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2018年4月

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(1)

現代経済事情

2018年4月-5月

京都大学公共政策大学院長

京都大学大学院経済学研究科 教授

岩本 武和

(2)

4月11日 1 価格メカニズムと市場経済 4月18日

4月25日

5月2日

5月9日

(3)

3

自己紹介と研究内容

【経歴(学歴・職歴)】1957年広島市生まれ。 父親はプロ野球選手の岩本章。 灘中・灘高卒。早稲田大学政治経済学部卒業。

京都大学大学院時代は、指導教授は伊東光晴、ケインズ経済学および国際金融論を学ぶ。

東京外国語大学で専任講師(2年間)、静岡大学人文学部経済学科で助教授(3年間)を経て、

1993年4月に京都大学経済学部助教授、 1999年10月に京都大学大学院経済学研究科教授。

2013~2015年に日本国際経済学会会長

2014年~2016年に京都大学大学院経済学研究科長・経済学部長

2018年~2020年に京都大学公共政策大学院・院長

【専門と主要業績】専門は、国際経済学、国際金融論、国際マクロ経済学

『国際経済学:国際金融編』ミネルヴァ書房,2012年

『ケインズと世界経済』岩波書店,1999年

『岩波小辞典 国際経済・金融』岩波書店,2003年7月 (阿部顕三との共編著)

『グローバル・エコノミー(第3版)』有斐閣,2012年 (共著)

『基本現在経済学入門』有斐閣,1997年10月(共著)。

『金融グローバル化の危機:国際金融規制の経済学』岩波書店,2001年12月(共訳)

『IMF資本自由化論争』岩波書店,1999年9月(監訳)

「中国からの資本流出と人民元の国際化」、『問題と研究』台湾国立政治大学、第46巻第4号、2017年.

“International Investment Positions, Gross Capital Flows, and Global Liquidity,” The International Economy, vol.18, March, 2016, p.1-19.

「グローバル流動性とシャドー・バンキング・システム」『世界経済評論』 2014年、

「グロスの資本フローと対外インバランス」『世界経済評論』2013年、

「金融危機とグローバルインバランス:米国の高レバレッジ型対外ポジションの脆弱性を中心にして」『JBIC国際調査室報』

(4)

市場経済と金融危機

1. 金融危機と価格(市場)の歪み 2. 裁定と投機

3. レポート(説明)から論文(分析)へ

(5)

金融危機・経済危機・所得格差

① バブル崩壊後の1990年代から始まる日本の失われた20年と不良債権 の処理

② 1997年のアジア通貨危機

③ 2008年のリーマンショックで頂点に達したアメリカ発の世界金融危

④ 2009年のギリシャの財政赤字を発端とする欧州債務危機

• 金融危機・通貨危機⇒経済危機

⇒実体経済に深刻なダメージ

⇒所得格差(社会の亀裂)

(6)

Rajan, Raghuram,

Fault Lines

, Princeton UP, 2010

(伏見威蕃・月沢李歌子『フォールト・ラインズ「大断層」が金融危機を再び招く』新潮社,2011)

• 経済危機にまで発展する金融危機は、自然現象にたとえれば、巨大地 震(メガクエイク)のようなものだ。

地震とは、地球の表面を覆う巨大な岩盤(プレート)に長年蓄積された歪(ひず) みが限界に達したとき、巨大なエネルギーとなって、断層を動かし岩盤を破 壊するときに生じる振動のことである。

4 枚のプレートの境界に位置している日本は、岩盤中に大きな歪みが蓄えられ

るために、多くの地震が発生する。

• 経済現象である金融危機は、市場の歪(ゆが)みや価格の歪みが一定の 限界を超えたとき、巨大なエネルギーとなって、その歪みを是正する (不均衡を調整する)ときに発生する。体に感じないような地震は日常 的に頻発しているように、ほとんど全ての経済取引は、歪みの是正(不 均衡の調整)を動機として行われている。

(7)

『ハゲタカ』(NHK, 2007年)

• ハゲタカ(vulture fund)というのは、投資ファンドの一つで、「死にかけ た獲物の死臭を嗅ぎつけ、その肉を根こそぎ食い尽くす」のが彼らのビ ジネス手法。

• ときは金融危機後の不良債権処理に苦しむ日本。投資ファンドの日本法 人代表取締役に任命された鷲津政彦は、本社のトップから「日本を買い 叩け(Buy Japan out)!」というミッションを受け、キックオフミーティン グで部下たちにこう告げる。「目標はただ一つ。安く買って高く売るこ と。そして腐ったこの国を買い叩く」。

• 鷲津が最初のターゲットにした死にかけた獲物は、巨額の不良債権を抱 え瀕死の状態にある日本の銀行。同行が抱える額面総額1023億円(同行

の時価査定額420億円)の計53件の不良債権を、鷲津は93億円で買い叩き、

そこに含まれる物件を高く売り飛ばすことによって、目標利回りの30%

を達成した。

• 他方で、安く買い叩かれた物件(ドラマではある老舗旅館)は、新たな債 権者への返済が不可能となった経営者は自殺に追い込まれた(実体経済へ の痛み)。

(8)

裁定(arbitrage)

 安く買って、高く売ること

⇒安いところで買って、高いところで売ること

⇒地域間の価格差を利用して利益を上げること

 裁定取引⇒地域間の価格差⇒一物一価

 一物一価になれば裁定機会も消滅する

⇒無裁定条件(non-arbitrage condition)

(9)

裁定取引と一物一価

自動車価格 名目為替レート 実質為替レート

日本 200万円 (↗225万円)

1ドル=100円

(↘90円) 1.5(↘1)

アメリカ 3万ドル (↘2.5万ドル)

(10)

実質為替レート

(自国財に対する外国財の相対価格)

3 100( / ) 300

=

200× = 200 =1.5

アメリカ製自動車 万㌦ 円 ㌦ 万円

日本製自動車 万円 万円

= 自国通貨で測った外国財の価格 自国通貨で測った

実質為替レート

自国財の価格

2.5 90( / ) 225

= 1

225 225

× = =

アメリカ製自動車 万㌦ 円 ㌦ 万円

日本製自動車 万円 万円

一物一価になったときの名目為替レート=購買力平価(PPP)

PPP225万円/2.5万㌦=90/ 10

(11)

裁定取引の例

新聞のチラシで、キャベツの値段が、Aスーパーの方がBスーパーよ り安いという情報を知れば、誰もがAスーパーで買い、Bスーパーの キャベツも安くなるといったように、私達は意識せずに裁定取引をし ている。もちろん、現実には情報が不完全だったり、取引コストがか かったり等の理由により、このようにはならない。

外国為替市場(為替裁定取引)

東京市場で$1=¥90、NY市場で$1=¥100

¥90→$1→¥100

価格差である¥10が、利ざやとなる(裁定取引=さや取り)。

その結果、東京でドル買い、NYでドル売りという裁定取引が発生 し、東京でもNYでも仮に$1=¥95という一物一価が成立する。

(12)

市場メカニズム(価格メカニズム)

• 裁定取引によって実際に一物一価が成立するためには、次のような市 場メカニズム(①②)が働かなければならない。

① まず、日米の自動車市場(財市場)において価格が伸縮的でなければなら ない。すなわち、需要が増加すれば価格が上昇し、供給が増加すると 価格が下落するといった市場メカニズム(価格メカニズム)が有効に作用 しなければならない。

② また、外国為替市場においても為替レートが伸縮的でなければならな い。すなわち、ドル買いが増えればドル高になり、ドル売りが増えれ ばドル安になるといった変動相場制が有効に作用しなければならない。

(13)

P1

P2

P1

P2

D1 D2 D S2 S1 S

P P

D

D S

S

需要曲線(DD曲線)

価格が下がれば(P)、需要が増える(D) 価格が上げれば(P)、需要が減る(D)

供給曲線(SS曲線)

価格が下がれば(P)、供給が減る(S ) 価格が上げれば(P)、供給が増える(D )

(14)

S

S D

D S′

S′

超過供給 (ES)

市場経済とは?

需要と供給の不均衡(ED o r ES)が価格によって調整されるメカニズム

D′

P1 P2

P3 価格(P

cf. 計画経済とは?

需要と供給の不均衡(ED o r ES)が数量によって調整されるメカニズム

数量(SD

超過需要(ED)

D′

売れ残りがあると(在庫が増える) 価格が下がる

(不況のとき、物価が下がる ⇒デフレ) たくさん売れると(在庫が減ると)

価格が上がる

(好況のとき、物価が上がる ⇒インフレ)

(15)

金融危機で儲けた一握りの人たち

=裁定業者(arbitrager)≈投機筋?

• 市場(価格)の歪み=価格差(不均衡)

• 裁定業者は歪みを是正し(不均衡を調整)し、一物一価の世界に戻す

• 彼らがターゲットとする市場の歪み=価格差は、過大評価されている 価格・市場

⇒バブル崩壊後の日本の不良債権、タイの通貨バーツ(の空売り)、サブ プライムローン、ギリシャ国債(PIIGSソブリン債)[のCDS(クレジッ ト・デフォルト・スワップ)]

(16)

①のメカニズムを働かせるためには?

価格を下げるためには、

(a)労働生産性(y=Y/L)を上げるか

(b)コストとりわけ人件費(W=wL)を下げるか

しかない (Yは生産高、Lは雇用者数、wは一人あたり賃金率)。

自動車の生産Yが全て労働という生産要素Lだけで行われているならば、

労働生産性(y)の上昇は技術進歩を伴わなければならないので、短期的には期待で きない。

したがってコストのうち多くを占める人件費(W)の削減しかないが、それには、賃

金(w)のカットか、雇用(L)の削減かしかない。どちらにしても、アメリカ経済の実

体経済への痛みを伴う。

1

PY wL P w L w / w

Y Y L y

=    ∴ = × = × =

(17)

②のメカニズムを働かせるためには?

• こうした痛みをともなう①の調整メカニズムを拒否すれば、②の調 整メカニズムを利用するしかない。

• 日米間の自動車価格が全く変化しないくらい価格が硬直的ならば、

名目為替レートが1㌦=67円(200万円/3万㌦) へと、大きく円高に動けばよい。

• ただし、1㌦=100円から67円へといった大幅な円高には、為替リス クが伴う。つまり同じ3万㌦の自動車を販売しても、円建ての受取 額が300万円から200万円へと大きく減少してしまう。

• 同じ財を輸出して、受取額が変動するというのも、日本経済の実体 経済への痛みである。

(18)

欧州債務危機

• 2009年のギリシャの財政赤字をきっかけに広がった欧州債務危機

は、この①②のメカニズムが全く働かなかった典型的な事例。

• ユーロという共通通貨を採用しているユーロ圏諸国では、②のメ カニズムは全く作用しない。

• そこでユーロ導入後、①のメカニズムを作用させるべく、生産性 の上昇や労働市場改革を柱とした中期計画(リスボン戦略)にユー ロ圏諸国は合意。

• そうしなければ、ユーロ圏内で一物一価は成立せず、大きな価格 差が残存したまま共通通貨を使用することには、困難が伴うから である。

(19)

ドイツ vs. PIIGS

• しかし、①のメカニズムを有効に働かせるための構造改革に成功した のは、ドイツなどユーロ圏の一部の国。

• ギリシャをはじめとするいわゆるPIIGS(またはGIIPS)諸国(ポルトガ ル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)では、この改革 がほとんど進まなかった。

• 特に労働人口の3分の1が公務員で、年金も平均で61歳から、前倒しで 55歳から受給できるギリシャでは、大きな財政赤字へとつながった。

• 財政の破綻が明らかなのに、強い通貨であるユーロ建ての国債を発行 でき続けたという矛盾(ユーロ建てギリシャ国債の過大評価)によって、

ギリシャ国債は売り捌かれ、国債の価格が急落(利回りは急騰)したの である。

(20)

EU諸国の財政赤字

-35.0 -30.0 -25.0 -20.0 -15.0 -10.0 -5.0 0.0 5.0

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 対GDP比(%)

ギリシャ アイルランド イタリア ポルトガル スペイン フランス ドイツ

(21)

0 2 4 6 8 10 12

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

ギリシャ アイルランド イタリア

ポルトガル スペイン ドイツ

GIIPS諸国とドイツの10年物国債利回りの推移(各年1月の値、%)

(22)

EU諸国の国債利回り

0 5 10 15 20 25 30

39448 39569 39692 39814 39934 40057 40179 40299 40422 40544 40664 40787 40909

ギリシャ アイルランド イタリア ポルトガル スペイン フランス ドイツ

(23)

GIIPS諸国とドイツの単位当たり労働コスト*の推移(2000年を100とした指数)

*単位当たり労働コスト:賃金を生産性で割って算出した指標( /

(24)

PIIGS(GIIPS)諸国の国債売り

• 自ら痛みを伴う構造改革ができない場合、マーケット(裁定業者)自ら が市場メカニズムを作用させ、不均衡を調整することになる。過大評 価された価格差が裁定業者の利益となる。

• 欧州債務危機(European sovereign-debt crisis)のケースでは、過大評 価されたユーロ建てPIIGS諸国の国債を売却

⇒国債価格が下落(国債利回りは上昇)

(25)

クールヘッド(冷徹な頭脳)とウォームハート(他者への共感) 1.金融危機、例えば上記の欧州債務危機といった経済現象につ

いて、ただ日々刻々変化する新しい事実をフォローするだけ では、事柄の本質を理解したことにはならず、そこにどのよ うなメカニズムが働いているかを、できるだけ経済学の考え 方を使って、理解することに努めなければならない。そうで なければ経済学的な認識にまで深めることはできない。

2.しかし、現実にはそうしたメカニズムが自動的に働くわけで はない。あたかも自動的に作用するように記述している経済 メカニズムは、現実には多くの困難が伴っている。市場メカ ニズムを働かせるためには、痛みを伴うことが多い。たとえ 痛みを伴ってでも、「理論が教える通りに(市場経済は望ま しいという価値判断に従って)現実を変革すること」も一つ のスタンスではあるけれども、それに伴う痛みに社会がどこ まで耐えうるかまで考えを深めなければ、社会科学的な認識 にまで高めることはできない。

(26)

投機(speculation)

安く買って、高く売ること

=「安いときに買って、高いときに売ること」

=「異時点間の価格差を利用して利ざやを稼ぐ行為」

→「異時点間の価格の乱高下が平準化される」

したがって、「投機」は(「裁定」と同様に)「望ましい」?

(27)

投機の例

(28)

あるトレーダーの証言

• 「市場参加者の立場からすれば、資本自由化が望ましいという ことになるが、実際には市場によるディシプリンの効果にかな り疑問を感じている。機関投資家の行動パターンはお互い似て いるため、ある国が良いという話があればカネが集中し、集中 すれば資産価格が上がって、さらにカネが集まる。逆に何かの きっかけでカネが流出しはじめると、いっせいに引き揚げる。

• そのため、市場ではいわゆる順バリ投資が多くなり、逆バリ投

資は少なく、市場の安定性は損なわれがちだ。市場が安定的に

動くためには多様なプレイヤーが必要であり、いわゆる「市場

の深み」ないと自由化のメリットよりもデメリットの方が大き

いと思う。」。

(29)

ケインズ『一般理論』からのメッセージ

投機家は、企業の安定した流れのなかの泡である限り害毒を流さないであろう。し かし、企業が、投機の渦巻きの中の泡となってしまうと事柄は深刻である。一国の 資本蓄積が、カジノの賭博的活動の副産物になってしまうと、資本蓄積はうまく行 われなくなってしまう。ウォールストリートの社会的機能は、新しい投資を、将来 の期待収益という点でもっとも儲けの大きな方向に向けるということであるが、そ のウォールストリートの成功は自由放任の資本主義の輝かしい勝利の一つとみなす ことはできない。私はウォールストリートの最高の頭脳はほかの目的に向けられる べきと考えるのであるが、それが正しいとすれば、この結論は必ずしも驚くには値 しないわけである。」

「公共の利益のためには、カジノは近づきにくく、カネのかかるものにしておかな ければならない。おそらく同じことが株式取引にも当てはまる。ロンドン株式取引 所の罪がウォール街の罪より軽いのは、平均的なアメリカ人がウォール街に近づい たり、カネを支払ったりするのと比べて、平均的なイギリス人はスロッグモートン 街に近づきにくく、またカネのかかるものであるという事実によるものである。ア メリカにおいて投機が、企業活動に比べて優位である状態を緩和するためには、政 府が全ての取引に対してかなり重い税を課すことが、実行可能で最も役に立つ改革 となるであろう」 (原文ページ, pp.159-60)。

参照

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