3290 3291 3292
サ マリー 3293
高齢や合併症などの理由により即時療法を行わず経過をフォローする方法が待機療法であり,監視療法とは区 3294
別される。待機療法では即時根治療法と比較して,転移および死亡リスクは上昇すると考えられる。
3295 3296 3297 3298 解 説
高齢や合併症などの理由により即時療法を行わず,転移による疼痛や血尿,下部尿路通過障害などの症状が 3299
出現してはじめて緩和的に治療を行う方法が,狭義の待機療法といわれるものである。そのため,これは根治を 3300
目指すものではない。症状出現後に行われる治療法は主にホルモン療法であるため,待機遅延内分泌療法と呼 3301
ばれることもある。
3302
待機療法のアウトカムに関しては,根治を目指すものではないため,その転移および死亡リスクは,当然ながら 3303
根治療法を施行したものより高くなると考えられる。実臨床において待機療法を選択する場合とは,高齢のため,
3304
あるいは合併症等で即時の治療が施行できない場合に限られている。そのため,本当の意味での無作為化比較 3305
対照試験(randomized controlled trial; RCT)を組むことは不可能である。
3306
223例の限局性前立腺癌を32年間フォローし,自然史をみた北欧の報告がある1)。これによると,悪性度の低 3307
い前立腺癌では,15〜20 年間で前立腺癌死はほとんどないが,その後は進展や転移が出現し,また前立腺癌 3308
死亡が増加することが示されている。
3309
7,000例近くの限局性前立腺癌(Gleason score[GS] 7以下,PSA 20 ng/mL未満)を対象とした,待機療法(い 3310
わゆる監視療法も含む)と手術,放射線療法を比較した北欧のコホート研究がある2)。10年の前立腺癌累積死亡 3311
率は,待機療法群で3.6%,根治療法群で2.7%であったとしている。低リスク癌に限ると,それぞれ2.4%と0.7%で 3312
あったとしている。ただしこれは前向き研究ではなく,待機療法群では他因死が多いなど,背景因子にバイアスが 3313
あることに十分注意する必要がある。
3314
手術と待機療法についての大規模な前向き研究として,北欧で 1989 年に開始された Scandinavian Prostate 3315
Cancer Group Study Number-4(SPCG-4)がある 3)。手術群(347 例),待機療法群(348 例)の予後を比較した 3316
RCTである。23.2年の観察期間で,手術群の63例,待機療法群の99例が癌死した(relative risk[RR]:0.56)。
3317
このRCTによって,手術による前立腺癌死亡減少効果は65歳未満で顕著であることがわかった(RR:0.45)。一 3318
方,高齢者においても,手術は転移発生率を有意に減少させることもわかった(RR:0.68,p=0.04)。
3319
米 国 で は , 限 局 性 前 立 腺 癌 に 対 し て 手 術 と 待 機 療 法 の 予 後 を 比 較 し た RCT で あ る Prostate Cancer 3320
Intervention versus Observation Trial(PIVOT)が行われた4)。この試験では,手術群と待機療法群では全生存割 3321
合の差はなかったが,PSAが10 ng/mL以上の群では手術群の生存割合が高かった。
3322
このように待機療法と根治療法とのアウトカム比較は難しい。対象患者にもよるが,ある程度悪性度が高い群で 3323
は,待機療法では転移発生率や死亡率が上昇するものと推測される。
3324 3325 3326
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107 参 考 文 献
3327 3328
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4) Wilt TJ, Brawer MK, Jones KM, et al. Radical prostatectomy versus observation for localized prostate cancer.
3335
N Engl J Med. 2012; 367: 203-13. ( ) 3336
3337
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108
CQ30 監視療法・待機療法実施による QOL 障害にはどのようなものがあるのか?
3338 3339 3340
サ マリー 3341
監視療法においては比較的長期間にわたって全般的な生活の質(quality of life;QOL)の障害はほとんどないこ 3342
とがわかっている。ただし,癌と診断されたにもかかわらず無治療であることの不安感や,加齢や前立腺肥大症の 3343
進行による経時的な下部尿路症状の悪化,性機能障害の可能性があるため,長期にわたる詳細な評価が必要 3344
である。
3345 3346 3347 3348 解 説
根治療法を行わない監視療法では,手術や放射線療法などの根治治療自体による生活の質(quality of life; 3349
QOL)障害は発生しない。しかし,精神面の不安や排尿障害などの可能性があるため,長期的な QOL 障害の有 3350
無について検討した。
3351
本邦の監視療法に関する前向きの試験での Medical Outcomes Study(MOS)Short-Form 36-Item Health 3352
Survey(SF-36)を用いたQOL評価では,監視療法の開始後1年では,一般健康関連QOLの障害は認められな
3353
か っ た 1)。 さ ら に , 欧 州 を 中 心 に 世 界 的 に 展 開 さ れ て い る Prostate cancer Research International Active 3354
Surveillance(PRIAS)での短期報告でも,一般健康関連QOLは国民標準値より高いレベルを維持していることが
3355
示されている2)。さらに,監視療法開始から9カ月までの不安や気分の落ち込みは,低いレベルに抑えられてお 3356
り,増大していないことも示されている 3)。ただし,神経質な性格と抑鬱の関連が示されており 4),このような点に 3357
も注意を払う必要がある。
3358
比較的長期の報告でも,監視療法中のQOLは非担癌者と同一だったとする報告5)や,全般的なQOL障害は 3359
なかったとする報告が多い6)。ただし,性機能は経時的に低下し,さらに先行きが不安なことなどが,病勢進行へ 3360
の恐れと相関していることも示されている。
3361
北欧での前立腺全摘除術と待機療法の大規模な無作為化比較対照試験(randomized controlled trial;RCT)
3362
であるScandinavian Prostatic Cancer Group Study Number 4(SPCG-4)におけるサブ解析として,QOLに及ぼす 3363
影響ついて報告されている7)。待機療法群では,長期になるほど頻尿や尿勢低下などによる排尿症状にもとづく 3364
QOL 低下を示す患者の割合が,増加することが示されている。さらに,経時的に精神的苦痛によると考えられる 3365
勃起不全の割合も,増加してくると報告されている 8)。また同試験で,待機療法群ではホルモン療法を受ける患 3366
者の割合が経時的に増加することがわかった9)。そのため,待機療法群においてはホルモン療法によるQOL障 3367
害も考慮しなくてはならない。
3368
監視療法中の QOL 低下に影響する因子を検討した報告では10),パートナーがいないこと,メンタルヘルスが 3369
不良なこと,診断されたのが最近であること,診断時のサンプルコア数が少ないことなどが,QOL が低くなる要因 3370
であったとしている。監視療法を選択する際には,このようなQOLに関する情報も提示する必要がある。
3371 3372 3373 3374
参 考 文 献 3375
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109 3376
1) Kakehi Y, Kamoto T, Shiraishi T, et al. Prospective evaluation of selection criteria for active surveillance in 3377
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6) Parker PA, Davis JW, Latini DM, et al. Relationship between illness uncertainty, anxiety, fear of progression 3387
and quality of life in men with favourable-risk prostate cancer undergoing active surveillance. BJU Int. 2016;
3388
117: 469-77. (III) 3389
7) Johansson E, Steineck G, Holmberg L, et al. Long-term quality-of-life outcomes after radical prostatectomy or 3390
watchful waiting: The Scandinavian Prostate Cancer Group-4 randomised trial. Lancet Oncol. 2011; 12: 891-9.
3391
(II) 3392
8) Bill-Axelson A, Garmo H, Holmberg L, et al. Long-term distress after radical prostatectomy versus watchful 3393
waiting in prostate cancer: A longitudinal study from the Scandinavian Prostate Cancer Group-4 randomized 3394
clinical trial. Eur Urol. 2013; 64: 920-8. (II) 3395
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cancer. N Engl J Med. 2014; 370: 932–42. (II) 3397
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cancer during active surveillance. Eur Urol. 2013; 64: 30-6. (III) 3399
3400
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110
CQ31 手術療法・放射線療法により過剰治療になる可能性が高い症例の特徴は?
3401 3402 3403
サ マリー 3404
臨床病期 ≤T2,PSA ≤10 ng/ml,Gleason score(GS) ≤6,陽性コア数 ≤2本(ターゲット生検または飽和生検の場 3405
合はこの限りではない),PSA density(PSAD)<0.15〜0.2 ng/mL/mLを全て満たすような症例では,手術療法ある 3406
いは放射線療法が過剰治療となる可能性が高く,監視療法の対象となる。さらに,近年,監視療法の適応は中間 3407
リスクの一部まで拡大される傾向にある。一方,期待余命が10年未満の中間リスク症例では,手術療法は過剰治 3408
療となる可能性が高く,待機療法あるいは放射線療法が推奨される。
3409 3410 3411 3412 解 説
手術療法と放射線療法は,ともに標準的な根治療法として位置づけられている。National Comprehensive Cancer 3413
Network(NCCN)の前立腺癌ガイドラインでは,期待余命とリスク分類によってこれらの根治療法が,どのような症
3414
例に適応となるかが示されている1)。手術療法もしくは放射線療法による根治療法が,ともに初期治療として過剰 3415
治療となる可能性があるのは,監視療法あるいは待機療法が選択できる場合である2)。 3416
近年の前向き研究3-6)から,監視療法の適応基準が集約しつつあり,日本泌尿器科学会の前立腺癌診療ガ 3417
イドライン2016年版では,臨床病期 ≤T2,PSA ≤10 ng/mL,Gleason score(GS)≤6,陽性コア数 ≤2本,PSA 3418
density(PSAD)<0.15-0.2 ng/mL/mLを全て満たすような症例が適応とされている7)。また,これまでのProstate 3419
Cancer Intervention versus Observation Trial(PIVOT)研究8)や,スウェーデンで行われた大規模なレジストリー 3420
研究9)の結果を踏まえ,Cancer Care Ontario(CCO)グループの作成したガイドラインでは,低リスクだけでなく,
3421
GSが3+4であっても,腫瘍体積が少ない中間リスクでは,監視療法の適応とされている10)。さらに,米国臨床腫 3422
瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)が,このガイドラインを支持する考えを示した11)。
3423
初期治療として監視療法が適応となる,生命予後への影響が少ない前立腺癌に対する手術療法や放射線療 3424
法は,治療後の合併症や生活の質(quality of life;QOL)低下のリスクを考慮すると,過剰治療となる可能性があ 3425
るだけでなく12),医療経済的にもマイナスとなることが示唆されている13)。Sanyalらは,費用分析効果に関するメ 3426
タアナリシスの結果,低リスクに限ると,監視療法の質調整生存年(Quality-adjusted life year;QALY)は12.5で,
3427
他の治療法(手術:11.4,永久挿入密封小線源療法:10.7,外照射療法:10.7)と比べて,有意に良好であることを 3428
報告している14)。しかし,その適応基準が定まっていなかったこともあり,監視療法の適応と考えられる症例の25 3429
〜80%は,手術療法あるいは放射線療法を受けていると推測されている15)。
3430
監視療法,手術療法,放射線療法を同時に比較した前向き研究はほとんどない。近年,イギリスで1999〜2009 3431
年に50〜69歳,T1〜T3N0M0,PSA <20 ng/mLを満たす症例を対象とした,無作為化比較対照試験 3432
(randomized controlled trial;RCT)である Prostate Testing for Cancer and Treatment(ProtecT)試験の結果が報 3433
告された。対象は臨床病期T1cが76%,GS ≤6が77%と,主に低リスク症例であり,放射線療法は3〜6カ月間のホ 3434
ルモン療法を併用し,外照射療法(74 Gy/37 fr)が行われた。10年後までの臨床的増悪や遠隔転移の頻度は,
3435
監視療法が手術療法及び放射線療法よりも有意に高かったが,全生存および疾患特異生存割合には差を認め 3436
なかった16)。また,監視療法群となった約半数の症例に,10年後でも根治療法は行われなかった。一方,同じ 3437