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目次
1.放射能の発見
2.放射線と放射能
3.放射性崩壊の種類と特徴
4.崩壊法則と放射能の強さ
5.比放射能
6. 複数の崩壊様式と有効崩壊定数,有効半減期
7.自然放射性同位元素(核)の崩壊系列
8.原子炉に蓄積された放射能の時間変化
9.原子炉停止後の崩壊熱の時間変化
放射性崩壊
made by R. Okamoto (Emeritus Prof., Kyushu Inst. of Tech.) filename=decay-summary20171213.ppt
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1.1放射能の発見とその衝撃
原子は分割できない, 不変の粒子のはずだった!?
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1.2宇宙から降り注ぐ自然放射線と体内の放射線
地面から:U(ウラン),
Th(トリウム),
Rn(ラドン)、
K(カリウム)
出典:朝日新聞2011.6.204
出典:東北大学ニュートリノ科学研究センター
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2.放射線と放射能
放射線(radioactive ray)
原子核から放出される高いエネルギーの粒子線(粒子の線束)または電磁波である。 粒子線としてはα線、β線、中性子線、陽子線や重イオンなどが含まれる。高エネ ギーの電磁波はγ線と呼ばれる。放射能(
radioactivity) 「放射線」を放出する能力または性質。放射性物質(微粒子)
放射線を放出する同位元素. あるいはこれらの原子(核)を 含む物質を放射性物質という。 しかし、現在でも放射能という言葉が放射性物質という意味で使用されることもあり、 注意すべきである。例えば、「放射線漏れ」とは放射線を出す源を囲む遮蔽などが不十分 で外に放射線が漏れていることを意味する。「放射能漏れ」とは、文字通りでは、放射線を 放出する能力が外に漏れていることであるから、源が外に漏れていることを意味する。 しかし、「放射線漏れ」の意味で使用される場合もあるので、放射性物質が外に漏れたか どうかを確認する必要がある。6
7 p
3.放射性崩壊の種類と特徴
陽子 中性子3.1アルファ崩壊
原子番号Z 中性子数N 質量数A=Z+N (A, Z, N) (A-4, Z-2, N-2) α粒子 (4Heの原子核) p n n n n n n n n n n n p p p p p p p p p p p n n n n n n n n n p p p p p p p p p p 不安定な原子(の核) 不安定な残留原子(の核) (1)ウラン(U),プルトニウム(Pu)など重い核の場合に起こりやすい. (2)α崩壊の後も,残留原子(の核)は不安定(励起状態)であり, ベータ崩壊,ガンマ崩壊を引き続き起こす場合が多い, (3)放出されたα粒子は基底状態で,その運動エネルギーは 崩壊熱と呼ばれる,熱を発生する原因となる. 親核 娘核8 p
3.2 広義のベータ崩壊(ベータ崩壊と逆ベータ崩壊
(A, Z, N) (A, Z+1, N-1) n n n n n n n n n n p p p p p p p p p p p n n n n n n n n n p p p p p p p p p p 不安定な原子(の核) 不安定な残留原子(の核) (1)中性子数過剰の核の場合に起こりやすい. (2)ベータ崩壊の後も,残留原子(の核)は不安定(励起状態)であり, ガンマ崩壊を引き続き起こす場合が多い, (3)放出された電子は基底状態で,その運動エネルギーは 崩壊熱と呼ばれる,熱を発生する原因となる. ベータ崩壊(β-崩壊); 原子核内部の中性子1個が陽子に変わり,(高エネルギーの)電子と反中性微子 (反ニュートリノ)が核外に放出される. n n e 電子 反ニュートリノ ν 逆ベータ崩壊(β+崩壊); 原子核内部の陽子1個が中性子に変わり,(高エネルギーの)陽電子と中性微子 (ニュートリノ)が核外に放出される.陽子数過剰の核の場合に起こりやすいことを除 けば,ベータ崩壊と類似の性質がある.参考:陽電子とは何か
9 P. .M. A. Diracの相対論的電子論(1928)によれば 1)エネルギーEが-mec2<E<m ec2の範囲は禁止される, 2)真空は,エネルギー配位においては負エネルギーを もつ電子の準位が完全に占有されている状態である. (負エネルギー電子の“海“) 3)外部から2mec2以上のガンマ線のエネルギーを吸収 すると,負エネルギー電子が+mec2以上のエネルギ ー状態に励起される.これが通常の電子であり,電子 の穴(の状態)はプラスの電荷をもつ以外は電子と 同じ物理的性質を示す.電子の穴(の状態)を陽電子 (positron )という. 2 2 2 2 e(
)
(
)
E
=
m c
+
cp
アインシュタインの特殊相対論(1905)によれば,質量me, 運動量pの電子の相対論的エネルギーは次の式で与えら れる. 静止している場合(p=0)の場合 20.51 MeV
eE
= ±
m c
≅ ±
10 p
3.3 ガンマ崩壊(
γ崩壊)
(A, Z, N) (A, Z, N) n n n n n n n n n n p p p p p p p p p p p n n n n n n n n n p p p p p p p p p p 不安定な原子(の核) 不安定な残留原子(の核) 励起状態にある原子核から,(高エネルギーの)電磁波(光子)が 原子核外に放出されること. n n 高エネルギーの電磁波(光子) p 参考:歴史的には,原子の励起状態にある電子がより低い励起状態に遷移する場合に放出され る電磁波にうち,波長の極端に短いものをX線と呼ぶ.しかし,現在は加速器によって高エネ ルギーの光子線を生成できるようになっているので,X線とガンマ線の原理的な区別は意味 がなくなってきた. 励起状態 基底状態 それぞれの原子核に固有で,2つの状態の エネルギーに対応する離散的な波長(振動数)の 電磁波(光子)が放出される.11
3.4 電子捕獲とオージェ電子の放出
(A, Z, N) (A, Z-1, N+1) ある種の原子核において,核に近い軌道(K殻)の電子が電磁的相互作用により, 核に吸収され,核内の陽子1個が中性子1個に変わる過程がある.この現象が起こる と、K殻軌道が空になり、他の電子がこれを埋めるために、K-X線と呼ばれる光子を放 出する。あるいは、この光子放出の代わりに、外殻軌道にある電子にエネルギーを与 えて、原子外に放出されて、原子全体のエネルギーが下がる(脱励起)こともある。後 者の過程をオージェ過程(Auger process)と呼ばれ、一種の自己電離現象である。こ のときに放出される電子をオージェ電子(Auger electron)と呼ぶ。 それぞれの原子に固有で,2つの状態の エネルギーに対応する離散的な波長(振動数)の 電磁波(光子)が放出される. 原子核の変化 核 e e e e e e e e e 核 e e e e e e X線 核 e e e e e 蛍光 オージェ電子 オージェ過程12
4.崩壊法則と放射能の強さ
初めの原子(核)の個数N0 経過時間 / 0 0 0 0 ( ) e e exp(- t) exp(-t/ ) t t N t N N N N λ τλ
τ
= ⋅ = ⋅ = ⋅ = ⋅ - - 時刻tだけ経過後, 残存している元の原子〔核)の個数 放射能(radio-activity)の強さ 0( )
( ),
:
(0)
dN t
N t
dt
N
N
λ
λ
−
=
≡
崩壊定数,
( ) ( ) ( ) ; A t N t dN t dt λ ≡ = − 単一崩壊様式の場合 半減期T 1 1 2 1 e(
)
( )
e
2
ln 2
0.693
ln(e
)
ln(2 )
, (ln
log )
T TN t
T
N t
T
λ λλ
λ
− − − −+
=
→
=
→
=
→ =
≅
≡
放射能の単位: ベクレル(Bq)=毎秒1個の崩壊(壊変) 半減期を人為的に変化させることはできない!5.比放射能
13 放射性同位体を含む物質の,単位質量あたりの放射能の強さを比放射 能(specific radioactivity)ことである.言い換えれば、単位時間・単位質 量あたりに同一の放射性物質が壊変する回数であり,SI単位で表せば Bq g-1となる. 1/2 A A 1/2 1/2 16 23 1/2 1/2 (1) , , ln 2 0.693 , (2), (3) 1.32 10 4.17 10 Bq/g, year g s g A A S m N M m N M T N m N N M T T S S T M T M λ λ λ ≡ = = = ≅ × × ≅ ≅ ここで,考えている核種の質量を ,粒子数を グラム原子量を 崩壊定数を , 半減期を ,アボガドロ数を とすると である. 半減期が年単位の場合, 半減期が秒単位の場合, Bq/g, (1') [ ] Bq/g, Bq/Kg (4) S S = の次元・単位14 核種名 半減期 比放射能 トリチウム,T 12.3年 3.59x1014 Bq/g, 1g当り359兆 Bq 炭素14 5,700年 1.66 x1011 Bq/g, 1g当り1,160億 Bq カリウム40 1.25x109年 2.65x105 Bq/g, 1g当り26.5万 Bq コバルト60 5.27年 4.18x1013 Bq/g, 1g当り41.8兆 Bq ストロンチウム89 50.5日 1.07x1015 Bq/g, 1g当り1070兆 Bq ストロンチウム90 28.9年 5.09x1012 Bq/g, 1g当り5兆900万 Bq ヨウ素131 8.02日 4.60x1015 Bq/g, 1g当り4600兆 Bq セシウム134 2.06年 4.79x1013 Bq/g, 1g当り47.9兆 Bq セシウム137 30.1年 3.21x1012 Bq/g, 1g当3兆2100億 Bq
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6.複数の崩壊様式と有効崩壊定数,有効半減期
eff eff,
eff a b a b a b a bdN
Ndt
Ndt
Ndt
T T
T
T
T
λ
λ
λ
λ
λ λ
= −
−
≡ −
⋅
→
=
+
≡
+
有効崩壊定数 有効半減期60
Coの崩壊図
16
縦の直線は
17
7.自然放射性同位元素(核)の崩壊系列の例
半減期において,Y, h, m, sはそれぞれ年,時,分,秒を表す. %は複数の崩壊様式がある場合の分岐比である.
18 出典 1)豊田正敏他「原子力技術読本」 オーム社、1973年,p.79. 0.2 0.2 20 thermal 0 0 6 thermal 9 ( , ) 4.29 10 Bq, GW s s : MW=Mega W(watt)=10 W, GW=Giga W(watt)=10 W=100 kw, 1Bq=1dps P t t T A t T P − − + × × ⋅ − 熱出力, 万 thermal 7 6 0 20 3GW( 100 ), 1 year=3.1536 10 s, 100days=8.64 10 s A( 100days) 4.292 10 Bq P T t t = = × = × → = = × 電気出力 万kw 福島第一原発事故: 汚染水中の推定放射能が80万テラベクレル(約100万テラBq=1018Bqと近似) 放出割合(%)= 2011年6月発表値 18 20
10 Bq
100
0.2%
4.292 10 Bq
×
×
≈
空気中などへの漏洩を含めて10倍と仮定しても、高々2%程度の放出8.原子炉に蓄積された放射能の時間変化
(近似式と使用法)
Wigner-Wayの近似式 熱出力Pthermalの原子炉が運転時間T0、運転停止後経過時間tのとき、放射能A(t, T0) 近似公式の使い方19 出典 1) 豊田正敏他「原子力技術読本」,オーム社、1973年、p.80 2)E.E.ルイス「原子力炉の安全工学(上)」,現代工学社,1985年,p.10. 3) ラマーシュ「原子炉の初等理論(上)」、吉岡書店,1995年,p.134.
(
)
9 thermal 7 0 6 2 decay100
3GW,
1
1 year=365 24 60 60 s=3.15 10 s,
100days=100 24 60 60 s=8.64 10 s
(1 ,100 )
10
3GW 0.041 0.030
1866 kW ;100 W
1866
6. 2
0
2
P
T
t
P
y
d
−→
≅
=
×
× ×
×
=
×
× ×
×
→
=
×
×
−
≅
電気出力
万kw(=1 GW=10 W)の場合、熱効率33%として
運転 年間,運転停止後100日目の場合
電球の
個相当
8.原子炉停止後の崩壊熱の時間変化
(近似式と使用法)
Borst-Wheelerの関数 とも呼ばれる。 熱出力Pthermalの原子炉が運転時間運転T0 [s],停止後経過時間t [s]のとき、崩壊熱Pdecay 近似公式の使い方(
)
0.2 2 0.2 decay 0 thermal thermal 6.22 6.22( 1, 2), 6. ( , ) 10 , : 56( 3) P t T P t t T P − − − × × − + ただし、係数は 停止前 文献 文献 の熱出力20
Reactor Physics Constants, ANL-5800, 1958, p.636. ANL=Argonne National Laboratory, USA.