1
2017年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
なぜ日立製作所は
任天堂に学ぶべきなのか
―サービス業の製造化に備えるために―
A1442597 髙田 啓太 2018年1月15日提出
2 目次
Ⅰ. 抄録 ・・・p.3 Ⅱ. キーワード ・・・p.3 Ⅲ. 序文 ・・・p.3
Ⅳ. 本論に向けて ・・・p.3
ⅰ)製造業とサービス業 ・・・p.3
ⅱ)製造業のサービス化とは ・・・p.4
ⅲ)製造業のサービス化事例 ・・・p.4
ⅳ)サービス業の製造化とは ・・・p.6
ⅴ)サービス業の製造化事例 ・・・p.6
Ⅴ. なぜ『今』、製造業のサービス化が急務なのか ・・・p.8
Ⅵ. サービス業の製造化の方が有利なのか ・・・p.9
ⅰ)媒体分析 ・・・p.9
ⅱ)M&A分析 ・・・p.10
Ⅶ. サービス業の製造化と製造業のサービス化の衝突 ・・・p.12
ⅰ)任天堂概況 ・・・p.12
ⅱ)サービス業の製造化の勝利 ・・・p.13
ⅲ)製造業のサービス化の小さな抵抗 ・・・p.15
Ⅷ. 任天堂と日立製作所の類似点 ・・・p.16
ⅰ)日立製作所概況 ・・・p.17
ⅱ)製造業のサービス化への意識 ・・・p.17
ⅲ)目指す方向性 ・・・p.18
Ⅸ. 任天堂に学ぶ日立製作所の未来 ・・・p.18
ⅰ)任天堂から何を学ぶか ・・・p.18
ⅱ)日立製作所が進むべき製造業のサービス化 ・・・p.19
Ⅹ. 結論 ・・・p.22 Ⅺ. 参考文献 ・・・p.22
3
Ⅰ. 抄録
製造業は、新興国の製造技術の発展やITの進展によって製品がコモディティ化し、差別化が 難しくなっている。先進国諸国の製造業はドイツのインダストリー4.0に代表されるような製造 業のサービス化に舵を切ってきた。しかし、世界の市況を鑑みるとグーグルやアマゾンに代表さ れるIT産業による製造ファブレス化や製造業企業に対するM&Aのようにサービス業の製造化 の方に勢いがある。伝統的に製造業が強いと言われてきた日本でも、製造業のサービス化が叫ば れているが、目立った大きなイノベーションの動きはない。意識改革の早かった日立製作所も進 展が遅い状況である。また、近年サービス業の製造化によって急速に市場を奪われたのはゲーム 業界、特にハードウェア・ソフトウェア製造企業であった。本稿では、その一例として任天堂を 挙げ、サービス業の製造化による影響を俯瞰する。その例から、製造業のサービス化が遅れてい る日立製作所にどのような示唆があるかを見ていく。
Ⅱ. キーワード
日立製作所、任天堂、製造業のサービス化、サービス業の製造化
Ⅲ. 序文
我が国の製造業は、新興国の製造技術の発展とIT革新によって十分な利益が出しにくい状況 となっており、製造業のサービス化が求められている。さらにアメリカや中国のサービス業では 新たなビジネスモデル革新が起こっており、売れるモノ作りに特化したIT産業の製造化が進ん でいる。こうして我が国の強みであった製造業は売上や利益において先細りしている。
そこで今回、製造業のサービス化やサービス業の製造化について先行研究等から定義し、その 事例を紹介する。そして、製造業のサービス化にとってサービス業の製造化がどのような点で製 造業に脅威になっているのかを見ていく。
さらに、サービス業の製造化の影響を受けた製造業企業である任天堂の例を取り上げ、現状分 析から見る今後の取り得る戦略を考察する。そして、日本の製造業の中でも製造業のサービス化 に意識改革が最も早かった企業の一つである日立製作所の取り組みを俯瞰しつつ、任天堂の状 況を鑑みながら今後来るべきサービス業の製造化に備えるための日立製作所の戦略について示 唆する。
そこで、本稿での問題提起は「サービス業の製造化に打撃を受けた任天堂の現状を学ぶことで、
日立製作所は来るべきサービス業の製造化に備えることができるのではないか」である。
Ⅳ. 本論に向けて
本論に必要となる言葉の定義と現状について先行研究を用いながら考察していく。
ⅰ)製造業とサービス業
研究テーマの性質上、本稿は「製造業」と「サービス業」という2つの言葉が数多く出てくる。
今研究では製造業は主に高度技術を取り扱うB to B向けの製品を、サービス業は主にIT(情報 技術)を取り扱うサービスを中心に調査を行った。そこで、本稿では話を分かりやすくするため
4
に、特に詳細な注釈がなければ、「製造業」を提供する価値の本質が『製造』に置かれているハ ードウェア技術産業とし、「サービス業」を提供する価値の本質が『非製造』に置かれている情 報技術産業として定義することとする。例えば、製造業はトヨタ自動車やフォルクスワーゲンな ど指し、サービス業をLINEやGoogleなどを指す。
ⅱ)製造業のサービス化とは何か
第 2 次世界大戦後、製造業の重厚長大産業を筆頭に工業製品の大量生産モデルや擦り合わせ による高度な技術開発という差別化モデルなどのビジネスモデルは、日本やドイツなどの先進 国に限定されていた。しかし、90 年代以降は新興国の工業化が急速に発展し、技術力の向上と 共に通信費や物流費のコストが下がってきたことにより、世界において多くの製造業企業が低 コストで製品を大量生産する時代に突入した。さらに、そのような新興国諸国の中で高度な技術 を持つ製造業企業が台頭すると、汎用品だけではなく先端技術を要する工業製品でさえ、短期間 のうちにコモディティ化が進んだ。世界中で同じような製品を製造することが可能になると、価 格競争に陥った先進国の製造業は十分な利益を得られなくなり、上記のビジネスモデルは競争 力を失った。
こうした状況の中、各国各社の製造業は生き残りをかけた次なる手として、製造業のサービス 化を進めた。このビジネスモデルを増田(2011)は次のように述べている。
「世界に商品(工業製品)があふれるモノ余りの時代となった今、顧客の求め る価値は商品そのものではなく、商品を使った問題解決(ソリューション)に移 行しつつある。製造業は、優れた性能の製品を作ればよいということではなく、
その製品の導入によってもたらされるソリューションや顧客の生産性向上といっ たサービスを売るビジネスに取り組むことが重要性を増してきている。」(p.2)
従って、これからの製造業のビジネスモデルは製品の開発・製造だけではなく、製品を使った ソリューションといった付帯サービスを加えることで他社と比べて高付加価値・差別化を図り、
競争力を付けていくことになるのである。
こうした歴史的な流れ、ビジネスモデルの移り変わりにより、近年では製造業が特にソフトウ ェアに代表されるようなサービス業への関心を高め、その付加価値の重点を製造からサービス へとシフトさせようと動き出しているのである。
ⅲ)製造業のサービス化事例
実際に製造業のサービス化が現場でどのような意味合いを持ち、また実際どのようにビジネ スとして成り立っているのかを事例として取り上げ、簡単な解説を加えていく。事例➀では国を 挙げて製造業のサービス化を推し進めるドイツ政府の大方針の例である。ここでは、製造業のサ ービス化がどのような意識を持っているものなのかを記述する。事例②では、アメリカの製造業 大手である GE の例である。ここでは、製造業のサービス化がどのようにビジネスに落とし込ま れているのかを記述する。
5 事例①:ドイツ政府:インダストリー4.0
製造業のサービス化を説明する際、よく出る事例の 1 つがこのドイツのインダ ストリー4.0 である。日本版インダストリー4.0 という日本政府主導の類似戦略が 出るほど、製造業に重きを置く国や地域では注目の的になっている。
インダストリー4.0 とは第 4 次産業革命を指し、具体的には IoT(Internet of Things)による製造業革命を予測している。ドイツでは政府主導により製造業のビ ジョンを示し、生産システムの構築にあたっている。これまでの製造業と違う大 きな特徴は 3 点あるが、どれも IoT や半・全自動工場、ディープラーニングとい った高度な製造技術が根底にある。
特徴の 1 つ目はマス・カスタマイゼーションである。大量生産からカスタムメ イド品へという市場の変化に対応するため、一品一品カスタマイズされた製品を 投入するのである。2 つ目はリアルタイム性である。個人データにより好みに合わ せた商品を仕様化し、受注から生産の行程を縮め、カスタマイズにかかる日数を 短縮するのである。3 つ目は低価格である。オーダーメイド製品であっても、注文
~製造~発送のバリューチェーンを極力自動化することにより、大量生産品と変 わらない価格で提供するのである。
以上のように確かな製造技術力を以って、多様化した個性に合わせた製品を提 供するサービスを展開することを目指しているのが、ドイツのインダストリー4.0 である。
事例②:アメリカ GE:インダストリアル・インターネット
アメリカの製造業大手 GE は IoT に注力し、付加価値の重点をサービスに置き始 めている。以下は GE が航空機会社に提供しているエンジンにおけるサービスの例 である。
サービスの仕組みは 2 つある。1 つ目は GE に限らず航空機エンジンの製造会社 に共通するビジネスモデルであるが、稼働課金制を採用していることである。出 力×稼働時間で、飛行した分だけ課金するというタクシーのようなシステムを採 用している。これは、GE のビジネスモデルとして航空機エンジンを製造はするが、
収益を「エンジンの駆動による移動」というサービスに置くという製造業のサー ビス化の好例である。また、2 つ目は GE が飛行中の航空機の自社のエンジン状況 をリアルタイムでモニタリングし、障害状況等を解析し続けるサービスである。
リアルタイムでの解析により、トラブルの発生箇所や、メンテナンスを必要とす る箇所が目的地に着陸する前に特定できるようになる。こうして機体の着陸前に 障害箇所が分かることで、当該部品のあらかじめの手配を完了させることができ、
これまでの着陸後の点検~障害発覚~メンテナンスの時間ロスをなくし、離陸時 間の延長・定時運行を守り、結果アメリカ国内 2013 年度年間 80 億ドル(推定)
とされる運行遅延による費用削減に貢献している。
6
このように、エンジンの製造に価値を置くのではなく、製造したエンジンによ るサービスの提供に価値を見出すのが、GE のインダストリアル・インターネット である。
ⅳ)サービス業の製造化とは
サービス業界は、インターネットの発展により1970年代から産業として存在感を増すように なり、劇的な成長を遂げてきた。2010 年頃から SNSや電子商取引の普及が世界的な潮流とな ると、サービス業は各社が自社のデジタルプラットフォーム上に大量の情報を収集し、データ分 析を行うことで主にマーケティングや広告の分野で活用していた。
莫大なデジタルインフラを整備したサービス業界から、圧倒的な情報量を保有する企業が現 れると、IT を基盤とした現物製品の製造に着手するようになった。さらに、異業種間での情報 共有やディープラーニングの発達によりビッグデータ解析が詳細に行えるようになると、他社 他産業へのソリューションビジネスが可能になった。
サービス業は企業が持つサービス単体の提供により収益を得るビジネスモデルから、IT を基 盤とするモノをサービス業自らが普及させ、そのサービスの部分で収益を稼ぐビジネスモデル に移り変わってきている。従って、製造の部分には最低限のコストを求めて製造ファブレスや製 造企業の買収によってモノ作りに着手するのであった。
IT を基盤にしたサービスを中心に置いたモノ作りは、既存の製造業の視点からは革新的であ り、また製品自体に価値を置かないが場合があるが故に製品の価格が安価になりやすく、しばし ば今までの製造業のビジネスモデルや産業構造を破壊することがある。
こうした背景とビジネスモデルの移り変わりにより、サービス業の収益拡大のために近年で はサービス業が製造業への関心を高めているのである。
ⅴ)サービス業の製造化事例
サービス業の製造化が現場でどのような意味合いを持ち、また実際どのようにビジネスとし て成り立っているのかを事例として取り上げ、簡単な解説を加えていく。事例➀ではアメリカの IT 産業大手である Google の自動運転車プロジェクトの例である。ここでは、サービス業の製造 化の発展の過程と現場の実績を見て、将来の産業構造の変化の可能性に言及する。事例②ではア メリカの電子商取引の巨人である Amazon の例である。ここでは、サービス業の製造化がどのよ うに企業の業績に貢献しているかを見ていく。
事例➀:アメリカGoogle:自動運転車プロジェクト
ITサービス業の大手であるGoogleの例は最も想起しやすい。Googleは2009 年に「グーグル X」という自動運転車プロジェクトを発足させ、翌年にその内容 を世界に向けて公表している。この「グーグル X」では、まずトヨタ自動車のハ イブリッド車プリウスを、その後にレクサスの RX をベースにした試作車を開発 した。さらに、Google自身が0から開発したハンドルやアクセルのない完全自動
7
運転車でも既に実験を進めている。現場の実績として50万キロを走り、一回も事 故がなかったことは急速な技術の向上を表している。
トヨタ自動車や日産自動車も無人運転車を試作しているが、グーグルとは蓄積 している技術の経験分野が異なる。前者は自動車ハードウェアベースの知識を持 っているが、後者は自動化ITベースの知識を保有している。スマートフォンがハ ードウェアからOS、アプリケ―ションへとITベースに価値が移行していったよ うに、現在、自動車は完全にハードウェアであるが、今後は自動運転というITサ ービスが収益の鍵となる。当然、完全自動運転=無事故車が出来上がると、堅い ボディを有するハードウェアな部分は削ぎ落とされていくと推考すると、ハード ウェアベースの知識の価値は低下していく。こうして自動車製造業の産業構造ま で変える可能性があるのが、Googleの自動運転車プロジェクトなのである。
事例②:アメリカAmazon:垂直統合戦略
かつて、アメリカのIT業界の構造は単純であった。半導体メーカーは半導体を 製造し、ソフトウェア企業は半導体上で動作するソフトウェアを開発する。コン ピューター製造者は上記のそれらをコンピューターにして製品にする。しかし現 在、この構造は基本的に崩れている。
Amazon は本質的サービスとして電子商取引サイトを運営している企業である
が、イスラエルの半導体メーカーAnnapurnaを15年1月に買収し、2016年1月
にAnnapurna Labsの半導体を発売したと発表した。同社の半導体は、インター
ネットと接続するためのホームゲートウェイや無線 LAN ルーター、データ保存 装置などに使われている。さらに、Amazonは2007年からタブレット端末である
Amazon Kindle、2011 年からはテレビのセットトップ・ボックスであるKindle
Fireといった自社製の家電製品を販売している。
Annapurna の半導体製品は上記のような Amazon の家電製品に採用されると
みられ、この製品を一般市場にも販売すれば製品の販売収益だけではなく、量産 効果が働いて製造コストが下がる。さらに、クラウドサービス「アマゾン・ウェ ブ・サービス(AWS)」も手掛けており、Annapurna の半導体製品は、AWS のコンピューティング装置に採用されているともみられているので、ここでも量 産効果によるコストダウンの恩恵が及ぶことになる。
ソフトウェアを動かす半導体をAmazon自身が買収・製作することにより、ソ フトウェアのみでは実現できない付加価値を実現することが可能になった。こう
してAmazonの電子商取引事業自体の利益率を高めることができるという垂直統
合戦略が、Amazon のサービス業の製造化による製造業買収の目的であったと推 察できる。
8
Ⅴ. なぜ『今』、製造業のサービス化が急務なのか
上記のⅣ-ⅲ)製造業のサービス化事例のような例は世界的に増えてきているものの、多くはな い。日本においてもないわけではないが、イノベーションと呼べるような変化は起きていない。
本稿では、製造業のサービス化の進展の遅延はよしとしない。以下にその理由を述べる。
まず、製造業とサービス業という 2 つの軸において、現在市場がどのような覇権競争を繰り 広げているかについて見ることにする。現在製造業とサービス業の市況を、藤本(2017)の3層か ら成る産業構造で捉えると分かりやすい。 図 1 のように、IoT や ICT(Information and Communication Technology)といったサービス業が主な「サイバー空間の層を重さのない世界 とし、『上空』」(p.124)と名付けている。また、製造現場や現物といった主に製造業が主な「現 場・現物の空間の層を重さのある世界とし、『地上』」(p.124)と名付けている。そして、この2つ の『上空』と『地上』を繋ぐ「インターフェース層を『低空』」(p.124)と名付けている。
図1. 上空、低空、地上の3層で産業構造を捉える
(出典:藤本(2017)「現場から見上げる企業戦略論」をもとに筆者が一部編集)
以上のように、サービス業と製造業のポジショニングを藤本の『上空』、『低空』、『地上』の3 層の産業構造から捉え直すと、現代の市況についてサービス業は製造化によって、そして製造業 はサービス化によって『低空』の産業構造の主導権を争っている。
製造業にとってサービス業の製造化が脅威となるのは、サービス業の製造化が『低空』の主導 権を握ることで、上記のⅣ-ⅴ)サービス業の製造化事例で見てきたように既存の製造業はM&A などの買収か製造ファブレス化してしまい、スマイルカーブに代表されるような収益性の少な い製造のみを請け負うビジネスモデルとなりかねないからである。従って、本稿が製造業のサー ビス化が遅延することを危惧する理由は、機動力の高いサービス業の製造化という脅威が急速 に迫っているからである。それは我が国の日本製造業においても同様に脅威となっている。
9
Ⅵ. なぜサービス業の製造化の方が有利なのか
世界の市況を鑑みると、サービス業の製造化の方が製造業のサービス化よりも勢いがあるよ うである。ここでは、なぜサービス業の製造化が製造業のサービス化よりも進展が早いのかにつ いて、製造業とサービス業の特性分析とM&A分析によって見ていきたい。
ⅰ)特性分析
サービス業の製造化が製造業のサービス化よりも特性の点で相性が良ければ、サービス業の 製造化の方が有利である可能性がある。製造業とサービス業の特性を過去と現在の移り変わり を先行研究からまとめることで調査を行った。
まず、従来までのサービス業と製造業の特性を藤本(2007)の媒体特性の観点から見ていく。こ れまで製造業とサービス業の違いを顧客に提供される製品の媒体特性で分けていた。それは媒 体を「有形性・無形性」、および「耐久性・非耐久性」という 2 つの軸で分ける方法であった。
有形性の媒体とは「人工物の形状や組成に関する設計情報を担う、安定した形をもつ」(p.287)物 体を指す。無形性の媒体とは、「設計情報を担う、物としての形が定まらぬ」(p.288)エネルギー のことを指す。また、媒体が非耐久的とは、「設計情報が転写された媒体の構造・形状・組成が、
腐食や腐敗、溶解、減衰などによって形が失われやすい」(p.288)ことをいい、逆に媒体が耐久的 であるとは、「その構造・形状・組成が安定的であること」(p.288)を示す。
図2-1 媒体分析:無形性と非耐久性
(出典:藤本(2007)「ものづくり経営学」より筆者が一部編集)
図2-1より、従来の製造業とサービス業の違いを次のように見ることができる。製造物の場合 は、設計情報をいったん耐久性のある有形物に転写してから顧客に向けて届ける、生産と消費の 間にタイムラグがある在庫を持つことができるものである。サービス財の場合は、耐久性のない 無形のエネルギーを媒体として、設計情報を顧客自体に直接届ける、生産と消費が同時で在庫が きかないものであった。従って、製造業らしい製造業とサービス業らしいサービス業という分け
10 方が可能であった。
さらに、藤本(2007)は上記の設計情報に「書き込みやすさ(情報転写のしやすさ)」と、「情報 劣化の速さ(非耐久性)」で分類する、現代的な製造業とサービス業の違いを考察している。
図2-2 情報転写の特性:「作り込み」と「教え込み」
(出典:藤本(2007)「ものづくり経営学」より筆者が一部編集)
図2-2より、現代の製造業は「書き込みにくく情報劣化しにくい」素材に、苦労と工夫して設 計情報を転写する「作り込み型」である。特にインテグラル型の設計情報を「書き込みにくい素 材」に転写する、「擦り合わせて作り込む」タイプである。これは従来型の製造業らしい製造業 とあまり変わりがない。
これに対して、ソフトウェアなどのデジタル情報財は、書き込みやすく、劣化しにくい電子媒 体・磁気媒体などに設計情報を仕込んで製品化するのが特徴である。また、設計情報は媒体間を 自在に飛び回り、顧客にとっての価値は、転写の良し悪しにあまり左右されない。こうした「書 き込み型」は現代サービス業が強いところである。さらにこれが、「書き込みやすいが減衰しや すい媒体」であれば、設計情報を迅速に転写し、顧客に即座に流す、という意味で、「流し込み 型」といえ、製造業にはないサービス業の即時性が活きるところである。
以上より、製造業は現代においても従来と同じように耐久的で時間のかかる産業を得意とし ており、サービス業はITの進展と共に迅速な価値提供を求められる産業と相性がいいと考えら れる。従って、現代の特性分類では製造業のサービス化よりサービス業の製造化の方が、相性が いと推論できる。
ⅱ)M&A分析
サービス業の製造化でよく使われる手法は、製造企業に対するM&Aである。従って、サービ ス業と製造業のそれぞれの M&A 件数を調査することで、それぞれの機動力の高さを調べるこ とができると推測した。
11
図3-1は製造産業の代表である自動車及び関連部品産業、鉄鋼産業、機械産業の1985年から 2015年までのそれぞれのM&A件数の推移である。同様に図3-2はサービス業の代表であるIT コンサルティング産業、ソフトウェア産業、通信産業の同年間のM&A件数の推移である。
図3-1 製造業 世界のM&A件数 図3-2 サービス業 世界のM&A件数
(出所:The Institute for Mergers, Acquisitions and Alliancesのデータに基づいて筆者作成)
製造業群である図3-1 は3 つの折れ線グラフ共に徐々に増加傾向を示しているものの製造業 のサービス化が標榜された2000年代においての大きな伸びはない。サービス業群である図3-2 はインターネット黎明期である2000年に3社とも大きな伸びを示しており、その後伸びは落ち 着いたものの通信事業以外の2社は2014年に向けて再び大きな伸びを示している。図3-1と図 3-2を比べてみると、サービス業はM&A件数の一時の落ち込みも激しいが伸びも大きいと言え る。一方、製造業は単調で緩やかな増加傾向を示している。しかし、2000年以降に注目してみ ると通信事業が件数を落としているとはいえ、全体的な件数はサービス業の方が多いと言える。
以上より、サービス業の方が製造業よりも M&A の件数の多さと一時の伸びの大きさから瞬 発力や機動力が高いのではないかと推論できる。
12
Ⅶ. サービス業の製造化と製造業のサービス化の衝突
サービス業の製造化に伴って、市場が脅かされた製造業の例となる任天堂について企業の全 体像を俯瞰した後、サービス業の製造化による現在までの変遷と今後どのような戦略が残され ているのかついて見ていく。
ⅰ)任天堂概況
表4 任天堂企業情報
(出所:アニュアルレポート2017 を参考に筆者作成)
任天堂は長らくブルーオーシャン戦略を基軸とした製品展開をしてきた。ブルーオーシャン 戦略とは、これまで業界でメイン顧客と考えられていなかった「非顧客」に対して、顧客にとっ ての価値を高めながらコスト削減をする手法で、これまで競合他社が積極的に開拓してこなか った未開の市場を切り開いていく戦略である。例えば、任天堂におけるポータブル機器 DS で は、機能を必要最低限にすることで製造費用を削減しつつ、2画面対応で顧客にとっての新しい 価値を提供することで差別化を図るという戦略である。また、同様に Wii では同じようにファ ブレス化によって機能の水準をある程度抑えてコスト削減につなげ、新規性のある体感型のコ ントローラーを新たに加えて直感で操作できるようにするなどして、これまでゲームは難しい と感じていた顧客を取り込むことに成功していた。任天堂は、このブルーオーシャン戦略を駆使 して、従来では考えられていなかった大きなマーケットを取り込み、ゲーム市場を席捲していた。
しかし、2007年にアメリカICT大手企業Appleが提供するiPhoneが日本に登場し、スマー トフォンという新たなカテゴリーが創出され、また2010年にはiPadが登場すると、より大画 面でスマートフォンと同じ機能を利用できるタブレットが普及するなど、ゲーム業界にサービ ス業の製造化が起こった。このスマートフォンやタブレットが革命的だったのは、デバイスさえ 購入すれば無数のゲームやアプリが無料(一部は有料やフリーミアム)で利用できることであっ た。
元々ゲームに馴染みの薄い多くの非顧客を取り込んで成功を収めてきた任天堂にとって、同 じライトユーザーという顧客層を主戦場とするスマートフォンやタブレット向けのゲームは大 きな脅威となり、ビジネスを取り巻く環境は一変した。
安部(2012)も指摘している通り、
商号 任天堂株式会社
Nintendo Co. Ltd.
事業内容 家庭用レジャー機器の製造・販売
創業 明治22年9月
設立 昭和22年11月
資本金 10,065,400,000円 本社 京都市南区上鳥羽鉾立町11-1 代表者 代表取締役社長 君島達己
代表取締役フェロー 宮本茂 社員数 連結社員数 5,458名 (2017年9月)
単独社員数 2,189名(2017年9月)
売上高 504,400百万円
13
「ブルーオーシャン戦略の要諦は『非顧客の顧客化』にあります。つまり、もと もと自社の提供するサービスには馴染まない顧客をバリューイノベーションによ り商品やサービスの魅力度を向上し、顧客化している。
ここで慎重に考えなければいけないのは、獲得した顧客がブランドロイヤルテ ィの高い顧客ではなく、たまたま自分のニーズに合致したから顧客となったとい う点である。従って、もし他社がイノベーションを起こし自社製品よりも優れた ものを市場に投入するなら、雪崩を打ったように顧客が他社の製品やサービスに 流れていくことになる。」(p.27)
つまり、任天堂はハードウェアではイノベーションを起こし続けることができず、Appleのサ ービス業の製造化によりターゲット層であったライトユーザーを奪われてしまったのである。
ⅱ)サービス業の製造化の勝利
ゲーム産業、とりわけハードウェアを製造する企業はプラットフォームとしてその地位を確 立している。出井(2015)によればプラットフォームビジネスとは、「他のプレイヤー(企業、消 費者等)が提供する製品・サービス・情報と一緒になって、はじめて価値を持つ製品・サービス を提供するビジネス」(p.87)のことである。つまり、ビジネスを行なうための基盤を提供するビ ジネスともいえる。
ここで任天堂プラットフォームのゲーム業界での立ち位置とユーザー層に関して見ていく。
大前(2017)によれば任天堂ゲーム機器の立ち位置をゲーマーの質と市場トレンド当てはめると 図 5-1のようになるとし、またゲーマーの質と年齢層の 2 軸によって任天堂のポジショニング を表すと図5-2のようになるとしている。
図5-1 プラットフォームポジショニング 図5-2 任天堂のユーザー層
(出典:大前(2017) 「もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?」より抜粋)
以上の図より、従来の任天堂プラットフォームはゲーマーの質、市場トレンド、年齢層におい て中間層に位置していると言える。
しかし、2014年頃から技術の進展に伴い、各社各ゲーム産業のデジタルコンテンツのプラッ
14
トフォームの差別化は時間と共になくなっていき、従ってユーザーはどのプラットフォームを 選んでもよくなり、ゲームプラットフォームを提供していたゲーム機器ハードウェア会社は価 格競争に陥ることになる。
2015年頃からプラットフォーム側は価格競争を防ぐために、プラットフォーム独占コンテン ツの開発を始めた。任天堂も例外なく、オリジナルコンテンツを生み出し、ある程度ゲームハー ドウェアが売れたが、サードパーティであるゲームソフトウェア会社のコンテンツが売れなか った。こうして、任天堂のプラットフォームビジネスが崩れてしまった。
サードパーティのゲームソフトウェアが売れなかったのは、認知度の高い任天堂のコンテン ツには反応があったとしても、上記の2つの図5-1、5-2で示したライトユーザー層が認知度の 低い有料のコンテンツを選ぶよりもスマートフォンプラットフォームコンテンツに流れてしま ったためであると推察する。さらに、任天堂がスマートフォンプラットフォームで出したコンテ ンツ(ポケモンGOやマリオラン)が世界的にヒットしているという事実も忘れてはならない。
それでは、ゲーム産業の中でもソフトウェア業界筆頭であるバンダイナムコをプラットフォ ーム事業者と比較してみる。バンダイナムコはスマートフォンプラットフォームにいち早く対 応し、スマートフォン向けコンテンツを発売してきた。
図5-3 国内ゲーム大手コンテンツ売上高比較(年度・億円)
(出典:大前研一 2017 「もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?」より抜粋)
図5-4 バンダイナムコ コンテンツ事業別売上高(年度・億円)
(出典:大前研一 2017 「もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?」より抜粋)
15
図5-3や図5-4より、近年業績が伸びているバンダイナムコはスマホ事業に早くから参入し、
知名度のあるキャラクターやキラーコンテンツを活かしてスマホ向けコンテンツで増収に繋げ ていると推測される。実際、図5-4のプラットフォームを持っていた企業は業績を落としている ことが窺える。バンダイナムコの成功の要因の一つは、ハードウェアを持たずプラットフォーム 化していなかったことによる初期からのスマートフォンプラットフォーム参入決断という変わ り身の早さだといえるだろう。
以上より、任天堂は独自のハードウェアプラットフォームで収益を稼ぐより、自社のキラーコ ンテンツをスマートフォンプラットフォーム向けに展開した方が成長を見込めるようになって しまった。これは機動力の高いサービス業の製造化により低空でのプラットフォームを牛耳ら れたが故に、旧来の市場であるゲームプラットフォームを降りる決断を迫られているというこ とである。実際、任天堂はスマートフォン向けコンテンツ製作強化のためにDeNAとの提携も 発表している。
任天堂は、製造業であったが故にハードウェアにこだわり、それが足かせとなり製造業のサー ビス化に遅れを取ったと言える。結果、任天堂は今までのハードウェア主体のゲームプラットフ ォームを降り、AppleやGoogleのスマートフォンアプリプラットフォーム傘下に入ることにな りそうである。
ⅲ)製造業のサービス化の小さな抵抗
上記で見てきたように、任天堂はゲーム産業の中でIT業界の流れに早くから引きずられ、近 年は苦戦を強いられてきた。しかし、任天堂は製造業のサービス化に取り組んでいない訳ではな かった。株価(図6-1)を見てみると近年は上昇傾向で2016年のポケモンGOの勢いは一過性 ではあったが、その後の任天堂スイッチなどの好調な売上により、景気が上向きになっているの が分かる。任天堂による製造業のサービス化がどのようなものかについて見ていく。
図6-1 過去5年間における任天堂の株価値動き
(出典:Yahoo!ファイナンス(2018年1月5日15:00時点)より抜粋)
任天堂は事業のコンセプトを、万人が楽しめるゲームを提供するという狭義なものから、「楽
16
しみながら生活の質を向上させるプラットフォームを目指す」(2015年3月 DeNAとの業務・
資本提携に関する共同記者会見での岩田前社長の発表より)という、より広義なものへと転換を 図ってきた。図6-2に見るようにオンラインを有料化しながら、図6-3で見たようにオンライン ユーザーに特典を付ける方向性にシフトしている。この理由の1つは前出の図5-1、5-2におけ るユーザー層をさらに細かくフォーカスすることで任天堂のロイヤリティを高め、独自のプラ ットフォームを強化することで任天堂コンテンツ及びプラットフォームのコアファンを獲得し、
オンラインの中でユーザーに寄り添ったコンテンツ開発によるサービス化に繋げていく戦略だ と推測される。
図6-2 任天堂オンラインの有料化
(出典:任天堂ホームページ「Nintendo Switch Online」より抜粋)
図6-3 オンライン会員の特典
(出典:任天堂ホームページ「Nintendo Switch Online」より抜粋)
以上のように、任天堂は強みであるブルーオーシャン戦略を捨てた訳ではなく、製造業のサー ビス化を図ることでゲーム産業、特にハードウェアゲームプラットフォームという枠組みの中 で任天堂が低空でのニッチなプラットフォームを築き、より安定的なブルーオーシャンを達成 しようとしているのである。コアなファン層を獲得することでサービス化を進め、長期的な利益 上澄みしていくのである。
Ⅷ. 任天堂と日立製作所の類似点
上記で見てきた任天堂は、事業内容や規模の点で異なっているように見える。しかし、筆者は
17
次の点で類似点があることを指摘する。①サービス業の製造化が迫っており、製造業のサービス 化への取り組みの意識がある。②プラットフォームビジネスを指向している。これより、日立製 作所の企業情報を俯瞰した後、以上2点がどのような形で類似しているかを見ていく。
ⅰ)日立製作所概況
表7-日立製作所企業情報
(出所:アニュアルレポート 2017 を参考に筆者作成)
ⅱ)製造業のサービス化への意識
日立製作所は 1992 年に「FOREFRONT」というコンセプトを発表し、情報・通信システムの分野 を中心に、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた総合的なソリューションサービスを提 供する方向性を打ち出している。
奥(2016)は、日立製作所の技術論文誌「日立評論」における「サービス」という単語の文脈的 な意味の分析を通じた考察を行っている。少なくとも 1950 年代からアフターサービス系の「サ ービス」は提供されていたが、図 8 より 1980 年代のソフトウェアやネットワークサービスの発 展によって技術面における「サービス」の認識は変化しており、ソリューション系「サービス」
が提供されるようになっている。その後、技術面における「サービス」の認識が蓄積していき、
1992 年に「FOREFRONT」コンセプトをきっかけとしてソリューション系「サービス」の提供が拡 大していっている。実際、1992 年以降、同誌でソリューション系のサービスが登場し、頻度が 拡大していることを明らかにしている。
図8 アフターサービス系とソリューション系
(出所:奥靖人 2016 「製造業のサービス化の取組みの変化」より抜粋)
商号 株式会社 日立製作所
Hitachi, Ltd.
設立年月日 大正9年(1920年)2月1日 本店の所在地 東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
代表者 代表執行役 執行役社長兼CEO 東原敏昭 資本金 458,790百万円(2017年3月) 従業員数 35,631名(2017年3月) 連結従業員数 303,887名(2017年3月)
売上高 1,906,532百万円 連結売上収益 9,162,264百万円
18
また、1992 年という時期は、製造業のサービス化を扱った 2005 年の米国競争力協議会による
「Innovate America」(パルミサーノレポート)発表や、1997 年の IBM による「e-business」コ ンセプト発表などと比較しても早いのである。
このように、日立製作所は世界的に見ても早い時期から、モノの製造からサービス(ソリュ ーション)へとシフトするビジネスモデル変革=製造業のサービス化に着手していたことが分 かる。しかし、現時点では日立製作所自身に大きな製造業のサービス化例は少なく、任天堂と 同じく進展が遅れていると言わざるを得ない。
ⅲ)目指す方向性
日立製作所は「さまざまな事業領域のお客さまとともに、次の社会に向けた新しい価値の創 出に取り組んでいます。そのための基盤が、IoTプラットフォーム Lumada。さまざまな設備・
機器から生まれた多様なデータを高度に統合し、新たな価値を抽出するデジタルソリューショ ンをお客さまとともに協創」(日立製作所ホームページより抜粋)すると述べている。図9にも あるように、Lumadaをソリューションサービスのプラットフォームとし、製造業のサービス化 を提供しようとしている。
図9 Lumadaのプラットフォーム化案
(出典:日立製作所のホームページから抜粋)
プラットフォームビジネスは製造業が収益を上げやすいビジネス形態であるが、製造業にと っては製造という枠から抜け出しにくい思考になり、世界的に見てもガラパゴスかしやすく、
さらに製造業のサービス化の進展を遅らせる一因になりかねない。これは任天堂がハードウェ アの製造にこだわり、サービス化しきれなかった遠因でもあった。
Ⅸ. 任天堂に学ぶ日立製作所の未来
任天堂の事例を振り返り、サービス業の製造化が迫っている製造業のこれからの将来戦略に 対して指針を示す。
ⅰ)任天堂から何を学ぶか
任天堂の事例から学べることは、サービス業の製造化が進んでいる産業は「低空」への主導権
19
が完全にサービス業に握られる前に製造業のサービス化を行わなければ、産業構造が変わり本 質的サービスの提供が脅かされるというものであった。しかしサービス業の機動力は高いため、
製造業のサービス化を準備していても構造改革などにより予防線を張ることは難しいというこ とでもあった。一方で、大前(2017)が図10でも示した通り、生き残りをかけたサービス業の製 造化への小さな対抗策としては、製造業の特性を活かした長期的なブランド力による既存顧客 への製造業のサービス化によって製品をニッチ市場へ参入させ、新しいプラットフォームとは 棲み分けをしながらコアなプラットフォームを築くという戦略が考えられる。
図10 任天堂の2トラック戦略
(出典:大前(2017) 「もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?」より抜粋)
ⅱ)日立製作所が進むべき製造業のサービス化
➀サービスのどの部分で付加価値を産むか
製造業のサービス化のうち、サービスの内容自体が多岐に渡る。上記の例では、図6-2、6-3の ように任天堂はゲームのオンライン化に対して有料化する代わりに特典などを付けるサービス を行っている。こうしてコアなファン層を囲い込み、顧客に寄り添うことができる一方で、既存 のブルーオーシャンでのシェア拡大は見込めなくなってしまうといったことも考えられる。
近藤(2014)は、表11-1のようにサービスを5つのタイプに分類している。特徴としては、サ ービスの種類に加えて「収益かコストか」や「有償か無償か」といった観点で詳細に分類されて いる点である。
表 11-1 製造業のサービス化の分類
(出所:近藤 2014 「製造業のサービス化―その類型化と論理―」より筆者が一部編集)
20
日立製作所は現在、重厚長大産業による表11-1のタイプ2-1のサービスを提供している。他 社には作れない高技術によるモノ製品の差別化を図っているのである。このとき、サービスは販 売促進のためのマーケティング活動と位置され、無償で提供される可能性が高い。製造業のサー ビス化を目指すプラットフォームLumadaは、タイプ3による有償ソリューションのサービス で付加価値を産むことを全社的に位置づけなければならない。
②意識改革
任天堂の例から学んだように、機動力の高いサービス業の製造化によりサイバー・フィジカル インターフェースへの侵入がすぐそこまで迫ってきている。そこで、製造業のサービス化も、そ のスピードに匹敵する速さで動かなければならない。その為には、製造業スタイルを脱却したサ ービス化に伴うビジネスモデルの意識改革が必要である。
図12 ビジネスモデルにおける収益の考え方
(出典:日本電機工業会(2016)「製造業2030」に基づいて筆者が作成)
図12で示されているように、従来型のビジネスモデルでは製品自体の価格設定を高めておく ことで早い段階で売上・利益を確保できた。従来の製造業は工場資産が大きいため、そこから支 出される膨大な固定費を賄うために成果は売上高が評価基準となる KPI(Key Performance Indicator)が採用される場合が多い。しかし、図 12 から分かるようにサービス化による新たな ビジネスモデルでは、製品購入後のサービスを続けていくこと連続的で少額な収益を上げてい くという地道な収益モデルであることを分かっていなければならない。
任天堂は製造業であるという意識から抜け出すことができず、ハードウェアの初期収益に甘 んじたが故に、自社サービスに限界を作ってしまったことが、製造業のサービス化の敗因である と推察できる。
③プラットフォームのポジショニング
日立製作所はLumadaを活用して、IoTのインフラとなる方向性を示唆している。プラトフ
21
ォームとしてのオープン型と収益源としてのクローズ型のバランスを決めなければ企業の存続 はない。任天堂は自社のキラーコンテンツのソフトウェアによりそのバランスの方向性を示し、
プラットフォームを公開しつつもソフトウェアを厳選することでセミ・クローズ戦略を採った。
現在の製造業では、多くの産業領域でソフトウェアリッチ型に転換し、プロダクト・イノベー ションを主導するのが、ハードウェアではなくソフトウェアになっている。ハードウェアは必要 だが、その価値を何十倍にもするためにはソフトウェアが必須となっている。
小川(2014)の言葉を借りると、設計にソフトウェアが深く関るようになると、「製品のアーキ テクチャが寄木細工型」(p.3)になる、ということである。ここでいう寄木細工型というのは、そ の製品の産業が国際的な分業型になりやすいということを意味する。従って、大規模なビジネ ス・エコシステム型の産業構造がグローバル市場にできあがるのである。
日立製作所もグローバライゼーションが他の多くの国や産業領域に跨っている。このとき「付 加価値の高い製品を守りながら、いかに世界中に普及させていくかが重要」(p.3)となる。これを 実現するために、プラットフォームの中でインフラ化すべきオープン型と収益を得るためのク ローズ型のポジショニングを明確に線引きするべきである。企業と市場の境界を設計し、次に知 財権を自社のコア領域に集中させ、そしてこのコア領域と他社技術をつなぐ境界領域に知財権 を集中させることが必要となる。
④顧客との接点
製造業のサービス化において、最も大事なのは顧客との接点である。なぜなら製品の機能的価 値だけでは差別化が難しくなった現在では、顧客の課題を解決するという提供価値を中心とし なければならないからである。しかし、外から顧客を観察するだけでは顧客の課題を詳細に捉え きれず、魅力的なサービスを提案できない可能性がある。まず、顧客が何を課題にしているかを 把握するために顧客と一緒になって検討する「共創」が重要となる。
図 13 製造業のサービス化の考え方
(出所:C・K・プラハラード、ベンカト・ラマスワミ(2013)「コ・イノベーション経営」より筆者 が一部編集)
22
顧客との接点は、従来は図 13 の上図のように製造・販売の単発に終わっていたが、共創を行 う製造業のサービス化では図 13 の下図のように循環的且つ半永続的な顧客接点を持つことにな る。顧客との関係が「双方向」になることで、売り切り型の製品とは違い、他社が追随しても簡 単に真似できない顧客との密着度を得ることができるのである。
任天堂はキーコンテンツにおけるソフトウェア開発に力を入れ、マーケティングなどの調査 には尽力していたようであるが、製造業のサービス化不徹底により非連続で単発な顧客接点で あったために、ハードウェアのイノベーションが持続しなかったと言える。日立製作所はオンラ インプラットフォームの中で、常に顧客との接点を確保する必要がある。
Ⅹ. 結論
本稿では、製造業のサービス化とサービス業の製造化について概況を見てきた。新興国での技 術の高度化と製品のコモディティ化により、製造業にとって製造業のサービス化は喫緊の問題 となっている。一方、IT サービス業の製造化は圧倒的な情報量を源泉とした売れるモノへの販 売という適格なアプローチによる製造業のM&A、ファブレス化により圧倒的な機動力を擁して いる。
サイバー・フィジカルインターフェースを制した企業は産業構造を変える力を持っている。こ のことはゲーム産業で圧倒的な力を持っていた任天堂が、成す術なくIT企業の製造化に飲み込 まれていった例からも分かる。裏を返せば、IT サービス業の製造化よりも早く製造業のサービ ス化を達成しなければ、スマイルカーブに代表されるように、収益性の低いファブレス化の憂き 目に遭う可能性があるということである。
日本の製造業である日立製作所は任天堂の例から、製造業のサービス化を急がねばならない ということ、そして、製造業という業種によりハードウェアの製造という概念に囚われるとサー ビスの発想に限界を作ってしまいサービス化が疎かになり、結果サービス業の製造化に取って 代わられてしまうことを学んだ。そこで日立製作所が実践すべきは製造業のサービス化のため には、サービスの定義を今一度見直し、サービス化に対する意識改革を徹底し、プラットフォー
ム化するLumadaの公共性と収益コアの境界線を定め、協創のための顧客との接点を拡大する
必要があることを認識しなければならない。
Ⅺ. 参考文献 文献;
C・K・プラハラード、ベンカト・ラマスワミ 『コ・イノベーション経営』東洋経済新聞社, 2013.
安部徹也 『ブルー・オーシャン戦略実践入門』日本実業出版社, 2012.
小川紘一 『オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件』 翔泳社, 2014.
奥靖人 『製造業のサービス化の取組みの変化』京都大学大学院経営管理教育部レポート, 2016.
23
近藤隆雄 『製造業のサービス化―その類型化と論理―』 MBS review, 2014.
出井伸之 『進化するプラットフォーム』 角川学芸出版, 2015.
藤本隆宏 『現場から見上げる企業戦略論』 角川新書, 2017.
藤本隆宏 『ものづくり経営学』 光文社新書, 2007.
増田貴司 『進む「製造業のサービス化」』 TBR産業経済の論点, 2011.
ウェブサイト;
The Institute for Mergers, Acquisitions and Alliancesホームページ 『M&A Statistics』 (2018 年1月5日閲覧)
Yahoo!ファイナンス 『任天堂株』
https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=7974.T (2018年1月5日閲覧)
一般社団法人日本電機工業会スマートマニュファクチャリング特別委員会 『製造業2030』
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/info/download/160527.pdf (2018年1月11日 閲覧)
任天堂ホームページ 『Nintendo Switch Online』
https://www.nintendo.co.jp/hardware/switch/onlineservice/ (2018年1月11日閲覧)
任天堂ホームページ 『会社概要』https://www.nintendo.co.jp/corporate/outline/index.html (2018年1月10日閲覧)
日立製作所ホームページ 『 日立グループについて』
http://www.hitachi.co.jp/about/corporate/index.html#ccMenu_Corporate (2018年1月10日閲 覧)