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(1)

ツーバイ材を用いたログ耐力壁の せん断耐力性能評価

北海道大学 大学院農学院 環境フロンティアコース 修士課程

太田 萌香

(2)

目次

1 はじめに ・・・1

1.1 研究の背景

1.2 木造応急仮設住宅

1.3 研究の目的

2 試験体 ・・・2

2.1 材料

2.1.1 ツーバイシックス材 2.1.2 木ダボ

2.1.3 通しボルト 2.1.4 アンカーボルト

2.2 接合部要素試験体 ・・・4 2.3 実大試験体 ・・・5

3 試験方法 ・・・7

3.1 接合部要素試験

3.2 実大試験 ・・・8

4 試験結果 ・・・9

4.1 接合部要素試験

4.2 実大試験 ・・・11

5 謝辞 ・・・21

6 参考文献 ・・・22

(3)

1 1 はじめに

1.1 研究の背景

近年、地震をはじめとする災害が多く災害の規模によっては避難生活の長期化がみら れる。2011年3月11日に発生した東日本大震災においては津波や原発事故の発生により全 国プレハブ協会によるプレハブ型仮設住宅だけでは供給が追いつかず、地元の工務店によ って木造の仮設住宅が多く建てられた。以降、熊本地震や胆振地震の際には一定数の木造 仮設住宅が建てられるようになった。

1.2 木造応急仮設住宅

災害によって住宅が滅失した被災者のうち自らの資力では住宅を確保することができな い者に供給される住宅のことである。木造の応急仮設住宅は元の工務店が供給に参加する ことができ、木材の地産地消が実現できる。また、居住性能に関する評価が高く、避難生 活の中でも木目の安心感、あたたかみを感じられる。そして仮設住宅として利用した後は 恒久住宅の部材として再利用できる。しかし木造仮設住宅について材料の供給体制や居住 性能に関する研究は行われているものの、構法に関する研究はほとんど行われていない。

1.3 研究の目的

木造仮設住宅の多くは一般的かつプレカット工場が多くあることから在来軸組構法のも のが多い。柱と壁から構成される在来軸組構法に対して、丸太組構法は校木を積み上げた 丸太組壁が柱と壁を兼ねるため、構造、断熱を一手に担うことができ、木造仮設住宅に適 した構法であると考えた。また、仮設住宅として使用した後の材はコテージや恒久住宅に 再利用することができる。本研究では、木造仮設住宅をはじめとする仮設建築物の新たな 構法として丸太組構法を基本とする新たな構法を提案し、その耐力壁についてせん断耐力 性能を調べた。

(4)

2 2 試験体

2.1 材料

2.1.1 ツーバイシックス材

仮設住宅への利用において材の供給力は重要である。近年のウッドショックにより国外 からの材が入りづらい中、ツーバイ材は国産材としての供給力が期待できる。今回用いた のはツーバイシックスと呼ばれる断面寸法38×140mmの材で樹種はSPFである。SPF材は 成長が早く軽いため、価格が安い。また柔らかいため耐久性は劣るが加工が容易であると いう利点がある。

2.1.2 木ダボ

木ダボは丸太組構法の耐力壁におけるせん断抵抗要素である。水平力を下段に伝達し、

最終的に耐力壁と土台をつなぐアンカーボルトに水平力を伝達する役目を担っている。径

12mm、長さ96mmで樹種はハードメープルのものを使用した。

2.1.3 通しボルト

通しボルトは丸太組耐力壁全体の浮き上がりを防止するため、ログ最上段から最下段ま で貫通し、ログ壁を緊結固定する長いボルトである。径12mm、長さは1000mmで両端にね

じ部を200mm切り出した。通しボルトの上端から 500mmの位置にひずみゲージ(共和電

業製、スパン1mm、型番KFG-1N-120-C1-11L3M2R)を接着した。

2.1.4 アンカーボルト

土台とログ壁を固定するボルトで、径16mm、座金55×55mmのものを使用した。

(5)

3 ツーバイシックス材

施工の様子

ビス

(6)

4 2.2 接合部要素試験体

本研究の材料のほとんどは実験室にあったものを用いた。本研究における構法は2×6材 を3枚合わせにし、真ん中の材を20mm上部にずらしてビス(パネリードPX6-110)留めし た。ビスの本数は3本、ビス間隔は100mmとした。真ん中の材は積み上げる際の摩擦を軽 減するため面取りをした。真ん中の材に径13mm、深さ50mmのダボ穴を開け、木ダボ(径

12mm)で接合して積み上げた。木ダボ接合部の試験体の詳細を図2に示す。長さ300mm

の2×6材でログをつくり、各ログを木ダボ1本でつないだ。木ダボ接合部を2箇所含む3 段のログ小試験体を4体作成した。2段目のログは1段目、3段目のログから50mm水平方 向にずらし、木ダボの間隔は100mmとした。ログ同士が開かないよう器具ではさんで固定 した。

図1 ログの断面寸法

図2 要素試験体寸法

(7)

5 2.2 実大試験体

耐力壁の寸法を図3-1に示す。幅1800mmのログを6段積み、高さは860mmとした。木 ダボは接合部要素試験と同様に径12mm、先孔径13mm、長さ96mmのものを使用し、ダボ 孔の深さは50mmでダボ間隔は500mmとした。通しボルトは径12mm、先孔径16mm、長

さ1000mm、アンカーボルトは径16mm、先孔径18mmとした。最下段の凸部(真ん中の材)

をアンカーボルトの座金とナットの厚さ分座彫りし、アンカーボルトを挿入して最下段を 土台に固定した。耐力壁に設置した変位計の位置を図3-2に示す。壁全体の水平変位と垂直 変位、各ログ間の相対水平変位と相対垂直変位を測定した。変位計①-②間の距離は700mm、

変位計③-④間の距離は一体目の試験体では1700mm、2体目では1680mmであった。

図3-1 試験体寸法

(8)

6

図3-2 変位計の位置

(9)

7 3 試験方法

ログ耐力壁のせん断耐力性能を調べるにあたり、まず木ダボ接合部のせん断耐力を確認 するため接合部要素試験を行った。その後、実大試験体としてログ壁を作成し実大試験を 行った。

3.1 接合部要素試験

接合部のせん断耐力試験として木質構造設計規準・同解説にある繊維方向圧縮型加力試 験を行った。加力は木ダボが破壊し荷重が低下するまでとした。

試験の様子

(10)

8 3.2 実大試験

加力は正負交番加力とし、見かけのせん断変形角が1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/25rad の各段階で 3 回繰り返し加力後、一方向単調加力をおこなった。見かけのせん断変形角は 壁に水平力が加わった時の変位量δ を変位計①‐②間の距離 700mmで割ったものとした。

加力方向は引きを正、押しを負とした。

試験装置 正←加力方向→負

(11)

9 4 試験結果

ログ耐力壁におけるせん断抵抗要素は木ダボのせん断抵抗、通しボルトの引張抵抗、ロ グ同士の摩擦である(木村, 2002)。本構法においても同要素でせん断抵抗が生じると仮定 した。

4.1 接合部要素試験

接合部要素試験から得た荷重変位曲線を図4に示す。5%オフセット法を用いて初期剛性、

降伏せん断耐力を算出した(表 1)。荷重変位曲線の荷重ピーク後木ダボの降伏があり、2 つあるピークのうち1つ目のピーク後1本目のダボが降伏し、2つ目のピーク後もう一方の ダボが降伏した。一本目のダボ降伏時の変位を降伏時変位とし、試験体 4 体の平均値は

4.45mmであった。木ダボは主材側と側材側2箇所でせん断破壊があった。主材のダボ穴に

は木ダボのめり込みがみられた。

接合部要素試験後の木ダボ

(12)

10 2

0 2 4 6 8 10

0 2 4 6 8 10 12

荷重 [k N ]

変位[mm]

図4 荷重‐変位曲線

表1 接合部要素試験結果

(13)

11 4.2 実大試験

以下の写真は試験前後の実大試験体の様子である。接合部要素試験と同様に木ダボはせ ん断破壊をしており、ログのダボ穴には木ダボのめり込みがみられた。

試験前

試験後

(14)

12

はじめに実大試験における木ダボのせん断抵抗について実大試験における各ログの水平 変位量を表 2、表 3 に示す。接合部要素試験より木ダボが降伏したログの水平変位量は

4.45mmであった。変形角ごとの水平変位量は正加力時では試験体1、試験体2ともに1/100rad

で4.45mmをこえた。その後1/75、1/50radと水平変位が4.45mmをこえたログの段数が増え

ていき、1/25rad ではログ全段で4.45mm をこえたため、すべての木ダボが降伏したと考え られる。負加力時においても同様の傾向を示した。

表2 各ログの水平変位量(正加力時)

正加力)

表3 各ログの水平変位量(負加力時)

(15)

13

次に、実大試験における通しボルトの引張抵抗の発生についてであるが、通しボルトの 引張抵抗は壁にかかる軸力の増加により発生する。通しボルトに接着したひずみゲージで ひずみを測定し、以下の式から軸力を算出した。図5-1の通しボルト(左)にかかる軸力を 左軸力、通しボルト(右)にかかる軸力を右軸力とし軸力‐見かけのせん断変形角曲線を算 出した(図5-2)。通しボルトは鋼材であり、ヤング率は200GPaとした。

軸力Ν = σ ∙ Α ,σ = ε ∙ Ε σ:応力

Α:断面積 ε:ひずみ Ε:ヤング率

試験後の通しボルト

(16)

14

図5-1 通しボルト

(17)

15

試験体1は見かけのせん断変形角1/100radから軸力の増加があり、1/100rad以降で通しボ ルトの引張抵抗が生じた。最大軸力は試験体1で約4.5kN、試験体2で約8.6kNであった。

履歴曲線から軸力が正の時の包絡線をとると、試験体2では左軸力と右軸力の差があった。

-2 -1 0 1 2 3 4 5 6

-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04

軸力 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体1

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10

-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04

軸力 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体2

左軸力 右軸力

左軸力

右軸力

図5-2 軸力‐見かけのせん断変形角曲線

(18)

16

0 1 2 3 4 5

-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04

軸力 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

-0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 0.04

軸力 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

左軸力 右軸力

右軸力 左軸力

図5-3 軸力‐見かけのせん断変形角包絡線

(19)

17

実大試験における荷重-見かけのせん断変形角曲線から得た包絡線を図6に示す。グラフ のはじめは変形角が増加せず荷重のみが約1kN 増加したことから加力開始直後にログ同士 の摩擦抵抗が生じた。この摩擦抵抗は長尺のツーバイ材を 3 枚合わせにしているため、材 の反りやねじれ、加工精度による影響があると考えられる。

0 5 10 15 20 25 30 35

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

0 2 4 6 8

0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

図6 荷重‐見かけのせん断変形角包絡線

(20)

18

実大試験より得られた荷重-見かけのせん断変形角の履歴曲線を図7-1、7-2に示す。実大 試験1 回目では繰り返し加力後の単調加力では見かけの変形角が約1/7rad に達したところ で加力を停止した。その際、壁の倒壊はおこらず荷重が増加し続けた。木ダボがすべて破 壊していたことから通しボルトによるせん断抵抗のみが生じていると考えられる。加力を 停止したときの最大荷重は32.7kN、見かけのせん断変形角0.154rad、水平変位108mmであ った。繰り返し加力では加力開始後、ほとんど変形することなく荷重が約 1kN 増加してお り、ログ同士の摩擦抵抗が生じていると考えられる。その後 1/100rad 程度までは木ダボの せん断抵抗が生じる。1/100rad以降木ダボが降伏しはじめ、降伏していない木ダボのせん断 抵抗と通しボルトの引張抵抗が生じる。1/25rad に達すると木ダボはすべて降伏し通しボル トの引張抵抗のみが生じた。

-15 -10-50 5 10 15 20 25 30 35

-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体1

-15-10101520253035-505

-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体2

図7-1 荷重‐見かけのせん断変形角曲線

(21)

19 -10

-8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 10

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体1

-12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06

荷重 [kN ]

見かけのせん断変形角[rad]

試験体2

図7-2 荷重‐見かけのせん断変形角曲線(繰り返し加力)

表2 実大試験結果

(22)

20

今回、丸太組耐力壁のせん断抵抗要素として木ダボ、通しボルト、ログ同士の摩擦の 3 要素に分けて考察した。実大試験の壁の挙動から、壁にせん断力が加わった時はじめにロ グ同士の摩擦が生じ、その後木ダボによるせん断抵抗、通しボルトの引張抵抗が生じたこ とからはじめの仮定通りせん断抵抗要素がみられた。しかし、耐力壁のせん断強さを評価 する基準として壁倍率の算定という方法があるが、実大試験の結果から壁倍率を算定する ことができず、丸太組耐力壁の壁倍率を基準として比較することができなかった。見かけ のせん断変形角が 1/7rad に達しても木ダボの破壊と通しボルトの変形はあったがビスの引 抜けや壁の倒壊はおこらなかった。大きく変形しても倒壊しない点で丸太組耐力壁と同様 に粘り強い壁といえる。

(23)

21 5 謝辞

実験に際し試験体の作成から試験方法の確立、試験方法の操作まで終始ご協力いただい た佐々木義久技官、木材工学研究室の皆さん、基本的な知識からデータ処理、問題点があ ったときの解決案などたくさんの助言をくださいました佐々木貴信教授と澤田圭講師に深 い感謝の意を表します。ありがとうございました。

(24)

22 6 参考文献

木村岳朗. 丸太組耐力壁のせん断耐力性能評価, (2002)

芳賀沼整・滑田崇志. ログハウス仮設住宅の特性と今後の可能性について. 日本機械学会誌, vol.116, no.1135, (2013)

はりゅうウッドスタジオ・日本大学工学部建築学科浦部研究室・五十嵐太郎. 木造仮設住宅 群‐3.11からはじまったある建設の記録‐,

牧紀男・三浦研・小林正美. 応急仮設住宅の物理的実態と問題点に関する研究―災害後に供 給される住宅に関する研究―,日本建築学会計画系論文集,No.476 pp.125-133 (1995.10)

太田理樹・石井敦士・同阪田弘一. 災害時における木造仮設住宅の供給実態と課題―東日本 大震災における岩手県での公募供給事業の実態をもとに― 日本建築学会近畿支部研究発 表会, pp405-406, (2012)

渡邊史郎・角倉英明・金容善・藤田香織. 地域建設事業者による応急仮設住宅の実態―東日 本大震災における岩手県内の公募型応急仮設住宅を事例として― 日本建築学会関東支部 研究報告集82(11), pp465-468, (2012)

芳賀沼整・石坂公一・浦部智義. ログハウス型仮設住宅の特性と可能性に関する研究,日本 建築学会計画系論文集,第79巻,第696号,355-364, (2014)

(25)

23 付録

各ログの水平変位量の割合

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1/200 1/150 1/100 1/75 1/50 1/25

試験体1(正加力 )

ログ1 ログ2 ログ3 ログ4 ログ5

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1/200 1/150 1/100 1/75 1/50 1/25

試験体1(負加力)

ログ1 ログ2 ログ3 ログ4 ログ5

(26)

24 0%

20%

40%

60%

80%

100%

1/200 1/150 1/100 1/75 1/50 1/25

試験体2(正加力)

ログ1

ログ2 ログ3 ログ4 ログ5

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1/200 1/150 1/100 1/75 1/50 1/25

試験体2(負加力)

ログ1 ログ2 ログ3 ログ4 ログ5

(27)

25 荷重‐垂直変位履歴曲線

-15 -10 -5 0 5 10 15 20 25 30 35

-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8

荷重 [kN ]

垂直変位[mm]

-15 -10 -5 0 5 10 15 20 25

-3 -2 -1 0 1 2 3 4

荷重 [kN ]

垂直変位[mm]

(28)

26 各ログの垂直変位量

※マイナスの値は浮き上がりがあったことを示す

図 1  ログの断面寸法
図 3-1  試験体寸法
図 3-2  変位計の位置
図 4  荷重‐変位曲線
+7

参照

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