AlxTiyOを用いたInAs/high-k/low-k構造を得るため、あらかじめInAs上にAlxTiyOを成膜 した後、InAs/AlxTiyOを low-k FS に貼付けるプロセス検討を行った。図 3.1にプロセスを示 す。InAs を中間支持体に転写するところまでが従来プロセスである。ここから、high-k絶縁体 として AlTiOを堆積し、InAs/high-k/low-k構造作製を検討した。しかし、AlTiOを内側に反っ てしまうため貼付けることができなかった。この問題に対して、図 3.2に示すように、InAs/AlN が InAs/AlxTiyOと逆向きの反りを有することを利用し、AlxTiyO/AlN 積層構造による変形の 抑制が可能であることを見い出した。このため、AlxTiyO/AlN をhigh-k絶縁体として用いて、
InAs/high-k/low-k構造作製を行った。なお、2章の図 2.22でAlTiOの熱処理がリーク電流低減に おいて有効である事を示したが、low-k FS (PET)が熱に対して弱いことから、AlxTiyO成膜後に 熱処理を行わず、このプロセスでは全体を通して、150◦C以下の低温プロセスを行った。図3.3に
InAs/high-k/low-k構造の作製プロセス概略図を示し、その詳細を以下に述べる。
GaAs(001) buffer layer ELO
InAs
low-k FS inverted VWB InAs Al2O3
InAs AlxTiyO intermediate support InAs
intermediate support
high-k insulator deposition
InAs AlxTiyO
FS
図3.1 InAs/AlxTiyOをlow-k FSに貼付けるプロセス検討
AlxTiyO InAs InAs AlN
AlxTiyO InAs AlN
図3.2 InAs/AlxTiyOとInAs/AlNの反りの向きとAlxTiyO/AlN積層構造による変形の抑制
GaAs(001) buffer layer ELO
InAs
InAs intermediate support
InAs FS InAs Al Ti x
O y
AlN FS inverted VWB
inverted VWB InAs AlxTiyO AlNInAs
InAs AlAlN xTiyO
intermediate support (ALD)
(ECR sputtering)
InAs/high-k/low-k
InAs/low-k InAs
intermediate support
high-k insulator deposition
no deposition
図3.3 InAs/high-k/low-kおよびInAs/low-k 構造作製プロセスフロー
3.2.1 ELO
分子線エピタキシー成長法により作製したInAsデバイス層(500 nm)/AlAs犠牲層 (4 nm)/InAs バッファ層(2.5µm)/GaAs(001)ヘテロ構造を∼1×1 mm2サイズにカットする。その後、アセト ン、メタノール、純水で有機洗浄し、リン酸水溶液(H3PO4:H2O = 3:50)により酸化膜除去を行っ
3.2 InAs/high-k/low-k構造作製 51 た後、粘着シートの中央に試料表面を貼り付ける。貼付後、粘着力を低下させるために紫外線照射を 行う。フッ化水素酸(HF)水溶液 (∼6 % ) に試料を浸漬させる。HF水溶液はInAs に対してエッ チレートをほとんど持たないため、犠牲層のみ選択的にエッチングされる。犠牲層が全てエッチング されると、デバイス層がバッファ層から切り離される。プロセスの条件については表 3.1に示す。
3.2.2 中間支持体への貼付
InAs/high-k/low-k構造作製において、high-k絶縁膜をいつ成膜するかが重要であるが、Al2O3
およびAlNはHF(∼6 %)に対して、非常に大きなエッチングレート(>100 nm/s)を有するため、
ELOの後にhigh-k絶縁膜を成膜する必要がある。このため、InAsを表 3.2の条件で作製した中間 支持体(サファイア基板上にレジストを塗布したもの)に転写し、high-k絶縁体成膜を行う。このと き、中間支持体上にInAsをどのように貼付けるかが重要であるが、ケミカルな処理を施して貼付 けるとInAsの品質への影響が懸念されるため、ファンデアワールス力による貼付(Van der Waals
bonding, VWB)を行う。しかしながら、中間支持体表面は電気的に中性であるため、ファンデア
ワールス相互作用が非常に弱い。このため、O2プラズマアッシングにより表面をOH基終端するこ とにより、表面に双極子を形成して貼付を行う。一方、切り離されたInAsデバイス層についてはリ ン酸水溶液による酸化膜除去を行い、両貼付面を純水で濡らし貼り付ける。表3.2に条件を示す。
3.2.3 粘着シート切離し
ホットプレートを用いて80-110 ◦Cで加熱し、加熱した状態のまま粘着シートを剥離し除去する。
表 3.3に条件を示す。
3.2.4 high-k 絶縁体 (Al
xTi
yO/AlN) 成膜
リン酸水溶液により表面酸化膜除去を行った後、熱による基板変形やAs抜けを防ぎつつ低温成 長可能な原子層堆積(Atomic layer deposition: ALD)によりInAs表面にAlxTiyO成膜を行った。
表3.1 ELOプロセス
プロセス 内容詳細
基板カット ヘテロ構造に対して、GaAs面をけがき,∼1×1 mm2にカット 表面処理 有機洗浄: アセトン2 min, メタノール2 min, DIW 2 min, N2 ブロー
酸化膜除去: リン酸水溶液(H3PO4:H2O=3:50) 3 min, DIW 3 min, N2
ブロー
粘着シート貼付 粘着面とInAsデバイス層表面を接着後、粘着部分UV照射 20 min ELO HF水溶液 (∼6 %)∼12 hours, DIW 5 min
膜厚50 nmとなるように成膜した。AlNについては、放熱特性向上の観点から、できるだけ大きい 膜厚を得ることを目指しところ、RFマグネトロンスパッタリングでは、∼30 nmが限界であった が、図 3.4に示す電子サイクロトロン共鳴(electron cyclotron resonance, ECR)スパッタリングで はAlN膜厚>100 nmが可能なため、この方法で成膜した。具体的には、サンプル表面にN2プラ ズマビームを当てることによりAlNの窒素欠損を防ぎつつ、AlNターゲットにAr-N2プラズマビー ムを当て、スパッタリングすることにより、膜厚30 nmとなるように成膜した。表 3.4に条件を示 す。なお、high-k絶縁体の成膜について、InAs/AlxTiyO/AlN とInAs/AlN/AlxTiyOの可能性が あるが、界面制御の問題からInAs/Al2O3/AlNを採用している。AlN/Al2O3の評価については、付 録 Dで述べる。
表3.2 中間支持体作製プロセス
プロセス 内容詳細
サファイア基板 アセトン2 min, メタノール2 min, DIW 2 min, N2 ブロー
有機洗浄 乾燥 110◦C 5 min
レジスト塗布 LOL-2000 3000 rpm, 30 s 乾燥 110◦C 3 min S1830 4000 rpm, 60 s 乾燥 110◦C 3 min LOL-2000 3000 rpm, 30 s 乾燥 110◦C 3 min OMR-85 4000 rpm, 60 s 乾燥 110◦C 3 min
露光: ∼ 12 mW/cm2 (405 nm), 60 sec
∼3×3 mm2にカット
OH基終端 中間支持体表面 O2プラズマアッシング 30 W, 50 Pa, 2 min
表3.3 粘着シート切離し
プロセス 内容詳細
InAs表面処理 酸化膜除去:
リン酸水溶液 (H3PO4:H2O=3:50) 3 min, DIW 3 min, N2ブロー 中間支持体貼付け 80 ◦C 15 min, 110◦C 10 min
粘着シート切離し シートの糊を110◦Cに保ちつつ、切離す
3.2 InAs/high-k/low-k構造作製 53
Magnet
Extractor electrode Substate
Target AlN Magnet
Extractor electrode
Ar-N2 plasma beam
N2 plasma beam
図3.4 ECRによるAlN成膜プロセス概略
3.2.5 中間支持体切離し
HP で 60 ◦C に 熱 し た レ ジ ス ト 剥 離 液 1165 (Rohm and Haas 社) 中 で 、中 間 支 持 体 か ら InAs/AlxTiyO/AlN を切離した後、1165を 60 ◦C の純水で置換し、表面をO2 プラズマ処理し
た low-k FS (東京応化工業株式会社製ネガ型フォトレジスト OMR-85をコートした PET基板
∼340µm)上にInAs/Al2O3/AlNを(3)と同じで80-110◦Cで加熱し、VWBを行う。プロセスの 詳細は表3.5に示す。また、low-k FSの作製手順については表3.6に示す。裏返して転写するのは、
InAs結晶成長方向の転位分布[44]の観点から、InAs薄層化後に転位密度の少ない逆貼付けが電子 輸送特性に影響を与えるからである。
以上よりInAs/high-k/low-k構造が得られる。
表3.4 AlxTiyO/AlNの成膜条件
プロセス 内容詳細
表面処理 リン酸水溶液(H3PO4:H2O=3:50) 3 min, DIW 3 min, N2ブロー AlxTiyO/AlN成膜 ALD AlxTiyO 50 nm depo. @ 130 ◦C
ECR sputtering AlN 30 nm depo. @<50 ◦C
3.2.6 InAs/low-k 作製
InAs/low-kについてはhigh-k絶縁体成膜を除いたプロセスを行うことにより作製できる [50, 51, 79]。ただし、PETへの貼付ける前に、リン酸水溶液によりInAs表面の酸化膜除去を行う。