注 ) 時 間 : 探 索 所 要 時 間 で 単 位 は 秒
矢印:頭部あるいは/および手に持った台紙の動き
T a b l e 6 開 眼 者 S M に お け る 形 の 識 別 に お け る 内 的 シ ス テ ム
【1981.10.15】 に ひ と つ ひ と つ 消 去 し て い る こ と が わ か る 。
他方,Table2の正三角形を見ると,たとえば8月8日 は,「上に伸びている」という標識と「下の部分が長い」
という標識を加算して正三角形と答えており,また,10 月15日では,「3つの角がある」という標識と「3つの辺 の長さが同じ」という標識を加算して,正三角形と答え ている。あるいは,同11月5日には円図形を探索して「角 がない」という標識のみを取り出し,その名称を言い当 てている(佐々木,1992)。
このような,形態名を判断するまでの経過をまとめる とTable6のようになる。ここでは,形の標識を消去,加 算あるいは抽出する3つの方式が現れたが,この段階で は,その3つの方式のいずれが現れるかは課題を行う際 の教示・事態に依拠すると考えられる。
鳥居(1980)は,開眼者について日用品などの事物の 把握過程を探り,そこには,対象属性に関する 属性重 ね合せ方式 から 属性重みづけ方式' に移行し,最終 的に 属性不変項抽出方式 が獲得されていく過程が存 在 す る の で は な い か と い っ て い る 。 本 実 験 の よ う な 一 見 単純にみえる幾何図形の把握過程にも類似する経過が現 れている。
このような,視・運動系における形のセットの消去,
加算,あるいは抽出の内的作業は形態名を応答するまで の所要時間として現れる。しかしその所要時間は徐々に 短縮していく(Senden,1932;鳥居,1982)。では,この とき内的システムにどのような変化が起きているのだろ うか。
このことを明らかにするために,提示図形の予告をす ることで弁別時間がどのように変化するかについて検討 することにした。
1.形の標識とそれに対応する形態名を内的にセット 2.形の所在を発見する探索
3.形を探索し,形の標識を抽出
3‑1.抽出した標識に対応しない形態名をひとつひと つ 消 去
3‑2.抽出した標識を加算
3‑3.抽出したひとつの標識によって判断
匠
187
開眼者sMにおける弁別事態と識別事態に おける菱形と平行四辺形の把握
【1982.9.15;10.2】
Table7
実験Ⅲ:弁別事態と識別事態に
おける探索所要時間
目的
ここでは,前もって2つの形態名をSMに告げ,その 2つの形のいずれか一方が提示されることを教示する(予 告)弁別事態と,形を提示することのみを教示する識別 事態(これまでの実験事態)の,2つの事態について比 較を行う。
予告を行う弁別事態では,形を見る前に内的にセット される数が限定されるので,形の探索の際にそのセット の消去,加算,あるいは抽出に要する時間を短縮できる のではないかと考えたのである。
方 法
実施日:1982年9月15日,同年10月2日の2回。
提示材料:実験Ⅱと同じ。
手続き:弁別事態では,「平行四辺形あるいは菱形のど ちらかを提示します。提示された形がそのどちらである のかを答えて下さい」と教示した。平行四辺形と菱形を 2回ずつランダム順に計4回提示した。
識別事態では,「形を提示します。それが何の形である かを答えて下さい」と教示した。従来の7種の図形をラ ンダム順に2回ずつ計14回提示した。
いずれの事態でも,SMは頭部あるいは両手に持った台 紙を自由に動かすことができる。
結 果 ・ 考 察
平行四辺形と菱形についてその2回の実験結果を,正 答一誤答,所要時間,頭部の動き,あるいは眼で見た後 に形を手で触るかどうかの4つの指標から整理したのが Table7である。
これをみると,いずれの事態においてもすべての試行 で形の名称を言い当てているが,所要時間,頭部の動き,
眼で見た後に手で触るかどうかの3つの指標では2つの 事態の結果は同一ではない。たとえば,所要時間の平均 をとると,弁別事態では菱形が5.2秒,平行四辺形が5.4 秒であり,一方,識別事態になると菱形が16.4秒,平行 四辺形が15.9秒と長くなっている。これと対応するよう に頭部の動きが多くなっている。また,弁別事態では眼 で見た後に手で触っていない。すなわち,弁別は識別に 比較すると容易な課題であり,形の探索の所要時間が短
くなることがわかる。
識別事態とは,内的に保有している複数の 形のセッ ト の中から,眼前の形を探索する途上で取り出した標 識と対応するセット・形態名を選び出す過程であろう。
このため,形のセット数が多い識別事態では目的のセッ トを捜し当てるために時間がかかり,探索時間が長くな ると考えられる。
回国
視 点 の 動 き |Bhand
卜 に ] L ◇◇
弁 別
1 J
開眼手術後における形の識別活動とその内的システム
に
注)各欄の上段は9月15日,下段は10月2日の結果である。
正 誤 : 正 十 , 誤 一 所 要 時 間 : 秒
視 点 の 動 き : 矢 印 で 示 す
Bhand:眼で見た後に手で触るかどうか,
触 ら な か っ た 場 合 − , 触 っ た 場 合 十
全 体 的 考 察
本稿では,開眼者SMの形一視・運動系活動を支える 内的システムについて,その触・運動系活動との関連に おいて,SMの言語報告を組織的に取り出す方法を主軸に 検討した。
最初に,視・運動系と触・運動系の両者の内的形態像 について探索し,その結果,触・運動系では形の全体的 な形態像が保持されており,一方,視・運動系では形を 捉える際の継時的な頭部(視点)の動きと,およびそれ に よ っ て 取 り 出 さ れ た 形 の 標 識 が 同 時 に 言 語 化 さ れ , そ れが形態名と結びついた形で保持されていたことが見出 された(実験I)。ただし,本稿で紹介した経過に限定し ても,SMの視・運動系の形態像は実験が進むに従って変 移し,形の幾何学的ルールと結びつく段階まで進展して いる。
このような,両者の系の形態像の形成段階の著しい隔 りは,Rock,&Harris(1967)がいう 視覚優位 とは 逆の,対象把握における 触覚優位',の現象として現れ
卜
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188 発 達 心 理 学 研 究 第 7 巻 第 2 号
てくる。事実,SMの日常場面を観察すると,触・運動系 の活動に依拠して眼をほとんど使わないという状況が起っ ている。これは,形に対してだけではなく事物やその配 置を捉えようとする際に,触・運動系活動の方が的確で 迅速である,という事情による。開眼者の場合,身体の 運動行動がすでに高次な段階まで形成されているために,
眼で捉えた情報が身体の移動や手の活動を即座に的確に 誘導するものでなければ眼を使う機会を失うのであろう。
これに対して,新生児の場合は身体運動行動自体がまだ 十分に形成されていないので,行動を誘導する視・運動 系活動をゆっくりと準備することができるのではないだ ろうか。この意味で,開眼者が手術を受けるまでの生活 歴の中で自ら作りあげた強固な触・運動系知覚体制は,
その視・運動系活動の形成を妨げる要因となる。視、運 動系活動はまだ芽生え始めたばかりの段階にあって,こ れに依拠して活動を発現・展開することは危険を伴うの である。ひとりSMにとどまらず,開眼手術を受けた娘 に,その父親は, 家のまわりを歩くときには注意深く眼 を閉じるように,,と手紙を書き送っている(Senden,1932, [10]Beer,1783‑1813)。
このような,触・運動系活動に依拠する段階を離れ,
視・運動系を中心とする知覚体制に組み換えていくため には,視・運動系の内的システムを順次即時的なシステ ムに作り換えていかねばならないであろう。そして,視、
運動系を介して獲得された情報がことばやイメージを操 作する内的活動の素材群となるためにも,これらがある 程度即時的なシステムの段階に達していることが必要で あると思われる。
本稿で紹介したSMの経過をみても,視・運動系の内 的 シ ス テ ム は 形 の 探 索 の 際 に 時 間 の か か る も の で あ る (実験Ⅱ)。一方,触・運動系では即時的な把握の段階に 到達している(実験I)。まるで視・運動系のような内的 システムが存在しないかのようである。しかし,眼で見 る場合でも,形を提示する前にそのセット数を限定して おく事態を設定するとその所要時間を短縮できる(実験Ⅲ)
ことから,直面する事態に対処する際に,前もってその 事態に関する情報を収集したり,それらを整理しておく 体験を積み重ねるに従い,徐々に探索時間が短縮してい くと考えられる。むろん,開眼者にとって種々の対象に 関する内的セット数をひとつひとつ積み重ねていくこと が視・運動系活動形成の基本作業となるのであるから,
その積み重ねの過程と連動しながら,対象の即時的把握 に向かわなければならないであろう。
このような,開眼者の形一視・運動系活動について,
触 . 運 動 系 の シ ス テ ム と 関 連 さ せ つ つ そ の 言 語 報 告 を 組 織的に取り出した研究報告はこれまでになかったが,こ の方法をとることによってその内的システムの構造をあ る程度推定することができ,その結果,視、運動系活動
の形成を援助する方策を立てやすくなった。開眼者の場 合,その形成を援助する操作に出会わないままでいると,
"盲人の状態に戻ってしまう,,(Hebb,1949)ことが起こ り得るので,この点は見逃せないであろう。
本研究と関連していくつかの課題が残されている。そ の第1は,開眼者の視・運動系一触・運動系間パターン 照合機能についてさらに探索を進めることである。SM についてその経過の一端が示された(実験I)がまだ不 十分である。たとえば,形一視・運動系活動が進展し即 時的把握の段階に到達したとき,触・運動系の形態像は 視・運動系形態像と一体となるのか,あるいは喪失する のか,というのもそのひとつである。そして,このよう な機能間関連性について明らかにしようとする際,その 発達が速やかに進行する乳幼児たちだけではなく,脳損 傷者や知的障害児と呼ばれる子どもたちの知覚障害状況 を対象としてその発達・形成の様相を追跡する方法も,
その様相をはっきりした形で取り出せる可能性があると いう点で,有力と思われる。
その第2は,眼球運動機能の形成過程についてである。
本研究では開眼者の内的システムの高次化の観点から即 時的把握の重要性を指摘したが,その即時的把握に至る 経過の裡には形を捉える際の頭部あるいは台紙の動きが 眼球の動きに変換されていく過程が連動するであろう(鳥 居,1982)。その経過の一端についてはすでにいくつかの 報告がある(Ackroyd,Humphrey,&WaITington,1974;
鳥居・望月,1992)が,多くの開眼者に現れる 不随意 的眼球運動Nystagmus (Senden,1932)の消失過程を視 野に入れた研究が侯たれる。
そして,第3は,眼で見たものを掴んだり,絵を描い たり,あるいは積み木でものを組み立てるような,眼と 手の運動協応機能の形成過程についてである。これまで の開眼者研究を遡ってみても,Carlson&Hyvarinen(1983)
の報告があるにすぎない。
文 献
Ackroyd,C、,Humphrey,N、K、,&Warrington,EK.
(1974).Lastingeffectsofearlyblindness:Acasestudy. Q灘arterZyJb哩r'2aZq/、E2員Peγ"e72taZRsycMqg〕ら26,
114−124.
Bryant,P.E,Jones,P.,Claxton,V,,&Perkins,G、M・
(1972).Recognitionofshapesacrossmodalitiesby infants・Mztzjγa240,303‑304.
Carlson,S、,&Hyvさrinen,L(1983).Visualrehabilitation afterlonglastingearlyblindness・ActaoPMZaL mQgたα,61,701−713.
Chesselden,W、(1728).Observationsmadebyayoung gentleman,whowasbornblind,orlosthissightso