本章では、欧米における調査結果のまとめをするとともに、調査結果をふまえて、
今後の健康食品の安全性評価の上での課題について言及する。
4.1 まとめ
(1)食品成分を中心とした安全性評価
日本の特定保健用食品においては、個別製品ごとにケースバイケースに構成成 分や食経験の観点から安全性評価が行われている。「いわゆる健康食品」について は、特段の安全性評価はなされていない。ただし、平成 17(2005)年、「健康食 品」に係る制度の見直しに際し、同年2月 1 日の厚生労働省医薬食品局食品安全 部長通知『「錠剤、カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的な考え方について」
及び「錠剤、カプセル状等食品の原材料の安全性に関する自主点検ガイドライン」
について』の別添2において、これらの食品の事業者の責務として、自主的な安 全性確保の考え方が示されている。他方、欧米では、サプリメントや新規食品
(Novel Food)などにおいては食品の「成分」に関する安全性評価が制度化され、
実施されている。このような欧米の食品成分を中心とした安全性評価は、基本的 には、食品添加物の評価の歴史的な流れの延長線上にある。
(2)欧米における健康食品安全性評価項目
わが国の特定保健用食品の安全性評価項目は、食経験、in vitroおよび動物を用
いたin vivo試験等、ヒト試験、その他(製造/加工方法、許容量の設定など)な
どである。
米国 FDA の届出 GRAS においては、主な使用条件(使用レベル、使用目的、
主な使用対象)、GRASと判断した理由(科学的データの検証・引用、議論、方法、
原理、食経験)、申請成分の詳細情報(化学式、製造方法、ヒト毒性など)、使用 限度の情報などを記載することが求められている。
欧州の場合は、毒性試験、ヒト試験、食経験、新製品の推定・推奨摂取量、原 材料の安全性、栄養評価などが評価項目に上げられる。
いずれにせよ、健康食品を含め、新食品或いは新規の食品成分の安全性評価に ついては、食経験、製造(加工)方法、食品(成分)の推定摂取量等を基に、毒 性試験、ヒト試験、栄養評価の結果等から原材料の安全性が評価されている。こ れらは欧米ならびに日本にも共通の評価項目であり、国際間において、基本的な 評価項目に大きな差異はない。
(3)規制評価機関のパネルメンバー構成
英国FSAの評価委員会構成メンバーには、毒性学、薬学、医学、生物科学など の自然科学系専門家の他に、社会学や経済学などの社会科学系の専門家も含まれ る。科学者のほかに安全性評価は、評価委員会メンバーのディスカッションに基 づき最終判断が下されている。
米国FDAのQualified Health Claimの場合の評価者は、科学者と法律関係が 半々で構成されている。
(4)米国における安全性評価制度
食品やサプリメントに用いられる成分として、食品添加物の安全性は科学的に証明 されることが要件だが、その後、「一般的に安全と認識される」といういわゆるGRA Sという概念が加わった。更に、ダイエタリーサプリメントの制度化されたことに伴 って、ダイエタリーサプリメントにのみ適応される新規サプリメント成分(NDI)
についての安全性評価の制度がつくられた。
従って、ダイエタリーサプリメント等健康食品成分の安全性評価として、GRAS の制度による場合と、NDIの制度による場合があることになるが、GRASの場合 は、FDA自身の評価による申請GRASは、事実上、現在はなくなり、任意の制度 が導入され、届出GRASか、事業者による自主的な安全性評価手法としての自己認 証GRASの2種類となっている。これらはどちらもFDAが安全性の「お墨付き」を 与えたものではないことを理解すべきである。
米国における安全性評価の基本的な考え方は、事業者の自己申告・自己責任が原則 である。
(5)EUにおける安全性評価
EU 法と各国法制度との複合的な制度体系の中で、健康食品の規制は実施されてい る。
健康食品の安全評価のガイドラインはEU法の新規食品(Novel Food)枠組みの中 で規定されている。EU 法に規定されていない場合には、各国それぞれの法体系の中 で規定される。
今回、現地調査を行った英国では、EU 法のもと新規食品の安全性評価を実施して いるが、他の安全性評価プログラムは存在しない。他の欧州諸国のほとんどがフード サプリメントに関して届け出を企業に対して義務づけているが、英国は届け出を義務 づけていない。
4.2 今後の課題
今回の先進国における健康食品の安全性評価に関する実態調査結果から、今後、我 が国にとっても必要と思われる課題をまとめる。
(1)いわゆる健康食品の安全性評価制度について
わが国において「いわゆる健康食品」は、事前の安全性評価の義務づけられてはい ない。海外からの輸入や通信販売およびそれに関連したトラブルの増加などを考慮し て、今後、なんらかの安全性評価制度(自己申告も含め)の導入の可能性を検討すべ きである。
(2)健康強調表示に関わる製品の安全性評価
国際的に「健康強調表示」に対するニーズは高い。今後、増加すると思われる 新規成分や新たな表示項目の導入に伴い、新規成分の安全性評価や過剰摂取につ いて安全性評価が必要である。また、本来、特定保健用食品をはじめこういった 食品は、病者、疾病を対象とはしていないが、現実問題としては病者が様々な理 由から摂取していることが示され、多くの問題点はここに内在していると考えら れる。
(3)アジア諸国からの健康食品の安全性評価
中国・韓国・台湾をはじめとするアジア諸国からのいわゆる健康食品の輸入(特 に通信販売など)が増加するにつれ、医薬品成分や有害成分の含有・摂取に伴う 被害も出てきている。欧米諸国の安全性評価調査だけでなく、アジア諸国を対象 とした安全性評価実態の調査実施および迅速な危害情報収集・伝達体制の確立が 望まれる。
(4)安全性評価の社会文化要因の研究
健康食品の安全性の問題は、最終的には「食品の安全性」をどのように考えるかの 問題に至る。食品の安全性の科学的な証明がなされたとしても、それはあくまでも利 用可能な研究結果に基づき、且つ、一定の使用条件のもとでの安全性であり、消費者 が考える、期待する(求める)「絶対安全」とはかなりの乖離があることも少なくない。
「食品の安全性」の評価に関しては、各国の食文化の違い、規制の背景となる法体系 とその理念、さらには風土や国民性といった社会文化要因に関する基礎的研究が必要 である。