• 検索結果がありません。

むすびにかえて

ドキュメント内 概要書 1. (ページ 88-96)

第5章 企業報告の展望

第4節 むすびにかえて

企業開示のあり方を変革すれば、企業とステークホルダーとのコミュニケーションが活 発化され、両者の利害を一致させることができ、企業の長期的な成長を促すことにつなが るのではないか。そう考え、本稿では企業報告の展望を考察した。

本稿では、我が国の開示実務の展望を考察するにあたって、我が国より進んでいると言 われる欧米の開示実務を比較し、これらの問題点を指摘することで、我が国の開示実務が 今後目指すべき方向性を示した。開示実務の不備が是正されれば、投資家に対してより有 用な情報が提供され、さらには他のステークホルダーにとっても有用な情報が提供される

82

ことを通じて、企業はミッションの最大化を果たす方向性が見出せるものと考える。

また、企業が短期的思考に陥るのは、投資家が短期志向に傾いてしまうからであるため、

投資家自身が長期志向へ変化する必要がある。ここで、企業報告のあり方が変革されれば、

長期志向の投資家を育てることができるかもしれない。「伊藤レポート」(経済産業省[2014])

では、企業を長期的に応援する担い手として個人株主を育成する必要性を説いている。我 が国の現在の個人投資家比率は低いが(図 1 参照)、家計金融資産における預貯金残高は 800兆円を超える。しかし、家計金融資産における株式・債権・投資信託購入比率は8~16%

であり、欧米と比べて低い。ここで、経営者が、財務報告と非財務報告を用いて、「企業 の将来像を語り」、戦略や方針を着実に実行していくことが長期志向の株主を惹きつける ことにつながるのであれば、潜在的な投資家層が、企業価値という判断基準を持って投資 を行うという長期的かつ本格的な応援株主として株式市場に登場することになり、日本企 業の価値創造を支える豊かな基盤が形成されるのではないかと指摘している。今後、厚み のある個人投資家を株主としてもつ企業が増加し、証券市場で長期的安定的な投資が行わ れることを期待したい。

さらに、企業報告のあり方が変革されれば、投資家の志向自体も変化するかもしれない。

我が国の投資家は、ESG情報の開示への関心が薄い。現にUNPRI35に署名している投資家 は、世界的には1,169に上るのに対し、我が国の投資家は24しかない(國部[2011])。ま た、GSIA[2012]によれば、我が国のSRI投資金額が世界市場に占める割合は0.1%にも 満たない。このように、我が国では投資家のESG情報への関心が高くない原因には、投資 家に対して、ESG 情報が、財務報告という枠組みのなかで、企業価値との関連で開示され てこなかったことも原因ではないだろうか。我が国ではCSR報告書の開示実務が進んでい ることは、第3章第3節第3項で述べた通りであるが、これは投資家を念頭に置いた開示 書類ではない。事実、欧米では多くのESG情報が財務報告制度上で開示が要求されている のに対して、我が国では、法定書類である有価証券報告書等におけるESG情報の開示は一 般的ではない(第3章第3節第3項参照)。逆に言えば、こうした財務諸表外情報を財務 報告として開示することができれば、さらには、米国の開示制度のように、意思決定に有 用な、財務的影響の明確な情報としての開示が進めば、投資家のESG情報への関心は高ま

35 UNPRI(United Nations Principles for Responsible Investment:国連責任投資原則)とは、

「国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI:UNEP Financial Initiative)」と国連グロ ーバル・コンパクトが推進する、ESGに配慮した責任投資を行うことを宣言した原則である。

83 る結果、投資家が長期志向に変化するかもしれない。

今日、「企業のあり方」というきわめて抽象的なテーマが、投資家のみならず企業を取 り囲む広範なステークホルダーによっても、とりわけ強く強調されてきている。企業は、

企業価値の向上に努め、企業の出資者に利益を還元しなくてはならない。その意味で、株 式会社は投資家のために存在していると言われる。しかし、企業の本質的な存在意義は、

企業が掲げるミッションを持続的に実現させることであり、それを可能とするために、投 資家のために努力するわけである。各々の企業が掲げる崇高なミッションの実現を後押し する証券市場の姿を願ってやまない。

84

参考文献

秋葉賢一(2011)「公正価値重視の会計と企業価値評価モデルとの関連性」

http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kaikei/akiba.pdf

秋葉賢一(2014a)「気になる論点 97 統合報告のフレームワーク(2)―財務報告を拡大す るものなのか―」『週刊経営財務』No.3148

秋葉賢一(2014b)『エッセンシャルIFRS(第3版)』中央経済社

秋葉賢一(2014c)「財務報告と統合報告」宝印刷株式会社統合ディスクロージャー研究所『統 合報告書による情報開示の新潮流』同文舘出版

荒井勝(2013)「世界に広がる「統合報告」のすべて 第10回 投資家視点の統合レポーテ ィング」『週刊経営財務』No.3107

市村清(2013a)『統合報告導入ハンドブック』第一法規

市村清(2013b)「統合報告をめぐる動き」伊藤邦雄『別冊企業会計 企業会計制度の再構築』

中央経済社

市村清(2013c)「第1回 企業報告の大きな流れ-統合報告に向かって-」

http://www.shinnihon.or.jp/services/advisory/ir/column/2013-04-17.html 伊藤邦雄(2011)「財務報告の変革と企業価値評価」『企業会計』Vol.63, No.12 伊藤邦雄(2012)『企業会計研究のダイナミズム』中央経済社

伊藤邦雄・桜井久勝編(2013) 『体系現代会計学[第3巻]会計情報の有用性』中央経済社 伊藤邦雄(2014)『新・企業価値評価』日本経済新聞出版社

上村達男(2012)「株式会社は市場とデモクラシーの調和の世界」『法学セミナー』第57巻4 号

薄井彰(2013)「決算短信の情報有用性は過去 25 年間で低下していたか」『早稲田商学』第 434号

浦崎直浩(2012)「財務報告の拡張」広瀬義州・藤井秀樹編『体系現代会計学[第6巻]財務 報告のフロンティア』中央経済社』

大西又裕(2014)「証券市場における情報開示の今後のあり方」宝印刷株式会社統合ディスク ロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』同文舘出版

大瀧晃栄(2013)「財務諸表利用者は決算書のどこを見ているか―投資家サイドの視点から」

『企業会計』Vol. 65, No.7

越智信仁(2012)「ESG 情報の報告携帯と監査・保証をめぐる一考察―統合報告における開

85

示と監査・保証問題の特質―」『企業研究』Vol.72, No.2, 2012

小野慎一郎・村宮克彦(2013)「受注残高情報と将来情報の関連性」桜井久勝・音川和久編『会 計情報のファンダメンタル分析』中央経済社

オムロン株式会社(2012)「統合レポート2012」

http://www.omron.co.jp/ir/irlib/pdfs/ar12j/ar2012j.pdf

加賀谷哲之(2012)「持続的な企業価値創造のための非財務情報開示」『企業会計』Vol. 64, No.6

加賀谷哲之(2013)「四半期開示の課題と展望」伊藤邦雄編『別冊企業会計 企業会計の再構 築』中央経済社

川島いずみ(2014)「統合報告と制度的対応―英国の統合報告に関する規制の試み―」宝印刷 株式会社統合ディスクロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』同 文舘出版

川村雅彦(2014)「統合報告書は「統合思考」の醸成から」宝印刷株式会社統合ディスクロー ジャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』同文舘出版

環境省(2011)「平成22年度企業の環境情報開示の実態に関する調査業務報告書」

http://www.env.go.jp/policy/env-disc/reports/h22.pdf

北川哲雄(2013)「異次元ディスクロージャー政策の必要性―投資家選択と共生化」『企業会 計』Vol. 65 No.7

國部克彦(2011) 「社会・環境情報開示の展開―欧米の動向と日本への示唆―」古賀智敏編

『IFRS 時代の代的情報開示制度 日本の国際的競争力と持続的成長に資する情報 開示制度とは』千倉書房

久保幸年(2010)『適時開示制度と定性的情報の開示』中央経済社

久保幸年(2014)「統合報告書の意義について―規制開示との比較・検討―」宝印刷株式会社 統合ディスクロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』同文舘出版 窪田真之(2012)「投資家から見た統合報告書の利用価値」『企業会計』Vol. 64, No.6 経済産業省(2014)「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関

係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」

http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002-2.pdf

上妻義直(2012a)「統合報告への移行プロセスにおける制度的課題」『産業経理』Vol.72, No.2 上妻義直(2012b)「統合報告はどこへ向かうのか」『會計』第182巻10月号

86

古賀智敏(2011) 「総括的展望」古賀智敏編『IFRS 時代の代的情報開示制度 日本の国際 的競争力と持続的成長に資する情報開示制度とは』千倉書房

小谷融(2014)「統合報告書のわが国証券市場での活用方法について」宝印刷株式会社統合デ ィスクロージャー研究所『統合報告書による情報開示の新潮流』同文舘出版

小西範幸(2012)「コミュニケーションツールとしての統合報告書の役割」『會計』第182巻 9月号

小西範幸(2014)「統合リスクマネジメントと統合報告-三様監査の重要性-」『月刊監査研 究』No.483

近藤光男 (2013)『金融商品取引法入門[第3版]』商事法務 斎藤静樹(2013)『会計基準の研究 増補改訂版』中央経済社

財務会計基準機構(2010)「審議(3)-3 米英仏独の四半期開示制度の概要」

https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20100916/20100916_05.pdf 桜井久勝(2010)『財務諸表分析(第4版)』中央経済社

桜井久勝(2011)「財務報告の変革と会計基準」『企業会計』Vol.63, No.12

桜井久勝・音川和久(2013)「本書の課題と構成」桜井久勝・音川和久編『会計情報のファン ダメンタル分析』中央経済社

柴健次・須田一幸・薄井彰編(2013)『現代のディスクロージャー』中央経済社

社団法人日本証券アナリスト協会(2001)「企業情報の選択的開示についての考え方―社団法 人日本証券アナリスト協会ディスクロージャー研究会の提言―」

https://www.saa.or.jp/disclosure/pdf/kigyokaiji.pdf

統合ディスクロージャー研究所・研究二部ESG担当調査チーム(2014)「統合報告<IR>国 内事例調査2013年度版」宝印刷株式会社統合ディスクロージャー研究所『統合報告 書による情報開示の新潮流』同文舘出版

土田俊也(2010)「企業価値評価モデルの実証的な優劣比較」桜井久勝編『企業価値評価の実 証分析』中央経済社

東京証券取引所(2014)「平成25年度株式分布状況調査の調査結果について」

http://www.tse.or.jp/market/data/examination/distribute/b7gje6000000508d-att/b unpu2013_2.pdf

徳賀芳弘(2011)「財務報告の変革と財務諸表情報」『企業会計』Vol.63, No.12

中條祐介(2011)「中期経営計画情報の自発的開示行動とその企業特性」『會計』第 180 巻

ドキュメント内 概要書 1. (ページ 88-96)