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未来を変える 大学研究の今 - 東進ハイスクール

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Academic year: 2023

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巻 頭 特 集

未来を変える 大学研究の今

大学は学術の中心であり、大学の教育と研究は社会のために活用されることが理想だ。

ここでは、若手研究者による最新の研究内容とそれらが導く未来について、

東進OB・OGがどのような夢や志を持って大学で学んでいるのかを紹介する。

ぜひ、未来の自分の姿をイメージするヒントにしてほしい。

東進OB・OGが語る

僕の私のキャンパスライフ

P.12

知の集積地、革新研究の宝庫

SEKITANI

TSU YOSHI

P.08

せ き

た に

 毅

つ よ し

  先生

大阪大学 産業科学研究所 教授 総長補佐/栄誉教授

家庭用脳波測定器が 変える 脳との

つき合い方

H OS H I NO A

Y UKO

東京工業大学 生命理工学院  生命理工学系 准教授

ほ し

あ ゆ

  先生

転移のメカニズム 解明で未来の がん患者を救う

P.04

03

(2)

  私が研究の道に入ったきっかけは、二人の友人の「がん」でした。「骨肉腫になったんだ」、大学2年生のある日、友人から連絡がありました。骨肉腫は骨にできる悪性腫瘍、つまり「骨のがん」です。身近な友人ががんになったことにショックを受けた私は、すぐに病院を訪ねました。彼が入院していた病室で、私はさらに驚きました。病室にいたのは彼よりも幼い、小学生や中学生の子どもたちばかりだったのです。当時の私は、がんは大人の病気だとばかり思っていました。

  そして私はその病室で、私の知り得る中で、最も小さな詩人である友人と出会いました。有國遊雲君は小学校高学年で、小児がんを患っていました。彼は「川が好き  川にうつった  空も好き」という美しい標語を闘病生活の中でつくり、「河川愛護月間標語公募」で最優秀賞(国土交通大臣賞)に輝きました。

  彼の標語は、美しい川を臨む、山口県周南市にある石船農村公園の石碑に刻ま

星野 歩子 先生

転移のメカニズム解明で

未来のがん患者を救う

救う。それが東京工業大学 移の最大の謎に挑み、未来のがん患者を 星野歩子先生の研究だ。 生命理工学院准教授

H O S H I N O A Y U K O

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 准教授

巻頭 大学ドキュメント

2021年 第11回

フロンティアサロン 永瀬賞最優秀賞

受賞

東進ハイスクール・東進衛星予備校を運営 する㈱ナガセから、最先端の分野でさらなる 飛躍が期待される若手研究者に毎年贈ら れる。日本の未来を拓く研究者のサポートを 目的としたフロンティアサロン財団の厳正な 審査により受賞者が選考され、ナガセ賞最 優秀賞受賞者には賞金2,000万円、特別 賞には賞金1,000万円、それぞれ高校生の ための特別講義の機会と賞状が授与される。

フロンティアサロン永瀬賞とは

04

(3)

れることになりました。石碑ができた当時、遊雲君は中学生でした。彼は「お母さん、僕一つ残せたよ」という言葉を残し、その後間もなく他界しました。

  私の大学の友人は闘病生活の末、片足を切断し、二度にわたる肺への転移を経験したあと、約一年前に女の子を授かり、お父さんになりました。

  私はこれらの出来事から、がんとは一体どんな病気なのか?  がんで亡くなる人を救うことのできるような研究ができないだろうかと考えるようになりました。そして私は、研究者になることを選びました。実践的で臨床現場に近い場所で学びたいと思い、大学院修士課程では、東京大学の教授を兼任する、がんセンター東病院病理部落合淳志先生の研究室に所属することにしました。

 

  大学院では「間質細胞」とがん細胞の相互作用について研究を進めていました。がんは身体の敵ですが、どういうわけか身体のあらゆる部分を埋めている「間質」という組織を構成する間質細胞と、力を合わせて成長するのです。この相互関係を明らかにすることで、新たながん治療が見つかるかもしれない――そう思った私は研究を進め、論文を書き、がんセンターで成果を発表する機会をいただきました。

  すると、質疑応答のときに、すっと手をあげた医師の方からこんな質問を受けました。「君の研究で、今日の患者を何人救えるの?」   実際の臨床現場にいる医師の言葉は鮮烈でした。私は壇上で、まさに「言葉がない」という状態になってしまいました。私はがん患者さんを救いたくて研究をしているのに、全然救えていないんだ、と痛感しました。この出来事以降、私は研究者として具体的に患者さんを救うにはどうすればよいかを考えるようになりました。そして、この研究の先にある、未来の患者さんを救うために行動し始めました。

  私は、がんで亡くなる患者さんの、最も大きな原因を調べました。すると、がんで死亡する患者さんの9割は、ほかの組織や臓器へとがんが広がる「転移」によるものだとわかりました。

  私は、もし、がんの転移を抑制するような研究ができたなら、将来的にがんで 亡くなる患者さんを少なくすることができるのではないか、と考えました。  そして私は「がん転移の最大の謎」と呼ばれるテーマに出会いました。それは「がんの転移には臓器特異性がある」(臓器特異的転移)という仮説でした。

  がんは、種類によって、転移先がある程度決まっているということが知られています。例えば、乳がんは脳や骨、肺や肝臓に転移しやすいなど。

  この臓器特異的転移は、130年以上前に、イギリスの臨床医のスティーブン・パジェット医師によって提唱されたものです。しかしどうしてがんには特定の転移先があるのか?  何が決定要因なのか?  これは130年間ずっと謎のままなのです。私はこの謎に挑んでみたいと考えました。

P R O F I L E

星野 歩子/千葉県私立渋谷教育学園幕張高校卒。

2002〜2006 東 京 理 科 大 学 理 学 部、2006〜

2008 東京大学大学院修士課程(がんセンター東 病院病理部)、2008〜2011 東京大学大学院 博 士課程(がんセンター東病院病理部)、2010〜2018 コーネル大学医学部(研究員〜兼任助教として現在 も 在 籍)、2019〜2020 東 京 大 学 IRCN 講 師、

2020〜 東京工業大学 生命理工学院 准教授。

研究室は神奈川県横浜市の、緑あふれる広大なすずかけ台キャンパ スにある。

星野先生の研究室には、生命理工学院の3年生以上の 学部生と大学院生命理工学研究科の学生が在籍する。

05

(4)

がんの転移を

予測する方法はある?

  がん転移の謎を解く鍵が、後に私が留学することになる、コーネル大学のデイヴィッド・ライデン教授の研究室にありました。彼は、がん細胞が特定の臓器へ転移する際、転移先の臓器が転移のために最適化される「前転移ニッチ」の存在を提唱していました。つまり、がん細胞がきちんと芽吹くように、臓器を"耕す"仕組みがあるということです。この説を知った私はライデン教授の研究室で研究するチャンスを掴み、2010年に渡米してライデン研究室で研究を始めました。

  私に託された研究は、がん細胞が芽吹く仕組みを調べることでした。がんの転移先を規定する因子としてライデン教授らが着目していたのが「エクソソーム」と呼ばれる微小胞でした。小胞とは、細胞内で形成された膜に包まれたもので、細胞内の物質を溜めたり細胞内外に物質を運んだりするためのものです。その中でも、エクソソームは細胞外へ放出されるものを指します。

  この微小胞、エクソソームは

30から1

50ナノメートルの大きさで、身体中のいたるところに存在しています。もともとは細胞のごみ処理係と考えられていたのですが、エクソソームはタンパク質、DNA、脂質など、細胞が持っている情報はだいたい持ち合わせています。そして身体をめぐり、正常な細胞はもちろん、がん細胞とも情報をやりとりします。エクソソームはごみ処理どころか"人体のSNS"、人体の大事なメッセージを持ち、運んでいたのです(資料

1)。

HOSHINO AYUKO

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自宅で手軽に脳波が測れる

肺転移 肝臓転移

▼  がん細胞から生まれた エクソソーム を紐解けば、

がん転移も予測できる!

脳転移 骨転移

資 料 1 がん転移のカギを握るエクソソーム

① たった1ミリの血けっ漿しょうに何十億

〜何兆個のエクソソームが存 在する

② 細胞のごみ処理係と考えられ ていたが、がん細胞と情報交 換をしていた

③ がん細胞がきちんと芽吹くよ うに臓器を耕す役目も果たす 小胞とは、細胞内にある膜に包まれたもので、細胞内の物質を溜めた り細胞内外に物質を運んだりする役割を果たす。

エクソソームとは…細胞内にある微小胞

06

(5)

  私は、がん細胞から生まれたエクソソームは、未来の転移先に行くのか。そして転移先に行くだけではなく、実際に臓器を"耕す"のかどうかを観察しました。そうして私は、世界で初めてがん細胞由来のエクソソームは未来の転移先に行き、その 臓器を耕して、転移しやすい土壌づくりをしていることを証明しました(資料2)。

 

  さらにエクソソーム内のタンパク質を網羅的に調べる「プロテオミクス解析」を行ってみたところ、どうやらエクソソーム内の特定のタンパク質が郵便番号のような役割をして、各臓器にエクソソームを連れて行っていることがわかりました。

  この発見から、特定のがん患者のエクソソームを解析すれば、どこに転移しやすいかを知り、転移前に処置するような臨床応用が期待できるようになりました。

  現在では、エクソソームがさまざまな人体の状態を知ることができるツール(バイオマーカー)としても活用可能であることがわかってきました。例えば、自閉症やアルツハイマー病、妊娠合併症などさ まざまな疾患への応用を進めています。

 

  現在のがん診断の現場でも、さまざまなバイオマーカーが活用されていますが、それらは特定のがんに対応した個別のバイオマーカーです。私たちの最新の研究では、エクソソームだけでがんにかかっているか否か、そして何のがんなのかまでを一貫してスクリーニングする原理を解明しています。

  今後の課題は、どのようにして治験(実際に「くすり」として使うための、効果と安全性を検証するための「臨床試験」のこと)を行い、実際の治療へと橋渡ししていくかです。エクソソームで実現する治療は、転移の抑制です。しかし、こうした治療は現在の医療にはまだ前例がなく、そのための治験も存在し得ないと いわれています。治験は、基本的には現代の医学では手の打ちようのない状態に対し、新しい薬を試すことが前提になるからです。現在はこのハードルをどのように越えて治験を行うか、試行錯誤をしています。  最後に大学の研究の魅力についてお伝えします。大学の研究の魅力は、とにかく自由度が高いことです。しかし、自由ということは、好き勝手やっていればいいというわけではありません。  研究対象として何を選ぶか、どんな方法でアプローチするか、結果をどのように活用するか、すべてが自由ですが、大切なことは「新しさを切り拓く」ことです。世界がまだ知らないこと、科学として探求する価値のあること。大学で保障されているのは、そうした新しさを生み出すための自由なのです。また、研究では狙った結果が出ないことがほとんどです。予想外のデータが結果として出てきたとき、それを捨ててしまうのではなく、ほかの専門家に調べてもらうことで新たな真理が見つかるかもしれない。研究は常に広がる可能性があります。

  知ることを突き詰め、思わぬ結果から新しいことを知る。その飽くなき探求が多層的に重なり、多角的に広がっていく。それが、私が飽きることなく、日々わくわくして携わっている、大学の研究です。

は本の中から人生に必要 なことを学んだように思 っています。私は中高生の頃、

村上春樹さんの本がすごく好き でした。中でも『4月のある晴 れた朝に100パーセントの女の 子に出会うことについて』とい う短編が好きです。運命の人に 出会うことがあったとき、その 瞬間に話しかけないと、チャン スはすぐに消えてなくなってし まう。私はこの小説を読んでか ら、「ここだ」と思ったときに はすぐにチャンスをつかみ取る ことを心に決めています。

 次は、シェイクスピアの『ハ ムレット』です。主人公の「There is nothing either good or bad,but thinking makes it so,only thinking makes it so」という言葉があります。こ の言葉の意味は、物事には、い いものや悪いものなんてなくて、

すべてはあなたの考え方次第だ ということです。この言葉に出 会ってから、私は人生における 多くの真実において、自分が判 断基準であると考えています。

星野先生から 高校生への メッセージ

Message

運命の人でも チャンスを逃すと

すれ違ってしまう

資 料 2

エクソソームはすべての細胞から量産されている

がん細胞からもたくさん生み出され、そ れが全身を回り、がん転移につながる

07

(6)

、脳 ₄₀億

  私は世界で最も薄くて柔らかい脳波計「パッチ式脳波計」をつくりました。これまでは病院で、数千万〜数億円ほどする大型の医療機器を使わなければ測れなかった脳波を、まるで家庭の体温計のように手軽に測ることを実現しました。この脳波計によって、これまでは悪化してからしか気づけなかった認知症などの脳の病気の早期発見を行い、早期治療を実現していきます。

  さて、それではさっそく脳波とは何か というお話から始めましょう。そもそも脳波というものは電気の信号なのですが、なぜ人間の内臓から電気が発せられているの?  と思いますよね。脳というのは、頭蓋骨の中にある、プリンのように柔らかい臓器です。脳は2000億個の神経細胞によって活動しており、自分自身と一日で4万回以上会話する性能がありますが、これらの神経細胞は電気信号によって情報をやりとりしているのです。驚くべきはその消費電力で、なんと数ワット程度という非常に小さなものです。ノートパソコンの消費電力が

₂0ワットから

30

ワットとされていますから、とても省エ

  毅

S E K I T A NI T SU Y OS HI

  産

  教

の研究は、脳との新しいつき合い方を提案する。 知症などの治療につなげる。大阪大学の関谷先生

  世界で最も柔らかくて薄い脳波計を開発し、認

2021年

ナガセ賞特別賞 受賞

08

(7)

ネで高性能だということがわかります。脳は自然が

40億年かけてつくったもので

あり、私たちの科学では到底つくりだすことのできない究極の「マシーン」なのです。

1

 

  その脳の活動を知るために重要なものが脳波というわけです。脳波は2000億個の神経細胞の活動によって、頭蓋骨の外側に出てくる微弱な電気信号です。1929年、脳波の存在を世界で最初に報告したのはドイツの神経科学者、ハンス・ベルガーでした。彼の発見によって脳波を計測していくことで、脳の活動状態を把握するというアプローチは、後の神経科学、大脳生理学に大きな影響を及 ぼしました。  脳波は「1マイクロボルト」程度の、非常に小さな電気信号です。マイクロボルトというのは、乾電池が1ボルトだとしたら、その100万分の

1ほどの小さな 電圧です。その小さな電圧の信号をとらえるのは、富士山の中にいるアリの動きを捉えるのとほぼ同程度の緻密さと正確さが求められます。

 

  私がパッチ式脳波計で可能にしたことは、「脳波を家庭で測ることができる」ということです。家庭で測れるということは、病気に先回りして、病気の兆候を知ることができます。パッチ式脳波計は食品ラップのように薄い素材なのに、金属のように 電気を通すことができ、ゴムのように伸び縮みする「有機材料」でできています。

  例えば皆さんは「なんだか熱っぽい」と思ったら、まず家庭の体温計で熱を測り、安静にしたり、場合によってはすぐに病院に行ったりして、早い回復を図ります。家庭に体温計があるからこそ、これらの行動が起こせるわけです。

  一方の脳波は、何か特殊な研究をしている人以外、日常で測るチャンスはほとんどありません。さらには、病院のような特殊な環境で測る脳波は、やはり特殊な脳波になります。血圧の測定では、しばしば「白衣高血圧」という状態が起きます。これは病院などで測るときだけ、高血圧を示す状態です。白衣高血圧の人は、高血圧と診断された人の

15〜

30%にのぼ

るともいわれています。これと同様のことが、脳波でも起きるのです。

  そして脳波は多くの場合、健康診断な どで明らかな異常が見つかってから測ることになります。しかし脳には、異常が現れてからでは治療の難しい病気があります。それが、現在「がん」を追い抜き、「なりたくない病気」ランキングで1位となっている「認知症」なのです。

  もしも自宅に体温計や血圧計と同じように脳波計があれば、認知症、更年期障害、てんかんその他のさまざまな病気の兆候を知ることができ、早期治療に結びつけることが可能です。

  現在は、脳波を継続的に測定し、そのデータを集め、AI(人工知能)を使って分析することで、脳の病気の解明を行ったり、より精度の高い病気の予知に結びつけたりするなどの研究開発を進めています。

P R O F I L E

関谷 毅/兵庫県 西宮市立 西宮東高校卒。1999年  大阪大学 基礎工学部物性物理工学科卒業、2001年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程 修了、2003年東京大学大学院 工学系研究科物理 工学専攻博士課程修了(特例適用による短縮修了)、

博士(工学)取得。東京大学大学院工学系研究科 助 手、2007年同助教、2011年同准教授、2014年大 阪大学産業科学研究所 教授(現職)。

研究室は外からの照明を防ぎ、顕微鏡で確認した画像はすぐに拡大 してモニタで確認できる。

パッチ式脳波計は薄い素材上に電気を通すため、研 究室では大小さまざまな顕微鏡を活用する。

09

(8)

認知症は、予測できる 病気なのですか?

目されています。 ス「有機デバイス」を担う主役として注 い有機電子材料が、次世代の電子デバイ げても壊れず丈夫、そして驚くほどに軽 生み出される、紙のように薄く、折り曲 炭素を主要元素とする有機材料によって ね。しかし現在、私たちの身体のように、 フォンのように硬いものを想像しますよ 般的に電子デバイスと聞くと、スマート みする「有機材料」でできています。一 を通すことができ、ゴムのように伸び縮 うに薄い素材なのに、金属のように電気 パッチ式脳波計」は、食品ラップのよ

  「有機デバイス」は、

有機材料に特殊な方法で回路やセンサー、トランジスタなどをプリントしてつくります。例えば、

10

マイクロメートルという非常に薄い導電性(電気を流すことができる)のフィルムの上に、センサーや回路をプリントし、胸にペタッと貼りつけたら、心電数を測定できる、有機デバイスの「心電計」をつくることができます(資料

1)。

  この心電計は薄いだけではなく、身体の動きに合わせて

₇0パーセント以上も伸

び縮みします。従来の心電計は、大きな機械を常に身体につけていなければなりませんでしたが、ここまで薄く、伸縮自在であれば、これまで測れなかったような状況でも、心電数を安定的に計測することができます。

  現在は、太陽電池やディスプレイ、電子ペーパーなどさまざまな有機電子デバ

講義ライブイラスト ̲0602

パッチ式脳波計 低価格な医療機器 無装着感

小型でワイヤレス

自宅で手軽に脳波が測れる

▼パッチ式脳波計なら自宅で計測、認知症も予測できる

資 料 1 薄くてペラペラ、胸に貼るだけの心電計

◀ 10マイクロメートルという 非常に薄い導電性フィル ムのうえに、センサーや回 路をプリント。胸に貼りつけ て心電数を測定できる、有 機デバイスの「心電計」。

SEKITANI TSUYOSHISEKITANI TSUYOSHI

10

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イスが研究開発されています。有機デバイスを用いた電子工学「有機エレクトロニクス」を脳波の測定器に応用したものがパッチ式脳波計なのです(資料

2)。

 

  パッチ式脳波計は医療機器です。つまり、大型の医療機器と電気的には同じ計測ができる、言ってみれば「小さくて大きな医療機器」です。この一見矛盾した、魅力的な機能を実現しているのは、ビッグデータと機械学習、すなわちAIの技術です。

  大型の医療機器がヘッドギアのようなデバイスをつけて、脳のほぼ全方向から脳波を測定できるのに対し、パッチ式脳波計は前額部のみです。この差を埋めるためにビッグデータとAI技術が使われています。

  まず、大型の装置で測定したデータに対応した医師による診断データを、一つの見本となる「教師データ」としてAIに学習させます。次に、パッチ式脳波計で測ったデータとの「特徴量」を一致させます。こうしてパッチ式脳波計に、大 型の医療機器と同じ特徴を検出できるようにすることで、正確な測定を実現しているのです。

、病

  さらに現在、大阪大学の精神科の医師の方々によるアンケートや、MRIのイメージングデータなど、認知症を診断するためのビッグデータの中にはパッチ式脳波計のデータも格納されています。パッチ式脳波計で得られたデータを医療現場でも使ってもらうことで、よりデータを充実させ、測定精度を上げていくことができます。

  こうした試みから、前額部だけでも相当な測定ができることがわかってきました。現在は認知症にとどまらず、てんかん、鬱、更年期障害などの予測にも、さまざまな可能性が見えてきています。

  パッチ式脳波計が満たそうとしている ニーズは「アンメット・メディカル・ニーズ」と呼ばれています。これは、有効な治療法がまだ存在しない一方で、強く望まれている、リアルな医療ニーズのことです。

  サイエンスは、「正しい問い」から始めなければなりません。正しい問いでないものは、本質的な解をもたらすことがないからです。

  私は「なぜ認知症ほどの深刻な病気が、これだけの科学技術が発達していても測ることができないのか」という問いからスタートしました。この問いを携えて、医療現場の医師に聞いてみると「患者のリアルな日常のデータがほしい」というのです。大型の測定器は病院にたくさんある。しかし、そうした測定器でとれないデータがほしいというのです。これが医療のニーズだったのです。

  しかし、「正しい問い」のソリューションとしてのツールをつくるだけでは、社会で使ってもらうことはできません。ツールをつくったら、自分でベンチャー企業をつくり、医療現場で使ってもらえるようにしました。そこで信頼されていることを見て、はじめて一般企業が振り向いて、社会との接点をつくってくれるのです。

  このように、サイエンスのゼロイチだけではなくて、社会のゼロイチをつくるまでが、科学者の仕事だと思って、私は大学で研究をしています。

校までの勉強や大学入試 は、与えられた問題に対 して答えを出すもの。つまり課題 が明確にあるものです。しかし大 学での研究や社会では、課題を 与えられることはなく、課題を設 定することが求められます。大学 の研究では、常に課題をつくって 解くことを継続していきます。

 課題をつくる力は、解く力とは また違った視点、力が求められま す。そして、課題をつくる力を身 につけるには「自分を定義しな い」ことが秘訣だと思っています。

誰しも「自分はこういう人間だか ら」「こういう主義だから」と決 めてしまいがちです。しかし、自 分を定義してしまうことで、さま ざまな情報を受け入れなかったり、

聞き逃してしまったりしてしまう ことが多い。

 なかなか若いうちは難しいか もしれませんが、自分で自分を 決めつけないでください。人の 話を聞いたりすることを通して、

課 題 を つ く る 力 、「 正 し い 問 い」をつくる力は身につくのだ と思います。

関谷先生から 高校生への メッセージ

自分で自分を 定義しない 正しい問いを持て

Message

資 料 2

認知症も予測できる、自宅で計測パッチ式脳波計

▲ 関谷先生らが研究開発したパッチ式脳波計は、従来の医療用の計測機 器(数千万〜数億円ほどする大型の医療機器)と同等の計測能力を持つ。

11

参照

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