●紹 介
山田省三「障害者雇用の法理──その基礎理論的課 題」
*竹中康之「障害者雇用保障法制の現状について
──障害者雇用保障法制の新局面についての分 析・検討の準備作業として」
有田 山田論文は,2006 年 12 月に採択された国連 障害者権利条約の批准を進めるため,日本でも国内法
の整備が必要となる中,障害者雇用のあり方を検討す ることが不可欠の課題となっているとの認識の下で,
いくつかの側面において,他の差別類型とは異なる側 面を有していると考えられる障害者雇用をめぐる法的 課題を検討しようとしたものです。
まず,具体的に立法化がされているところでは,調 整義務を課して,その義務の履行の有無を検討した上 で,それでもやむを得ないものなのかどうなのかとい うことを見ていく。現状の日本にはそういう立法はな いんですが,将来要求されるであろうもの,あるいは 障害者の権利条約の規定で定められているようなとこ ろを手がかりに,現在の社会状況の変化を踏まえて見 ていく。例えば,解雇権濫用かどうかを判断すると き,そうした障害,つまり職務能力の欠如を理由とし た解雇理由は相当性の判断のところで,合理的配慮や 調整を行った上で,なおかつやはり解雇やむなしと判 断されるかどうかということを現在の解釈論として,
つまり現在の労働契約法 16 条の解釈の問題として解釈 論を展開していくべきだと主張されています。ここは そういう解釈論が可能なのか,検討したいと思います。
それから,障害者雇用とワーク・ライフ・バランス や社会的包摂といったこととの関連性についてどのよ うに考えるのか。先ほどの調整ということともかかわ るのですが,とりわけ国連の条約ができて以降,障害 者雇用の問題というのは平等概念のとらえ直しを求め られているのではないかということで,相対的平等と いった概念でとらえ直していくことが主張されていま す。これは非常に受けとめなければいけない提言とい うか,主張かなと思います。特に能力主義的な人事考 課と評価というのが出てきたときにどう考えるか。こ こでは,障害者の雇用については継続が重要であるこ とから,在宅勤務,フレックスタイムや短時間就労と いった多様な就労形態が整備されることが不可欠であ り,このような多様な就労形態の存在は,健常者の ワーク・ライフ・バランスの確立にも資することにな ると述べています。何かユニバーサルデザインみたい な考え方で,障害者にとって働きやすい環境を整備す ることは,健常者にとっても同様の意味を有している のだと。そして,処遇の問題については,障害者の
「能力」評価に当たっても,その能力を発揮できるよ うな合理的な配慮がなされた上でという条件つきの能 力評価が求められていて,このような「多様性」とい う視点からの差別概念の見直しは,障害者にとどまら
ず,家庭責任等の事情によって能力を十分に発揮でき ない労働者についても共通する考え方であるので,こ れらのことは,比例的な処遇が保障される「相対的平 等」という概念が改めて検討されるべき段階に来てい ることを示しているとしています。ここはかなり注目 すべきところかと思います。
●討 論
野田 判例の話についてですが,今の段階では,判 例はまだ十分批判できないんじゃないかと,そういう 趣旨ですか。
有田 いや,そういう解釈が現段階で可能なのかど うなのかと。確かに必要だと思うんですけれども,ま あ,確かに解釈でできなくもないとは思うんですね。
ただ,立法化されても,その置かれた状況の中で何が 求められるかというのは,やはりケース・バイ・ケー スで判断していかないといけないということはあるの で,可能なのかなという気はします。特に成果主義的 な人事制度が広がっていく中では,もともとそのまま で比較されると到底同じにはできないという意味で は,差別の問題と,あとダイバーシティともかかわっ てきます。
竹内 山田論文は,差別禁止法理を多様性の観点か ら見直すとしていますが,差別禁止と多様性の関係は どういうものなのでしょうか。主張されているのは,
要するに,多様な人々がいて,多様な事情を抱えてい るときに,それぞれの事情を考慮して適切な処方をし ましょうということのように思います。これは,等し いものを等しく扱えとする典型的な差別禁止,平等取 扱の考え方とは異なる考え方のように思われます。確 かに,障害者差別の文脈では,合理的配慮の考え方が ありますが,この両者の関係をもう少し整とんしてい ただくと,さらに理解が深まるかなと思います。
有田 そういう意味では,最後に出てきた相対的平 等という概念を提示するというのが一つの答え方なの かなと思うのですが。
野田 ただ雰囲気はわかるんだけれども,どういう 意味の相対的なのか。例えば最低賃金法における今の 扱いのような問題でしょうか。よくわからない。
有田 おそらくそうでしょうね。最賃法の規定がそ のままこういう相対的平等という考えのあらわれかど うか,ちょっと自信はないですが。差別の問題を考え たときに,年齢と障害は属性が変えられないことは同
じですが,障害は誰しもに共通というわけではないで すよね。現行の障害者雇用促進法がある種なかなかう まく機能していないということがありますが,そうし た面にも留意して抜本的につくり直さないと,という のがありますね。
野田 そうですね。竹中論文で,「現状,障害者雇 用促進法に基づく雇用率によって障害者の雇用を促進 しようとしているけれど,実際には障害者にかかわる 事業主の雇用義務の希薄性,あいまい性に対する実効 性に根本的な問題がある」と指摘されていますが,こ れは非常に重い指摘だなと感心しました。法改正はど んどん進められていますが,まさしくその希薄性,あ いまい性をそのままにして進めているところがありま すよね。特例子会社とかグループ企業での雇用とか,
どんどん広がって雇用率の数字だけは帳じりを合わせ るけれども,実際に本当の意味での機能はしていない んだと。ですから,そういう中で,差別の問題として 根本概念をもう一遍とらえ直すというのは本当に重要 だと思いますね。こういう政策に依拠している限り は,やはり今の日本のシステムの中では出てこない。
有田 障害者雇用促進法の場合,一定の差別がある のを前提にした上で誘導していくという形ですよね。
だから,義務といっても,未達成の場合にはお金を払 わせて経済的に誘導していく。企業名の公表というの がプラスアルファで出て,割と最近はきちんと公表す るようにはなりましたけれど,消費者相手の企業では ない場合,どれぐらい実効性があるのか。
竹内 事業主の雇用義務の希薄性と関連すると思い ますが,竹中論文では,注目すべきと思ったのは,現 在の法定雇用率制度の批判的検討であれ,差別禁止と いう将来展望であれ,障害者を権利主体として認めた 上で考えることの重要性を強調されている点です。こ の点は,非常に重要な指摘だと思います。
有田 この論文で,現行の障害者雇用促進法と障害 者差別禁止の法制というのは全く相入れない,やはり 異なる原理の上に立っているから,政府が今考えよう としている共存しながらというようなことは基本的に 無理だということを書かれているのは,そうだなと思 います。
野田 差別禁止法ということになると,障害者を権 利主体に位置づけるという流れになってくるんでしょ うか。
有田 そうですね。実効性の問題ですから,私法的
効果を認めるようなところまでいかないと。
野田 例えば,アメリカみたいに合理的配慮がない と差別になって,行政が差別の是正命令を出すという。
有田 実際法制をつくって動かしていくということ になると,日本の場合,行政救済と司法救済の関係を どうするのかという問題も指摘されています。
小畑 ただ形式的に雇用するということだけでな く,その職場の中で,障害者の方々が本当にきちんと コミュニケーションもうまくいってやっていけるよ う,受容されていくということが一番重要だと思うん ですね。企業のいろんな方々とインタビューなどでお 話ししていると,障害のある方を雇用することについ て,経営者が反対するということでなく,従業員同士 で,受容について,あまりよくわからない,経験がな いための不安みたいなものとか,あとはその雇用の状 況が厳しい中で,障害者の方々を雇用して,しかも,
人を絞ってやっていく中で,どうやって本当にみんな がうまくいけるのかということへの不安みたいなもの があるから,むしろ従業員の中での理解の深め方みた いなものを実質的にうまくやっていかないと,ただ数 合わせになってしまうと。それは本当に嘆かわしいと 思うんです。
有田 差別禁止というアプローチだと,その辺がか なり変わってくる契機にはなるでしょうか。
野田 多分なるでしょうね。しかも,障害者権利条 約を批准した上でやるわけですから。
小畑 国際的な障害者雇用に関しての関心の高まり もあって,日本の企業の中でも,障害者雇用に関して の理解とか,障害者を受け入れることに対しての理解 みたいなものは,本当ここ数年ちょっと変わってきた と言われているので,とてもよい兆しですね。企業の 社会的責任としての障害者雇用のあり方について非常 に関心が高まってきて,報告書などでも随分触れるよ うになってきていますので,そういった中で,むしろ そういう報告書を作成する企業の方々が苦心している のは,経営者の説得ではなくて同僚の説得だというお 話が出てきて,そういうことを考えると,随分変わっ てきたと。
野田 まだ雇用率とか低レベルのところもあるんで しょうか。
小畑 さきほど有田先生がおっしゃったとおりで,
業種によって,大分違うということですね。
有田 やはり企業名公表という実効性確保措置に