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聴覚障害のある子どもの教育と学校支援 - 福島大学

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(1)

聴覚障害のある子どもの教育と学校支援

─ 聴覚障害特別支援学校のセンター的機能 ─

小檜山 宗 浩・片 寄   一・大 関 彰 久

 平成294月に新たな特別支援学校幼稚部教育要領及び小学部中学部学習指導要領が告示された。一方,社会情 勢が大きく変化している今日,聴覚支援学校においては,聴覚障害教育に関する専門性の維持・継承,乳幼児教育相 談事業を含む早期教育への対応,個別の指導計画・個別の支援計画を活用した連続性のある指導など,多くの課題が 山積している。さらに,障害のある子どもたちが,自らの人生を豊かにしていくとともに,新しい時代を切り開いて いく担い手となるよう必要な資質能力を育成するための教育課程の編成と実現が求められている。

 このような現状を踏まえ今回は,福島県立聴覚支援学校のこれまでに積み上げてきた専門性など教育の現状につい てまとめるとともに,医療や補聴技術の進展などにより小学校や中学校等で学ぶ聴覚に障害のある児童生徒等への支 援をはじめとするセンター的機能の取り組みについて報告する。

【キーワード】 聴覚障害 特別支援学校 センター的機能

1 は じ め に

平成19年4月1日に改正学校教育法が施行さ れ,特別支援教育が法的に位置付けられた。この ことを受けて,文部科学省初等中等教育局長より

「特別支援教育の推進について」通知され,特別 支援教育についての基本的な考え方や特別支援教 育を推進するための留意事項等が示された。この 中では,① 特別支援教育の理念,② 校長の責務,

③ 特別支援教育を行うための体制の整備及び必 要な取り組み,④ 特別支援学校における取り組 み,⑤ 教育委員会等における支援,⑥ 保護者か らの相談への対応や早期からの連携,⑦ 教育活 動等を行う際の留意事項等,⑧ 厚生労働省関係 機関等との連携について具体的に述べられてい る。特に,③ 特別支援教育を行うための体制の 整備及び必要な取り組みでは,特別支援教育に関 する校内委員会の設置とともに,特別支援教育 コーディネータの校務分掌への明確な位置づけが 求められた。また,④ 特別支援学校における取 り組みでは,障害のある幼児児童生徒一人一人の 教育的ニーズに応じた教育をさらに推進させると ともに,地域における特別支援教育の中心的な役 割を果たすためのセンター的機能の充実について も求められた。

改正学校教育法の施行から14年が経過し,こ の間,各学校においては特別支援教育についての さまざまな取り組みが実践され,発達障害を含む 支援が必要な子どもたちへの教育の充実が図られ てきた。また,特別支援学校では,障害種や地域 性に基づいたセンター的機能の検討がなされ,各 学校が特色ある取り組みを進めてきた。

さらに,新学習指導要領が告示され,特別支援 学校幼稚部は平成30年度から,小学部は令和2 年度,中学部は令和3年度,高等部は令和4年度 から全面実施となっており,各学校においては新 学習指導要領の趣旨に基づいた新たな対応が始 まっている。

また,令和3年1月に文部科学省より「新しい 時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会 議」報告が出され,特別支援教育を巡る状況と基 本的な考え方,障害のある子どもの学びの場の整 備・連携強化などについての内容が示された。

このようなことから,今後の特別支援教育をさ らに推進させるために,これまでの取り組みを振 りかえるとともに,新たな視点での教育活動の展 開を考えることが重要である。そこで,本稿では,

聴覚障害のある子どもの教育と学校支援に視点を あて,聴覚障害特別支援学校のセンター的機能を 中心に,これまでの取り組みを整理するとともに,

(2)

今後の課題と対応について考察する。

2 聴覚障害のある子どもの教育の現状につ いて

2.1. 聴覚特別支援学校の在籍者数の推移 聴覚に障害のある子どもの教育は,聴覚障害特 別支援学校がその中心的な役割を担ってきた。次 の表1,表2は,文部科学省の「特別支援教育資料」

を基にした在籍者数の推移をグラフ化したもので ある。(5月1日の在籍者数)

聴覚特別支援学校に在籍する幼児児童生徒数を 見てみると,平成19年度には全国の在籍者数の 合計は6,518名であったが,令和元年度には5,274 名に減少している。一方,福島県の在籍者数の合 計は,平成19年度,令和元年度ともに97名となっ ており大きな変化はない。

2.2. 福島県内の聴覚特別支援学校の状況 福島県立聴覚支援学校は,明治42年の創立以

来112年目となる県内唯一の聴覚に障害のある幼 児児童生徒のための学校である。令和2年度は,

本分校合わせた学級数は,前年比2学級増の41 学級,幼児児童生徒数は,4名増の101名が在籍 しており,職員数は,5名増の117名となっている。

郡山市に本校があり幼稚部,小学部,中学部,

高等部を設置している。高等部には,大学進学等 を目指す普通科のほか,情報工業科,生活技術科 を設置しており,企業等への就職に結びつけてい る。

また,本校には,児童生徒の通学の負担を軽減 することや卒業後の自立に向け基本的生活習慣を 身に着けるため,寄宿舎が設置されており,令和 3年1月より新たな寄宿舎での生活となっている。

(1) 本校(郡山市)

令和2年度の在籍幼児児童生徒数は,70名で あり,人工内耳装用や補聴システムの導入により,

口話でのコミュニケーションが可能な子どもも増 えているが,聞こえの実態差は大きい。子どもた ちに学力・言語力を定着させるため,日頃より情 報保障に努め,各教科と自立活動,並びに言語活 動の充実を図っている。

子どもたちの言語力やコミュニケーション能力 の実態差が大きいため,誤解によるトラブルが見 られるとともに,メールやインターネットに潜む 危険性への意識が低いことから,保護者と連携し た対応を生徒指導部と各学部が連携し,継続した 指導に努めている。

生徒の進路希望は,大学進学や企業及び福祉的 就労など多様であり,県内唯一の聴覚支援学校と しての役割と責任を果たすため,高等部において は普通科,情報工業科,生活技術科の特色や実績 を地域の中学校や特別支援学校中学部への発信に 努めている。

さらに,地域支援センター,教育支援アドバイ ザーを中心に早期からの教育相談を進めており,

保健・福祉,教育等との連携体制が構築されてき ている。

また,センター的機能の発揮により,小・中学 校等における適切な配慮について支援を重ねてい 2 聴覚特別支援学校在籍者数(福島県)

1 聴覚特別支援学校在籍者数(全国)

(3)

くとともに,市町村教育委員会等との連携を密に,

学習指導や進路状況等,本校での学習によるメ リットを発信している。

(2) 福島校(福島市)

令和2年度の在籍幼児児童数は,14名であり,

居住地は福島市10名,相馬市2名,伊達市1名,

二本松市1名となっている。就学について,学区 内の学校を希望するか,聴覚支援学校を希望する か地理的な条件も踏まえて検討する保護者が多 く,幼児児童の状態等から適切な学びの場につい て迷いがある保護者もいることから,丁寧な教育 相談と情報提供を行いながら,関係機関等と連携 した進路指導に努めている。

「自ら考えて行動する力の育成」を目指し,学 級及び学年の幼児児童数は少ないが,互いに学び 合う学習集団の工夫を行っている。その中での他 者との関係性や社会性,協調性を身に付ける活動 について工夫している。幼児児童一人一人の指導 上の課題については,保護者との連絡を密に行っ ており,幼児児童自身の課題意識を高める指導の 充実にも努めている。

さらに,「主体的に思考する力の育成」を目指し,

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改 善を進めている。また,新型コロナウイルス感染 症対策を踏まえながら近隣の保育所や小学校との 交流及び共同学習に継続的に取り組んでいる。幼 児児童一人一人に応じた音声・文字・手話等のコ ミュニケーション手段を適切に活用し,言語力を 育む指導について工夫・改善を図っている。

(3) 会津校(会津若松市)

令和2年度の在籍幼児児童数は,5名であり,

基本的な生活習慣の確立,社会性の涵養,自立心 の育成などを目標にした生徒指導を行っている。

意図的に集団活動を設定し,集団の中での適切な 行動や態度,責任感を育てることに努めている。

教職員全員が一人一人の幼児児童に応じた「学 力,言語力そして生きる力」を育成することを目 標に,言語活動を大切にした授業づくりや学校生 活全般で言葉を育むためのかかわりを行ってい る。

在籍幼児児童の多くが聴覚支援学校内での進 級,進学となることが多く,将来の自立と社会参 加を目標として,各教科や各教科等を合わせた指 導において,キャリア教育の視点を大切にした指 導の実施に努めている。

さらに,集団としての活動や社会性の育成を図 るため,居住地校との交流及び共同学習を行うな ど,交流及び共同学習及び地域交流の充実に努め ている。

(4) 平校(いわき市)

令和2年度の在籍幼児児童数は,12名であり,

全員がいわき市在住である。通学は保護者送迎で あることから,家庭と学校との連携を密に行って おり,いじめや生徒事故等の発生はない。在籍者 数が少ないため,集団の中で学ぶ機会の確保に努 めている。

一人一人の聞こえの状態や言葉の獲得が異なる ことを把握した上で,学年毎・課程毎の授業を展 開している。また,集団性を確保するために,教 科の特性に応じて全学年合同で授業を展開してい る。近隣のいわき市立草野小学校と交流及び共同 学習を42年間継続し,地域とのつながりが深い。

下学年対応の授業展開が多いが,学年相当の授業 が展開できるよう指導することに努めている。

幼稚部から小学部,小学部から本校中学部とい う進路だけを想定せず,特別支援学級(難聴)や 公私立中学校,県立特別支援学校等個々の実態に 応じた進路選択を想定し,適切な学びの場を選択 できるようきめ細かく教育相談を実施している。

中学校など直近の進路指導ではなく,高等学校,

大学,就職を意識し,地域教育事務所や市町村教 育委員会とも連携した進路指導を展開していくこ とが今後の課題である。

2.3. 小・中学校等における教育の現状

小・中学校に在籍している聴覚障害のある児童 生徒の教育は,難聴特別支援学級や難聴通級指導 教室において行われている。表3,表4は難聴の 特別支援学級に在籍している児童生徒数の推移を 示したものである。

(4)

聴覚特別支援学級に在籍する児童生徒数の推移 を比較してみると,全国的には増加傾向が顕著で あり,平成19年度と令和元年度では約1.6倍に 増加している。福島県においても年度によって増 減はあるが,ゆるやかに増加している。また,表 5は全国の難聴通級指導教室に在籍する児童生徒 の推移であり,通級指導を受けている児童生徒数 も増加傾向にある。

3 聴覚支援学校におけるセンター的機能の 取り組みについて

特別支援学校のセンター的機能については,平 成19年6月の学校教育法の一部改正により,特 別支援学校においては,第72条に規定する目的 を実現するための教育を行うほか,幼稚園,小学 校,中学校,高等学校又は 中等教育学校の要請 に応じて,第81条第1項に規定する幼児,児童 又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行う よう努めるものとするこことなった。

このため,福島県立聴覚支援学校では,平成 24年4月に「地域支援セターみみらんど・郡山」

設置し,乳幼児をはじめ児童生徒の教育相談や研 修会の充実,ホームページなどによる情報発信に 努めている。

さらに,本県においては,「地域で共に学び,

共に生きる教育の推進」を図るため,平成29年 度より,県重点事業として,「未来へつなぐ子育て・

教育充実事業:(小事業)切れ目のない支援体制 整備事業」を実施し,地域支援体制の整備や相談 支援等の充実を図るため,全ての県立特別支援学 校に地域支援センターを設置するとともに,本校 15校に1名の教育支援アドバイザーを配置する など,市町村における切れ目のない支援体制の構 築に努めている。

福島県立聴覚支援学校の取り組みについては,

下記のとおりである。

(1) 地域支援

①  幼児児童生徒の教育相談(来校,電話相談)

②  出かける支援(教育相談,児童生徒への出 前授業,教員の研修等への協力,等)

③  教員の研修会等支援(きこえとことばの基 本研修会年3回,セミナー 年1回,特別 支援教育研修会 開催)

④ 教材教具,書籍,DVD等の貸し出し

⑤ まなびあいサロン(保護者)

⑥  情報発信(HP,リーフレット,みみらん ど通信

4 難聴特別支援学級在籍者数(福島県)

3 難聴特別支援学級在籍者数(全国)

5 難聴通級指導教室在籍者数(全国)

(5)

(2) 早期教育相談

①  0歳〜就学前の乳幼児の教育相談(来校,

電話相談)

②  みみちゃん教室の運営(0歳〜就学前の継 続した指導・支援)

③  まなびあいサロン(保護者)

④ 書籍,DVD等の貸し出し

⑤  情報発信(HP,リーフレット,みみらん ど通信 等)

(3) 校内支援

①  本校在籍幼児児童生徒への支援(ケース会 議の開催,関係機関との連絡・調整)

②  まなびあいサロン(保護者対象年5回開催)

③ 書籍,DVD等の貸し出し

④  情報発信(HP,リーフレット,みみらん ど通信 等)

(4) 各分校「みみらんど」との連携

①  福島県立聴覚支援学校本分校地域支援セン ター連絡会(年2回開催)

さらに,県南地区においては,聴覚障害への理 解・啓発と教育と福祉が連携する支援体制の整備 に向けて,各教育委員会や保健福祉事務所等を訪 問し,協力を依頼し,県南教育事務所と連携し,

みみちゃん教室サテライトを年3回開催している。

3.1. 就学前教室と教育相談の実施

(1) 就学前教室について

乳幼児教育相談については,「みみちゃん教室」

として60分から90分程度で相談を実施してお り,保健福祉機関への広報・周知に努めている。

市町村の規模によって保健師とのかかわりに差が あり,保護者まで情報を届けることが難しい状況 にあるが,利用者は増加している。

(2) 教育相談の実施状況について

郡山市内特別支援学校のコーディネータや教育 支援アドバイザー,教育事務所担当指導主事等で 連携協議会を開催し,各校の現状と課題等を協議 している。

東日本大震災が発生した平成24年度は相談件 数が減少したが,近年は年間300件相当の相談を

行っている。

乳幼児教育相談の対象児には,障がいが重複し ている子どもがいるため,各特別支援学校と情報 を共有して支援をつなげていく必要がある。

3.2. 小・中学校等への学校支援の状況

小・中学校等への支援については,出かける支 援として実施しており,教育相談や小・中学校,

高等学校児童生徒への難聴理解のための出前授 業,教員等への研修の協力,聴覚支援学校在籍児 童生徒との交流及び共同学習のための難聴理解の ための授業などを行っている。

具体の出前授業では,「聴覚に障がいがあるっ てどんなこと? 聴覚障がいの体験をしよう(疑 似体験)」として実施するなど,主に聴覚障害の ある児童生徒とのコミュニケーションについて取 り上げている。

7 教育相談の実施状況 6 就学前教室の利用者数

(6)

出前授業後の感想については,「難聴の人は大 変だと思った。補聴器はいろいろな音を拾い,大 きな音は出してはいけないと思った。雑音の中で 人の話を聞くことが大変だと分かった。周りの様 子が分からなくて怖いと思った。」など話があっ た。

3.3. 東北教育オーディオロジー研究協議会の取 り組み

東北教育オーディオロジー研究協議会は,平成 25年8月10日(土)に,福島県郡山市において 第1回総会及び研修会を開き,現在に至っている。

本研究協議会の設立のきっかけは,平成24年 5月に,当時東京大学客員教授であった大沼直樹 先生をお迎えして実施した福島県立聴覚支援学校 の教職員研修セミナーにより,大沼先生の授業研 究会や講演会におけるお話をお聞きし,全国で唯 一設立がない東北地区においても聾教育の専門性 の向上,特に聴覚補償と情報保障の向上が必要で あり,東北地区の聴覚支援学校教職員が連携協力 することが重要であると強く感じた教職員の熱い 思いが発端となった。

設立の趣旨は,聴覚支援学校に蓄積された聴覚 補償と情報保障を大事にした聾教育は,人工内耳 装用児も含めてあらゆる聴覚障害児に対して,今 後ますます必要性・重要性が増すと考えられるこ とや学校教育法施行令の一部改正によって,聴覚 障害があるから聴覚支援学校に就学するといった

画一的な就学制度でなくなったことを踏まえ,聴 覚支援学校が社会や個人のニーズを満たし,子ど もや保護者から選ばれる学校,役に立つ学校とし て存続してくことが求められる時代になったこと などがあげられる。

設立以降毎年,聴覚支援学校教員や言語聴覚士

(ST)だけではなく,聾教育に関心を持っている 聴覚支援学校以外の教員,将来教員やSTを目指 している学生の参加を得て総会及び研修会を開催 し,東北地区各聴覚支援学校での専門性向上に向 けた取り組みについて協議を深めるとともに,情 報交換を行っている。

一方,本研究協議会については,東北地区聴覚 支援学校長会において位置づけられており,随時 協議題として取り上げられ,運営に関し様々な支 援をいただいている。

東北教育オーディオロジー研究協議会の設立に より,日本教育オーディオロジー研究会の全国9 地区(北海道・東北・北陸・関東・東海・近畿・

中国・四国・九州)の研究協議会が全て揃ったこ とになり,人工内耳と新生児聴覚スクリーニング が普及した現在,「医療と教育の連携」について 研鑽を積み,聴覚障害児の最適の教育を考えると ともに,例えば,聴覚過敏や発達障害,盲ろう教 育などに関しても話題するなど,教育オーディオ ロジーが役立つと認められる範囲を拡大し,情報 保障も取り込んだ活動を展開していくことを目指 している。

3.4. 聞こえに課題のある児童生徒の学習環境等

に関する調査

聞こえに課題のある児童生徒の学習環境等実態 調査については,平成24年2月に聴覚支援学校 福島校学校医から「人工内耳装用の子どもたちが 学校で適用できているのか心配である。」との助 言がはじまりとなっている。

福島県立聴覚支援学校では,早速校内関係者に より協議し,下記の方針を立てた。

(1) 小・中学校等に在籍している聴覚障害児 の現状と課題を明確にするため,県特別支援教育 8 小・中学校等への支援状況

(7)

センター,県内7教育事務所,各市町村教育委員 会等の協力を得て早急に実態調査を行うこと。

(2) 「調査」が主な目的ではなく,あくまで,

該当児童生徒及び担任等の「支援」に結びつく調 査とすること。

(3) 調査及び支援にあたっては,聴覚障害乳 幼児・児童生徒の医療に深く関わっている医師の 協力を得ること。

さらに,医師の心配とは別に,福島県立聴覚支 援学校でのこれまでの教育相談においても,人工 内耳や補聴器を装用すれば,「音」としての聞こ えが良くなり,言葉の理解が自然にできるという 誤解や学習面でつまずきがある子どもへの支援を 早急にする必要性を感じていたこと,また,特別 支援教育センターでは,病弱や聴覚障害といった 少人数障害の教育の充実も図りたいという考えが あったことが,本調査が実現できた大きな要因と なっている。

具体的な調査の実施については,今なお小・中 学校等で困り感がなくても学習面生活面で支障が 出ているかもしれない子どもたち等への支援を,

速やかに行うことを優先するとした考えのもと,

聞こえの調査委員会を設置し,急ぎ調査を実施し た。それぞれの立場は違っていても,聴覚障害の ある子どもたちへの支援を早急に実施したいとい う思いがなくては実現しなかった。

併せて,人工内耳や補聴器を装用していなくて も,担任が聞こえに何らかの心配をしている児童 生徒も,調査対象とした。

こうした現状を踏まえ,平成24年4月に県特 別支援教育センターにおいて,第1回調査研究委 員会が開催され,下記の実施要項が決定した。

(1) 実施要項  ① 調査の目的

 ア  平成13年度より開始された新生児聴覚ス クリーニング検査等により,早期発見早期 療育が行われるようになるとともに,人工 内耳手術の普及により,聴覚障害児が通常 の学級等に在籍する傾向が見られる。人工 内耳装用児等の学習環境及び学習状況等の

実態について調査し,その課題について考 察する。

 イ  第6福島県総合教育計画では,障害のある 子どもたちが「地域で共に学び,共に生き る教育」を推進することが施策として示さ れており,また,平成24年2月には,文 部科学省の中央教育審議会特別支援教育の 在り方に関する特別委員会から―学校にお ける「合理的配慮」の観点―が報告された。

本県における聴覚障害児の学習環境等の実 態を把握し,今後の環境整備及び教員研修 等に役立てる。

 ウ  改正学校教育法により規定された特別支援 教育のセンター的機能について,福島県立 聴覚支援学校本分校では,「地域支援セン ター」を開設して活動をすることとなった。

調査により,潜在しているいわゆる「困り 感」等地域のニーズを把握し,支援活動の 充実を図る。

 ② 調査・研究体制

(主催)

福島県特別支援教育センター 福島県立医科大学(耳鼻咽喉科)

福島県総合療育センター 福島県立聴覚支援学校

(助言・協力者)

鶴岡美果:(財)星総合病院(耳鼻咽喉科医師)

(事務局)

福島県特別支援教育センター 福島県立聴覚支援学校福島校  ③ 調査の対象

 ア 一次調査

  福島県内の公立小・中学校   福島県内の私立小・中学校

  福島県内の特別支援学校小・中学部  イ 二次調査

  一次調査で聴覚障害児が在籍していると回 答した学校

 ウ 三次調査

  二次調査で聴覚障害児が在籍していると回

(8)

答した学校(小中学校のみ)

④ 調査結果

ア  小学校や中学校で学んでいるきこえに障害 のある児童生徒数は,平成24年度調査で は,77校で394名(内人工内耳装用児8名),

平成29年度調査では,98校で485名(内 人工内耳装用児10名)となり,増加傾向 となっている。

イ  人工内耳や補聴器等,機器を使用している 児童生徒数も増加している。

ウ  そのほとんどが通常の学級で学んでいるこ とを踏まえ,各学校に対し,聴覚障害につ いての情報や支援についての情報提供等が 必要である。

エ  平成24年度は,公私立小学校483校,公 私立中学校244校,計727校に調査を依頼 した。

オ  平成29年度は,公私立小学校448校,公 私立中学校230校,計678校に調査を依頼 した。

4 まとめと課題・今後の対応 4.1. 考察

 (1) 聴覚障害のある子どもの教育について は,自立と社会参加に向けた指導の充実が重要と なっていることら,教員は,特別支援教育,特に 聴覚障害教育の専門性をより一層高め,一人一人 の状態等に応じて,音声,文字,手話等のコミュ ニケーション手段を適切に活用し,言語力(言語 活動を通して,言葉の意味を理解し主体的に思考 する力)の育成や向上に努めていく必要があると 考えている。

 (2) 聴覚支援学校で学ぶ幼児児童生徒につい ては,補聴器のデジタル化や集団補聴システムな ど補聴機器の技術の開発と著しい進歩の中にいる とともに,人工内耳装用児も増加している。一方,

幼児児童生徒の障害については,重度・重複化,

発達障害など多様化がより一層進んでいることか ら,一人一人の教育的ニーズに応じた指導を充実 させるため,多様なコミュニケーション手段を適

切に活用することについて研究・研修を進めてい く必要があると考えている。

 (3) さらには,今後ともICTを活用するなど して,情報保障を充実させ,自立活動の指導と各 教科指導を積極的に関連させ,授業の充実を図る とともに,一人一人の言語力を高め,主体的に思 考し,自ら考えて学ぶ力を育むためにICTを活用 した授業づくりが重要になるものと考えている。

 (4) 聴覚支援学校に在籍している幼児児童生 徒数については,他都道県では減少傾向にあるが,

本県においては100名程度で推移をしている。こ のことは,本県では,新生児聴覚スクリーニング 検査による難聴の早期発見が医療関係者の尽力に より丁寧に行われてきた証であり,県が主催する

「福島県新生児聴覚検査推進会議」により,現状 と課題や今後の対応について,医療・福祉・教育 等の関係者の生きて働くネットワークによる連携 と協力があってのことと考えている。

 (5) 聴覚支援学校におけるセンター的機能の 取り組みについては,関係機関と連携し,地域の 保育園や幼稚園,小学校,中学校等に在籍する聴 覚障害のある子どもたちに対して,専門性を活か した切れ目のない支援を行うとともに,乳幼児早 期教育相談「みみちゃん教室」にあっては,「個 別の教育支援計画」の作成と活用を図り,乳幼児,

保護者への支援を組織的に行うことができるよう にすることが重要になると考えている。

4.2. 課題

 (1) 聴覚支援学校においては,在籍者数は少 ないものの,実態が多様化している幼児児童生徒 に対し,教員が一人一人の実態をより的確に把握 し,個に応じた教育の工夫と充実が求められる。

このため,聴覚障害教育において行われてきた指 導内容や指導方法の目的や意図を理解し,幼児児 童生徒の実態を考慮して最も適切と思われる指導 方法を選択したり,発達段階を考慮した指導方法 を段階的に変えたりするなどの工夫が今後ますま す重要になる。

(2) 福島県立聴覚支援学校における乳幼児教

(9)

育相談「みみちゃん教室」については,長い歴史 を持っており,センター的機能の中でも,特に重 要な役割を担っている。こうした乳幼児教育相談 の実施については,制度上明確な位置づけがない など十分な体制となっていない。さらに,乳幼児 教育相談担当者には,保護者の安心,子どもの発 達を導き出して行くためには医療保健機関等と連 携し乳幼児や保護者支援を適切に進めて,広くて 深い専門性が求められているが,研修制度等は確 立していない。

(3) 人工内耳装用児や重複障害のある幼児児 童生徒が増加してきており,学校にける教育と医 療機関における訓練等との連携が大きな課題とな る。例えば,子どもが幼稚部と療育機関を併用す る場合には,連携した指導を行うために,指導方 針や具体的な指導内容等について,相互の情報の 共有が一層重要になるものと考えられる。

(4) 聴覚支援学校から地域の小学校や中学校 等に入学したり進学したりする事例や地域の学校 から聴覚支援学校に転学したりする事例が多く なっており,聴覚支援学校,難聴学級,ことばの 教室など通級による指導,通常の学級といった連 続性のある多様な学びの場を整備していくことが 課題となる。

4.3. 今後の対応

(1) 文部科学省においては,バリアフリー法 などを基に,特別支援学校の設置基準の策定を進 めることとしている。さらに,本県においては,

福島県県立特別支援学校全体整備計画に基づき特 別支援学校の学習環境の整備が進められている。

今後は,国が定める設置基準に基づき,福島県立 聴覚支援学校校舎改築や相双地区の聴覚障害児の ための分校や分教室設置による学習環境の整備に ついて,検討を進めることが必要となる。

(2) 聴覚支援学校においては,これまで聴覚 障害による学習上又は生活上の困難さに対する指 導法を追求し,専門性を積み上げてきている。一 方,医療や補聴技術の進展などにより在籍する子 どもたちの障害の状況状態や教育歴,進路先など,

その実態が多様化してきており,基礎的・基本的 な事項を確実に身につけるための指導や,より深 い学びを実現するための指導など,一人一人の子 どもたちの可能性を伸ばすための指導のあり方を 追求していく必要がある。

(3) さらに,聴覚障害教育の専門性として培 われた言語指導や教科指導の配慮や工夫などを継 承していくとともに,これからの新しい時代に必 要な資質能力を育むための授業改善を通して,専 門性を高めていくことが必要となる。

(4) 一方,福島県においては,東日本大震災 と原子力発電所事故からの復興・創生の途上にあ り,さらには大規模自然災害の発生やWithコロ ナの日常生活など,かつてないほど難しい時代を 迎えている。福島県立聴覚支援学校を含めた特別 支援学校に対する期待は,ますます大きくなって きていることから,今後とも,障がいのある子ど もたちや保護者をはじめ地域から,選ばれる特別 支援学校,役に立つ特別支援学校,地域に根ざし た信頼される特別支援学校づくりが重要になる。

引用参考文献

文部科学省(2018) 特別支援学校教育要領・学習指導要 領解説総則編(幼稚部・小学部・中学部)(平成30 330日)

文部科学省(2020) 聴覚障害教育の手引き─言語に関す る指導の充実を目指して─(令和23月)

全国聾学校長会(2011) 全国聾学校長会専門性充実部会 編聾学校における専門性を高めるための教職教員研 修用テキスト改訂版(平成23223日)

聾教育研究会(2013) 聴覚障害8月号2013 vol 68調査研 究─きこえに課題がある児童生徒の学習環境に関す る実態調査─(平成25820日)

東北教育オーディオロジー研究協議会(2014) 東北教育 オーディオロジー研究協議会会報創刊号(平成26 3月)

公益財団法人聴覚障害者教育福祉協会・聴覚障害乳幼児教 育相談研究委員会(2019) 平成30年度聴覚障害乳 幼児教育相談研究会成果報告書─聴覚障害乳幼児の 教育相談指導の現状と課題─(平成31331日)

聞こえの調査委員会(2017) 平成29年度小中学校に在籍 する聞こえに課題のある児童生徒の学習状況調査の まとめ

(2021年4月16日受理)

(10)

Education and School Support for Children with Hearing Disabilities : Center Function of Deaf Special School

KOBIYAMA Munehiro, KATAYOSE Hashime and OOZEKI Akihisa

参照

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