い場 合、通常「炊 飯器 で炊 い てい る」と 理解さ れて いる ため、「#炊飯 器炊 きご 飯」と 明 示す る必要 がな い 。しか し 、実際の 発話 状 況や文 脈に より、「ご 飯」だ けで は「鍋 炊きご 飯」を 含め た上 位カ テゴ リー を 示す場 合も あ る。言 い換 えれ ば、 デフ ォール ト 値 は 優先的 に理 解さ れる こと ではあ るが 、 他の解 釈を 完 全に排 除す るわ けで はな い。一 方、「ご 飯」の 前に 「鍋 炊き 」を つけ 、「鍋 炊き ご飯」 とい う表現 にす れば、「炊 飯器 で 炊い た」と いう可 能性 は完 全に 排除 される 。こ の ように 、片方 がデフ ォー ルト 値を 含め 、様々 な解 釈 を含意 する のに 対し 、他 方が一 つの 解 釈しか 許さ な いのは (69)の よう な対比 する 場合 に 支障を もた らす 。
(69) ?これ はご 飯で すが、 それ は 鍋 炊 き ご 飯 で す 。(cf.こ れ は 炊 飯 器 炊 き ご 飯 で す が 、 それは 鍋炊 きご 飯で す。)
従って 、対 比の 場合 に限 っ て 、 デ フ ォ ー ル ト 値 を 複 合 語 に 盛 り 込 む こ と が 可 能 で あ り 、 必要に なる わけ であ る。
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とは表 現さ れ な いよ うに 、人間 の性 質 に影響 を及 ぼす 、ま たは 人 間の 属性 と して捉 えら れ やすい のは むし ろ生 まれ 育った 場所 や 時間だ と思 われ る 。 但し 、生ま れ育 っ た場所 や時 間 は人ご とに 異な り、 モノ のよう な デ フ ォール ト 値 が想 定し にく いため 、こ の タイプ の複 合 語は詳 細指 定に よる もの だと考 える ほ うが適 切で あろ う。
(73) (特定 の人 物か に関 わら ず)人 間に 関 する知 識 産出的 役割 :○ 年○ 月○ 日に○ ○ に 生 まれる 。 ↑指 定
生ま れの 時間 や場 所を 詳細に 指定 す ること によ って 、「東 京生ま れ」や「昭 和生ま れ」な ど様々 な表 現が 可能 であ る 。こ の例 に 関連し 、由 本(2009a: 214) は[-育ち]という 形容 詞 として 用い られ てい る複 合語を 論じ る 際 に、[-育 ち]が人 間の みを叙 述対 象と し、「*海 育ち の魚 」と いう表 現が 成立 しな い と の言 及があ る が 、「 魚」の デ フォ ール ト 値 と しての 生息 地 は「海 」、「 河川」、「 湖」 である こと を 考えれ ば、「*海 育ち の魚 」が成 立し な い理由 も自 明 なこと であ る。 しか し、 産地と して 名 が知ら れて いる 場所 であ れば、 その 場 所が 叙 述対 象 の属性 にな りや すい ため、「日 本海 育ち の 天然 ブリ 」、「 宍道 湖生 まれ のシ ジミ 」と いっ た表 現も可 能な よう であ る23。
(71)も 前項 に数 量詞が 入っ てい る 点で生 産的 だと 言え るが、(70)と 同 様に、 被修 飾 語に関 する 知識 の詳 細指 定だと 考え ら れる。 ここ では 「○ ○階 建て」 の修 飾 を受け る「 ビ ル」を 例に 見る 。
(74) ビルに 関す る知 識
構成的 役割 :鉄 筋コ ンク リート 形式的 役割 :2階以 上の 高層 建築 物 ↑指 定
ビルは 本来 「○ ○階 建て 」を明 記 し な くても それ 自体 で 理 解さ れる概 念で あ るが、「何 階建て 」で ある かを 詳細 に指定 する こ とによ って 、様 々な 表現 が可能 であ る 。また 、 背 景
23 この 現象 を考え れば 、複 合語 によ って 、複 合語の 前項 に関 する 百科 事典 的知 識も語 形 成 に関与 して いる と考 えら れるが 、詳 し い考察 は今 後の 課題 と し たい。
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知識に は「2階以 上の」とい う デ フォ ールト 値が 想定 され てい るため 、「*1階建て のビ ル」
という 不適 切な 表現 も自 動的に 排除 さ れる。
(72)はド リン ク酢 のほか に、お酒 や カルピ スの よう な高 濃度 で希釈 する 必 要のあ る飲 料を対 象と して いる が、 飲み物 は通 常 「割る ため の存 在で はな い」た め、 こ こは「 飲み 方 として のど んな 飲み 物で 割るか 」を こ れらの 飲み 物 に 関す る知 識 と併 せて 考 える必 要が あ るであ ろう 。こ こで はお 酒を割 るこ と につい て の 知識 を例 示す る 。
(75) お酒を 割る こと に関 する 知識
目的: アル コー ルを 薄め る/飲みや すく する 方法:(氷 を入れ て) 酒以 外の 飲み 物で 割る
↑指 定
(70)、(71)に 似て おり 、[-割 り]の 場合も 具体 的に どん な飲 み物か を指 定 するこ とに よ
り、(72)に 示し た よ うな 様々 な表 現 が可能 にな る。
3.3.1、3.3.2節 で検 討し た例 (同 様 に「詳 細指 定」 に属 する 「秋摘 み」 を 除き) は一 つ
一つ記 憶さ れ て いる と考 えられ るの に 対し、 百科 事典 的知 識 に おける 知識 の 詳細指 定に よ り成立 した 複合 語は 幾通 りもの 表現 が 可能で あ り 、言い 換え れば 、タイ プ頻 度 が高い ため 、 一つ一 つ記 憶さ れる より 、同じ 語尾 で 終わる 表現 から 、共 通の 部分が 抽象 化 され、[[場所]
生 まれ]や[[飲 み 物]割 り]と いう よ う に 一 つの 規 則 と して 記 憶 さ れ る可 能 性 が 高 いで あ ろ う。
接尾辞 に近 いと いう 性質 が生産 性を 高 めた原 因だ と考 えら れる 。
以上 で、 これ まで 非生 産的だ とさ れ てきた 付加 詞複 合語 の語 形成を 検討 し てきた 。考 察 の結果 は次 の表 に示 すよ うにま とめ ら れる。
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語 形 成 を 動 機 づ け る 語 形 成 に 要 因 関 わ る 百 科 事 典 的 知 識24
デ フ ォ ール ト 値と 異 な る も の への 特 徴づ け
デ フ ォ ール ト 値の な い 或 は 複 数あ る もの に 対 す る 知 識の 詳 細指 定 複 合 語 の目 的 語も し くは
被 修 飾 語に 当 たる 外 部名 詞
窯焼き (パ ン) 東京生 まれ (の 一朗 )
複 合 語 の主 要 部動 詞 及び そ の 目 的語 に 当た る 外部 名 詞
(みか んの )箱 売り (梅酒 の) ソー ダ 割 り
表 3-3. 付 加詞 複合語 の生 産性 につ い ての考 察結 果
従来で は複合 語の 生産 性は 単に 語形 成規則 や語 形成 部門 ない し語形 成レ ベ ルで捉 えら れ、あ る構 造が 新し い造 語とし て成 立 するか どう かに 関す る「 文脈」 は不 問 に付さ れて い た。し かし 、単 に語 形成 規則だ けで は 複合語 がど のよ うな 場合 に成立 する か を捉え 切れ な い。本 節で は従 来単 に「 文脈」 と処 理 された 複合 語を 動機 づけ る要因 に焦 点 を当て 、複 合 語自体 のみ なら ず、 複合 語の外 部名 詞 (に関 する 百科 事典 的知 識)も 考察 す ること を通 し て、動 詞由 来複 合語 の語 形成は 語構 成 要素の みな らず 語構 成要 素以外 (複 合 語の外 部) の 名詞の 百科 事典 的知 識に よって 動機 づ けられ てい る と いう 仮説 を論証 し、 そ の妥当 性を 見 た。