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ドキュメント内 1-0-1vol.2(2)表紙2017 (ページ 132-196)

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歌える指導者の育成 -声楽技術の習得法と歌の本質的役割について-

知念利津子

はじめに

「声楽に関する専門的な学習を通して、楽曲の表現内容を理解し、表現意図を明確にして創造的に 表現する能力を養う」(1)

沖縄県立芸術大学の音楽学部には、大学の特色として琉球古典音楽専攻がある。琉球古典音楽の演 奏スタイルは洋楽のそれとは異なる。しかし、冒頭に記した声楽の音楽的な役割から、琉球古典音楽 専攻の学生も例外なく、音楽科教員養成課程を受講する者すべてが、副科声楽授業を履修しなければ ならない。

本論では、専攻が異なる学生たちに副科声楽授業の指導を行った筆者の経験から、彼らを将来的に 歌える指導者に育成する方法について、筆者の考えを紹介したい。その際、声楽の原点である発声法 や外国語歌曲及び日本語歌曲を習得する方法、そして歌がもつ本質的な役割に着目していく。

1.発声指導

1.1. 専攻に見られる発声の特徴

副科声楽授業の第一段階では、声楽の基礎となる発声の指導に重点を置く。具体的には、まず全履 修学生に対して呼吸法の練習と、母音を用いた発声練習「a・e・i・o・u」を行う。さらに美しい発声 法へと導くために「マ・メ・ミ・モ・ム」を基本とした発声練習も同時に進めていく。また、学生た ちに歌う姿勢を意識させるため、彼らを鏡の前に立たせ、姿勢と口形を確認させるのだが、発声の仕 方には、専攻ごとに興味深い特徴が見られた。

金管・木管楽器専攻の学生は、基礎練習として日常的にブレス・トレーニングを行う効果が出てお り、体をしっかり使って発声する者が多く、口腔内スペースも十分に確保できている。一概には言え ないが、ダブルリードを使用する木管楽器専攻の学生は、音を発生する際に空気圧を多く意識するか らか、より長いブレスコントロールが可能となる。

声門を開いた状態でブレスコントロールの練習を行う管楽器専攻の学生の中には、息漏れのよう な発声をする傾向が見られた。そのため体と声を繋げるためのスタッカートを使った音階訓練を取り 入れた。

演奏のアプローチが違う打楽器コースの学生は、立位での演奏が多いことから体幹の支えを感じ、

しっかりと発声することができる。菅・打楽コース学生には、自身の楽器奏法と歌唱法を照らし合わ せて分析させることで、効率の良い発声法を習得させていく。

長時間座って練習するピアノコース学生の姿勢には、背中が丸まって首が若干前に出ている者もお り、体幹を整えにくい傾向がある。音楽学・作曲コース学生にも同様のパターンが見られ、姿勢の改 善を指導する。そして、胸式呼吸ではなく腹式呼吸を意識させ、呼吸法を理解させる。以上のことは、

将来教壇に立つ際、生徒にきちんと指導が出来るようにするためのトレーニングも兼ねている。

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弦楽コース学生には、楽器の大きさで発声に違いが見られる。ヴァイオリンないしヴィオラ 専攻 の学生は、肩回りや頸椎で楽器を支える演奏の姿勢から、首の旋回が若干見られたため、姿勢を意識 させることにポイントを置く。声を自分の体に共鳴させることに慣れていない学生には、自身の専攻 楽器を自分の体にたとえ、声が共鳴する感覚を呼吸法とつなげて正しく発声できるように指導する。

コントラバス専攻の学生はいわゆる「バス椅子」(2)に座り、片足を床に着いて演奏する姿勢が長い ことから、体幹バランスが悪い。これは骨盤の歪みであり、彼らにも 美しい立ち方を指導する。

琉球古典音楽専攻の学生は、演奏専攻と舞踊専攻に分かれるが、どの学生も姿勢は非常に良く、体 幹が整っていて美しい立位姿勢が保たれている。しかし、西洋の発声技法と琉球古典音楽のそれとで は、体のアプローチ法と呼吸法に違いがある。そのため、二つの発声法を比較させながら、新たな発 声の視野を広げてもらう。また、ハミング(Hm)で声の共鳴ポイントを探す練習を取り入れ、柔らか く丸い響きのある声を出す技術を身に付けさせる。次いで母音の発声練習へと移行する。なかには西 洋音楽の楽譜を読むことに慣れておらず、琉球古典音楽特有の節まわしで発声・歌唱する学生もいる ため、読譜力の強化と同時並行で西洋音楽リズムの取り方の練習指導を行う。

1.2. 美しい声を導く発声メカニズム

副科声楽授業では、声の出る仕組みについても触れる必要がある。発声の仕組みを簡潔にまとめる と、発声とは喉の中にある声帯の程よい緊張と、肺から送られる呼吸による声帯の振動である。楽器 に例えると、ダブルリードを使用するオーボエやファゴットがそれと同じ働きとなる。さらに母音と 子音が加わり、言葉として成立する。

母音の発声は、口腔内のスペースと舌の位置よってほとんどが決定されるのだが、それだけでは言 葉としての意味を持たない。母音の発音に子音が加わることで、言葉として意味を持つ音となるのだ。

つまり、母音の持つ役割は音の発生にあり、子音は情報伝達のためのツールであるということを、歌 唱技術を習得する上で知らなければならない。

また、歌うという行為には言葉を音に乗せる技術が必要となる。言葉を学び、それを無意識に発声 できるようになるまでの段階で、人によっては、喉に力が入って顎で音の調子を取ってしまったり、

顎の緊張に伴い、顎関節の可動域が狭まったりする。これによって発音は不明瞭となってしまう。さ らに口腔内で舌根が固くなり、弛緩することのないガチガチの発声へと繋がる傾向がある。

そこから聴こえる声は明らかに不自然で、喉が詰まったような、固く人工的な声となり、聴き心地 の良い声とは言い難い。それは歌唱の際の足枷となりうるので、力を抜く方法をレッスンの中で経験 させる。このレッスンでは以下のポイントに重点を置いて指導を行う。

① 口腔内スペース確保

口腔内の十分な広さを保つためには、顎の力を抜くことが肝要である。学生には初めにあくびをさ せ、顎の力が抜けるかどうか、確認をさせる。次にリラックスした状態で温かい溜息のような声を出 すエクササイズに移行する。声を共鳴腔に響かせる手段として、「あくびをするように」「にっこり 笑うように」と指導されることが一般的である。しかし、実際の筋肉の動きを考えると、顔の表面の

筋肉を無理やり引き上げたところで、声は単に横に広がったような、平たい音になりがちになる。そ こで筆者は「微笑むように」と指導する。そうすることで不必要な力が抜け、表情も明るく顔の共鳴 腔(鼻腔)が機能してくる。そこからオ母音を使った発声練習に移行し、あくびの時のように 軟口 蓋周辺を柔らかく上部へ引き上げることで、首の後ろあたりの共鳴腔(喉頭腔)まで響きの広がりを 感じさせる。その結果、鼻腔の響きに相乗効果化をもたらされ、美しい発声に変化が起きる。

② 呼吸法

呼吸の仕組みを理解させるために、鼻と口からの吸気の違いを体験させる。つまり、呼吸をする時 に体のどこに息が入り、どのような体の広がりが起きるのかを体感させ、それによって胸式呼吸と腹 式呼吸の違いを体に覚えさせる。寝ているときの呼吸の入り方(=腹式呼吸)を立位 姿勢で再現さ せるために、腹式呼吸トレーニングは特に時間をかけて練習する。学生の中には、息をする以前に十 分な呼気(息を吐く)が行われておらず、まだ呼吸が残っている状態のまま息を取り込む作業を繰り 返す者もいる。そうすると体は緊張感を増し、重心が上半身に移動する。結果、呼吸が浅くなり、声 量の少ない声となる。これでは体を使った発声に繋がりにくいため、息を吐くことを体に覚えさせる 練習が必要となる。

③ 舌のリラックスと顎の弛緩エクササイズ

自然な発声に導くために、顎の力を弛緩させることは大切な作業の一つである。なかには、 顎関 節症を患っており、顎の開閉に障害がある学生もいるため、細心の注意を払わなければならない。ほ とんどの場合、歌唱時に顎の緊張が見られるので、弛緩を促すために上下の奥歯の間に 指一本分ほ どのスペースを確保させ、その状態で呼吸と共にオ母音を用いた発声練習を行う。このオ母音を口腔 内 スペースの基本とすることで、幾分か緊張を解く結果に繋がる。

舌も同じく、歌唱時に力が入りやすい。舌が固いと緊張の強い声となり、それがいわゆる「喉声」

に繋がりやすいので、舌のリラックスを心がけるよう指導する必要がある。男性は喉頭隆起(喉仏)

が確認しやすいので、鏡を見ながら喉頭を下げる訓練をさせる。その際に舌根のリラックスがないと 喉頭をうまく下げることができない。女性は喉頭隆起が目立たないため、 口の中の状態を鏡で見せ、

弛緩した状態の舌で自然な発声へ導くためのエクササイズを導入する。

1.3. 歌うための美しい姿勢―体幹を感じる必要性

現職の音楽教師数名からヒアリングを行ったところ、学校では歌うことの割合が高く、その機会を 使って、歌唱指導と生徒指導を同時に行うケースがあるとのことだった。つまり、歌うということを 通して生徒指導を行っていくことから、音楽教師には、より美しい姿勢での歌唱指導の技術と知識が 求められる。身体調整法を身に付けるのは歌を歌うためには不可欠なのである。

琉球古典音楽専攻の学生との洋楽専攻の学生とでは明確に立ち方の違いがみられる。琉球古典音楽 専攻の学生は普段から礼儀作法を学び、高い意識をもって美しい姿勢で立つことを心がけているので ある。その一方で訓練を行っていない他専攻の学生には歌唱時の美しい立位指導をすることが肝要で

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