第 4 章 経営者の自信過剰と資金調達行動:経営者の非合理性が経営者行動に与える
4.5 まとめ
は,全ての変数の中で最も大きいものである.すなわち,経済的有意性の観点からは経 営者予想バイアスは,従来の理論が資金調達手段に対して影響を持つと提示する様々な 要因に比べて,公募増資の意思決定に関して最も強いインパクトをもつことをこの結果 は示している.また,他の資金調達手段に関しても,経営者予想バイアスは強いインパ クトを持っていることが分かる.これらの結果は,企業の資金調達行動を考える上で,
経営者の非合理性に起因する要因を考えることの重要性を強く示すものである.
4.4.6 頑健性の検証
本節では,これまでの実証結果の頑健性を確認するためにモデルにいくつかの変更・
修正を加えた検証を行う.一つ目の変更は,被説明変数から転換社債に関するサンプル を除くことである.個々までの分析では,転換社債を社債として扱ってきたが,転換社 債には株式としての特性も有するため,推定に影響を持っている可能性がある.次に観 測不可能な不均一性をコントロールするために,ランダム効果を考慮した分析を行う.
そして,経営者の自信過剰指標に関しても4.3.2節で計測した他の2つの指標を用いた分 析も行う.推定モデルは表4と同様の多項ロジット・モデルを用いる.
表6はこれらの結果の頑健性検証分析の結果を,経営者の自信過剰指標についてのみ 取り上げたものである.この表から分かるようにいずれのケースにおいても自信過剰な 経営者は,他の全ての資金調達手段に比べて公募株式を好まないという結果が有意に得 られている.したがって,本分析の結果は,非常に頑健なものだといえる.
選択行動との間の関係について多項ロジット・モデルを用いた推定を行った.分析の結 果,経営者には実際の収益よりも高い予想を行う傾向が安定的に観察された.そして,
その自信過剰の傾向が1標準偏差増加した場合,企業が公募増資選択を行う確率が4.7% 減少するという結果が得られた.この効果は企業の資金調達行動に与える他の要因に比 べ最もインパクトが大きいものであった.また,この傾向は,自信過剰指標の計測方法 の変更を行っても頑健に観察された.
本章の分析からも分かるように,経営者の非合理的なバイアスが経営者行動に実際に 強い影響を持っていると思われる.このことは,子^歩レート・ガバナンスの問題がよ り複雑なものとなることを意味している.ただし,経営者の非合理性は常に株主価値を 毀損する結果を招くとかというと,必ずしもそうでないことは第2章の議論でも指摘さ れている.本章の分析も自信過剰バイアスの経営者行動への強い影響力は確認されてい るが,企業価値との関係については検証されていない点には注意が必要である.
図表
表1 記述統計:証券発行
表2 記述統計:経営者予想バイアス
表3 記述統計:説明変数
表4 多項ロジット・モデル
表5 経済的有意性
表6 頑健性