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NAOは、公共部門全体の連結財務諸表(WGA)及び各省庁の資源会計の財務諸表の財 務検査及び、VFM検査(調査)を行う唯一の独立会計検査機関である

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。我が国の会計検 査 院と 異なり 、職員 は国家 公務 員の身 分を保 有して おら ず、会 計検査 院長(Comptroller and Auditor General:C&AG)が、職員の採用や労働条件・給与等を決めている(但し、待

遇等は国家公務員と均衡が図られている)。約800人以上の職員がおり、そのうち約620 人は専門職、残りの約180人はサポート職となっている

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基本的に予算、支出の流れに応じて

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検査は行われるため、保健医療関連では、保健省 及び外郭関連団体の「summarised accounts」の財務検査

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を担当するが、NHS病院などの 個別機関の財務検査は実施しない。地域の戦略的保健局(出先行政機関)、PCTやNHSトラ スト(病院などサービス供給機関)など、個々の組織の財務検査はオーディット・コミッ ションが担当する(詳細は後述)。但し、同じサービス供給機関でも、財務的な独立性の 高いファンデーショントラストと呼ばれる組織については、オーディット・コミッション 以外からオーディター(以下、監査人)を選択することが可能である。

2.1. NAO による VFM 検査(調査)

2.1.1.テーマの選択

NAOのVFM検査(調査)は、個別機関に対する検査ではなく、特定テーマ(政策領域)

に対して VFM の視点から行われた調査研究(ないしはプログラム評価)に近い。実際、

NAOの発行資料等でも、VFM study、VFM workと表記されている。よって、以下では、

NAOのVFM検査に関してはVFM調査という表現を用いる。

NAOは毎年60~80件のVFM調査報告を作成しているが、支出構成比の大きさを反映す るように、約10%が毎年保健医療(NHS)に関するものである。テーマの選択を行う上で のポートフォリオがあり、さまざまな支出分野がカバーされるよう配慮されている

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25 NAOは、国会(下院)のPAC(決算委員会)に対して公費が適切に支出されているかを説明するとともに、VFMに関

して法令に定められた検査権限を備えている。

。保 健医療は国民の関心も政治家の関心も高い分野であり、議会でも必ず議論になるため、

PACの関心度も高い。NAOのVFM調査によって改善に向けて何らかのインパクトを与え

られるかどうかという視点でも検討される。但し、最終的なテーマの決定はNAOスタッ フの事前準備資料に基づき検査院長が行う。選択されたテーマの多くは、資源浪費のリス

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職員の専門的バックグランドは多様であり、大卒者が多くを占めるが、専門的な知識獲得のための研修もある。な お、VFM検査(調査)は、エコノミスト、オペレーション・リサーチなどを専門とする社会科学系のバックグラウン ドをもつスタッフが担当することが多い。必要に応じて、大学や外部民間機関に外部委託することもある。

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保健省及び外郭関連団体の予算は、イングランド全体に10ある戦略的保健局(Strategic h ealth au thorities)、約152 のプライマリケアトラスト、NHSトラスト(医療機関等)に配分される。

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通常、23日で財務書類をレビューし、連結決算が正しくできているかなどを確認する。会計基準が2010年度より イギリス独自のUKGAAPからIFRSに変更されたことで、PFIのバランスシートも検査対象に含まれることになった。

NAOの財務検査対象であっても、その約1/4は、民間の監査法人に再委託されておりNAOが直接検査することはな い。

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ブレア政権時では、①PAC(決算委員会)とマスコミの関心度(11点)、②検査実施期間とコスト見込み(9点)、

③財務的・非財務的インパクト(7点)、④近代化への貢献度(7点)、⑤省庁にとっての政策優先度(6点)、⑥国 民から見たわかりやすさ(5点)の45点で点数化され、テーマの選定において活用していた。

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クの大きいもの、市民へのインパクトへの大きいもの、国民の関心の高いものであるが、

中にはあまり知られていないものもある。

テーマが選定されたら、予備検査(1~3か月以内)が行われ、その結果を検査院長へ提 出する。院長の承認が得られた場合、6~12 か月の本検査が開始する。目標としては、8 か月以内に終わらせることが求められている。

保健医療分野で選定された最近のVFM調査のテーマとして、医療従事者への給与支払 方式(NHS Pay Modernisation in England: Agenda for Change(HC: 125 2008-09))、巨額の投 資 を し たNHSに おけ るITプ ロ グ ラ ム (NHS Pay Modernisation: N ew co ntracts f or g eneral practice services in England(HC: 307 2007-2008))

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、自閉症ケア(Pay Modernisation: A new contract for NHS consultants in England(HC: 335 2006-2007))などがあげられる

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2.1.2.VFM調査の方法

①測定指標の決定

VFM調査を行う大前提として、何をもってVFMを評価するのかを最初に定める必要が ある。最も簡単な方法は、中央政府や省庁のガイダンスであげられた目標に焦点を当て、

目 標 と の か い 離 が あ る か な ど 、 達 成 度 を 比 較 検 証 す る と い う も の で あ る 。 た と え ば 、

pay-modernisationに関するVFM調査では、新制度を導入する前提とされた2%の生産性向

上という目標が達成できたかどうかを中心に評価がされている32

なお、NAO は、政府との中立性という立場から、政策や政策目標の価値判断を行うこ とはなく、政策効果が政策実施前に想定したものと比較してどうであったかを VFM の視 点から評価することが求められる。たとえば、待機件数をどの程度減らしたか、清潔さと いう点でどの程度向上したかなどを見ることはあっても、待機件数短縮という政策目標や 清潔さという目標そのものについて是非を問うことはない。

。このほか、目標設定の 際の想定条件(アサンプション)の妥当性及びその背景にある経済指標の検討がなされる こともある。たとえば、感染症ケアのVFM調査では、政策の実施や新制度導入によって 実際どれだけ減少したかという視点から評価が行われている。また、自閉症のVFM調査 では、自閉症に対する政府の政策目標がないことから、実際どのようなサービスが自閉症 患者に提供されているか、そのアウトカムはどのようになっているのか、サービスの欠如 による経済的な損失がどれくらいあるか、他の支出への影響を計算することで、潜在的な VFM節減効果が検証されている。

30 NHSにおけるITプロジェクトは、全国民の保健医療データを電子化して、全国どこの病院でも予約可能とするシス

テムの構築を目指したものである。10年に及ぶ総費用が約124億ポンド(1ポンドを220円とすると約27千億円)

の大型プロジェクト。

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最新のものとして、病院の生産性Management of NHS hospital productivityHC: 491, 2010-2011、健康格差Tackling inequalities in life expectancy in areas with the worst health and deprivationHC: 186, 2010-2011)、病院PFI契約(The performance and management of hospital PFI contractsHC: 68, 2010-2011)などについての調査があげられる。

32 VFM調査の担当者によると、生産性の定義は、様々であるが、特に保健医療において生産性を厳密に定義、計測す

るのは難しいという。たとえば、再入院率、30 日死亡率、臀部手術の際の患者評価などを利用する際、インプット、

アウトプット、アウトカムを何にするかで結果は大きく異なるものになったという。

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②根拠となるデータの収集

評価の根拠となるデータは、基本的には、保健省の白書、青書、政策白書で公表された ナショナルデータから抽出されることが多い。ナショナルデータがない場合は、独自のア ンケート調査、インタビュー等によってデータを新たに収集することもある。たとえば、

GPへの支払いに関するVFM調査では、PCTへの訪問調査で得られた情報が根拠データと

なっている。その際、収集データは合理的なものか、サンプルが適切か、偏りがないかな どの確認が重要となる。特にサンプリングでは、大規模、中規模、小規模といった各地域 の特徴が反映されることが求められる。たとえば、病院の場合は、高コスト病院、低コス ト病院で何が違うかを比較する。

近年は、量的リサーチのみならず、フォーカスグル―プ(グループ対話形式のインタビ ュー)など質的なリサーチも頻繁に行われる傾向にある。個別保健医療機関へインタビュ ーを行う場合は、チーフエグゼクティブ、メディカルディレクター、コンサルタント(専 門医)といったようにレベル別に行い、全体としてそれぞれの主張に整合性があるかどう かを確認する33

なお、VFM調査は、全体で約9カ月かかるが、ディレクター(全体を統括し、職務の5

~10%程度の時間関与する。VFM調査の最初と最後の関与が大きい)、オーディットマネ ージャー(職務の50%程度の時間調査に関与)、オーディットプリンシパル(全体の90% 程度関与)で行う。但し、フィールドワークを行うときは、リサーチャー及びトレーニー

(研修生)を活用する(フィールドワークを行うときは5名程度で行う)。ヒアリングによ ると、調査によっても人数は多少増減し、Pay-modernisationのVFM調査は、ディレクター、

オーディットマネージャー、トレーニー3名の計5名程度で行われたという。データ解析 を行う際には、保健省がどれくらいの予算を必要と推計し、その予算がなかった場合どう なるかを中心にモデル構築が行われる。患者に対するアンケートを実施することもあるが、

多くの場合は、リサーチの技法上で問題がなければ外部の大規模調査を活用する。より専 門知識が必要となる場合やデータ解析においては、統計局の統計解析専門家や医師など専 門家、大学教授などのアドバイスを受けることが多い。

③報告書の提出

VFM調査における最終結論や改善のための勧告はVFM報告書に掲載する。その内容を、

事前に検査対象機関と議論する。報告書は下院に提出され、それに基づき、下院付属の決 算委員会(PAC)のヒアリングが行われる。PACは独自に報告書を作成、政府に提出し、

政府はその PAC 報告書の勧告を受け入れるかどうかを検討することになる。なお、NAO は、PACの各報告書へどのような対応がなされたか、フォローアップ調査を行っている。

なお、全てのVFM調査は、内部のピア・レビュー(同僚審査)および外部の独立した調査 研究機関(ロンドン経済大学院又はオクスフォードなど)の審査を受けることが求められる。

33 VFM調査担当者へのヒアリングによると、職員へのサーベイ調査、保健省の見解、スタッフ、病院経営側で見解が

異なることが多いという。

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