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「いま」のとりたて形式について

ドキュメント内 ―「今」という時間をめぐって― (ページ 39-59)

35 2.1 川端(1964)

川端(1964)について、すでに序章で述べたように、「まだ、もう」なども「今日、来月」

などとともに時を表す副詞であるという点から出発し、時間副詞の意味が体系をなすこと を明らかにしている。

川端は、時間副詞を

A 文=発言の内容的な現在を与える、その与え方に関するもの

B 文=発言における現在を何らかの方向に超える、乃至超えようとするもの

に分け、さらに、Aを

(1)「今、ただ今」のような発言の現在に同時的に与えられる内容的な現在

(2)時の流に順行的に現在を与えるもの

(3)時の流に遡行的に現在を与えるもの

の三つに分けている。そして、(2)をさらに

(イ)開始を過去に定位することによって、そこから展開する事態の中に位置づけられ る関係を表現する

(ロ)現在を終点的に明確化し、それを含む上での現在への持続(継続)的体制に、転 換的に把握される場合

(ハ)現在から未来への持続(継続)的体制に(イ)が転位的に把握される場合

(ニ)現在における持続の、既に変化の予測され得る程に極限的、未来が現在に浸透す るもの

に分けている。また、(3)を

(イ)事態の終結を過去に定位するもの

(ロ)現在と終結としての以前との間の時間的な距りを持った関係(速度的に大きい場 合)

(ハ)現在と終結としての以前との間の時間的な距りを持った関係(速度的に小さい場 合)

(ニ)変化の生じ得ない完了(仮定条件性)

に分けている。

川端が取り上げている「いま」のとりたて形式は「いまや」「いまは」「いまに」「いまだ

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に」であり、「いまや」は現在を中心にしているとし、「いまは」は「時の流に遡行的に現 在を与えるもの」であり、「現在と終結としての以前との間の時間的な距りを持った関係を 表現し、その速度的に大きい場合」であるとしている。また、「いまに」「いまだに」は「時 の流に順行的に現在を与えるもの」である。「いまに」については、「未来への浸透を許さ れており、より近い時点を表し、現在への連絡の語感がある」と記述している。

川端(1964)は、「いまは」を一つの時間副詞として取り上げ、時間副詞の体系の中での 位置づけを示している点で、出発点となる研究である。この章では、川端の理論的な枠組 みを参照しつつ、用例の観察にもとづく実証的な考察を行うことにしたい。

2.2 赤羽根(1994)

赤羽根(1994)は、「いまは」「いまも」を扱っている。赤羽根は、「いま」がどのように して時を特定化するのかを考えるに際して、テンスやアスペクトとの相関のほかに、「いま」

にとりたて詞がついた場合を考えることが有効であると指摘している。「いま」にとりたて 詞がつくことで、時間的に何と何が対比され、何が特定されるのか(主張と対比される含 みとは何か)を明らかにすることによって、「いま」の時間的な特定化の様相を捉えられる としている。

まず、「いま」が「近過去」を表す場合の主張と含みは以下のようになる。

今も彼は彼女に電話をかけた。

主張:発話時点直前の「今」の時点において、彼が彼女に電話をかけたこと 含み:発話時点より以前の時点において、彼が彼女に電話をかけたこと

今は彼は彼女に電話をかけた。

主張:発話時点直前の「今」の時点において、彼が彼女に電話をかけたこと 含み:発話時点より以前の時点より以前の時点において、彼が彼女に電話をかけなか

ったこと、及び「今」の時点より以後の時点において、彼が彼女に電話をかけ ないだろうこと

この二つの例文では、それぞれの含みは異なるが、「は」「も」といったとりたて詞がつ くことで、発話時点直前の「今」の時点と「今」以前の時点や「今」以後の時点とが対比 され、「彼が彼女に電話を掛けた時」として、発話時点直前の「今」の時点が特立されると する。なお、「今は」のみが「今」以後の時点とも対比されるが、これは対比的際だちを強 く顕現する「は」の機能によるとしている。

次に、「今~ている」の形式の「いま」には二通りが考えられるとする。一つは「発話時 点」といった時間軸上の一点であり、もう一つは、過去や未来と対比される時間幅のある 現在である。

37 発話時点

今も彼は彼女と話している。

主張:発話時点において、彼が彼女と話していること

含み:発話時点以前の過去のある時点で、彼が彼女と話していたこと、及び発話 時点以前の過去のある時点から、彼が彼女と話していること

今は彼は彼女と話している。

主張:発話時点において、彼が彼女と話していること

含み:発話時点以前の過去のどの時点においても、彼彼女と話さなかったこと、及 び発話時点以後において、彼が彼女と話さないだろうこと

時間幅のある現在

今も彼は彼女と文通している。

主張:現在、彼が彼女と文通していること

含み:過去において、彼が彼女と文通していたこと

今は彼は彼女と文通している。

主張:現在、彼が彼女と文通していること

含み:過去において、彼が彼女と文通していなかったこと、及び未来において、彼 が彼女と文通しないだろうこと

発話時点の場合、「も」や「は」は発話時点の「今」を、発話時点以前の時点や発話時点 以後の時点と対比させることで特立し、時間幅のある現在の場合は、「も」や「は」によっ て、過去や未来との対比において現在の状態が特立されることになるとしている。

近未来の場合については、動詞の現在形は未来テンスを表すが、「今~する」は発話時点 からみた近未来における意志的行為を表し、この場合、「は」でも「も」でもとりたてるこ とができないとしている。

赤羽根(1994)は、「いま」のとりたて形式を体系的に記述しようとしている点で参考に なるが、テクストレベルでの観察が十分でなく、言語事実を正確に捉えているとはいえな い点もある。たとえば、「今は~する」という形はありえないとしているが、筆者の調査で は、そうした例はいくつも見られた。

2.3 金(2008)

金(2008)は、「いま」と「いま」を含む副詞「いまは」「いまでは」「いまや」「いまし も」「いましがた」「いまに」「いまにも」について考察し、「いまは」と「いまでは」の相

38 違についても言及している。

「いまは」は、対比されるものが二項対立的に示されるのが特徴であるが、対立項が明 示されず、「いまは」だけで以前はそうでなかったと暗示されることもあるとしている。ま た、未来に対しては「いまは」が用いられるが、その場合は対立項が明示されず、それは 確定的な事柄として提示できないからであると説明している。

他方、「いまでは」については、「いまは」の対照性と比較すると、「いまでは」には以前 からの漸進性が認められるが、未来と対照されることはないとしている。

金(2008)による「いまは」と「いまでは」の対比性の相違についての指摘は、後述す る筆者の観察とも一致しており、妥当であると思われる。しかし、金は、「は」「では」の とりたてしかみておらず、「も」「でも」を視野に入れた、とりたての体系として考察する 必要があるだろう。

3.「いまは」「いまでは」

この節では、「いまは」「いまでは」を取り上げる。考察は、時間的な側面ととりたての側 面にわけて行う。

3.1 時間的な側面からみた「いまは」「いまでは」

3.1.1 記述の枠組みとなるアスペクト・テンス体系:工藤(1995)

「いまは」「いまでは」の時間的な側面をみるために、これらと共起する述語のテンス・

アスペクトに注目する。そのために、ここでは、これに関する記述の枠組みとして、日本 語のテンス・アスペクトの記述的研究の代表である工藤(1995)の拡大アスペクト・テン ス体系を採用する。次に、その概略を示した図を掲げる(工藤1995:43)。

〈テンポラルな用法〉

テンス アスペクト 完成性 継続性 パーフェクト性 反復性 未来 スル シテイル シテイル スル / 現在 / シテイル シテイル・シタ スル・シテイル 過去 シタ シテイタ シテイタ シタ・シテイタ

知覚的現在 心理的現在 発見・想起 差し迫った要求

単なる状態

恒常的な特性

〈脱アスペクト用

〈脱アスペクト・テン ス用法〉

〈モーダルな用法〉

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3.1.2 新聞記事におけるテンス・アスペクト形式の分布

具体的な考察に先立ち、朝日新聞オンライン記事データベースを使って収集した「いま は」と「いまでは」の各 500 例の用例における、述語動詞のテンス・アスペクト形式の分 布を示しておく。

表1 新聞記事おける「いまは」「いまでは」と共起するTA形式の分布

スル シテイル シタ シテイタ

いまは 180(39%) 198(43%) 83(18%) 0(0%)

いまでは 104(23%) 150(34%) 194(43%) 0(0%)

3.1.3 「いまは」「いまでは」と共起する述語のテンス・アスペクト

「いま」のテンポラリティーは現在であり、純然たる過去を表す過去形とは共起しない。

表 1 にシテイタ形式がないのはそのためである(シタ形式は現在パーフェクトを表すので 共起できる)。以下、前に示した枠組みにそって、「いまは」「いまでは」と共起する述語の テンス・アスペクトについて、形式と意味の両面から記述していく。

3.1.3.1 「いまは」の場合

1)シテイル形式

シテイル形式のアスペクトの基本的意味は〈継続性〉であり、そのバリアントとして〈動 作の継続〉と〈変化結果の継続〉がある(主に動詞の語彙的意味によって分かれる)。また、

派生的な意味として、〈パーフェクト性〉〈反復性〉〈単なる状態〉がある。

「いまは」と共起するシテイル形式には、基本的な意味である、アクチュアルな〈継続 性〉を表すものはほとんどない。たとえば、次の例は〈反復性〉を表している。

1) 今は1日に1袋の半分を食べている。少し物足りない気もするが、経済的にも健康に もいいと考えて我慢している。(2011年01月04日 朝刊)

あるいは、人間の〈長期的な活動〉を表す例もみられる。

2) 「最終的には自分のオリジナルの型をつくりたい」と岡野さん。今はレプリカを手が けながら過去の巨匠の技を学んでいる。(2011年01月05日 朝刊)

3) 中村建設本体は破産したが、こうして「技」は伝承された。いまは中村さんの娘婿で

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