都築 暢夫
4月 14 日(金) 3・4時限
1. 代数学 I で学ぶこと
昨年度の線形代数学I・IIに引き続き、線形代数の一般論を多くの例を交えて解説する。
1. 線形空間
(a) 基底とその変換 (b) 線形写像の行列表示 2. 行列の標準形
(c) 固有値、(広義)固有空間 (d) 対角化、Jordan 標準形 3. 線形空間論の応用
(e) 線形常微分方程式 (f) その他
この講義を通じて、N、Z、Q、R、C で、自然数全体の集合、有理整数環、有理数体、
実数体、複素数体を表す。ただし、自然数とは非負整数 0,1,2,3,4,5,· · · のことです。
ノートの最後にレポート問題を載せます。挑戦してみてください。
教科書 : 硲野敏博・加藤芳文著「理工系の基礎線形代数学」(学術図書出版) 昨年度「線形代数学 I、II」と同じです。
連絡先 (e-mail) : [email protected] ノート等は次回からホームページにあります。
ホームページ: http://www.math.sci.hiroshima-u.ac.jp/algebra/member/tsuzuki-j.html
2. 導入に変えて
Fibonacci 数列 (an)n≥0
½ f0 =f1 = 1
fn=fn−1+fn−2 (n≥2) を例にして、この講義の内容を簡単に解説する。
2.1. 漸化式が満たす線形空間. V ={(an)n≥0 ∈RN} を実数列全体のなす集合とする。加 法とスカラー倍を
(an) + (bn) = (an+bn) r(an) = (ran)
と定めると、V は恒等的に 0である数列 0 を零元とする線形空間になる。W を W ={(an)∈W|an=an−1 +an−2(∀n≥2)}
とおくと次の命題が成り立つ。
命題 2.1. W は V の 2 次元部分空間である。
証明. (1) W が V の部分空間になること : (an),(bn)∈W, r∈R とする。
an+bn = (an−1+an−2) + (bn−1+bn−2) = (an−1+bn−1) + (an−2+bn−2) ran =r(an−1+an−2) =ran−1+ran−2
なので、(an) + (bn), r(an)∈W となり、W は V の部分空間である。
(2) (an)∈W が a0 =a1 = 0 を満たすと、帰納的に(an) = 0 がわかる。
(3) 数列 (gn),(hn) を
½ g0 = 1, g1 = 0
gn=gn−1+gn−2 (n ≥2)
½ h0 = 0, h1 = 1
hn=hn−1+hn−2 (n≥2) と定める。このとき、(gn),(hn) は W の基底になることを証明する。
まず、一次独立性を証明する。
r(gn) +s(hn) = 0 (r, s∈R) とする。n= 0,1の項を計算すると
0 =rg0+sh0 =r×1 +s×0 =r 0 =rg1+sh1 =r×0 +s×1 =s となるので、(gn) と (hn) は一次独立である。
W が (gn),(hn)で生成されることを証明する。(an)∈W とする。数列 (an)−a0(gn)− a1(hn)は、W に属する数列で、第 0項と第1 項はともに0になる。よって、(2) よりこ の数列は零数列で、
(an) =a0(gn) +a1(hn)
となり、W は (gn) と (hn) で生成される。
以上より、W は(gn)と (hn)を基底に持つ V の部分空間で、その次元は2である。¤
2.2. 一般解を求めてみよう. 2 次方程式
x2−x−1 = 0 の 2 解をα, β とする。判別式から α6=β である。
命題 2.2. 数列(xn) と (yn) を
xn =αn, yn=βn (n≥0) と定めると、(xn) と (yn) は W の基底になる。
証明. (1) (xn)と (yn) が W に属すること: α2 =α+ 1 より、n≥2 に対して xn=αn =αn−2α2 =αn−2(α+ 1) =αn−1+αn−2 =xn−1+xn−2 となるので、(xn)∈W である。(yn) についても同様。
(2) (xn)と (yn) が一次独立であること:
r(xn) +s(yn) = 0 (r, s∈R) とする。第 0 項と第1 項より、
µ1 1 α β
¶ µr s
¶
= µ0
0
¶
が成り立つ。det
µ1 1 α β
¶
=β−α6= 0 なので、
µ1 1 α β
¶
は可逆行列になり、
r=s= 0 である。よって、(xn) と (yn) は一次独立である。
W の次元は 2なので、(xn)と (yn) は W の基底になる。 ¤ 第 0 項と第1 項を比べることにより、
(xn) =x0(gn) +x1(hn) = (gn) +α(hn) (yn) = y0(gn) +y1(hn) = (gn) +β(hn) が成り立つ。基底の変換行列 P は
((xn),(yn)) = ((gn),(hn))P P =
µ1 1 α β
¶
となる。P−1 = 1 β−α
µ β −1
−α 1
¶
より、
((gn),(hn)) = ((xn),(yn))P−1 =
µ 1
β−α(β(xn)−α(yn)), 1
β−α(−(xn) + (yn))
¶
=
µβαn−αβn
β−α ,βn−αn β−α
¶
となる。(an)∈W に対して、(an) =a0(gn) +a1(hn)より (∗) an =a0gn+a1hn=a0βαn−αβn
β−α +a1βn−αn β−α
となる。したがって、Fibonacci 数列(fn) の一般項は、f0 =f1 = 1 より fn= (β−1)αn−(α−1)βn
β−α となる。
2.3. 行列のべきを求めて Fibonacci 数列を求める. (an)∈W とすると、漸化式は µ an
an+1
¶
=
µ0 1 1 1
¶ µan−1 an
¶
(n ≥1)
と表される。A=
µ0 1 1 1
¶
とすると µ an
an+1
¶
=An µa0
a1
¶
となるので、An を求めればよい。
A の固有多項式ΦA(x) は、I2 で 2 次の単位行列を表すと ΦA(x) = det(xI2−A) = det
µ x −1
−1 x−1
¶
=x2−x−1
である。A の固有値は α, β で互いに異なるから A は対角化可能である。実際、
AP =P
µα 0 0 β
¶
P−1AP =
µα 0 0 β
¶
が成り立つ。(P−1AP)n=P−1AnP となるので、
An =P
µα 0 0 β
¶n
P−1 =
µ1 1 α β
¶ µαn 0 0 βn
¶ 1 β−α
µ β −1
−α 1
¶
= 1
β−α
µ βαn−αβn βn−αn αn+1β−αβn+1 βn+1−αn+1
¶
である。よって、(∗) を得る。
2.4. 微分方程式を作ろう. (an)∈W の元に対して、級数 a(x) =
X∞
n=0
anxn n!
を考える。a(x) を数列 (an) の母関数という。M = max{|a0|,|a1|}とおくと、帰納的に
|an| ≤2nM
が証明できる。実際、n= 0,1 では不等式が成り立ち、n−1 まで成り立つとすると
|an|=|an−1+an−2| ≤ |an−1|+|an−2| ≤2n−1M + 2n−2M ≤2×2n−1M = 2nM である。Me2x が a(x) の優級数になるので、a(x)は実数全体でC∞ 級関数になる。
命題 2.3. a(x) は次の微分方程式を満たす。
a00(x) =a0(x) +a(x)
微分方程式とは、関数の微分を含む関係式のことをいう。また、微分方程式を解くとは その関係式を満たす関数を求めることである。
証明. n ≥0 に対し、xn の係数を比較すると、左辺は an+2n! となり、右辺は an+1n! + an!n で
ある。したがって、両辺は一致する。 ¤
さて、R 上のC∞ 級関数 y で、微分方程式 y00 =y0 +y
を満たすもの全体を U とすると、U は R線形空間である。実際、y1, y2 ∈U, r∈R とす ると
(y1+y2)00=y100+y200= (y10 +y1) + (y20 +y2) = (y1+y2)0+ (y1+y2) (ry1)0 =ry10 =r(y01+y1) = (ry1)0+ry
となる。このように解の集合が線形空間になる微分方程式を線形微分方程式という。ま た、高々 2 回の微分までなので、2 階の線形微分方程式という。
講義の中で証明することですが、2階線形微分方程式なので U は高々2 次元の線形空 間になる。この事実を用いて、U の基底を求める。
命題 2.4. 2 つの関数 eαx と eβx は U の基底になる。逆に、U の元は x = 0 の周り
で Taylor 展開を持ち、母関数を作る方法の逆からできる数列は線形空間 W の元であ
る。特に、母関数を作る写像により、W と U は線形空間として同型になる。
証明. (1) eαx, eβx∈U となること:
(eαx)00 =α2eαx = (α+ 1)eαx =αeαx+eαx = (eαx)0+eαx より、eαx ∈U である。 eβx についても同様。
(2) eαx, eβx が U の基底となること: U は 2 次元なので、eαx, eβx が一次独立を証明すれ ばよい。
reαx+seβx = 0
とする。x = 0 を代入したものと一回微分して x = 0 を代入したものを考えると、命題 2.2 の証明の(2) の関係式と同じ関係式
½ r+s= 0 rα+sβ = 0
が得られる。よって、r=s= 0 となり、一次独立である。
逆以降は証明を省略する。 ¤
定数項と xの係数を考えることにより、U の任意の元はeαx と eβx の 1次結合で表さ れる。
指数関数の Taylor 展開
eαx = 1 +αx+α2x2
2! + α3x3
3! + α4x4
4! +α5x5 5! +· · ·
から、W の数列 (gn) と (hn) からできる母関数がそれぞれeαx と eβx となる。したがっ て、この方法でもFibonacci 数列の一般項が求まる。
2.5. 行列を用いて微分方程式を解く. 2 階の微分方程式y00=y0+y は µy0
y00
¶
=
µ0 1 1 1
¶ µy y0
¶
=A µy
y0
¶
と表される。行列係数べき級数
Y = X∞
n=0
Anxn n!
を考える。ただし、A0 =I2 とする。2.3 節の評価と同様にして、|An| で An の成分の絶 対値の最大を表すことにすると
|An| ≤2n
となるので、Y は R上の C∞ 級の行列関数になる。A は定数関数なので、微分方程式 Y0 =
X∞
n=0
nAnxn−1 n! =
X∞
n=1
AAn−1 xn−1
(n−1)! =AY
を満たす。これより、 微分方程式 y00 =y0 +y の一般解が2 つの定数 s, t∈R により µy
y0
¶
=Y µs
t
¶
となる。
さて、P−1AP =
µα 0 0 β
¶
なので P−1Y P =
X∞
n=0
µα 0 0 β
¶n xn
n! =
µeαx 0 0 eβx
¶
Y = 1
β−α
µ βeαx−αeβx eβx−eαx αβ(eαx−eβx) βeβx−αeβx
¶
となる。前節で求めたものが出てくる。
数列の漸化式から定まる線形空間と線形微分方程式の解の空間が同型になる。この例 は、数列と解析という違うところから出発して、実質的には同じものを扱っています。線 形空間の一般論は、数学の色々な場面で出てくる線形的な現象を表す言語を与えるもので す。何が本質的に重要か教えてくれます。代数という名は付いていますが、決して代数の みのものではなく、数学全体の基礎になっています。
レポート 問題
問 1. 漸化式an = 6an−1−11an−2 + 6an−3(n≥3) に対して考察せよ。
問 2. 漸化式an = 6an−1−9an−2(n≥2)に対して考察せよ。