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本研究では、全身性炎症や末梢臓器障害時における中枢障害の発症や進行に関 与する、血液脳関門の白血球の遊走機構やタンパク質の輸送機構を明らかにし、血 液脳関門を標的とする治療薬開発を目指して、

I. CD 抗原の絶対発現量に基づく、血液脳関門における白血球遊走阻害標的分子 の選定および白血球遊走に関わる新たな分子変動の解明 (第2章)

II. 末梢臓器障害時に血中へと漏出する代表的タンパク質であるcreatine kinaseの血 液脳関門における輸送機構の解明 (第3章) を行った。

炎症性疾患における血液脳関門を介した白血球の脳内への遊走を阻害する ことは、中枢障害の発症や進行を抑制し、病態の予後を改善するうえで重要であ る。特に、血液脳関門側において白血球遊走に関与する分子を標的とする治療薬 の開発は、従来の白血球側を標的とした遊走阻害薬の重篤な感染性副作用を回 避するうえで重要な課題と考えられる。そこで第 2 章ではまず、血液脳関門を介 した白血球の遊走機構に関わることが知られる接着分子に属するCD抗原について、

正常時および全身性炎症時の血液脳関門および循環血中白血球における絶対発現 量を明らかにした。そして、それぞれの分子内発現量変動と分子間での発現量を比較 し、さらに細胞間での結合分子の発現量比較を行うことで、CD54 が血液脳関門にお ける白血球遊走阻害標的分子として有望な分子であることを示唆する結果を得た。ま た、血液脳関門における CD 抗原の網羅的発現量解析を行い、CD9、CD49c、CD97 の3分子が全身性炎症時の血液脳関門において減少することを初めて明らかとした。

いずれの分子も脳毛細血管内皮細胞の細胞間接着機能への関与が示唆される分子 であったことから、これらの分子変動が全身性炎症時の血液脳関門の機能変動に関 与し、脳内への白血球遊走に関わる可能性が考えられた。今後、本研究で明らかとな

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った知見を基に、血液脳関門を標的とした、中枢への白血球遊走阻害薬が開発され、

従来の治療薬の課題が解決された画期的な新薬が創製されることが望まれる。

本研究は、細胞間相互作用の機構解明に、タンパク質の絶対発現量という尺度を 導入し、分子間の機能比較を行った点が新しい。細胞間相互作用は、血管内皮細胞 を介した白血球の遊走のみならず、脳毛細血管内皮細胞とグリア細胞間の相互作用 を介した血液脳関門機能の成熟機構や、がん細胞と免疫細胞間の相互作用を介した がんの免疫回避機構など、様々な生命現象の基盤となる機構である。今後、本研究で 用いたタンパク質の絶対発現量を尺度とした細胞間相互作用の解明戦略が、こうした 分野の研究に応用されていくことで、大きな発展をもたらすことが期待される。

血液脳関門におけるタンパク質の輸送機構を明らかにすることは、生理的条件下に おける中枢と末梢の相互作用経路を解明するだけでなく、末梢病態に起因する中枢 障害の発症機構の解明にもつながる重要な課題であると考えられる。そこで第 3 章で は、血液脳関門における末梢臓器由来タンパク質の輸送機構の解明に取り組んだ。

網羅的定量プロテオミクス SWATH 法を用い、in vivo の血液脳関門透過性スクリーニ ングを行った結果、複数の末梢臓器由来タンパク質が血液脳関門を透過し血中から 脳内に移行する可能性が示唆された。また、同定された一分子である creatine kinase について、in vivoにおいて血液脳関門を介して血中から脳内に移行することを証明し、

またin vitroの解析から血液脳関門にエネルギー依存的な内在化機構及び輸送機構

が存在することを初めて明らかにした。Creatine kinase は特に末梢臓器障害時に血中 濃度の上昇が知られる分子であることから、その輸送機構は末梢障害に起因する中 枢機能の変動に関与する可能性が示唆される。今後、その病態生理学的な意義を明 らかにすることで、血液脳関門における creatine kinaseの輸送機構が、血液脳関門に おける新たな治療標的となる可能性が考えられる。

また、血液脳関門におけるタンパク質の輸送機構を明らかとすることは、脳へのdrug

delivery 標的経路を提示するうえで重要である。近年、抗体医薬品や生理活性タンパ

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ク質、遺伝子医薬品など、画期的な新薬が開発されているが、これらの高分子医薬品 は血液脳関門を透過できないため中枢疾患には応用できないという課題がある。その ため、中枢疾患の治療薬開発は未だに、他の疾患に比較して遅れをとっている現状 がある。一方で、近年、血液脳関門におけるタンパク質の輸送機構を標的とした drug

delivery systemを構築することで、高分子医薬品を中枢へと送達し、ヒトの中枢疾患の

進行を抑制できることが証明され始めている。従って今後、本研究で血液脳関門の透 過性を明らかにした creatine kinase の輸送機構の実体が解明され、drug delivery

system の開発に応用されることで、中枢疾患への高分子医薬品の開発を促進させる

ことができると考えられる。

以上より、本研究は、タンパク質の絶対発現量を基に、全身性炎症時の脳内への白 血球遊走における血液脳関門上の阻害標的分子を選定し、また白血球遊走への関 与が示唆される血液脳関門における新規の分子変動を明らかにした点で、血液脳関 門を標的とした白血球遊走阻害薬の開発に繋がり、意義が大きいと考えられる。さらに、

本研究で、血液脳関門における末梢臓器の障害時に血中に漏出するタンパク質の新 たな輸送機構を明らかにしたことは、病態時の血液脳関門を介した中枢と末梢の相互 作用経路の解明に繋がる点や新たな高分子 drug delivery 経路を提示した点で意義 が大きく、血液脳関門を標的とした治療薬開発の領域に広く発展をもたらす成果であ ると考えられる。

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