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会計学1 はじめに モデルの性質 モデルの概要

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Academic year: 2023

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1 会計学1

第10講 複式簿記はなぜ必要か

1 2

はじめに

• 本講義の目的

(1)複式簿記の説明モデルにもとづいて会計に おける利益計算構造を理論分析的に検討す ること。

(2)複式簿記と利益計算の関係を純粋理論的 に描出すること。

3

モデルの性質

• 今日の会計人に共有されている複式簿記の標準的 な理解(制度化された複式簿記の理解)を,単純な 概念の組合せによって近似的に再構成することを 目的としている。

• 留意事項

(1)個々の歴史的事実から帰納・演繹したものではない。

(2)慣習的な複式簿記の完全な模写を目ざしたものではない。

(3)あるべき複式簿記を主張するものではない。

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モデルの概要

• すべての取引を,現金収支とその原因事象の複記により記 録する。

• 原因事象ごとに記録を集計し残高を確定するとともに,原因 事象の成果作用性の有無の識別によって損益を決定する。

(借)現金収入 ×× (貸)原因事象 ××

(現 金) (売 上)

(借)原因事象 ×× (貸)現金支出 ××

(仕 入) (現 金)

5

利益決定プロセス

- 理念的プロセスー

現金収入 現金支出

収支差額 (Ⅰ)現金収支表

成果収入

非成果収入 成果支出

非成果支出

収支差額

(Ⅱ)現金収支表 成果収入

成果支出

非成果収入 非成果支出

収支差額 利 益

利 益 (Ⅲ-a)現金収支表

(Ⅲ-b)現金収支表

現金収支の成果作用性が識別できれば,収支記録にもとづき 利益を決定することができる。

6

利益決定プロセス

- 操作的プロセスー

現金収入 現金支出

収支差額 (Ⅰ)現金収支表

成果収入 原因

非成果収入 原因 成果支出

原因 非成果支出

原因 現 金

原因事象残高表

成果計算表

成果収入 原因

非成果収入 原因 成果支出

原因

非成果支出 原因 現 金 利 益

利 益 残高表

現金収支の原因事象を記録すれば,その残高を集計することによって,

成果作用的現金収入の合計額と,成果作用的現金支出の合計額を求 め,その差額によって当期の利益を決定することができる。

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モデルの理論的基礎

井尻[1968]の会計測定論。会計測定の3公理。

井尻モデルの修正。「借方は財の増分,貸方は財の減分」という因果性を,「現金収支と原 因事象」の因果性に修正。現金収支は,会計測定の3公理を縮約。現金は,基本財とされ,

計算貨幣として機能することになる。

請求権分類に属する科目を「未来現金の減分」とすることは,概念的な擬制がやや過剰で あり,理解しにくい。

(借)現 金 ×× (貸)借入金 ××

(財の増分) (未来現金の減分)

(借)現 金 ×× (貸)借入金 ××

(現金収入) (現金収入の原因事象)

「すべての費用及び収益は,その支出及び収入に基づいて計上し,その発生した期間に正 しく割り当てられるように処理しなければならない」(「企業会計原則」発生主義の原則)とい う理解に依拠して,モデルを再構築。収入・支出をモデルの鍵概念とする。

藤井[1997][2000]を発展させたもの。新田編著[2002]5頁。

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会計測定の 3 公理

認識対象

数量表現

因果性

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設例

平成19年 5月1日 現金¥300を元入れして開業した。

5月10日 商品¥300(3個,@¥100)を仕入れ,代

金は現金で支払った。

5月25日 商品2個を¥240で販売し,代金は現金で

受け取った。

5月31日 平成19年5月度の決算を実施した。

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単式簿記による記録・計算 ( 現金を記録対象とした場合)

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単式簿記による記録・計算の特徴

• 現金(特定の財)の増減および残高が日付順に記 録・計算されるのみで,

①現金以外の財の増減および残高(有高),

②それらと現金の増減および残高の有機的関係,

③当期の活動成果(利益)は,示されない。

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モデル分析

複式記入と財産評価の必要性

• 前掲の①②③を示すためには,

(1)現金(基本財)の増減と現金以外の財の増減 を取引ごとに関連づけること,

(2)各取引の原因事象の成果作用性を識別す

ることが,必要となる。

(3)

3

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現金収支と原因事象の複式記入

14

財産評価の必要性

• 売れ残った商品1個の価格を決めなければ,前掲の記録か ら当期の利益を決定することはできない。このことから利益 計算において財産評価が不可欠であることが理解される。

• 商品の代表的な評価基準 (1)時価

1.再調達原価 2.正味実現可能価額 (2)原価

取得原価

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時価基準による利益計算

• 売れ残り商品をゼロと評価する。

期待の修正(商品価値=0)。仕入総額=売上原価 売上に係る仕訳および擬制仕訳は省略。

平成19年 5月31日

(借)損 益 300

(借)残 高 60

(貸)仕 入 300

(貸)損 益 60

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時価基準による財務諸表

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原価基準による利益計算

• 売れ残り商品を¥100と評価する。

当初の期待を維持。

売上に係る仕訳および擬制仕訳は省略。

平成19年 5月31日

(借)繰越商品 100

(借)損 益 200

(借)損 益 40

(貸)仕 入 100 (貸)仕 入 200

(貸)残 高 40

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原価基準による財務諸表

(4)

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モデルの補足説明

• 現金収支をともなわない取引(非基本財の交換取引,決 算取引・振替取引等)は,現金を介在させる取引を擬制 することで処理される。

減価償却の場合

(借)現 金 ××

原因事象 ××

(減価償却費)

(貸)原因事象 ××

(機 械)

現 金 ××

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モデル分析の解釈 (1)

• 会計利益を決定するためには,

①取引を現金収支とその原因事象の二面から逐次累積的に記 録すること,

②決算にさいして財産評価を実施することが,必要となる。

①の特徴から,このモデルが収支簿記に類似したものであるこ と(現金以外の勘定科目を原因事象=非基本財の下位クラ ス勘定と考えた場合は,2財モデルと見なせること)が,理解 される。

①②の特徴から,複式簿記を通じた利益計算においては,帳 簿記録の意味が主観的事業実態(経営者の期待)によって決 まることが,理解される。会計方針の選択・変更にも作用。

21

発生主義会計情報の意義

経営者の期待を反映した財務情報

• 「発生主義会計は将来のキャッシュ・フローに対する 経営者の期待を反映しており,したがってそれは過 去・現在のキャッシュ・フローよりも包括的と言える 情報システムを基礎としている。すなわち発生主義 は必然的に将来につての暗黙もしくは明示的な予 測を伴うということができ,したがってそのような会 計は現金収支には含まれない情報を伝達すること ができるのである。」(Beaver[1989]p.7)

現金収支の成果作用性の識別および期末財産評価に,事業に 関する経営者の期待が反映される。それが有用性の源泉となる。

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モデル分析の解釈 (2)

• 「その他の測定方法についても交換の判断を拡張し て予期された交換あるいは想定された交換を含む ようにするならばこの三つの要素で十分となる。」

(井尻[1968]119頁)

• 取引概念=会計的認識対象の拡張の可能性。記 録技術に引き寄せていえば,現金概念の拡張に よって,取引概念を拡張することができる。オフバラ ンス取引の認識の可能性。e.g. リース取引。

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モデル分析の解釈 (3)

• 「複式簿記のほんとうの重要性は〔・・・〕,その構造が財産変 動における原因結果の関係を追究するようわれわれに強制 しわれわれのものの考え方に影響を及ぼすという点にある

〔・・・〕。」(井尻[1968]140頁) 「複式簿記の無言の力」(井尻 [1990]40頁)

• これは基本的には,経営者の視点に立った指摘と言えよう。

• 近年の基準設定(コンバージェンス)においては,意思決定有 用性(投資者の視点)が強調されている。その過程で,経営 者の視点の後退(画一的規制による経営者の意図の排除の 指向性)と,複式簿記の軽視傾向が観察されるのは,当然の 成り行きと評することができるかもしれない。

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おわりに

本講義では,今日の会計人に共有されている複式簿記の標準的な理解 を,可能な限り単純化したモデルによって近似的に再構成しようとした。

会計測定の3公理を理論的基礎とし,交換財の因果性を重視する点では 井尻モデルを継承しているが,現金収支を鍵概念として当該モデルに修 正を施している。

複式簿記にもとづく利益計算は,事業に関する経営者の期待を不可欠 の要素としている。そこから,会計利益に固有の情報価値が派生する。

この解釈は近年の実証研究の成果とも整合的である。

複式簿記を基本的には会計の記録方法として位置づけているが,その 最も重要な要素の1を,会計人や経営者に対する「無言の力」に求めてい る。その意味では,複式簿記を単なる記録技術とは見ていない。

参照

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