現在,ホームネットワークを利用した様々なサービスが実現されつつある.サービスの 実現には,サービス提供者,中間サービス事業者,ホームゲートウェイの3つの要素で構 成されたシステムを利用している.これらの要素で構成されたシステムを本研究ではSI モデルと定義した.SIモデル上の各要素で単数あるいは複数のタスクを実行することに よりサービスを実現可能であるが,要素の持つ資源は要素毎に異なるためタスクの実行に より資源の不足が発生する可能性がある.このため本研究では,要素の持つ資源と実行さ れるタスクの性質を基にして,タスクの配置先決定手法を提案した.提案手法を評価する ため,実際のホームネットワークを利用したサービスを模倣したシミュレーションによる 評価実験を行った.また,現在考案されている様々なホームネットワークを利用したサー ビスを調査し,提案手法が一般的なサービスへ適用可能であるか検証した.
本論文では,SIモデルが登場する背景について説明し,SIモデルの必要性について説 明した.そして,SIモデル上の要素で必要となる内部構成を提案し,ホームネットワー クを利用したサービスがSIモデル上でどのように実現されるかについて説明した.また,
タスク配置手法としてオペレーティングシステムで利用されている一般的な手法を調査 し,本研究との関連性について調査を行った.また,負荷に対する問題を解決するために 負荷分散に関する関連研究の調査を行い,負荷分散装置で利用されている負荷分散技術 について調査した.負荷分散装置で利用されている手法を参考とし,資源を考慮して算出 される適性スコアを利用したタスク配置手法を提案した.監視する資源について定義し,
適性スコアを導出するために必要となるパラメータについて定義した.
提案した適性スコアによるタスク配置手法の有効性を評価するため,PCを利用したシ ミュレーションによる評価実験を行った.実験結果より,適性スコアはタスクの配置先と しての適性を定量的に示すことが可能であることが判明した.適性スコアを利用すること で負荷を考慮したタスクの配置先を決定することが可能であり,提案手法の有効性を確認 できた.また,サービスの実行時間を比較した場合では,適性スコアによって選択された 要素の方が選択しない要素の実行時間より大きくなる場合がある.これは提案手法におい て資源の負荷については考慮していたが,実行時間については考慮していないことが原因 である.よって提案手法では,資源に加えてサービスの実行時間についても考慮すること で,より有効性の高い手法となると考えられる.
本研究で提案するタスクの配置先決定手法を利用することで,SIモデル上の構成要素 において資源不足が発生する可能性を軽減し資源を有効に活用することが可能になる.
今後の課題として,タスクの所要時間を考慮した場合やタスクのプリエンプションや動
的なタスクの移送を考慮した場合,タスクのデッドラインを考慮した場合の手法を考案す ることが挙げられる.また,実サービスの動作する環境で提案手法を実験することで実世 界での有効性を検証することも挙げられる.また提案手法によって資源を考慮してタスク を配置した場合と,資源を考慮せずにタスクを配置した場合の比較を行い,ホームネット ワークを利用したサービスの実行に影響が出るか調査することが挙げられる.
謝辞
本論文の執筆につきまして,研究に対する御指導を賜りました丹康雄教授に心から深く 感謝すると共に,ここに御礼申し上げます.適切なご助言を頂きましたLim Azman Osman 准教授に深く感謝致します.
また,貴重なご助言やご意見を頂いた中田潤也氏,岡田崇氏,金準修氏,Marios Sioutis 氏には深く感謝の言葉を申し上げます.
最後に,学業や学生生活において苦楽を共にした友人達と,学生生活を最後まで支えて くれた両親に深く感謝致します.
参考文献
[1] A.S.タネンバウム(著),水野忠則(翻訳). 分散オペレーティングシステム. ピアソン・
エデュケーション, 2003.
[2] A.S.タネンバウム(著), 千輝順子(翻訳). オペレーティングシステム. プレンティス ホール, 1998.
[3] F5 Networks Inc. Overview of Dynamic Ratio load balancing.
https://support.f5.com/kb/en-us/solutions/public/9000/100/sol9125.html, 20100129.
[4] ITU-T Recommendation J.190. Architecture of MediaHomeNet that supports cable-based services, 2002.
[5] OSGi Alliance. OSGi Alliance. http://www.osgi.org/, 20100201.
[6] Thomas Decker. Dynamic load balancing and scheduling. http://www2.cs.uni-paderborn.de/cs/ag-monien/RESEARCH/LOADBAL/, 20100129.
[7] 塩谷康夫,太田学,片山薫, 石川博. P2Pによる転送遅延を考慮した静的負荷分散方式 . 信学技報. 社団法人電子情報通信学会, 20050301.
[8] 今井智大. ホームネットワークサービスアーキテクチャにおける障害検出・回復モデ ルに関する研究. Master’s thesis,北陸先端科学技術大学院大学, 2009.
[9] 今井智大,岡田崇, 中田潤也, 丹康雄. ホームネットワークにおける障害検知・回復を 考慮したサービス提供モデル(セッション1:慶應義塾大学). 情報処理学会研究報告.
UBI, [ユビキタスコンピューティングシステム], Vol. 2009, No. 17, pp. 1–8, 20090225.
[10] 西村健治, 上野仁,山本幹,池田博昌. ネットワーク遅延を考慮した動的負荷分散方式.
電子情報通信学会論文誌. B, 通信, Vol. 82, No. 10, pp. 1763–1772, 19991025.
[11] 沢野泰淳, 張勇兵, 高木英明. 移動エージェントを用いたネットワーク負荷分散シス テムの構築とその評価. 電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-情報処理, Vol. 84, No. 9, pp. 1450–1453, 20010901.