• 検索結果がありません。

法 人 の 機 関 に よ る 保 険 事 故 招 致 に つ い て

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "法 人 の 機 関 に よ る 保 険 事 故 招 致 に つ い て "

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

法 人 の 機 関 に よ る 保 険 事 故 招 致 に つ い て

北 海 道 大 学 大 学 院 河 森 計 二

Ⅰ 問 題 の 所 在

法 人 が 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 の 場 合( 以 下 、こ の 場 合 を「 法 人 契 約 」と 呼 ぶ )、

観 念 的 な 存 在 に す ぎ な い 法 人 自 身 が 現 実 に 行 動 し て 保 険 事 故 を 招 致 す る こ と は あ り え な い か ら 、 法 人 の う ち の 誰 の 故 意 を も っ て 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 の 故 意 と み な さ れ る か が 問 題 と な る 。

商 法 6 4 1 条 後 段 で は 、 損 害 保 険 契 約 に お け る 免 責 事 由 と し て 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 の 悪 意 も し く は 重 過 失 に よ っ て 損 害 が 生 じ た 場 合 、 保 険 者 は 免 責 さ れ る と 規 定 し て い る 。 し か し 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る 場 合 、 法 人 の い か な る 範 囲 の 者 の 保 険 事 故 招 致 を 法 人 の 事 故 招 致 と 認 め る か に つ い て は 、 商 法 6 4 1 条 の 文 言 か ら す る と 明 ら か で は な い 。 よ っ て 、 法 人 契 約 で は 、 つ ぎ の 問 題 が 生 じ る 。

問 題 ① : 法 人 以 外 の 第 三 者 が 保 険 事 故 を 招 致 し た と き で も 、 商 法 6 4 1 条 を 適 用 し 得 る の か ?

問 題 ② : 商 法 6 41 条 の 適 用 が 可 能 で あ れ ば 、 法 人 に 関 係 す る 者 の う ち 、 だ れ の 事 故 招 致 を も っ て 法 人 の 事 故 招 致 と 評 価 す る こ と が で き る の か ?

Ⅱ 従 来 の 学 説 と 裁 判 例

1 商 法 6 4 1 条 後 段 と 第 三 者 の 保 険 事 故 招 致

(2)

商 法 6 41 条 後 段 は 、 保 険 契 約 者 も し く は 被 保 険 者 の 悪 意 も し く は 重 大 な 過 失 に よ っ て 生 じ た 損 害 は 保 険 者 こ れ を て ん 補 す る 責 に 任 ぜ ず と 規 定 す る 。 し か し 、 被 保 険 者 と 一 定 の 関 係 に あ る 第 三 者 に よ る 保 険 事 故 招 致 に つ い て は 何 ら 規 定 し て い な い 。

も っ と も 、後 述 す る よ う に 、火 災 保 険 約 款 で は 、通 常 、「 保 険 契 約 者 、被 保 険 者 ま た は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人( 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る と き は 、 そ の 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 ) の 故 意 も し く は 重 大 な 過 失 ま た は 法 令 違 反 」 に よ っ て 生 じ た 損 害 に 対 し て は 、 保 険 金 が 支 払 わ れ な い 」 と さ れ て い る 。 こ の 約 款 の 免 責 条 項 は 、 一 般 に 、 商 法 6 4 1 条 後 段 の 立 法 趣 旨 と 同 義 で あ る と 解 さ れ て い る 。 そ こ で ま ず 、 商 法 6 4 1 条 後 段 の 立 法 趣 旨 が 何 に あ る の か を 整 理 し た 後 、 商 法 64 1 条 後 段 と 約 款 の 免 責 条 項 と の 関 係 に つ い て 整 理 す る こ と に す る 。

( 1 ) 商 法 6 4 1 条 の 立 法 趣 旨

理 論 的 根 拠 は 何 か と い う こ と に つ い て は 、 当 然 だ と い う 説 も あ る 。 し か し 、 故 意 の 場 合 に は 当 然 と い え る か も し れ な い が 、 重 過 失 の 場 合 に 当 然 か と い う と 問 題 が あ る よ う に 思 え る 。

A 説 ( 偶 然 性 欠 如 説 )

保 険 事 故 は 本 来 偶 然 な 一 定 の 事 故 で な け れ ば な ら な い 。 し た が っ て 、 故 意 ま た は 重 大 な 過 失 で 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 に は 偶 然 性 を 欠 く と い う こ と で 根 拠 づ け る 。

B 説 ( 通 説 ・ 判 例 )

保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 が 故 意 ・ 重 過 失 に よ り 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 、 被 保 険 者 に 保 険 金 請 求 権 を 認 め る こ と は 、 保 険 契 約 当 事 者 間 の 信 義 誠 実 の 原 則 に 反

(3)

し 、 な お か つ 倫 理 、 公 序 良 俗 等 、 公 益 上 の 要 請 を 損 な う か ら 、 一 般 に こ れ を 保 険 者 免 責 と し た と さ れ る 。

C 説 ( 条 件 成 就 説 )

民 法 1 3 0 条 の 類 推 適 用 : 条 件 の 成 就 に よ っ て 利 益 を う る 者 が 、 信 義 誠 実 に 反 し て 条 件 を 成 就 さ せ た と い う 考 え 方 を 保 険 事 故 招 致 の 場 合 に も 及 ぼ す べ き だ と す る 見 解 。

D 説 ( 高 度 の 危 険 除 外 説 )

保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 の 故 意 ・ 重 過 失 と い う 主 観 的 な 高 度 の 危 険 を 除 外 す る こ と を 目 的 と す る 保 険 者 免 責 条 項 と 理 解 す る も の 。 す な わ ち 、 被 保 険 者 側 が 事 故 招 致 を し た も の ま で て ん 補 す る こ と に な る と 、 保 険 事 故 が 多 発 し て 、 通 常 の 保 険 料 で は ま か な え な い こ と に な る 。 要 す る に 、 保 険 会 社 が 、 こ の よ う な も の ま で て ん 補 す る こ と に な る と 、 保 険 の 引 受 け 手 が い な く な っ て し ま う た め 、 保 険 者 は 免 責 さ れ る と 説 明 す る 。

( 2 ) 商 法 6 4 1 条 後 段 の 任 意 法 規 性

① 重 過 失 に よ る 事 故 招 致 の て ん 補 可 能 性

重 過 失 に よ る 事 故 招 致 で あ っ て も て ん 補 す る と い う こ と は 可 能 か 。 有 効 で あ る こ と は 現 在 で は 異 論 は な い で あ ろ う 。 ま た 、 実 際 、 任 意 の 自 動 車 総 合 保 険 約 款 で も 、故 意 の 事 故 招 致 に つ い て は 保 険 金 を 支 払 わ な い が 、重 過 失 に つ い て は 、 一 般 に 、 免 責 条 項 か ら 除 か れ て い る 。

※ 自 動 車 損 害 賠 償 保 障 法 ( 以 下 、「 自 賠 法 」 と い う ) 1 4 条

「 保 険 会 社 は 、・・・保 険 契 約 者 又 は 被 保 険 者 の 悪 意 に よ っ て 生 じ た 損 害 に つ い て の み 、 て ん 補 の 責 め を 免 れ る 」

⇒ 自 賠 法 で も 重 過 失 に よ る 損 害 で 損 害 賠 償 責 任 を 負 い 、 こ れ を 履 行 し た

(4)

被 保 険 者 は 保 険 会 社 に 保 険 金 の 請 求 が で き る と い う こ と に な っ て い る 。 な お 、 自 賠 法 自 体 は 被 害 者 の 救 済 と い う こ と も 目 的 と さ れ る た め 、 被 害 者 が 保 険 会 社 に 直 接 請 求 し た 場 合 に 関 し て は 、 こ の 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 の 悪 意 も 抗 弁 と す る こ と も で き ず に 支 払 わ な け れ ば い け な い と い う こ と に な っ て い る 。 そ し て 、 支 払 っ た 金 額 に つ い て は 、 保 険 会 社 は 政 府 に 補 償 請 求 が で き る と い う こ と に な っ て い る ( 自 賠 法 16 条 4 項 )。 こ の 補 償 請 求 に 応 じ た 政 府 は 被 害 者 の 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 に 対 す る 権 利 に つ い て 代 位 す る と い う こ と に な っ て い る ( 自 賠 法 76 条 2 項 )。

② 悪 意 ( 故 意 ) に よ る 事 故 招 致 の て ん 補 可 能 性

悪 意 す な わ ち 故 意 の 場 合 で も て ん 補 す る こ と は 可 能 か 。 こ れ は 一 般 的 に は 悪 意 に つ い て も て ん 補 す る と い う の は 公 序 良 俗 に 反 す る 。 た だ し 、 違 法 性 の な い 悪 意 あ る い は 故 意 の 場 合 で は 、 て ん 補 可 能 と 考 え ら れ る 。

< 違 法 性 の な い 故 意 に よ る 事 故 招 致 の 例 >

正 当 防 衛 、 緊 急 避 難 、 人 命 救 助 の た め に 行 っ た 事 故 、 共 同 海 損 e t c .

⇒ 公 序 良 俗 に 反 し な い 限 り 、 契 約 当 事 者 の 約 定 に よ り 変 更 可 能 な 任 意 規 定 と 解 さ れ る 。

し た が っ て 、 約 款 で 保 険 者 が 免 責 と な る 保 険 事 故 招 致 者 の 範 囲 が 確 定 さ れ て い れ ば 、 そ れ に 従 う と い う こ と に な る で あ ろ う ( た だ し 、 不 合 理 な 範 囲 の 拡 張 は 許 さ れ な い と 思 わ れ る )。

2 商 法 6 4 1 条 後 段 と 約 款 免 責 条 項 と の 関 係

約 款 に 保 険 事 故 招 致 者 の 範 囲 が 書 か れ て い た と し て も 、 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 以 外 の 第 三 者 に よ る 保 険 事 故 招 致 に 関 し て 、 従 来 、 代 表 者 責 任 論 と い う こ と が 言 わ れ て き た 。 す な わ ち 、 問 題 と な る の は 、 第 三 者 が 保 険 契 約 者 や 被 保 険 者 と 近 い

(5)

法 律 関 係 に あ る 場 合 、 た と え ば 、 家 族 、 使 用 人 、 代 理 人 、 そ し て 本 報 告 で 取 扱 う 法 人 の 機 関 の よ う に 、 保 険 契 約 者 や 被 保 険 者 と 身 分 的 に も 契 約 的 に も 近 い 法 律 関 係 に あ る 者 が 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 、 単 に 法 律 上 、 第 三 者 で あ る と い う こ と で 保 険 者 の 免 責 を 認 め な い と い う こ と に な る と 問 題 が 生 じ て く る 。 す な わ ち 、 保 険 契 約 者 や 被 保 険 者 が 教 唆 し て 保 険 事 故 を 招 致 さ せ 、 あ る い は 共 謀 し て 実 行 は 第 三 者 に さ せ る 場 合 、 あ る い は 被 保 険 者 の 監 督 義 務 に 重 大 な 違 反 が あ る 場 合 、 問 題 が あ る と さ れ て き た の で あ る 。

( 1 ) 学 説

第 1 説 ( 代 表 者 責 任 論 )

保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 に か わ っ て 保 険 の 目 的 物 を 事 実 上 管 理 す る 地 位 に あ る 者 が 故 意 ・ 重 過 失 に よ っ て 保 険 事 故 を 招 致 し た と き は 、 商 法 6 4 1 条 後 段 に い う 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 の 保 険 事 故 招 致 と 同 視 し て 保 険 者 免 責 に な る と 解 し 、免 責 条 項 に 規 定 さ れ て い る 被 保 険 者 の 法 定 代 理 人 や 理 事・取 締 役 な ど が 、 そ れ に 該 当 す る 場 合 に は 、 そ の 者 の 悪 意 ・ 重 過 失 に よ る 事 故 招 致 に つ い て 保 険 者 の 免 責 が 認 め ら れ る と 解 す る 見 解 。 こ の 見 解 に よ れ ば 、 仮 に 約 款 の 免 責 条 項 に 規 定 が な く と も 、商 法 6 4 1 条 後 段 の 解 釈 に よ っ て 保 険 者 免 責 は 当 然 に 導 か れ 、 免 責 条 項 の 規 定 は 当 然 の こ と を 確 認 し た に す ぎ な い と い う こ と に な る 。

第 2 説 ( 自 己 責 任 主 義 )

商 法 6 4 1 条 後 段 で 保 険 者 の 免 責 が 認 め ら れ る の は 、 被 保 険 者 の よ う な 保 険 の 利 益 享 受 者 が 悪 意 ・ 重 過 失 で 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 を 中 心 に 考 え る べ き で あ る と 解 し 、 免 責 条 項 で 、 法 定 代 理 人 や 理 事 ・ 取 締 役 な ど の 事 故 招 致 が 免 責 事 由 と さ れ て い る の は 、 こ れ ら の 場 合 に は 実 際 上 被 保 険 者 な ど と 共 謀 ・ 教 唆 な ど と い っ た 関 係 に あ る こ と が 少 な く な く 、し か も そ の 立 証 が 困 難 な こ と が 多 い た め 、 立 証 の 困 難 を 除 去 す る た め に 政 策 的 に 設 け ら れ た も の と 解 す る 見 解 。

(6)

第 3 説 ( 経 済 的 被 保 険 者 理 論 )

第 2 説( 自 己 責 任 主 義 )の 立 場 を と り な が ら も 、保 険 事 故 を 招 致 す る 行 為 は 、 法 律 行 為 で は な く 事 実 行 為 で あ る か ら 、 個 々 の 自 然 人 の 行 為 を 把 握 せ ざ る を 得 ず 、 そ れ ゆ え 、 同 条 後 段 の 趣 旨 に 基 づ き 、 た と え ば 、 法 人 は 、 そ の 機 関 を 構 成 す る 自 然 人 の 意 思 お よ び 行 為 を 通 じ て 活 動 す る も の で あ る た め 、 法 人 の 機 関 構 成 員 の 保 険 事 故 招 致 は 保 険 者 免 責 に な る と 解 し 、 免 責 条 項 は 同 条 後 段 の 趣 旨 を 確 認 も し く は 明 確 化 し た も の と 解 す る 見 解 。

( 2 ) 裁 判 例

保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 以 外 の 第 三 者 に よ る 保 険 事 故 招 致 に 関 す る 裁 判 例 を み る と 、 未 成 年 者 の 法 定 代 理 人 ・ 後 見 人 が 未 成 年 者 を 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 と し て 保 険 契 約 を 締 結 し 、 そ の 後 、 後 見 人 が 事 故 招 致 ( 放 火 の 教 唆 ) を し た 事 例 に お い て 、保 険 者 を 免 責 に し た も の が あ る( 大 審 院 昭 和 1 8 年 6 月 9 日 判 決 ・法 律 新 聞 4 8 5 1 号 5 頁 )。 逆 に 、 法 人 に 関 し て 被 保 険 者 た る 法 人 の 理 事 が 自 己 の 犯 跡 を 隠 す た め に 放 火 し た 事 例 に お い て 、 大 審 院 は 保 険 者 の 責 任 を 肯 定 し て い る 。 そ の 理 由 と し て 、 保 険 者 が 免 責 と な る の は 、 法 人 の 理 事 が 、 法 人 の 目 的 の 範 囲 内 で 職 務 執 行 者 と し て な し た と き で あ り 、 本 件 は 、 も っ ぱ ら 個 人 た る 資 格 に よ っ て な し た も の で あ る か ら 、 保 険 者 は 免 責 と は な ら な い と し た 。 こ こ で は 、 近 時 の 法 人 契 約 に お け る 保 険 事 故 招 致 に 関 す る 主 な 裁 判 例 を 紹 介 す る こ と に と ど め る 。

① 判 決 : 東 京 地 裁 昭 和 5 8 年 5 月 9 日 判 決 ( 判 時 1 0 97 号 1 1 0 頁 、 判 タ 50 3 号 8 7 頁 )

法 人 に つ い て 不 法 行 為 に 基 づ く 損 害 賠 償 責 任 を 肯 定 す る に は 民 法 4 4 条 1 項 又 は 7 15 条 1 項 の い ず れ か の 規 定 を 介 す る 必 要 が あ り 、 法 人 自 体 に つ い て

(7)

直 接 民 法 7 0 9 条 の 適 用 は な い 。

② 判 決 : 大 阪 高 裁 平 成 1 0 年 5 月 2 7 日 判 決 ( 判 タ 9 8 4 号 2 3 8 頁 )

原 告 会 社 の 代 表 取 締 役 の 夫 を 同 社 の 実 質 的 代 表 者 と み な し 、 本 件 免 責 条 項 を 適 用 し た 事 例 。

ち な み に 、 夫 は 原 告 会 社 が 造 成 し た 宅 地 を 販 売 す る 会 社 の 代 表 取 締 役 で あ る 。

③ 判 決 : 福 岡 地 裁 平 成 1 1 年 1 月 2 8 日 判 決 ( 判 時 1 6 8 4 号 1 2 4 頁 )

会 社 が 経 営 面 で 全 面 的 に 依 存 し て い た 経 営 コ ン サ ル タ ン ト ( 監 査 役 ) A に よ る 放 火 の 場 合 に 、 会 社 が 保 険 金 請 求 を な す こ と は 信 義 則 に 反 す る と し た 事 例 。

A は 、「 X 会 社 の 経 営 に 深 く 関 与 し て い た と は い え 、監 査 役 に す ぎ ず 、本 件 建 物 を 事 実 上 管 理 し て い た 訳 で も な い か ら 、 本 件 免 責 条 項 の 『 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 』 に 該 当 す る と い う こ と は で き な い 。( 略 )A と 密 接 な 関 係 に あ っ た 会 社 が A の 放 火 に よ る 本 件 火 災 に 基 づ く 本 件 各 請 求 を 行 う こ と は 、 信 義 誠 実 の 原 則 に 反 し 、 許 さ れ な い も の と い う べ き で あ る 」 と 判 示 し た 。

④ 判 決 : 大 阪 高 裁 平 成 1 1 年 9 月 3 0 日 判 決 ( 判 時 1 7 0 7 号 1 7 1 頁 、 判 タ 1 0 3 1 号 2 0 3 頁 )

破 産 会 社 の 破 産 宣 告 前 の 取 締 役 の 放 火 に よ る 家 屋 の 焼 失 事 故 に つ き 保 険 契 約 者 等 の 取 締 役 の 故 意 に よ っ て 生 じ た 損 害 を 填 補 し な い 旨 の 免 責 条 項 に 基 づ く 保 険 金 の 支 払 免 責 が 認 め ら れ な か っ た 事 例 。

(8)

⑤ 判 決 : 札 幌 高 裁 平 成 1 1 年 1 0 月 2 6 日 判 決 ( 金 商 1 0 99 号 3 5 頁 )

会 社 の 従 業 員 A を 、 約 款 に お け る 「 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 」 と み な し て 、 保 険 者 免 責 の 条 項 を 適 用 し た 事 例 。

従 業 員 A は 、 約 款 の 「 免 責 条 項 に い う 『 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 』 に 当 た る と い う べ き で あ る 。 す な わ ち 、 A は 従 業 員 で あ っ た も の の 、 会 社 の 代 表 者 か ら 任 さ れ 、 営 業 の 実 際 の ほ と ん ど を 行 い 、 保 険 の 目 的 を 管 理 す る な ど し て い た も の で あ る か ら 、 会 社 の た め に そ の 機 関 と し て 業 務 を 執 行 し て い た も の と い う べ き で あ り 、 本 件 放 火 も 〔 会 社 〕 の 経 営 再 建 の た め に 会 社 に 本 件 保 険 金 を 取 得 さ せ よ う と 企 図 し て な さ れ た も の で あ っ て 、 会 社 の た め に な さ れ た そ の 機 関 の 行 為 と み る の が 相 当 で あ る 。 し た が っ て 、 本 件 火 災 は 本 件 免 責 条 項 が 適 用 さ れ 、 保 険 会 社 は 保 険 金 を 支 払 う 義 務 が な い 」 と 判 示 し た 。

⑥ 判 決 : 東 京 地 裁 平 成 1 2 年 9 月 2 7 日 判 決 ( 判 時 1 7 3 3 号 1 2 8 頁 、 判 タ 1 0 7 3 号 2 0 0 頁 )

保 険 契 約 締 結 直 前 ま で 取 締 役 で あ り 、 現 在 も 実 質 的 な 経 営 権 を 把 握 す る 者 が 、 約 款 に お け る 「 そ の 他 の 機 関 」 に 該 当 す る と し た 事 例 。

実 質 的 経 営 者 で あ る A は 、「 本 件 契 約 時 な い し 本 件 火 災 発 生 時 の 会 社 の 取 締 役 で は な い が 、 本 件 各 契 約 直 前 ま で は 代 表 取 締 役 で あ っ た こ と 、 現 在 の 代 表 者 は 同 人 の 妻 で あ る も の の 、 実 質 的 な 経 営 権 は 依 然 と し て A が 掌 握 し て お り 、 会 長 と 呼 ば れ て い る こ と な ど の 諸 事 情 を 勘 案 す れ ば 、 会 社 の 業 務 を 執 行 す る 機 関 と 同 一 の 立 場 に あ る 者 で あ り 、し た が っ て( 略 )『 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 』 に 該 当 す る も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 そ う す る と 、 保 険 会 社 は 、本 件 免 責 条 項 に よ り 、保 険 金 支 払 義 務 を 負 わ な い 」と 判 示 し た 。

(9)

⑦ 判 決 : 最 高 裁 平 成 1 6 年 6 月 1 0 日 判 決( 民 集 5 8 巻 5 号 1 1 7 8 頁 、判 時 1 8 6 4 号 1 6 8 頁 )

有 限 会 社 の 破 産 宣 告 当 時 に 取 締 役 の 地 位 に あ っ た 者 に よ る 放 火 が 火 災 保 険 約 款 の 免 責 条 項 所 定 の 「 取 締 役 」 の 故 意 に よ る 事 故 招 致 に 当 た る と さ れ た 事 例 。

要 旨 ① 商 法 6 4 1 条 は 、 損 害 保 険 に お い て 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 の 悪 意 ま た は 重 大 な 過 失 に よ り 生 じ た 損 害 に つ い て は 、 保 険 者 は 、 て ん 補 責 任 を 免 れ る と 定 め て い る が 、 そ の 趣 旨 は 、 保 険 契 約 者 又 は 被 保 険 者 の 故 意 又 は 重 大 な 過 失 に よ っ て 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 に 被 保 険 者 に 保 険 金 請 求 権 を 認 め る の は 、 保 険 契 約 当 事 者 間 の 信 義 則 に 反 し 、 ま た は 公 序 良 俗 に 反 す る も の で あ る こ と に よ る も の と 解 さ れ る 。

要 旨 ② 本 件 免 責 条 項 は 、 同 様 の 趣 旨 か ら 、 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 又 は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人 の 故 意 も し く は 重 大 な 過 失 ま た は 法 令 違 反 に よ っ て 生 じ た 損 害 に つ い て の 保 険 者 の 免 責 を 定 め る と と も に 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る 場 合 に お け る 免 責 の 対 象 と な る 保 険 事 故 の 招 致 を し た 者 の 範 囲 に つ い て は 、 前 記 の と お り 、 そ の 括 弧 内 に お い て 、「 そ の 理 事 、取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 」と 定 め 、 理 事 、 取 締 役 の 地 位 に あ る 者 に つ い て は 、 業 務 執 行 権 限 の 有 無 や 保 険 の 目 的 物 を 現 実 に 管 理 し て い た か 否 か な ど の 点 に か か わ り な く 免 責 の 対 象 と な る 保 険 事 故 の 招 致 を し た 者 に 含 ま れ る こ と を 明 ら か に し て い る 。

Ⅲ 法 人 契 約 に お け る 約 款 免 責 条 項

一 般 に 、損 害 保 険 普 通 保 険 約 款 で は 、つ ぎ の よ う に 、「 理 事 、取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 が 保 険 事 故 を 招 致 し た と き 」 は 、 法 人 自 体 が 保 険

(10)

事 故 を 招 致 し た も の と み な す と 規 定 さ れ て い る 。 第 三 者 の 保 険 事 故 招 致 に 商 法 6 4 1 条 が 適 用 さ れ る 余 地 は あ る の か 問 題 に な り う る が 、 た と え 代 表 者 責 任 論 で あ ろ う と 自 己 責 任 主 義 で あ ろ う と 、 約 款 の 免 責 条 項 で 法 人 契 約 に お け る 代 表 者 の 範 囲 が 明 確 に さ れ て い る の で あ れ ば 、 保 険 事 故 招 致 者 の 範 囲 は 同 条 項 に 列 挙 さ れ て い る 者 に 限 ら れ 、 そ れ 以 外 の 者 に 商 法 6 4 1 条 後 段 を 適 用 す る 余 地 は な い と 思 わ れ る 。

実 際 の 約 款 免 責 条 項 を み る と 、 つ ぎ の よ う に 明 記 さ れ て い る 。 し か し 、 こ の と き 、 約 款 に い う 「 取 締 役 」 を ど の よ う に 解 す る か に よ っ て 、 保 険 事 故 招 致 者 の 範 囲 が 異 な っ て く る 。

約 款 ① : 火 災 保 険 普 通 保 険 約 款 2 条 1 項 1 号

当 会 社 は 、 次 に 掲 げ る 事 由 に よ っ て 生 じ た 損 害 ( 残 存 物 取 片 づ け 費 用 を 含 み ま す 。 以 下 同 様 と し ま す 。) に 対 し て は 、 保 険 金 を 支 払 い ま せ ん 。

( 1 ) 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 ま た は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人 ( 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る と き は 、 そ の 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 ) の 故 意 も し く は 重 大 な 過 失 ま た は 法 令 違 反

( 2 ) 〔 以 下 、 省 略 〕

約 款 ② : 住 宅 火 災 保 険 普 通 保 険 約 款 2 条 1 項 1 号

当 会 社 は 、 次 の 各 号 に 掲 げ る 事 由 の い ず れ か に よ っ て 生 じ た 損 害 に 対 し て は 、 保 険 金 ( 損 害 保 険 金 、 別 居 者 家 財 保 険 金 、 持 ち 出 し 家 財 保 険 金 ま た は 水 害 保 険 金 を い い ま す 。 以 下 こ の 節 に お い て 同 様 と し ま す 。) を 支 払 い ま せ ん 。

( 1 ) 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 ま た は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人 ( 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る と き は 、 そ の 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 )の 故 意 も し く は 重 大 な 過 失 ま た

(11)

は 法 令 違 反

( 2 ) 〔 以 下 、 省 略 〕

約 款 ③ : 自 動 車 総 合 保 険 普 通 保 険 約 款 9 条 1 項 1 号

① 当 会 社 は 、 次 の 各 号 の い ず れ か に 該 当 す る 事 由 に よ っ て 生 じ た 損 害 に 対 し て は 、 保 険 金 を 支 払 い ま せ ん 。

( 1 ) 保 険 契 約 者 、記 名 被 保 険 者 ま た は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人( 保 険 契 約 者 ま た は 記 名 被 保 険 者 が 法 人 で あ る 場 合 は 、 そ の 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 ) の 故 意

( 2 ) 〔 以 下 、 省 略 〕

1 約 款 の 免 責 条 項 に い う 「 取 締 役 」 の 意 義

こ こ に い う 、 約 款 の 免 責 条 項 に い う 「 取 締 役 」 に 意 義 に つ い て は 、 法 人 の 業 務 執 行 権 限 を 有 す る 機 関 の み が 免 責 の 対 象 と な る か に つ い て 議 論 が み ら れ る 。

( 1 ) す べ て の 「 取 締 役 」 が 含 ま れ る と 解 す る 説

( 2 ) 代 表 取 締 役 に 限 る と 解 す る 説

( 3 ) 業 務 執 行 権 限 を 有 す る 取 締 役 に 限 る と 解 す る 説

⇒ 最 高 裁 平 成 1 6 年 判 決 ( ⑦ 判 決 ) 要 旨 ② よ り

⇒ ⇒ ( 1 ) の す べ て の 「 取 締 役 」 が 含 ま れ る と 解 す る 説

2 最 高 裁 平 成 1 6 年 判 決 を め ぐ る 問 題 点

問 題 点 ① 取 締 役 と 登 記 さ れ て い る に も か か わ ら ず 、 会 社 の 業 務 執 行 に 全 く 関 与 し て い な い 、 い わ ゆ る 「 名 目 的 取 締 役 」 が 保 険 事 故 招 致 し た 場 合 で あ っ て も 、 保 険 者 は 免 責 さ れ る こ と に な る の か 。

(12)

問 題 点 ② 最 高 裁 平 成 1 6 年 判 決 を 反 対 解 釈 す る と 、実 質 的 に 会 社 の 業 務 執 行 に 関 与 し て い る 者 で あ っ て も 、 取 締 役 に は 就 任 し て お ら ず 、 ま た 保 険 事 故 発 生 の 直 前 に 取 締 役 を 退 任 し た 者 は 、 保 険 者 免 責 の 対 象 と な ら な く な る の で は な い か 。

最 高 裁 の 考 え に し た が え ば 、 保 険 約 款 で 取 締 役 と 明 記 さ れ て い る こ と か ら 、 業 務 執 行 権 限 の 有 無 や 保 険 の 目 的 物 を 現 実 に 管 理 し て い た か 否 か に か か わ り な く 、 理 事 、 取 締 役 の 地 位 に あ る も の が 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 は す べ て 保 険 者 免 責 と な る 。

保 険 約 款 で 法 人 契 約 に つ い て 明 記 さ れ て い な い 保 険 契 約 に つ い て は 、 取 締 役 以 外 の 実 質 的 関 係 者 の 行 っ た 行 為 は 、 最 高 裁 平 成 1 4 年 10 月 3 日 判 決 に よ る も の と 考 え ら れ る 。 本 判 決 は 生 命 保 険 に つ い て の も の で あ る が 、 こ こ で 示 さ れ た 判 断 基 準 は 損 害 保 険 に お い て も 妥 当 す る も の と 思 わ れ る 。

⑧ 判 決 : 最 高 裁 平 成 1 4 年 1 0 月 3 日 判 決 ( 民 集 5 6 巻 8 号 1 7 0 6 頁 ) 判 旨 : 保 険 契 約 者 又 は 保 険 金 受 取 人 が 会 社 で あ る 場 合 に お い て 、 取 締 役 の 故

意 に よ り 被 保 険 者 が 死 亡 し た と き に は 、 種 々 の 事 情 を 総 合 し て 、 当 該 取 締 役 が 会 社 を 実 質 的 に 支 配 し 、 も し く は 事 故 後 直 ち に 会 社 を 実 質 的 に 支 配 し う る 立 場 に あ り 、 又 は 当 該 取 締 役 が 保 険 金 の 受 領 に よ る 利 益 を 直 接 享 受 し う る 立 場 に あ る な ど 、 公 益 や 信 義 誠 実 の 原 則 と い う 免 責 条 項 の 趣 旨 に 照 ら し て 、 当 該 取 締 役 の 故 意 に よ る 保 険 事 故 の 招 致 を 会 社 の 行 為 と 同 一 の も の と 評 価 す る こ と が で き る 場 合 に は 、 免 責 条 項 に 該 当 す る と し 、 代 表 権 が な く 経 営 者 と し て 業 務 に 関 与 し て い な い 取 締 役 に よ る 故 殺 に つ き 、 保 険 者 免 責 を 否 定 し た 。

(13)

図 1 :〔 最 高 裁 判 決 で 示 さ れ た 取 締 役 の 意 義 〕

約款に免責規定あり(最高裁16年判決) 約款に免責規定なし(最高裁14年判決)

代表取締役

○ ○

業務担当取締役

○ ○

平取締役

○ ×

名目的取締役

○ ×

実質的取締役

? ○

退任取締役

? △

(実質的会社支配性がなければ×)

法 人 契 約 に お い て 、 約 款 で 取 締 役 が 招 致 し た 保 険 事 故 を 保 険 者 免 責 と す る よ う に 定 め を お く の は 、 本 来 、 法 人 機 関 の う ち 事 故 招 致 し た 者 に 保 険 金 を 支 払 う こ と に な れ ば 、 要 す る に 、 自 ら 保 険 事 故 を 起 し た 者 に 利 得 が 生 じ る と い う の で あ れ ば お か し い と い う こ と で あ り 、 そ れ を 立 証 す る こ と 等 が 困 難 で あ る か ら 、 約 款 で 明 記 し た と い う こ と に な る で あ ろ う 。 そ う で あ れ ば 、 約 款 に 規 定 を 設 け た こ と に よ っ て 、 本 来 、 利 得 を 得 る 可 能 性 が 低 い 平 取 締 役 や 名 目 的 取 締 役 も 含 ま れ る と い う の は 疑 問 で あ る 。

Ⅳ 私 見

こ れ ま で 、 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 と 近 い 関 係 に あ る 者 の 事 故 招 致 に つ い て 保 険 者 の 免 責 を 認 め る 理 論 と し て 代 表 者 責 任 論 が 主 張 さ れ て き た 。 こ れ は 法 人 契 約 に お い て も 検 討 さ れ て き た と こ ろ で も あ る 。 し か し 、 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 と 近 い 関 係 に あ る 者 の 事 故 招 致 を 認 め る 場 合 、 ど こ ま で の 範 囲 の 者 の 事 故 招 致 を 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 の 事 故 招 致 と 評 価 す べ き か 、 そ の 限 界 付 け が 曖 昧 で あ り 、 解 釈 に

(14)

よ っ て は 被 保 険 者 間 の 不 公 平 が 生 じ る お そ れ が 生 じ て こ よ う 。

前 述 し た と お り 、 観 念 的 な 存 在 に す ぎ な い 法 人 自 身 が 現 実 に 行 動 し て 保 険 事 故 を 招 致 す る こ と は あ り え な い が 、 だ か ら と い っ て 、 法 人 契 約 に つ い て 、 法 人 の 機 関 、 あ る い は 法 人 の 理 事 、 取 締 役 、 あ る い は 監 査 役 も 含 め て 考 え る と い い か も し れ な い が 、そ れ ら の も の が 犯 罪 、放 火 等 を し て 保 険 事 故 を 招 致 す る 場 合 、「 こ れ ら の 者 の 保 険 事 故 招 致 = 法 人 自 身 の 保 険 事 故 招 致 」 と 構 成 し て 保 険 者 免 責 と す る に は 問 題 が あ る 。 特 に そ の 法 人 が 有 限 責 任 の 法 人 で あ る と 問 題 で あ る 。 す な わ ち 、 法 人 契 約 に お け る 被 保 険 者 の 財 産 を 考 え る と 、法 人 の う ち 特 に 有 限 責 任 の も の( た と え ば 、株 式 会 社 、合 同 会 社 等 )に つ い て は 、法 人 の 財 産 の み が 会 社 債 権 者 等 の 拠 り 所 と な る で あ ろ う 。 し た が っ て 、 法 人 契 約 に お い て は 法 人 の 機 関 が 保 険 事 故 を 招 致 し た と し て も 、 保 険 者 免 責 と は せ ず に 、 保 険 者 有 責 を 基 本 に お く こ と の ほ う が 論 理 的 な よ う に 思 わ れ る 。 し か し 、 そ う す る と 、 問 題 と な る の は 、 た と え ば 、 会 社 と 経 済 的 に 一 体 で あ る よ う な 小 規 模 会 社 の 取 締 役 が 、 法 人 契 約 を 利 用 す る こ と が 考 え ら れ る の で は な い か と い う 懸 念 が 生 じ て こ よ う 。 し か し 、 こ の よ う な 懸 念 は 、 結 局 は 、 実 際 に 保 険 事 故 を 招 致 し た 取 締 役 が 保 険 制 度 を 利 用 し て 何 ら か の 利 得 を 得 る こ と か ら 生 じ る も の で あ る よ う に 思 わ れ る 。 そ う す る と 、 事 故 を 招 致 し た 取 締 役 に 利 得 が 生 じ な い よ う 、 こ れ を 防 止 し な け れ ば な ら な い 。

現 行 法 上 、 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 以 外 の 第 三 者 が 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 、 保 険 者 は 被 保 険 者 に 対 し て 保 険 金 を 支 払 わ な け れ ば な ら な い が 、 第 三 者 の 行 為 の よ っ て 生 じ た 損 害 に 保 険 者 が 保 険 金 を 支 払 っ た の で あ れ ば 、 保 険 者 は そ の 支 払 っ た 金 額 の 限 度 に お い て 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 第 三 者 に 対 し て 有 す る 権 利 を 取 得 す る こ と に な る 。 こ れ が 商 法 6 6 2 条 に い う 請 求 権 代 位 で あ る 。

こ れ を 法 人 契 約 に あ て は め る な ら ば 、法 人 の 取 締 役 が 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 、 保 険 者 は 法 人 に 対 し て 保 険 金 を 支 払 う こ と に な る が 、 取 締 役 の 行 為 に よ っ て 生 じ た 損 害 に 保 険 者 が 保 険 金 を 支 払 っ た こ と に な り 、 そ う で あ れ ば 保 険 者 は そ の 支 払 っ た 金 額 の 限 度 に お い て 法 人 が 取 締 役 に 対 し て 有 す る 不 法 行 為 に 基 づ く 損 害 賠 償

(15)

請 求 権 を 代 位 取 得 す る と い う こ と に な る で あ ろ う 。 つ ま り 、 法 人 の 機 関 の う ち 何 れ か が 保 険 事 故 を 招 致 し た 場 合 、 保 険 者 は 法 人 に 保 険 金 を 給 付 し て 、 そ の 後 、 不 法 行 為 を 行 っ た 代 表 者 な り 、 第 三 者 に 対 し て 保 険 代 位 で 追 及 し て い く こ と の ほ う が 現 行 法 か ら い く と 筋 で あ ろ う し 、 事 故 を 招 致 し た 取 締 役 の 利 得 防 止 の 効 果 も 期 待 さ れ よ う 。 ま た 、 先 の 小 規 模 会 社 の 取 締 役 を 例 で い う と 、 取 締 役 自 身 が 会 社 債 権 者 等 の た め に 保 険 事 故 を 招 致 す る こ と で 、取 締 役 個 人 の 財 産 に ま で 責 任 が 及 び 、 ま し て や 刑 法 上 の 責 任 も 問 わ れ か ね な い と い う こ と を 考 え る と 、 保 険 事 故 を 招 致 し よ う と す る 主 観 的 動 機 を そ ぐ こ と に も つ な が る の で は な か ろ う か 。

前 述 し た と お り 、 実 際 の 約 款 で は 、 法 人 契 約 に つ い て は 、 法 人 の う ち 誰 の 事 故 招 致 を も っ て 法 人 の 事 故 招 致 と 評 価 す る の か 、 そ の 範 囲 が 示 さ れ て い る 。 こ の よ う に 約 款 で 保 険 事 故 を 招 致 し た 事 実 を 立 証 す る 困 難 を 克 服 す る 意 味 で 政 策 的 に 保 険 者 免 責 と す る こ と は 妥 当 で あ ろ う 。 し か し な が ら 、 現 在 一 般 に 用 い ら れ て い る 約 款 を み る と き 、 取 締 役 の 意 義 に つ い て 付 言 し て お き た い 。 約 款 で は 「 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 ま た は こ れ ら の 者 の 法 定 代 理 人 ( 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 が 法 人 で あ る と き は 、 そ の 理 事 ・ 取 締 役 ま た は 法 人 の 機 関 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 ) の 故 意 も し く は 重 大 な 過 失 ま た は 違 反 」 に よ っ て 生 じ た 損 害 に つ い て 保 険 者 は 免 責 さ れ る と 規 定 さ れ て い る 。 約 款 の 免 責 条 項 に い う 取 締 役 と は 、 代 表 取 締 役 、 業 務 執 行 取 締 役 で あ れ ば 該 当 す る で あ ろ う が 、 単 な る 取 締 役 会 の 構 成 員 で あ る 取 締 役 は ど う な る の か が 問 題 で あ る 。 約 款 の 文 言 を み る 限 り 、 は た し て 最 高 裁 が 示 し た よ う に 、業 務 執 行 等 云 々 せ ず に す べ て の 取 締 役 が 該 当 す る と い え る の か 問 題 で あ ろ う 。

約 款 の 文 言 を 見 る 限 り 、 法 定 代 理 人 に つ い て は 、 保 険 契 約 者 ま た は 被 保 険 者 が 法 人 で あ る と き は 、 そ の 理 事 、 取 締 役 ま た は 法 人 の 業 務 を 執 行 す る そ の 他 の 機 関 と い う よ う に 言 っ て い る 。 し た が っ て 、 株 式 会 社 に つ い て い え ば 、 取 締 役 会 の 構 成 員 に す ぎ な い 、 い わ ゆ る 平 取 締 役 は そ れ に あ た ら な い と 読 む こ と が で き そ う で あ る 。 つ ま り 、 約 款 の 文 言 上 、 法 定 代 理 人 括 弧 そ の 他 の 機 関 と い っ て い る の で あ る か ら 、 平 取 締 役 が 保 険 事 故 を 招 致 し て も 、 こ の 約 款 の 文 言 か ら は 保 険 者 は 免 責

(16)

さ れ な い と 解 す る こ と が 妥 当 な よ う に 思 わ れ る 。

法 人 の 機 関 に よ る 保 険 事 故 招 致 に つ い て 、 保 険 約 款 で こ の よ う な こ と を 掲 げ て い れ ば 、 そ の 約 款 に し た が う こ と に な る の で あ ろ う が 、 約 款 に 規 定 が な い 場 合 、 商 法 6 4 1 条 で い う 保 険 契 約 者 ・ 被 保 険 者 の 中 に 法 人 の 場 合 に は 代 表 者 責 任 論 な ど を 用 い て 保 険 者 免 責 を 認 め て い く に は 、 や は り 問 題 が あ る よ う に 思 わ れ る 。 こ こ で は 考 察 し き れ な い も の が 多 数 あ る 。 法 人 契 約 に つ い て 保 険 者 免 責 を 求 め る な ら ば ど の よ う な こ と が 考 え ら れ る の か 、 今 後 引 き 続 き 検 討 し て い き た い 。

【 主 要 参 考 文 献 】

・ 大 森 忠 夫 「 被 保 険 者 の 保 険 事 故 招 致 」 同 『 保 険 契 約 の 法 的 構 造 』( 有 斐 閣 、 1 95 2 年 ) 1 9 5 頁 以 下

・ 竹 濵 修「 保 険 事 故 招 致 免 責 規 定 の 法 的 性 質 と 第 三 者 の 保 険 事 故 招 致( 1 )」立 命 館 法 学 1 7 0 号 ( 1 9 8 4 年 1 月 ) 4 3 頁 以 下

・ 竹 濵 修 「 保 険 事 故 招 致 免 責 規 定 の 法 的 性 質 と 第 三 者 の 保 険 事 故 招 致 ( 2 完 )」 立 命 館 法 学 1 7 1 号 ( 1 9 8 4 年 2 月 ) 49 頁 以 下

・ 近 藤 光 男「 法 人( 会 社 )に お け る 保 険 事 故 招 致 」『 現 代 民 事 法 学 の 理 論〔 上 〕- 西 原 道 雄 先 生 古 稀 記 念 』( 信 山 社 、 2 0 0 1 年 ) 51 1 頁 以 下

・ 出 口 正 義 「 法 人 の 機 関 の 保 険 事 故 招 致 に 関 す る 一 考 察 」 損 害 保 険 研 究 6 5 巻 3= 4 号 ( 2 0 0 4 年 2 月 ) 2 05 頁 以 下

・ 竹 濵 修「 会 社 役 員 の 保 険 事 故 招 致 ― 損 害 保 険 契 約 の 場 合 」損 害 保 険 研 究 6 5 巻 3 = 4 号 ( 2 0 0 4 年 2 月 ) 3 38 頁 以 下

参照