一一24一 食 物 学 会 誌 ・第12号
卵蛋 白の調 理 形 態 に よ る人 工 消 化 率 の変 化
に つ い て
第1報
口
羽
章
子≒
1 緒 言 食 品 を 調 理 す る 目的 の 一 つ は そ の 食 品を 消 化 しや す い 形 に か え る こ とに あ る。 澱 粉 性 食 品 の 消化 に つ い て は 加熱 の 必 要 性 が認 め られ て い るが,蛋 白 性 食 品 の 消 化 に 関 し て は 加 熱 の 必 要 性 が 充 分 検 討 され て い な い 。 しか し蛋 白 性 食 品 と し て 代 表 的 な卵 白 の 消 化 率 に 関 (1) す る 研 究 は 古 く か ら 行 わ れA.F. Morganは イ ヌ に 卵 白 ア ル ブ ミン40°o含 有 飼 料 を 与 え て 消 化 試 験 を 行 つ た 結 果,消 化 率 は50%前 後 で き わ め て 悪 い が こ れ を ユ500Cで18時 問 加 熱 す る とantitryptic activityが 破 壊 さ れ て 消 化 が 良 く な つ た と 述 べ て い る 。 cz> M.S. Rose, G. Macleodは 人 体 に つ い て は 生 お よ び 撹 伴 卵 白 の 消 化 率 は8d°o内 外 で 差 の な い こ と を 認 め 3) て い る 。H. H. Scudamore等 も 最 近 人 体 に つ い て 同 様 な 実 験 を 行 つ た 結 果,生 お よ び 加 熱 卵 白 の 消 化 率 の 間 に い ち じ る し い 差 が な い と 報 告 し て い る 。 4)卵 白 の 人 工 消 化 率 に つ い て はP.Frank, A.H. Bi-(5・ c6)
zarro, J.W. Palmer等 が 研 究 し,H.Lineweaver. C. (7) W.Murrayは 卵 白 中 のOvomucoidがTrypsinの1肖 化 作 用 を 障 害 す る こ と を 確 認 し,こ のOvomucoidは pH9.80。Cの 加 熱 で 速 や か に そ の 作 用 を 失 う こ と を 明 (a) らか に した 。 我 国 で も近 藤 は 卵 白の 消化 に お よぽ す 加 熱 温 度 の 影 響 を 研 究 し加 熱 に よつ て 消化 率 の 上 男 す る こ とを 述 べ て い る。 以 上 の 諸 研 究 の 結 果 よ りみ る と卵 白 と消 化 率 の 関 係 につ い て多 くの 報 告 は あ るが,卵 白 の 調 理 形 態 に よ る 消 化 率 の 変 化 に つ い て の 研 究 は 充 分 な され て い な い 。 本 研 究 は 実 際 調 理 を 行 う際 の 指 針 を 得 るた め,最 も 一 般 的 に 行 わ れ て い る調 理 方 法 を 基 本 と して 生 卵 白, 半 熟 卵 白,全 熟 卵 白の 人 工 消 化 試 験 を行 な つ た 。 こ こ に そ の 成 績 を 報 告 す る。 H 実 験 方 法 1.試 料 (i)産 卵 約48時 間 後 の 市 販 白 色 レ グ ホ ン種 鶏 卵 の 卵 白 を 用 い た 。 箭 本学 講師 (ii) 消 化 酵 素 日本 薬 局法 含 糖Pepsinを 用 い そ の 効 力 を Gross法 に準 じて 測 定 し た 。19の 含 糖Pepsin は40QCに お い て15分 間 にCasein量3.7gを 消 化 した 。 2.調 理 方 法 (i)半 熟 卵 白 は 生 卵 白 を ビー カ ーに と り950Cの 恒 温 槽 中 に 入 れ て3分 間 加 熱 し乳 鉢 で 充 分 摺 潰 し た 。 (11)全 熟 卵 は 生 卵 白 を ビ ー カ ーに と り950cの 恒 温 槽 中 に 入 れ て13分 間 加 熱 し,乳 鉢 で 充 分 摺 潰 し た 。 3.人 工 消化 液 お よ び 消 化 の 条 件 調 理 され た 各 々の 試 料 約10g(生 卵 白 として)を と り,300ccの3角 コ ラス コに 入 れ 含 糖Pepsin O. lg, 水100cc(HC1でpHを1.6∼1.8に す る)を 加 え よ く振 盗 し て反 応 を 進 行 さ せ た 。 消化 時 間 胃 は 内停 滞 時 間 を考 慮 し て1時 間,2時 間,3時 間 とした 。 4.測 定 法 (i) 窒 素 測 定 (9) ミク ロキ ー ル ダ ール 法 に て 窒 素 量を 測 定 した 。 (ii) ア ミノ態 窒 素測 定 各 消化 時 間 毎 の 反 応 液10ccを と りフ ォル モ ー ル (9) 滴 定 法 に よ り測 定 した 。 (iii)消 化 率 窒 素 量 とア ミノ態 窒 素量 との 比 率 を 求 め 消化 率 と した 。
皿 実 験 成 績
1.生 卵 白,半 熟 卵 白,全 熟 卵 白 そ の ま まの 消化 率 卵 白を そ の ま ま用 い 消化 に お よぼ す調 理 方 法 の 影 響 に つ い て 実 験 を 行 つ た 成 績 は 表1・ 図1の 如 く で あ る。 そ の 結 果 生 卵 白 の 人 工 消 化 率 は1時 間 で37・4%, 2時 間 で は47・5°o,3時 間 で は51・3°0,ま た 半 熟 卵 白 で は1時 間35.5°o,2時 間 で は41・4%,3時 間 で は 53.2%と な り,生 卵 白 と半 熟 卵 白の 消 化 率 の 差 は み と め られ な か つ た 。 しか し全 熟 卵 白 に お い て は1時 間 で昭 和37年6月 号(1962) 一25一 表1.卵 白 の 消 化 に お よ ぽ す 消 化 時 間 お よび 調 理 法 の 影 響 時
問1
1 時 間 2 時 間i
3 時 間 生 卵 白 半 熟 卵 白 全 熟 卵 白 1 2 3 1 2 3 1 2 3 消総 化 液 量 CC 106 105 105 98 9i 98 窒 素 量 mg 166.6 166.1 167.7 ア 窒 ミ素 ノ量 態 mg 消 化 率 % 6 2・5'37・5 62.3 62.4 37.5 消総 化 液量 CC 窒 素 二量 mg ア窒 ミ素 ノ量 態 mg 3i.2 106 556.41 238.7 i 106 443.71 222.3 104 487.2' 241.2 消 化 率 % 42.9 5a.1 49.5 86 $8 88 179.1 185.5 183・i 172.91 18f.6 65.9 64.0 64.5 4r/・`f 1__一.一__ 47.4 172.4', 4T.6 36.8 34,5 35.1 27.4 25, 27.6941
618.7
90 1 94 86 88 88 656.1 382.1 557.7 X!11 566.2 260 .5'42.1 263.11 40.1 160.11 41.9 161.2 163.8 164.Z 28.9 27.3 29.0 消総 化 液 量 CCi104'
103 103 窒 素 量 mg ア窒 ミ素 ノ量 態 mg 556.51 274.5 443.51 233.3 途 乳81253.2 i941601.1
i 88'642.893i 620.3
312.6 342.0 338.1 消 化 率 jo 49.3 52.6 51.9 851 557.3 871599・3 「 一一一'-87 566.0 52.0 53.0 54.5 193.4 34.7 196.6 32.8 197.0 34.8 (註) 図1.卵 白 の 消 化 に お よぽ す 消 化 時 間 お よび 調 理 法 の 影 響 生 卵 白,半 熟 卵 白,全 熟 卵 白 の 実 験 結 果 の 同一 番 号 の も の け 夫 々同 一 の卵 白を 用 い た もの で あ る。 ρ凸亀、 28.6ja,2時 間 で は28・4%,3時 間 で は34.1%で 各 々 の 消 化 時 間 に お い て生 お よ び 半 熟 卵 白 の 消 化 率 よ り 12∼15%o劣 る結 果 を 得 た(表1) (図1)。 2.生 卵 白,全 熟 卵 白 を ホ モ ゲ ナ イズ(磨 砕)し た 場 合 ホ モ ゲ ナ イ ズ した 卵 白 の 消 化 に お よぼ す 調 理 法 の 影 響 に つ い て 実 験 を 行 つ た が 生 卵 白 は 卵 白 に5倍 の 水 を 加 え ホ モ ゲ ナ イザ ー で5分 間撹 伴 混 合 し,全 熟 卵 白 は 全 熟 卵 白を 乳 鉢 で 充 分 摺 潰 し て5倍 の 水 を 加 え ホ モ ゲ ナ イザ ー で5分 間 境 拝 混 合 し た 。(表2・A)。 また 全 熟 卵 白 を 同 様 に 処 理 した 後 遠 心 分 離 し液 状 物(表2. B1)と 固 形 物(表2.B2)に 分 別 し た 。 そ の 成 績 は 表 2.図2.の 如 くで あ る。 そ の結 果,生 卵 白 に お いて は 人 工 消化 率 は1時 間 で は51.5%,2時 間 で は54・4%, 3時 間 で は56.3%の 結 果 を 得 た 。 全 熟 卵 白 に お いて は 試 料A.B1. B2各 々大 差 な く1時 間 で は49・7°0,2 時 間 で は51.5%,3時 間 で は54・5%で,生 卵 白 の 消化 率 と比 較 して そ の差 は み とめ られ な か つ た 。(表2.) 表2.ホ モ ゲ ナ イ ズ した 卵 白 の 消化 に 及 ぽ す 消化 時 間 と調 理 法 の 影 響\ \<時 間
調理 力法 \ 、 1 時 間 消 化 率 生 1 卵 2 白 3 52.1 51.5 50.9 2 時 間 53.9 55.1 54.1 3 時 問 59.1 55.1 54.8 6 時 間 66.2 ・: 67.1一26一 食 物 学 会 誌 ・第12号 消 化 率 全 熟 卵 白 1 2 3 A 49.8 49.9 50.1 Bi 49.5 51.4 48.4 B2 46.7 50.1 A Bi 51.6 B2 .・ 51・ 50. A B2 52.4 55.1 52.6 53.1 50.7 56.1 .・ 51.8 55.8 54.4 55.9 52.1 B2 A 54.8 .. 54.9 52.0 .:・ ・: B1 67.8 .: 67.1 B2 67.2 ・ 67.0 (註) 図2.ホ モ ゲ ナ イズ した 卵 白 の消 化 に お よぽ す 消 化 時 間 と調 理 法 の 影 響 生 卵 白,半 熟 卵 白,全 熟 卵 白 の 実 験 結 果 の 同一 番 号 の もの は 夫 々 同 一 の 卵 白を 用 い た もの で あ る 。 (図2.) 3.全 熟 卵 白粒 子 の 消 化 に お よぽ す 影 響 全 熟 卵 白 の 粒 子 の 大 き さが 消 化 に お よぽ す 影 響 に つ い て 実 験 を 行 つ た 成 績 は 表3の 如 くで あ る。 そ の 結 果 ガ ラ ス棒 で 砕 い た 卵 白 の 消 化 率 は,乳 鉢 で摺 潰 した 卵 白に に 比 較 し約15°0低 下 した 。(表3・) 表3・ 全 熟 卵 白粒 子 の 消化 に 及 ぽ す 影 響 \. 砕 き 方 消化時間 一∼ 一一 消 化 率 ガ ラ ス棒 で砕 い た もの 乳鉢 で摺潰 した もの 3 時 間 33.6° ° 51.5°o 生,半 熟,全 熟 に 調 理 され た 卵 白を 用 いPepsinの 人 工 消化 試験 を 行 つ た 。 そ の 結 果 卵 白 のPepsinに よ る 消 化 は,胃 内停 滞 時 間 と考 え られ る3時 間 まで に 急 速 に 消化 され た 。 そ れ は ホ モ ゲ ナ イ ズ し た 卵 白 の 場 合 で も同 様 の 結 果 が え られ た 。 また 生,半 熟 卵 白 そ の ま まの 消化 率 は ほ ぼ 同 値 で 良 好 で あつ た が,全 熟 卵 白 で は 約12∼15%低 下 し て い る こ とが み とめ られ た 。所 が ホ モ ゲ ナ イズ した 卵 白 では 生,全 熟 卵 白 の 消化 率 の 差 は み とめ られ なか つ た 。 さ らに 全 熟 卵 白の 粒 子 の 大 き さ(潰 し 方)は 消 化 率 に 影 響 を お よぽ し,粒 子 を 小 さ くす れ ば し な い もの よ り消 化 率 を 高 め る こ とが 出 来 た 。 以 上 の 結 果 か ら考 え る と卵 蛋 白 それ 自身 の 消化 率 は 生 で も半 熟 で も全 熟 卵 白 で もほ とん ど差 が な く,全 熟 卵 白 の 消 化 が 一 見 悪 い よ うに 見 え るの は 卵 白 が 凝 固 す るた め 消化 酵 素が 作 用 しに く いた め と解 され る。 した が つ て この 点 が 解 決 す れ ば 全 熟 卵 白 の 消 化 率 は 他 の 調 (S 理 卵 白 と同 様 の 消化 率 を 得 る。 近 藤 は900C,98。Cで 10分 間 加 熱 した 卵 白 は 他 の 低 い 温 度 で 加 熱 した 卵 白 よ り消化 率 が 劣 る と述 べ て い る が,本 実 験 に お い て 全 熟 卵 白 の 消化 率 の 低 下 す る理 由 は 他 に 原 因 の あ る こ とが あ き らか に な つ た 。 す な わ ちPepsinに よ る 消化 に お い て は 卵蛋 白 は 加 熱 及 び加 熱 程 度 の 影 響 が 殆 どみ とめ られ ず に 消 化 され る こ とが 判 明 し従 来 か ら 胃 内 停 滞 時 間 の 長 い こ とを も つ て 全 熟 卵 白は 不 消 化 で あ り,半 熟 卵 白は 最 も消 化 が よ い と考 え られ て い た が,少 く と もPepsinに よ る 人 エ 消化 に お い て は 差 は殆 どな く,全 熟 卵 白 も ホ モ ゲ ナ イ ズす れ ば 同 程 度 の 消化 率 が 得 られ る こ と が 判 明 し たQ 今 回 の 実 験 を 更 に 深 く究 明 す るた め 今 後 卵 白 の 他 の 調 理 形 態 とPepsin消 化 との 関 係,お よ び膵 臓 酵 素 の 卵 白 に与 え る影 響 を 研 究 し,調 理 形 態 と消 化 の 関 係 を 検 討 して 行 きた い と考 え て い る 。 本 研 究 に あ た り常 に御 懇 切 な 御 指 導 を 下 さい ま し た 京 都 大 学 医 学 部 桂 英輔 助 教 授 に 深 く感 謝 致 し ま す 。 IV 総 括 な ら び に 考 察 卵 白 の 調 理 形 態 に よ る 消化 の 影 響 を 検 討 す るた めY`
昭 和37年6月(1962) 27-一
参 考 文 献
1)Margan, A. F., Hunt, C. N.. Aruich, L 7.Nutrition 43,63{1911)
2)Rose, M. S,, Macleod. G.:J.Biol. Chem. 50, 83 (1922)
3)Scudamore, H. H., Morey, G.12., Consolazio, L.F., G.H., Gordon, L. E., Lightbody, H.D. and Fevoid, H. L:J. Nutrition 39,
555 (1949)
4)Frank, P. J.B101. Chem. 9,463(1911) 5)Bizarro, A. H. J. Physiol.46.267(1913) 6)Palmer, IJ. W.:J. Biol. Chem.113,479 (1936)
7)Lineweaver, H., Murray, C.W. 7. Biol. Chem.171,565(194'i)
8)近 藤 美 十 代:家 政 学 雑 誌5,(1)33(1954) 9)藤 井 暢 三 ・生 化 学 実 験 法,定 量 編