第5章 実現のために必要な施策
5.5 おわりに
2012年7月から始まった固定価格買取制度で、自然エネルギー事業者に経済的インセン ティブが与えられ、投資が進んでいる。今最も必要なことは、系統への受け入れ態勢を整 えていくことだ。
WWFシナリオが示したことは、地域間連系線の強化も必要だが、物理的に今のままの 送電網でも系統運用手法を変えることによって、速やかに自然エネルギーを2〜3割台に
のせていくことが可能なことである。電力会社の地域独占など政治的・社会的な問題を速 やかに取り除き、電力取引を活性化し、世界の先進的な国々の例を学びながら取り組むこ とによって、WWFシナリオの示す自然エネルギーが主役となる時代は手に届く範囲にあ る。その電力系統システムを実現する費用も毎年6000 〜 7000億円程度というGDP比0.1%
以内で可能となるのだ。
自然エネルギー主役時代の次には、原発からの電力を必要としない時代を迎え、その先 には自然エネルギー 100%時代も夢物語ではない。WWFシナリオでは、変動する自然エ ネルギーを需要に合わせるために、需要を超える余剰電力を発生させ、その余剰電力から 水素を生産することにしている。その水素やバイオマスなどで電力以外の産業の燃料需要 を満たすため、自然エネルギー大量導入時代になっても、ものづくり日本を支えるエネル ギーシステムは継続していく。
最も大切なことは、自然エネルギー普及を日本の将来のエネルギーと明確に位置づけ、
野心的な導入目標を少なくとも2020年、2030年に向けて設定することだ。目標が明確にな ってこそ、固定価格買取制度や電力システム改革もバックキャスティングで迷わず進める ことができる。待ったなしの温暖化対策のためにも、可能な限り早い時期から再生可能エ ネルギーの大幅導入を果たしていくことが必要だ。日本では温暖化対策には関心が薄れて いるのが残念だが、温暖化は深刻化する一方であり、対策の手を緩めるわけにはいかない。
いずれは2050年80%の削減を可能とするためには、長期的な視点で取り組む必要がある。
WWFの「脱炭素社会に向けたエネルギー提案」が、純国産エネルギーである自然エネ ルギーの速やかな普及によって、エネルギーの安全保障と温暖化防止が両立される社会を 実現する一助となることを心から願う。
参考資料
(1)自然エネルギーの供給変動に対する対策
スタンフォード大学のジェイコブソンらは、2011年に国際的なエネルギー誌「エネルギ ーポリシー」に、2030年の世界全体のエネルギー需要を太陽や風力などの再生可能エネル ギーで100%満たせるとする論文を発表している。水力、太陽光、蓄熱つき集光型太陽熱 発電、風力などを組み合わせて、WWSシステム(Wind、Water、Solar)と呼び、そのエ ネルギーシステムの可能性を検討している(参考文献10)。
WWSエネルギーシステムでは、変動する一日の電力需要を満たすため、各種の自然エ ネルギーを組み合わせて供給する。カルフォルニアの場合の1日24時間の電力需要と供給 のマッチングの問題を分析した結果、自然エネルギーの供給変動に対する対策として以下 の各項をあげている。
①地理的に離れたところにある再生可能エネルギー源を組み合わせて変動を小さくする
②太陽と風力からの電力と需要とのギャップを埋めるのに水力を利用する
③スマートシステムを利用して電力需要をシフトする
④発電したサイトで余剰電力を貯蔵して必要なときに利用する
⑤最大需要時に必要な容量より大きな発電設備を持ち、余剰電力は水素に変換して自動車 や熱需要に利用する
⑥電力をEV(電気自動車)のバッテリーに貯蔵する
⑦エネルギー供給を上手に行うために気象予測を利用する
本報告では、上記の対策のうち、③と⑦については言及するにとどまっているが、他の 項目は本シナリオの検討に含んでいる。とくに⑤の内容は燃料用電力を含むシナリオとし て取り上げている。
(2)火力発電設備の今後の推移
2010年に保有する石油・石炭・ガスの発電設備容量を、40年を寿命として廃棄してゆく と、
図S-1
に示すように2020年〜 2050年にわたって減少してゆくことがわかった。この図は以下の条件で作成している。
・原則として、運転開始から40年で閉鎖
・ただし、「40年停止」とすると停止時期が本来は今年までに停止しているべき(2013 年12月31日以前になってしまう)火力発電所がある。それらは2014年1月1日に停止 するものとした。
・転換をしているもの(石油から石炭等)については、転換日から40年とした。
(3)太陽光発電の最大出力と定格出力
太陽光発電において、実際に生じる最大出力は定格容量の70 〜 80%程度である。した がって太陽光発電の定格出力が見かけ上大きいということに注意が必要である。これに対 して、風力発電は、風速が増大すると出力が増えるが、定格風速で上限に達し定格容量と なるのが普通である。
図S-1 40年寿命で廃棄してゆく場合の火力発電設備の将来(WWFジャパン作成)
天然ガス
石炭
石油 160
140 120 100 80 60 40 20 0
GW 火力発電設備容量の推移
2010 2020 2030 2040 2050年
表S-1 太陽光発電の最大出力と定格値の比較(2050年)
定格出力(MW) ピーク出力(MW) %
①北海道 20,120 14,498 72.06
②東北 49,989 34,002 68.02
③関東 147,911 116,542 78.79
④中部 65,895 51,995 78.91
⑤北陸 17,412 13,380 76.84
⑥関西 79,471 58,303 73.36
⑦中国 33,286 23,823 71.57
⑧四国 14,621 11,457 78.36
⑨九州 44,166 33,450 75.74
⑩沖縄 4,048 3,046 75.25
全国計 476,923 326,615 68.48
(4)地域間連系線の決定の方法 (WWFジャパン作成)
以下に各地域間連系線で必要となる送電容量を決定した方法を説明する。
図S-2 太陽光発電の最大出力と定格値の比較(2050年)
160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 MW
⑩沖縄
⑨九州
⑧四国
⑦中国
⑥関西
⑤北陸
④中部
③関東
②東北
①北海道 ピーク出力 定格出力
図S-3 9電力地域間の送電網
⑨九州 ⑦中国
⑧四国
⑥関西
⑤北陸
④中部
③関東
②東北
①北海道
表S-2 個別の地域別のシミュレーションがどこの連系線の送電容量を表すか?
地域名 不足電力量 送電容量を推定する地域間連系線
①北海道 北海道の不足分 東北→北海道
②東北 東北の不足分 北海道/関東→東北
③関東 関東の不足分 東北→関東
④中部 中部の不足分 関西(北陸)→中部
⑤北陸 北陸の不足分 関西(中部)→北陸
⑥関西 関西の不足分 中国/北陸/中部(四国)→関西
⑦中国 中国の不足分 九州/四国/関西→中国
⑧四国 四国の不足分 中国(関西)→四国
⑨九州 九州の不足分 中国→九州
⑩沖縄 沖縄の不足分
⑪全国計
地域間連系線の送電容量がどのように決定されたか?
東日本について
北海道→東北:地域グループ②③ 東北→関東:個別③関東
西日本について
関西→中部:個別④中部
関西→中国:地域グループ⑦⑧⑨*1 中国→関西:地域グループ④⑤⑥*2
北陸→関西: 個別⑥関西の不足分から、地域グループ⑤⑥の不足分を差し引いた容量を 示した*2。なお、地域グループ④⑥⑦⑧⑨ではずっとゼロを示している 中部→関西: 地域グループ⑤⑥の不足分から、④⑤⑥の不足分を差し引いた容量を示し
た*2。なお、地域グループ⑤〜⑨ではずっとゼロを示している 中国→四国:個別⑧四国*3
四国→中国:地域グループ④〜⑦⑨ 九州→中国:地域グループ④〜⑧ 中国→九州:個別⑨九州*3