第 8 章 ジグザグ型ナノリボンの電子伝導
8.1 ZGNR の電子状態
ジグザグ型のナノグラフェンでは、フェルミ準位近傍に非結合性π軌道が現れることが 予測され、実験的にその存在も明らかにされている[14,86,87]。また、ナノリボンにおいて は、電子間相互作用によりジグザグ端にスピン分極が誘起されることが理論的に予測され
ている[14,84,85]。TB モデルによると、ジグザグ型ナノリボンは金属的性質があるとされ
るが、アームチェア型ナノリボンとは異なるこのようなスピン物性、磁気的性質からスピ ントロニクスデバイスへの応用も期待され、電子物性の解明や制御が重要である。
ここではまず、ドーピングの対象となる6-ZGNR について、その電子構造およびゼロバ イアス下における電子輸送特性を示す。
8. 1. 1 モデルと計算方法
ジグザグ型ナノリボンには、Figure 4. 1(b)に示すような6-ZGNRを計算に用いた。スー パーセルのナノリボンを形成する炭素原子は192個で、z軸方向に16個のユニットセルで 構成されている。エッジの炭素原子は水素終端している。アームチェア型ナノリボンと同 様に、周期的境界条件の下で、x軸方向とy軸方向について、ナノリボン間は真空領域で分 離される。また、ジグザグ型ナノリボンは、エッジ両端でのスピン分極が指摘されている ため、DFT 計算の諸条件は、アームチェア型ナノリボンのときと同じだが、ここではスピ
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ン分極の効果も考慮して、2つのスピン(以下、アップスピンとダウンスピン)それぞれに ついて電子状態の計算を行っている[162]。
8. 1. 2 電子状態
系全体に、電子が分布していたアームチェア型ナノリボンに対し、ジグザグ型ナノリボ ンでは、先行研究によって予測されたように、ジグザグ端の両側に電子が局在するエッジ 状態が見られた。Figure 8. 1に、DFT計算においてスピン分極を考慮した場合と、考慮し ない場合のそれぞれについて、バンド構造と電子密度分布を示した。スピン分極を考慮せ
Figure 8. 1: 6-ZGNRのバンド構造。スピン偏極を考慮しない場合における(a)バンド構造と、
(b)Γ点における伝導帯最低準位(上)とフェルミ準位(下)の電子密度。スピン偏極を考慮 した(c)バンド構造と、(d)Γ点におけ)伝導帯最低準位のアップスピン(上)と)価電子帯最高 準位のダウンスピン(下)の電子密度。
(a)
(c)
(b)
(d)
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ずに電子状態の計算を行った結果、フェルミ準位にフラットバンドが現れることが確認で きた(Figure 8. 1(a))。これはTB近似が示す結果とも一致しており[14,17,72]、フェルミ 準位の波動関数からも、電子がジグザグ端に局在している様子が分かる(Figure 8. 1(b))。 一方で、スピン分極を考慮に入れてバンド計算をすると、アップスピンとダウンスピンの それぞれに対して電子状態が計算されるため、バンド構造にも 2 つの状態が反映される
(Figure 8. 1(c))。この場合、フェルミ準位にフラットバンドは存在しないが、電子密度分
布からは、フェルミ準位付近で、エッジに電子が局在する状態が存在することが分かり、
先行研究が示すスピン分極下での電子状態の計算結果[133]とも一致する。Figure 8. 1(d)は、
Γ点のフェルミ準位直上と直下における波動関数を示しているが、リボン上端にダウンスピ ン、リボン下端にアップスピンの状態が、それぞれ多く分布していることが分かる。リボ ン両端では、電子のスピンの向きは互いに反平行であるが、構造緩和によってナノリボン
Figure 8. 2: スピン分極を(a)考慮しない計算と、考慮した計算による、6-ZGNRの(b)アップ スピンと(c)ダウンスピンの透過関数と状態密度。
(a)
(b) (c)
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の構造の対称性が崩れているため、2つのスピンが完全に分かれての局在はしていない。
8. 1. 3 電子輸送特性
次に、NEGF 法による伝導計算を行う。ここでも電極には、中心部分と同じ幅を持った 半無限長のジグザグ型ナノリボンを用いている。散乱のない完全結晶のナノリボンを考え ると、アームチェア型ナノリボンと同じくコンダクタンスの量子化が見られ、フェルミ準
位から1.4eV高いまたは低いエネルギーで、透過関数が増加し、状態密度にファン・ホーブ
特異点が見られる(Figure 8. 2)。また、スピン分極を考慮しない透過関数からは、フェル ミ準位近傍で透過関数が有限の値を持ち、ZGNR に金属的性質があることが示された。状 態密度より、フェルミ準位において鋭いピークを持つなど、TBモデルが示す結果とも定性 的に一致した。
一方、スピン分極の効果を取り入れた計算では、フェルミ準位においても透過関数が有 限の値を持ち、金属的性質があることが分かるが、状態密度のフラットバンドに起因する ピークは消失し、フェルミ準位よりも低い(高い)エネルギーで、アップ(ダウン)スピ ンについて、DOS のピークが現れる。また、透過関数は量子化されているが、フェルミ準 位付近のDOSのピーク位置では、透過関数が増加している。なお、量子化された透過関数 の1量子単位当たりの大きさは、スピン自由度に由来する。
これまでに示した結果は、先行研究の報告とも一致しており[14,72,133]、これ以降の計 算も、同様のパラメーターとモデルを用いることとする。