第 5 章 連分数とモーメント問題 66
5.3 いくつかのモーメント問題に対する解
以下では,条件(5.6)において自明なケースであるdp = 0, (p= 0,1,2, . . .)を除いて,
dp >0 だけを考えることにする.さらに,d0 >0であれば,d0 = 1としても定数倍を考 えればよいだけなので一般性は失わない.
まず最初に,対称モーメント問題の解の存在に関する定理を述べる.
定理 5.7. 対称モーメント問題が列{dp}に対して解を持つための必要十分条件は,列{dp} が実Stieltjes連分数
1|
|z−(1−g0)g1|
|z −(1−g1)g2|
|z − · · · (5.7)
のモーメント列となることである.ただしここで,0 ≤gp ≤1, (p= 0,1,2, . . .)である.
また,この条件を満足していれば,モーメント問題の解θ(u)は
∫ +1
−1
dθ(u)
z−u (5.8)
満たし,Stieltjes連分数(5.7)の値と一致する.
証明. 十分性について : 列{dp}∞p=0 をStieltjes連分数(5.7)のモーメントとする.この とき,定理3.8と定理3.7から,連分数(5.7)は,I := [−1,+1]としたとき,d(K, I) = inf{d(x, y) :x∈K, y ∈I}>0であるような任意のコンパクト集合K上で広義一様収束 している.さらにここで,事実として次の関係式を用いる[Wa48, p.255] :
1|
|z− (1−g0)g1|
|z − (1−g1)g2|
|z − · · ·=
∫ +1
−1
dθ(u)
z−u, (z→ ∞).
そして,定理4.12から,
∑∞ p=0
dp
zp+1 = 1|
|z− (1−g0)g1|
|z −(1−g1)g2|
|z − · · ·=
∫ +1
−1
dθ(u)
z−u, (z→ ∞) が分かるので,1/(z−u) =∑∞
p=0up/zp+1を用いれば,
dp =
∫ +1
−1
updθ(u), p= 0,1,2, . . ..
必要性について: 対称モーメント問題が解θ(u)を持つような列{dp}∞p=0をまず仮定する.
ただし,d0 = 1とする.このとき,解θ(u)が階段函数であれば,有限な区間の分割が 可能なので,ある列{up}mp=0−1 があって,正数t > 0と各p = 0,1,2, . . . , m−1に対して θ(up+t)> θ(up−t)となる.定理5.2から,2次形式
∫ +1
−1
(X0+X1u+· · ·+Xnun)2dθ(u)>0, n= 0,1,2, . . . , m−1 が成り立つ.よって,
∆n=
d0 d1 · · · dn
d1 d2 · · · dn+1
· · · dn dn+1 · · · d2n
>0, n= 0,1,2, . . . , m−1.
ゆえに,次のような連分数展開を構成できる : a0|
|b1+z− a1|
|b2+z− a2|
|b3+z− · · · − am−1|
|bm+z.
ここで,a0 =d0 = 1,a1, a2, . . . , am−1 >0.Jacobi連分数のローラン級数展開は,先頭 から2m次の項まで一致していることは述べたので,d0, d1, d2, . . . はこの連分数のモーメ ントである.また,条件(5.5)から,積分(5.8)はzに関して奇函数なので,Jacobi連分数 展開は,
1|
|z− a1|
|z −a2|
|z − · · · −am−1|
|z (5.9)
となる.連分数(5.9)におけるp次の分母をBp(z)とすると,任意の正数c >0に対して
∫ +1+c
−1−c
urBp(u)dθ(u) = 0, r= 0,1,2, . . . , p−1, p≤m
が成り立つ.定理5.3から,p < mに対して多項式Bp(u)は区間[−1−c,+1 +c]でp回 符号が入れ代わる.また,十分大きなuに対して,Bp(u)>0が成り立つので,u >1に 対してBp(u)>0.基本漸化式から,
ap= Bp(1 +c) Bp−1(1 +c)
(
1 +c−Bp+1(1 +c) Bp(1 +c)
)
, p= 1,2,3, . . . , m−1. (5.10)
ap >0なので,
0< Bp+1(1 +c)
Bp(1 +c) <1 +c, p= 0,1,2, . . . , m−1, (c >0).
よって,
clim→0
Bp+1(1 +c)
Bp(1 +c) = 1−gp
とおけば,0≤gp≤1, (p= 0,1,2, . . . , m−1)であり,式(5.10)から,ap = (1−gp−1)gp, (p= 1,2,3, . . . , m−1)なので,連分数(5.9)は(5.7)の表現を持つ.
解θ(u)が階段函数でない場合,行列式∆n>0, (n= 1,2,3, . . .)なので,連分数(5.9) ではなく
1|
|z−a1|
|z −a2|
|z − · · · として同様の議論をすれば示せる.
この定理に関して,連分数(5.7)を同値変換すると,
1/z|
|1 −(1−g0)g1/z2|
|1 − (1−g1)g2/z2|
|1 − · · ·
となるので,1/zを取り去り,1/z2=:zと取り直すと次のように書き換えられる[Wa40] : 定理 5.8. 区間(0,1)におけるHausdorffモーメント問題
µp =
∫ 1
0
updµ(u), p= 0,1,2, . . . (5.11) が解を持つための必要十分条件は,べき級数
µ0−µ1z+µ2z2− · · · (5.12)
が連分数展開
µ0|
|1 + (1−g0)g1|
|1 + (1−g1)g2|
|1 +· · · (5.13)
をもつことである.ただし,µ0 ≥0であり,0≤gp≤1, (p= 0,1,2, . . .)である.
ここまでは,積分区間を有限な場合に限って議論を進めてきた.次では積分区間を無限 大にまで拡張したモーメント問題を考える.
まず最初に,積分区間を(−∞,+∞)に拡張したHamburgerモーメント問題に関して 述べる.しかし,このモーメント問題に関しては,複雑かつ込み入った複素解析学の知識 を用いるので結果のみ紹介することにする.詳しくは[Wa48, pp.325]や[Ha20]を参考に されたい.
定理 5.9. 実数列{cp}∞p=0を与えられた列とする.ただし,c0= 1とする.このとき,区 間(∞,+∞)で無限に異なる値をとり,
cp =
∫ +∞
−∞ updϕ(u), p= 0,1,2, . . . (5.14) となるような有界かつ非減少函数ϕ(u)が存在することと,
∆p =
c0 c1 · · · cp c1 c2 · · · cp+1
· · · cp cp+1 · · · c2p
>0, p= 0,1,2, . . . (5.15)
となることは同値である.
ここで,モーメント問題の解の分類に関して次の定義を導入する:
定義 5.10. モーメント問題(5.14)が決定的であるとは,ϕ(−∞) = 0,ϕ(u) = [ϕ(u+ 0) + ϕ(u−0)]/2, (−∞ < u <+∞)を満たすような解ϕ(u)がただ1つ定まるときをいう.反 対にそうでない場合は,モーメント問題は非決定的であるという.
上記で述べたHamburgerモーメント問題は積分区間が(−∞,+∞)であったが,これを 基に次のStieltjesモーメント問題の解の存在に関する定理が導かれる[St94a] :
定理 5.11. 実数列{cp}∞p=0を与えられた列とする.このとき,区間[0,+∞)で無限に異な る値をとり,
cp =
∫ +∞
0
updϕ(u), p= 0,1,2, . . . (5.16) となるような有界かつ非減少函数ϕ(u)が存在することと,
Ωp=
c1 c2 · · · cp+1
c2 c3 · · · cp+2
· · ·
cp+1 cp+2 · · · c2p+1
>0, p= 0,1,2, . . . (5.17)
となることは同値である
証明に関しては,やや複雑になるため[Wa48, pp.327]を参照されたい.
最後に,Stieltjes連分数とStieltjesモーメント問題の解の関係性を述べた定理を紹介す る.証明には,さらに進んだ連分数と級数の理論が必要になるので詳細は[Wa48, p.329]
や[St94a]を参考にされたい.
定理 5.12. 列{cp}∞p=0は条件(5.15)と(5.17)をともに満たすとする.さらに,ローラン 級数∑
(cp/zp+1)がStieltjes連分数展開 1|
|k1z− 1|
|k2− 1|
|k3z− 1|
|k4− · · · (5.18)
を持つとする.このとき,Stieltjesモーメント問題(5.16)が決定的であることと,正項級 数∑
kpが発散することは同値である.
モーメント問題の解の性質や存在には他にも多くの結果が得られているが,連分数と モーメント問題の関係性において重要になる主張はここに述べたものとなる.