被告は,このうち5名についての被告敗訴部分の取り消しを求めるとともに,同じ5 名の請求の棄却を求めて控訴した。
決と比べて省略がある。原告の「思想及び良心」の内容は「裁判所の判断」
や「事実の概要等」のなかではなく,原告主張のなかで述べられている。また,
「間接的な制約となる面」の意味について一般的説明はあるが,本件の事案 に即してどのように「間接的な制約となる面」があるのかの「あてはめ」
の部分はなく,結論として「その限りにおいて,本件職務命令が,これら の者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは 否定し難い」と述べられる。
原告らの不採用に都教委の裁量権の濫用・逸脱があるかについて
2016
東 京地判は,非常勤教員の採否の判断につき都教委は広範な裁量権を有して いるという前提に立っている。その際,非常勤教員の任用行為の法的性質 は公務員の新規任用行為であると解されている。また,都教委は非常勤教 員の希望者を全員採用しなければならない義務を負うものではないこと,候補者選考にあたり考慮すべき要素を具体的に定めた法令の規定がないこ とも指摘されている。さらに
2016
東京地判は,再雇用制度において都教委 に再雇用の選考につき広範な裁量権が認められ,卒業式の国歌斉唱の際に 職務命令に違反した職員について都教委が再雇用制度の選考において不合 格としたことについて「客観的合理性及び社会相当性を著しく欠くものと いうことはできないと解されている」として,④(③の控訴審)とその上 告審最二小判2011(平 23)・5・30
をあげる73)。そして,非常勤教員制度に ついても,再雇用制度の解釈と同様であり,原告らの期待は任用の実状(96%から
98%
の合格率など)から生じた事実上の期待に止まり,任用の実状が あるからといって法的に都教委の裁量権を制約する根拠になるものとはい えないとする。そのうえで,2016東京地判は,原告らの不採用は専ら原告らが本件職務 命令に違反したということをその理由とするものと推定される,という点 では本件一審判決と同様の前提に立ちながらも,原告らの不採用に裁量権
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73) この点については,前掲注16) 参照。そこでもふれたように,最二小判2011(平
23)・5・30においては,都教委による再雇用等の拒否が裁量権を逸脱・濫用するも
のであるか否かという争点は扱われていない。
の濫用・逸脱はないとする。すなわち,原告らの選考は,新たに公務員と して任用する者の候補者の選考であり,新たに非常勤教員として任命され た者は,それぞれの職場となる学校において,上司である校長の職務命令 に従う義務を負うことになるから,法令及びこれに基づく適法な職務命令 を遵守し,公務を円滑に遂行することができる者を任用するという観点か ら,非常勤教員の選考に当たり,過去において職務命令違反の事実があっ たか否かを重視することがおよそ不合理であるということはできないとい う。また,職務命令が憲法
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条等に違反しない以上,地方公務員としての 原告らは職務命令に従う法的な義務があったことは明らかであり,それに もかかわらず,職務命令に対し,故意に,かつ,公然と違反した原告らの 行為について,都教委がこれを重大な非違行為であり,勤務成績が良好で あるとの要件を欠くと評価することが,著しく客観的合理性及び社会相当 性を欠くものであるとまではいうことができないという。このように,2016東京地判の判示には,本件一審判決において都教委の 裁量権を限定して審査密度を高める土台となった
(a)・(b)
がみられない。また,思想及び良心の自由についての「間接的な制約となる面がある」こ とに言及して「大きな不利益を課すことには取り分け慎重な考慮を要する」
とする本件一審判決・本件控訴審判決のような判示もみられない。すなわち,
裁量権の濫用・逸脱の有無の判断枠組みが本件一審判決・本件控訴審判決 のそれとは異なる。2016年判決の結論は,その当然の帰結のように思われ る。
もっとも,本件一審判決・本件控訴審判決さらには②③の事案とは異なり,
2016
東京地判における原告らの懲戒処分歴は戒告1回にとどまらず,減給,さらには停職にも及んでいる。それゆえ,本件一審判決・本件控訴審判決も,
そして
2016
東京地判も,いずれも都教委の広い裁量権を踏まえて当該各事 案における様々な事情を認定総合考慮したうえでの事例的判断であると理 解できないか,検討しておく必要がある。たしかに
2016
東京地判の原告2
は,判決文から窺われる限りでは,停職6
か月を含む5
回の懲戒処分を受けている。しかし,原告1
と原告3
は,戒告処分