本研究では、ID 初学者でも、簡単にブレンド型学習をデザインできるよう提唱された ID モデル、OPTIMAL モデル(鄭ら 2008)にはチェックリストのような支援ツールがないこ とから、もし、支援ツールがあれば、このモデルはさらに初学者にとって使いやすいモデ ルになるのではないかと考え、OPTIMAL モデル用チェックリストを開発した。
開発にあたっては、今まで実践報告のない OPTIMAL モデルに従って、ID 初学者である自 らがブレンド型学習教材を作成し、その有効性や効率性を確認した。一方で、鄭ら(2008)
の情報だけでは初心者には十分に理解し、実践することは難しいことが分かった。たとえ ば、OPTIMAL モデルはタスク型モデルであり、手順型モデルと異なり、「使用者が自由にど のタスクからでも実行できるように支援していきます(鄭ら 2008)。」とあるが、マイクロ デザインや LMS 統合を行ってから、マクロデザイン、特に、学習目標設定を行うのではや り直しが困難である。そのため、実際に教材を作成する前に、企画書を作成することで、
どのような教材を作るのかを明確にしたほうがよいのではないかと考え、鈴木(2002)を 参考に、ブレンド型用教材企画書を作成し、チェックリストを使用するにあたっても、ま ず始めに企画書を記入してもらうようにした。
チェックリストは OPTIMAL モデルのポイントをまとめるだけではなく、自らがブレンド 型学習教材を作成、評価し、たとえば、その教材が e ラーニングである必要があるかどう かを検討するしたほうがよいのではないかなど、その過程で気づいたこともチェックリス トに盛り込んだ。チェックリストは OPTIMAL モデルの 7 つのタスクに対忚した構成とし、
タスクごとにチェックすることができるようにし、簡単にこたえられるように質問形式を 使用した。また、OPTIMAL モデルでは従来の ID モデルに比べ、利用者を考え簡略化されて いるのを反映し、簡便になっている。特に ID 初学者向けの活用促進を目指し、チェックリ ストには用語解説をつけ、具体例も示すようにし、ID 初学者にもわかりやすいものになる よう心がけた。
作成したチェックリストは、教材の作成経験はあるものの、e ラーニングや ID の知識が ほとんどない 5 人の麻酔科の教員に形成的評価を行ってもらった。今回、評価は、実際に 初学者が e ラーニングを開発する過程で使用するのではなく、形成評価のためにあらかじ め用意した、OPTIMAL モデルに従って作成した理想的な e ラーニング教材と欠陥のある e ラーニング教材の企画書とその資料を見て、チェックリストに記入することで評価しても らった。
91
1 対 1 評価によって、専門用語は用語解説を加えても、ID の知識がない人には難しく感 じられてしまうこと。用語解説だけでは理解するのに時間がかかり、チェックリストへの 記入に時間要するだけではなく、そのために難しいと感じてしまうことが分かった。その ため、予定では最初の被験者で 1 対 1 評価を行ったあと、改善したチェックリストを用い て、他の4人に対して小集団評価を行う予定であったが、予定を変更し、残りの4人の被 験者に対して、1 対 1 評価を複数回繰り返すことで、チェックリストの完成度を高めるこ とに注力した。
本研究では、5 人の被験者に対して、1 対 1 評価を繰り返し、専門用語はなるべく使わな い、具体例を多く示すなどの改善を加えることで、ID の知識がない人でも使用できるチェ ックリストを作成することができた。また、チェックリストに記入することで,教材にな にが重要なのかが分かったとの意見や、5 人の評価者のうち 4 人からチェックリストは教 材の作成に有用であると思われるとの解答を得ることができた。
チェックリストは本来、教材作成時に使用することを念頭に作成したが、今回、教材の 開発時に使用するのではなく、既存の教材の教材企画書と資料をもとに形成的評価をして もらった。そのため、実際に自分で作成しないと分からない、評価できない箇所があると の指摘があった。一方、自分で使うよりも、他の人に評価してもらった方が教材の欠点が 分かってよいのではないかとの意見もあり、このチェックリストが教材開発時だけではな く、既存の教材の評価,改善に活用できる可能性が示唆された。
次の課題として、今回,改善したチェックリストを用いて小集団評価を行い、チェック リストが実運用レベル段階にあることを検証することが挙げられる。小集団評価には今回 使用したものと同じ、教材を利用する予定である。
さらに、その次のステップとして小集団評価を踏まえチェックリストの改善を行い、そ の改善したチェックリストを用いて、実際に e ラーニングの開発経験のない被験者に e ラ ーニング教材を作成する過程で使用してもらい、評価を行う。3-2 で述べたように麻酔科 臨床実習のクルズスは 13 コマある。今後、随時、クルズスの e ラーニングを行い、その過 程で今回作成したチェックリストを使用してもらい、さらなる検討、改善を加えることで、
より実践に役立つツールとし、そして、実際に ID の知識のない人が教材を作成する際にも 役立つチェックリストとして、公開することを目指したい。
また、開発した教材については、教材評価については多くの企業内教育で評価ではカー クパトリックの 4 段階評価モデル(図表 5 参照)のレベル 1、レベル 2 の評価で終わって
92
いるが、レベル 1、レベル 2 の評価をした上で、運用後 1 年後を目安に、麻酔科の教官お よびレジデントにアンケート調査を行い、レベル 3 の評価を行いたいと考えている。それ により、麻酔科学生実習教育に e ラーニングを取り入れた教育効果が明らかにすることで、
他科や、他施設での導入の検討の参考になると考えている。
図表 5 カークパトリックの 4 段階評価モデル
レベル 1 Reaction 反忚 学習者の反忚をつかむ
レベル 2 Learning 学習 知識やスキルの習得状況を測る レベル 3 Behavior 行動 業務への活用の度合いを把握する レベル 4 Results 業績 業績への貢献度を求める
93
参考文献および参考図書
Dick W and Carey L (1978) The Systematic Design of Instruction.Scoot, Foresman and Company.
Guy Boulet, MA. Rapid prototyping: an efficient way to collaboratively design and develop e-learning content.
http://www.guyboulet.net/pages/docs/Rapid-prototyping.pdf
濱岡美郎(2008) Moodle を使って授業する!-なるほど簡単マニュアル. 海文堂, 東京 井上博樹・奥村晴彦・中田平(2006) Moodle 入門-オープンソースで構築する e ラーニン グシステム. 海文堂, 東京
メディア教育開発センター(2007) e ラーニング等の ICT を活用した教育に関する調査 報告書. http://www.code.ouj.ac.jp/wp-content/uploads/eLearning2007-jp.pdf Moodle-A Free, Open Source Course Management System for Online Learning.
http://moodle.org/
根本淳子,鈴木克明 (2005) ゴールベースシナリオ(GBS)理論の適忚度チェックリストの 開発. 日本教育工学会論文誌 29(3): 309-318
日本イーラーニングコンソシアム(2008) e ラーニング白書 2008/2009 年版. 東京電気 大学出版局, 東京
鈴木克明 (1995)放送利用からの教育デザイナー入門.日本放送教育協会.東京 鈴木克明 (2002) 教材設計マニュアル―独学を支援
するために―.北大路書房,京都
鈴木克明(2004)「e ラーニングファンダメンタルテキスト」
鄭仁星・久保田賢一・鈴木克明 (2008) 最適モデルによるインストラクショナルデザイン.
東京電気大学出版局, 東京
94
謝辞
本稿作成にあたり、詳細なコメントと洞察に富む助言を与えて頂いた指導教官の根本淳子 助教に深く感謝いたします。また、副指導教官である喜多敏博教授、鈴木克明教授からも、
丁寧かつ熱心なご指導を賜りました。ここに感謝の意を表します。
95
付録
付録1.ブレンド型用教材企画書
96 付録2.OPTIMALモデルチェックリスト
<OPTIMAL モデルチェックリスト>
このチェックリストは OPTIMAL モデルにしたがって、e ラーニングを開発する人が、自 分の教材に何が不足しているのかを明らかにするためのものです。
以下の項目に対して、あてはまるものに○をつけ、( )に記入してみましょう。
なお、MM は May or May not:どちらでもないの略です。
<マクロデザイン>
タスク 1 Objectives:学習目標
■教材のタイトル・内容
目標は具体的にかかれている Yes MM No
評価の条件は示されているか Yes MM No
合格の基準は書かれているか Yes MM No
※目標は○○について分かるではなく、○○について説明できるなど、行動として示すほ うが具体的である。
※評価の条件 例えばレポートが 3 割、出席点が 5 割、テストが 2 割など
※合格の基準 例えば小テストは 60 点以上、レポートが 40 点満点の 20 点以上で合格など
■教材の対象者
学習の順番は学習者にまかせるか Yes MM No
学習者支援は十分か Yes MM No
※学習者支援:FAQ や質問用掲示板、チューターによるメールなどの学習者を支援する方 法
■e ラーニングの必要性
e ラーニングにする必要があるか Yes MM No e ラーニングにすることでより効果的に学習できるか Yes MM No
タスク 2 Prototyping:プロトタイピング
※プロトタイプとは e ラーニングの試作品のこと。
■学習コースの位置づけ
e ラーニングと集合研修(実習や対面授業など)の位置づけについて当てはまるものに丸