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MEMS 技術を利用した機能表面の創成と応用

ドキュメント内 FMS研究成果報告書(30年3月) (ページ 31-37)

Creation and Application of Functional Surfaces Using MEMS Technology

鈴木 健司

Kenji SUZUKI

Keywords : MEMS, Functional Surface, Microstructure, Electrowetting 1.緒言

本テーマは,先行プロジェクト(SMBCおよびBERC)

で蓄積されたMEMSを中心とするマイクロ加工技術を活用 し,材料表面に微細加工を行うことにより,種々の機能を有 する表面を創成することを目的とする.また,得られた表面 に対して,濡れ性,付着性などの評価を行い,微細構造と各 種機能の関係を明らかにし,表面機能を付与するための設計 手法を構築する.さらに微細構造によるパッシブな機能にと どまらず,電界などのエネルギーの印加による表面機能のア クティブ制御を試み,新規のデバイスの開発と応用分野の開 拓を行う.また,MEMS技術を利用した表面微細構造の製 作技術,各種機能表面の設計手法を構築することにより,他 のテーマに対し開発した表面や技術の提供を行い,テーマ間 の連携を図ることを目指す.

本テーマでは,おもに以下の2つの研究を実施した.一つ は,表面に微細構造を加工することにより撥水性の高い表面 を創成する研究であり,もう一つは,電圧の印加により材料 表面の局所的な濡れ性を制御するEWOD (Electro Wetting on Dielectric)技術(1)(2)を用いて,液滴の生成,分離,輸送,

排出などを行う研究である.本稿では,この2つの研究成果 について述べる.

2.表面の微細加工による撥水表面の創成

表面の濡れ性は,材料の表面自由エネルギーと,表面の幾 何学的な構造の2つの要因により決定され,固体表面に水滴 を静止,あるいは移動させる際の水滴表面の傾き角である接 触角で評価される.ハスの葉やトンボ,セミの翅などの表面 を観察すると,杭状あるいは乳頭状の微小突起群が存在し,

この構造により高い撥水性が実現されており,さらに表面の 水滴とともに汚れが落ちやすいセルフクリーニング効果が あることが知られている(3)(4).平滑な固体表面の接触角を 𝜃 とするとき,固体表面の粗さが大きくなり,固液界面の表面 積が 𝑟 倍に増加した場合の接触角 𝜃は,次の Wenzel の式 で表される.

cos 𝜃′ = 𝑟 cos 𝜃 (1)

𝜃 > 90° の撥水表面では,粗さが大きくなるほど接触角 𝜃

が増加し,撥水性が強められる.また,表面の粗さがさらに 増加すると,固体と液体との間に空気が入り込む場合が発生 する.この状態では,界面において水滴が固体と接している 面積の割合を 𝑓,空気と接している割合を1 − 𝑓 とするとき,

接触角 𝜃は Cassie-Baxter の式で表される.

cos 𝜃′ = 𝑓 cos 𝜃 + 𝑓 − 1 (2) 水滴がWenzel Cassie-Baxter のどちらの状態をとるか は,界面での全表面自由エネルギーがどちらが小さいかによ って決まる.また,Wenzelの状態では水滴は固体表面との 付着性が高いのに対して,Cassie-Baxterの状態では水滴は 固体表面との付着性が低く転落しやすい傾向がある.

本研究では,まず表面に円柱状の微細構造を加工し,撥水 剤を塗布した場合の撥水性を調べた.次に,円柱の側面にア

ンダーカット(凹み)を設けた ”re-entrant” な構造を作成し,

アンダーカットの有無が撥水性に及ぼす影響を調べた.アン ダーカットを加工することによって,液滴が空気と接触する 割合が増加し撥水性が高まる効果が期待できるだけでなく,

油など表面張力の低い液体もはじく表面を実現できる可能 性がある(5)

2.1 円柱構造を加工した表面の撥水性

シリコン基板の表面にフォトリソグラフィと Deep RIE

(深掘エッチング) により,円柱構造を加工し,撥水剤(フ

ロロテクノロジー・FS1010)を浸漬法により塗布した表面 を製作した.Deep RIEではSF6プラズマによるエッチング とC4F8による側壁保護膜の形成を交互に行うことで,垂直 方向のみにエッチングを進行させアスペクト比の高い構造 を形成することができる.円柱のパターンは,図1のように 正三角形の頂点の位置に円の中心がくるように配置し,円の 直径 d と間隔 c を等しくとり,d, c の値を 20~150 m,

高さh 19~55 mの範囲で変化させて,接触角,転落角

の測定を行った.転落角は純水 5l を表面に滴下して傾け ていくときの,水滴が落ち始める最小の角度とした.円柱構 造のSEM画像を図1に示す.

Fig. 1 Mask pattern and a SEM image of the micropillar structure (d = c = 30 m,h = 55 m)

接触角,転落角の測定結果をそれぞれ図2,図3に示す.

円柱の高さが29 mのとき,直径と間隔が減少すると接触 角が徐々に増加した.また円柱高さが55 mのときも同様 な傾向が見られたが,高さ29 mのときに比べて全体的に 接触角は大きく,直径と間隔が80m70m の間で接触 角の急激な増加が見られた.直径と間隔が30m以下では,

高さに関係なく接触角が約150°となった.また,円柱高さ 55 m の転落角の結果では,直径と間隔の減少とともに転 落角が減少し, 80m70mの間では急激な減少が見ら れた.図2には,平滑な表面での接触角を 𝜃 = 112° とした ときの接触角の計算値も示されている.図1に示す微細構造 では,式(1) の 𝑟,式(2)の 𝑓 はそれぞれ次のようになる.

𝑟 = 1 + 𝜋ℎ

2√3𝑑 , 𝑓 = 𝜋

8√3 (3) これより,Cassie-Baxter の状態では,𝜃 = 112° のとき

𝜃= 149° の一定値となる.図2より,理論値と実験値はよ

く一致しており,円柱の直径・間隔が減少すると接触角は 徐 々 に 増 加 し , あ る 閾 値 以 下 で は Wenzel の 状 態 か ら

Cassie-Baxter の状態に遷移して接触角,転落角が急激に変

d c

(d = c)

d: diameter c: clearance

Fig. 2 Variation of contact angle

Fig. 3 Variation of sliding angle

増加すると考えられる.円柱の高さが増加すると,接触角は 増加し,状態遷移が発生する直径・間隔の閾値は大きくなる.

なお,微細構造のない平坦なシリコン基板に撥水剤を塗布し た場合の水の接触角は118°となったが,𝜃 = 118° とした 場合の接触角の計算値は実験値よりも大きくなった.これは,

凹凸のある表面には撥水剤が一様に塗布されておらず,平均 的な接触角が小さくなったためと考えられる.

2.2 アンダーカットを有する微細構造の撥水性

次に,円柱構造にアンダーカットを設けた “re-entrant”

な構造の撥水性を調べた.図4にアンダーカットを有する円 柱の形状とSEM写真を示す.円柱のマスクパターンは,図 1と同じものを用い,直径と間隔は d = c = 60 m~100 m とした.また,製作工程は,Deep RIEを行う際に,最初の 10サイクルは側壁保護膜の成膜を行わずに SF6 によるエ ッチングのみを行い,その後は側壁保護膜(C4F8)の成膜 とSF6 によるエッチングを交互に行って,高さh =60 m

80 mの垂直な円柱を形成した.アンダーカットの部分

の高さは約10 mである.エッチング後は,フォトレジス トを除去せずに,その上から撥水剤(FS1010)を浸漬法に より塗布した

Fig. 4 Reentrant structure (d=100 m,h=20 m)

Fig. 5 Variation of contact angle

Fig. 6 Variation of contact angle

接触角の測定結果を図5,転落角の測定結果を図6に示す.

h =60 m,80 mのいずれの場合も,reentrant の構造の

方が接触角が高く,転落角が低い(撥水性が高い)傾向がみ られた.また直径と間隔による接触角,転落角の変化はあま り見られず,接触角は145°~155°前後,転落角は15°~

20°前後であることから,いずれの条件でもCassie-Baxter

の状態になっていると考えられる.

3.EWODを用いた液滴制御デバイスの開発

本研究では,電圧の印加により材料表面の局所的な濡れ性 をアクティブに制御し,微小な液滴の輸送やハンドリングを 行うEWOD (Electro Wetting on Dielectric)(1)(2)技術に着目 した.従来のEWOD 研究においては,デバイス内で液滴の 生成, 輸送,混合,分離などを行い,化学分析等に応用す る研究が多数行われてきたが,デバイス外に液滴を排出する 研究はほとんど行われていない.そこで本研究では,EWOD デバイスを生化学分析等で用いられるマイクロプレートへ の分注作業に応用することを想定し,一定量の微小液滴を生 成して所定の位置に輸送し,EWODを利用してデバイスの 外部に排出する方法を確立することを目的とする.

3.1 液滴輸送の原理

EWODを利用した液滴輸送は,一枚の基板上で液滴を輸 送するものと,上部基板と下部基板の間に液滴を挟んで輸送 するものの2種類に大別される.図7は一枚の基板上で液 滴輸送を行う場合のデバイスの構造と輸送の原理を示して いる.基板上に制御用の電極層,絶縁層,撥水層を順に形成 する.撥水層の上に液滴を置き,液滴の一部と重なる位置に ある電極に電圧を印加すると,液滴と電極との間に電位差が 生じ,電極との重なりが大きくなる方向に静電力が働いて液 100

110 120 130 140 150 160

20 40 60 80 100 120 140 160

Contact Angle [deg]

Diameter, Clearance [mm]

Exp. (h=19,35 μm) Cassie-Baxter Exp. (h=55μm) Wenzel (h=55 μm) Exp. (h=29μm) Wenzel (h=29 μm)

0 10 20 30 40 50

20 40 60 80 100 120 140 160

Sliding angle [deg]

Diameter, Clearance [μm]

Exp. (h=55 μm)

photoresist (OFPR-800)

silicon wafer 10m

photoresist (OFPR-800)

silicon wafer h

130 135 140 145 150 155 160

50 60 70 80 90 100 110

Contactangle [μm]

Diameter, Clearance [μm]

reentrant (h=80μm) reentrant (h=60μm) pillar (h=80μm) pillar (h=60μm)

0 5 10 15 20 25 30

50 60 70 80 90 100 110

Sliding angle [deg]

Diameter, Clearance [μm]

reentrant (h=80μm) reentrant (h=60μm) pillar (h=80μm) pillar (h=60μm)

Fig. 7 Principle of EWOD(One-plate EWOD device)

滴が移動する.液滴がグラウンドに接続されていない場合は 液滴の電位は浮動となり,液滴が正負の電極の中央に移動し たときに両電極からの静電力がつり合って静止する.

8 は上下の基板の間に液滴をはさんで輸送を行う場合 のデバイスの構成を示している.液滴の生成や分離を行う場 合には,静電力により液滴を基板と平行な方向に圧縮した上 で,垂直方向にも圧縮して液滴の圧力を高める必要があるた め,図8の構造を用いる必要がある.下部基板には制御用の 電極層,絶縁層,撥水層を順に成膜する.上部基板にはグラ ウンド電極,撥水層を成膜する.上部の撥水層が十分に薄け れば液滴の電位はグラウンド電位に近くなり,下部の電極に 電圧を印加すると液滴との間に電位差が生じ,印加電極との 重なりが大きくなる方向に静電力が働き液滴が移動する.電 圧を印加した電極に液滴が完全に重なると,液滴は平衡状態 に達して静止する.図7,図8の両デバイスとも,電極を適 切なピッチで配列し,電圧の印加位置を順次移動させること によって,液滴は印加電極に追従して連続的に移動する.

Fig. 8 Principle of EWOD (Two-plate EWOD device) 3.2 種々の液体を用いた輸送実験

まず,図 7 に示す一枚の基板によるデバイスを用いて,

種々の液体を輸送する実験を行った.製作したデバイスの構 造を図9に示す.ガラス基板上に電極層のCrをスパッタリ ングにより成膜し,フォトリソグラフィにより電極を形成し た.次に絶縁層のパリレンCを成膜し,撥水層のTeflon AF を塗布した.

輸送する液体としては.純水,食塩水、エタノール、シリ コ ー ンオ イ ル(1cST) を 使 用し た .食 塩 水は 生 理食 塩 水 (0.9%),5%,10%の3種類を用いた.

Fig. 9 Cross section of the one-plate EWOD device

(1) 接触角の変化

デバイス上にそれぞれの液滴を滴下し,0V~250Vの範囲 で電圧を50Vずつ変化させた際の接触角の変化を測定した.

その結果を図10に示す.純水と食塩水 (0.9%, 5%, 10%) は 大きな差は見られなかった.また,純水や食塩水に比べエタ ノールとシリコーンオイルは初期接触角の値が小さく,接触 角の変化も小さかった.

(2) 食塩水の輸送

純水と 3 種類の濃度の食塩水で輸送実験を行い輸送に必 要な最低の電圧と輸送可能な最高の周波数の測定を行った.

実験は電圧の測定時は周波数を10Hz,周波数の測定時は電 圧を100Vに固定した状態で行った.その結果を図11に示 す.

輸送に必要な最低電圧には,食塩水の濃度の影響は見られ なかったが,輸送可能な最高の周波数は濃度が上昇するにつ れて低下が見られた.また,濃度が高い食塩水では実験回数 を重ねると徐々に輸送しにくくなる現象が見られた.これは デバイス表面が食塩により汚染されることが原因と考えら れる.

(3) エタノールとシリコーンオイルの輸送

純水,エタノール,シリコーンオイルを用いて輸送実験を 行い,輸送に必要な最低電圧と輸送可能な最高周波数の測定 を行った.実験は電圧の測定時は周波数10Hz,周波数の

Fig. 10 Variation of contact angle with applied voltage

Fig. 11 Experimental results of saline transportation

2

hydrophobic layer dielectric layer electrode V

F

Substrate

V - - - +++

+ + + --- C1 C2 F2 F1

V --- +++

C1 C2 F2 F1

Ground electrode (ITO 1m)

V

e

- - - - + + + + + + - - - - - -

Control electrode (Cr 0.3m)

Dielectric layer (Parylene C 1m) Substrate (glass)

Substrate (glass)

Spacer Hydrophobic layer (Teflon AF 0.1m) Droplet

Glass substrates Electrode (Cr)

TeflonAF Parylene C

50 60 70 80 90 100

0 40 80 120 160 200

0 2 4 6 8 10

voltage[V]

frequency[Hz]

concentration [%]

maximum frequency minimum voltage

ドキュメント内 FMS研究成果報告書(30年3月) (ページ 31-37)