量子力学の厳密に解ける模型で繰り込みを学ぶ
大谷聡 日本大学量子科学研究所 1 二次元デルタ関数ポテンシャル 1 1.1 D 次元の形式的厳密解 . . . 2 1.1.1 束縛状態: E= −κ2< 0 . . . 2 1.1.2 散乱状態: E= k2> 0 . . . 3 1.2 正則化と繰り込み . . . 4 1.2.1 正則化その 1: カットオフ正則化 . . . 5 1.2.2 正則化その 2: 次元正則化 . . . 5 1.2.3 繰り込みと次元転化 . . . 6 1.3 繰り込み群方程式とβ 関数 . . . 7 2 参考文献 9 A Green 関数の計算 10 (Dated: June 16, 2015) まとめ • デルタ関数ポテンシャルで記述される Schrödinger 方程式 −ħh 2 2m∇ 2+ g δ(D )(x ) Ψ(x ) = E Ψ(x ) は局所ポテンシャルの下で運動するD 次元一粒子量子力学系の雛形. • D= 1 の 1 次元の場合は容易に解ける.しかし 2 次元以上ではデルタ関数ポテン シャルは特異性が強過ぎて,素朴に計算すると物理量は無限大に発散してしまう. 理論をうまく定義するには正則化と繰り込みが必要. • 特に 2 次元の場合が面白い.D= 2では次元転化 (dimensional transmutation) が起 こり,更にg < 0の引力ポテンシャルの場合,理論は漸近的自由性を示す. 1. 二次元デルタ関数ポテンシャル デルタ関数ポテンシャルの下で運動する質量 m の粒子を考えましょう.空間の次元を D と すると,この粒子の運動を記述する Schrödinger 方程式は次式で与えられます: −ħh 2 2m∇ 2+ g δ(D )(x ) Ψ(x ) = E Ψ(x ). (1.1) ここで E はエネルギー固有値,g は実の結合定数で正でも負でも良いとします. さて,ħh と2m は以下の計算の至る所に出て来て見苦しいので,記号を簡略化するために ħh と 2m が 1 となる単位系で考えて行くことにしましょう: ħh = 2m = 1. (1.2) すると Schrödinger 方程式(1.1)は次の様に簡単化されます: −∇2+ g δ(D )(x )Ψ(x ) = E Ψ(x ). (1.3) ここで,この ħh = 2m = 1の単位系では全ての量は長さの次元で測れることに注意しましょう. 例えば,ラプラシアン∇2は 2 階の空間微分なので長さの次元は−2,D 次元デルタ関数δ(D )(x )ラプラシアン [∇2] = L−2 デルタ関数 [δ(D )(x )] = L−D 結合定数 [g ] = LD−2 エネルギー固有値 [E ] = L−2 Table 1: 単位系ħh = 2m = 1 での長さの次元. は D 次元空間積分すると 1になるので長さの次元は −D, ポテンシャル V(x ) = g δ(D )(x )とエ ネルギー固有値 E はラプラシアンと同じ次元でなければならないので結合定数g は長さの 次元 D− 2,エネルギー固有値E は長さの次元 −2となります (Table 1参照).D = 2では結 合定数は無次元になることに注意しましょう. さて,今からやりたいのは単に Schrödinger 方程式(1.3)を解くことです.D= 1 の 1 次元 の場合は,標準的な量子力学の教科書なら必ず載っていて簡単に解くことが出来ます.しか し 2 次元以上の場合を解いたことがある人はまず居ないでしょう.実際,2 次元以上のデル タ関数ポテンシャルは特異性が強過ぎて,素朴に計算すると束縛状態のエネルギー固有値が 無限大になったり,散乱振幅がゼロになったりします.理論をうまく定義するには,実は場 の量子論で開発された正則化 (regularization) と繰り込み (renormalization) が必要になって きます.以下,この簡単な一粒子量子力学系で繰り込みの手法を学んでいきましょう. 1.1. D 次元の形式的厳密解 Schrödinger 方程式(1.3)自体は Green 関数を駆使することで,任意の次元 D で形式的には厳 密に解くことが出来ます.この節ではまずD 次元の形式的厳密解を導出しましょう. 1.1.1. 束縛状態: E = −κ2< 0 まず E < 0 の束縛状態の解を求めましょう.以下,E = −κ2 (κ > 0) とします.解きたい Schrödinger 方程式は次の形をしています: −∇2+ V (x )Ψ(x ) = −κ2Ψ(x ). (1.4) 今の問題では V(x ) = g δ(D )(x )です. さて,一般に式(1.4)の “解” は次式で与えられます: Ψ(x ) = ∫ dDy GB(x ,y ;κ)V (y )Ψ(y ). (1.5) ここでGB(x ,y ;κ) は束縛状態 Green 関数で,次の微分方程式を満たします: −κ2+ ∇2 x GB(x ,y ;κ) = δ(D )(x − y ). (1.6) これは簡単に解くことが出来て,解は次式で与えられます (補遺A参照): GB(x ,y ;κ) = ∫ dDp (2π)D ei p·(x −y ) −κ2− p2= − 1 2π κ 2π|x − y | D 2−1 KD 2−1 κ|x − y | . (1.7) ここで Kν(z ) は ν 次の第二種変形ベッセル関数です. 式(1.5)が Schrödinger 方程式(1.4)の “解” を与えるというのは,式(1.5)の両辺に左から微 分演算子 −κ2+ ∇2 x を作用させると,式(1.6)より (−κ2+ ∇2)Ψ(x ) = V (x )Ψ(x ) が従い,これは Schrödinger 方程式(1.4)に他ならない,ということから分かります.但し,式(1.5)の右辺には 求めたい波動関数Ψ が入っているので実際には全然解いた事にはならず,微分方程式を積分 方程式に書き換えたと理解するのが正しい理解です.
しかしながら,デルタ関数ポテンシャルの場合は特殊で,式(1.5)で Schrödinger 方程式は 本当に解けてしまっています.実際,V(y ) = g δ(D )(y )を(1.5)に代入するとy 積分は自明に実 行できて次の束縛状態波動関数を得ます: Ψ(x ) = g GB(x ,0;κ)Ψ(0). (1.8) Ψ(0) は規格化定数とみなせるので,E = −κ2< 0 の場合の解は束縛状態 Green 関数(1.7)で与 えられることが分かりました. さて,式(1.8)でx = 0と置いてみましょう.すると次の等式を得ます: Ψ(0) = g GB(0,0;κ)Ψ(0). (1.9) この等式が矛盾なく成り立つためには次の条件式が成り立っていなければなりません: 1= g GB(0,0;κ). (1.10) この条件式を κについて解いて,κを結合定数g の関数として表すことで,束縛状態のエネ ルギー固有値 E = −κ2 が求まります.式(1.10)がエネルギー固有値の量子化条件を与えてい るわけです.式(1.10)は自己無撞着条件 (self-consistency condition) と呼ばれたりします. 1.1.2. 散乱状態: E = k2> 0 次に E = k2> 0 (k> 0) の散乱状態の解を求めましょう.解きたい Schrödinger 方程式は次の 形をしています: −∇2+ V (x )Ψ(x ) = k2Ψ(x ). (1.11) 但し今の問題ではV(x ) = g δ(D )(x )です. さ て, 一 般 に ポ テ ン シャ ル V(x ) が 無 限 遠 方 |x | → ∞ で 十 分 早 く ゼ ロ に な る 場 合, Schrödinger 方程式(1.11)の散乱解 Ψ+ k(波数ベクトル k の平面波で入射して,ポテンシャ ル散乱を起こし,球面波で出て行く解) は次式で与えられます: Ψk+(x ) = ei k·x+ ∫ dDy G+(x ,y ;k)V (y )Ψk+(y ). (1.12) ここでG+(x ,y ;k) は Green 関数で,微分方程式 k2+ ∇2xG+(x ,y ;k) = δ(D )(x − y ) (1.13) の解の一つです.具体的には次式で与えられます: G+(x ,y ;k) = ∫ dDp (2π)D ei p·(x −y ) k2− p2+ i ε= − i 4 k 2π|x − y | D 2−1 HD(1) 2−1 k|x − y |. (1.14) ここでεは正の無限小量で,Hν(1)(z )はν次の第一種ハンケル関数です.式(1.12)を Lippmann-Schwinger 方程式と呼びます.1 前節同様,式(1.12)が Schrödinger 方程式(1.4)の “解” を与えるというのは,式(1.12)の両 辺に左から微分演算子k2+∇2 x を作用させると,式(1.13)より (k2+∇2)Ψk+(x ) = V (x )Ψk+(x )が従 い,これは Schrödinger 方程式(1.11)に他ならない,ということから分かります.式(1.12)の 右辺の積分の中には求めたい波動関数 Ψ+ k が入っているので,一般には Schrödinger 方程式 を解いたことにはなりませんが,デルタ関数ポテンシャルの場合は(1.12)を用いて厳密に解 くことが出来ます. 1Lippmann-Schwinger 方程式は基本的には単に Schrödinger 方程式を積分方程式へ書き換えただけですが, Schrödinger 方程式には無い境界条件の情報も含んでいます.境界条件の情報は式(1.14)の正の無限小量εによっ て与えられていますが,ここでは詳しく解説しません.
そこで,まず式(1.12)に V(y ) = g δ(D )(y )を代入しましょう.y 積分は自明に実行できて次 式を得ます: Ψk+(x ) = ei k·x+ g G+(x ,0;k)Ψ+ k(0). (1.15) 次にx= 0 と置いてみましょう: Ψk+(0) = 1 + g G+(0,0;k)Ψk+(0). (1.16) これは Ψ+ k(0) について解くことが出来ます: Ψk+(0) = 1 1− g G+(0,0;k). (1.17) これを式(1.15)に代入すると次の散乱解を得ます: Ψk+(x ) = ei k·x+ g G+(x ,0;k) 1− g G+(0,0;k). (1.18) Green 関数はすでに求まっているのでこれで Schrödinger 方程式の散乱解を厳密に求めたこ とになります. さて,散乱解が分かったので,その無限遠方での振る舞いから散乱振幅を読み取ることが 出来ます.ハンケル関数の漸近挙動Hν(1)(z )|z |→∞→ qπz2 ei(z −(2ν+1)π/4) を使うと,Green 関数は無 限遠方で次の様に振る舞います: G+(x ,y ;k) → − 1 4π k 2π D−3 2 ei[k|x −y |−(D −3)π/4] |x − y |D−1 2 as |x − y | → ∞. (1.19) これより波動関数は無限遠方で次の様に振る舞う事が分かります: Ψk+(x ) → ei k·x+ f (k)ei[k|x |−(D −3)π/4] |x |D−1 2 as |x | → ∞. (1.20) ここで f(k)は散乱振幅で,次式で与えられます: f(k) = − 1 4π k 2π D−3 2 gΨk+(0) = − 1 4π k 2π D−3 2 g 1− g G+(0,0;k). (1.21) 1.2. 正則化と繰り込み 前節までで Schrödinger 方程式の厳密解を求めましたが,これらはあくまで形式解です.形 式解と言っている意味は,式(1.10)と(1.21)に入ってくる GB(0,0;κ)と G+(0,0;k) は 2 次元以 上の空間では無限大に発散してしまうからです: GB(0,0;κ) = − ∫ dDp (2π)2 1 κ2+ p2= ∞ for D≥ 2, (1.22a) G+(0,0;k) = ∫ dDp (2π)2 1 k2− p2+ i ε= ∞ for D≥ 2. (1.22b) 以下ではこの無限大はパラメータg に隠してしまって,物理量は全て有限になるようにして いきます.この操作を繰り込みといいます.その為にはまず理論を少し変更して積分が有限 になるようにしないといけません.この理論を少し変更して積分を有限にする操作を正則化 と言います. 以下では D = 2 の 2 次元の場合に注目し,物理量として束縛状態のエネルギー固有値を 選びましょう.まず正則化の代表例 2 つ,カットオフ正則化と次元正則化,を行ってその後 繰り込みを行うことにします.
1.2.1. 正則化その 1: カットオフ正則化 積分(1.22a)と(1.22b)の無限大の発散は,運動量p が無限に大きい所まで積分してしまうから 生じるので,積分範囲に上限をつけてしまえば積分は有限になります.そこで積分を次の様 に変更して正則化しましょう: ∫ d2p (2π)2→ ∫ |p |<Λ d2p (2π)2. (1.23) Λは運動量の上限で,運動量カットオフと呼びます.このカットオフ正則化の下では,式(1.10)の 右辺は次の様に計算されます: 式(1.10)の右辺= g GB(0,0;κ) = −g ∫ |p |<Λ d2p (2π)2 1 κ2+ p2 = −g ∫Λ 0 2πpd p (2π)2 1 κ2+ p2= − g 4π ∫ Λ2 0 d p2 κ2+ p2 = − g 4πlog κ2+ Λ2 κ2 . (1.24) Λ は最終的には無限大にやって元の理論に戻したいので,式(1.24)の対数を Λ = ∞の周りで 展開して,Λ → ∞ とした時に効いてくる主要な項だけを取り出しましょう.次の様にやりま す: log κ2+ Λ2 κ2 = log Λ2 κ2 1+κ 2 Λ2 = log Λ2 κ2 + log 1+κ 2 Λ2 = log Λ2 κ2 + κ2 Λ2 −1 2 κ2 Λ2 2 + ··· . (1.25) ここで最後の等式に移るときに Taylor 展開の公式log(1+ x ) = x −12x2+··· を使いました.従っ て,Λ → ∞ では(1.24)はlogΛ で発散し,(1.25)の 2 項目以降は効いてこないことが分かりま す.まとめると,Λ が十分大きい時,式(1.10)の右辺は次の様に振る舞います: g GB(0,0;κ) = − g 4πlog Λ2 κ2 + O(Λ−2). (1.26) 1.2.2. 正則化その 2: 次元正則化 次に次元正則化をやりましょう.積分(1.22a)と(1.22b)が無限大に発散してしまうのは次元 D が 2以上の場合なので,εを正の無限小量としてD= 2 − ε次元で計算すれば積分は有限にな ります.そこで積分と結合定数を次の様に変更して理論を正則化しましょう: ∫ d2p (2π)2 → ∫ dDp (2π)D, (1.27a) g → g µ2−D. (1.27b) ここで µ は長さの次元 −1 を持った量で,D 次元でも結合定数 g が無次元になるように導 入した任意の定数です.(D 次元では結合定数は長さの次元D− 2 を持つことに注意しましょ う.) µを繰り込みスケールと呼びます.この置き換えの下で式(1.10)の右辺は次の様に計算 されます: 式(1.10)の右辺= g µ2−DG B(0,0;κ) = −g µ2−D ∫ dDp (2π)D 1 κ2+ p2 = − 2gµ2−D (4π)D/2Γ (D /2) ∫ ∞ 0 d p p D−1 κ2+ p2= − g(µ/κ)2−D (4π)D/2Γ (D /2) ∫ ∞ 0 d x x D/2−1 1+ x = −g(µ/κ)2−DΓ (1 − D /2) (4π)D/2 . (1.28)
ここで 3 番目の等式では公式 ∫dDp f(p) =Γ (D /2)2πD/2 ∫0∞d p pD−1f(p) (f は p= |p | の任意関数) を使い,4 番目の等式では変数変換 x= p2/κ2 を行い,最後の等式ではベータ関数の公式 B(p,q ) = ∫∞ 0 d x x p−1 (1 + x )p+q = Γ (p)Γ (q ) Γ (p + q ) (1.29) を使いました.Γ (0) = ∞なので式(1.28)はD= 2でやはり発散してしまうことに注意しましょ う.そこで “D= 1.99次元” で計算して積分を有限にすることにします.εを正の無限小量と して D= 2 − ε (1.30) と置くと,式(1.28)は次の様になります: 式(1.28)= −g(µ/κ)εΓ (ε/2) (4π)1−ε/2 = − g 4π 4πµ 2 κ2 ε/2 Γ (ε/2). (1.31) εは最終的にはゼロに持って行きたいので,(4πµ2/κ2)ε/2 とΓ (ε/2) をε = 0 の周りで展開しま しょう: 4πµ 2 κ2 ε/2 = eε2log 4πµ2κ2= 1 +ε 2log 4πµ 2 κ2 + O(ε2), (1.32a) Γ (ε/2) =2 ε− γ + O(ε). (1.32b) ここでγ ≃ 0.577 は Euler の定数です.これらを式(1.31)に代入して整理すると,式(1.10)の右 辺は最終的に次の形を取ります: gµ2−DGB(0,0;κ) = − g 4π 2 ε− γ + log(4π) + log µ2 κ2 + O(ε) . (1.33) 1.2.3. 繰り込みと次元転化 さて,正則化が終わったので,いよいよΛ → ∞ またはε → 0の極限を考えることにしましょ う.考え方は簡単で,結合定数 g は実はΛ または εの関数で,式(1.26)または(1.33)の発散 項をうまく打ち消すように g も実は発散していると考え,物理量 (今の場合はエネルギー固 有値 E= −κ2) は有限になるようにしよう,というものです. これは次の様にやります.まずエネルギー固有値を決める式(1.10)は次の様に書けること に注意します: (カットオフ正則化の場合): 1 g = − 1 4π log Λ2 µ2 + log µ2 κ2 + O(Λ−2) , (1.34a) (次元正則化の場合): 1 g = − 1 4π 2 ε− γ + log(4π) + log µ2 κ2 + O(ε) . (1.34b) 式(1.34a)のµ は長さの次元−1 を持った任意の定数で,これも繰り込みスケールと呼びます. 次に繰り込まれた結合定数 gR を次式で定義します:2 (カットオフ正則化の場合): 1 gR := limΛ→∞ 1 g + 1 4πlog Λ2 µ2 , (1.35a) (次元正則化の場合): 1 gR := lim ε→0 1 g + 1 4π 2 ε− γ + log(4π) . (1.35b) 2次元正則化の場合,繰り込まれた結合定数は 1 gR := limε→0 1 g + 1 4π·2ε と定義しても良いです.この流儀を
minimal subtraction (略して MS) と言い,式(1.35b)の流儀を modified minimal subtraction (略して MS (エム・
要するに,これらの極限がうまく存在するように g は実は Λ または ε依存性を持っていた, とするわけです.このようにハミルトニアンに元々入っていた実は発散しているパラメータ g を裸の結合定数と呼びます.こうすると,式(1.34a)と(1.34b)はともに Λ → ∞ と ε → 0 の 極限が存在して,次式になります: 1 gR = − 1 4πlog µ2 κ2 . (1.36) これを κについて解くと,束縛状態のエネルギー固有値EB= −κ2 が求まります: EB = −µ2exp 4π gR . (1.37) さて,今まで束縛状態のエネルギー固有値だけを取り扱ってきましたが,散乱振幅も 式(1.35a)と(1.35b)の結合定数の繰り込みだけで有限にすることが出来ます.式(1.21)より D= 2で散乱振幅は次の様になります: f(k) = −p1 8πk 1 1 g −G+(0,0;k) . (1.38) G+(x ,y ;k) = GB(x ,y ;−i k) なので,κ2= −k2 の置き換えで前節までの計算がそのまま使えて G+(0,0;k) は次の様に正則化されます: G+(0,0;k) = − 1 4π log Λ2 µ2 + log µ2 −k2 + O(Λ−2) (カットオフ正則化), − 1 4π 2 ε− γ + log(4π) + log µ2 −k2 + O(ε) (次元正則化). (1.39) 従って,繰り込まれた結合定数(1.35a)と(1.35b)を使うと散乱振幅は f(k) = −p1 8πk 1 1 gR + 1 4πlog µ2 −k2 (1.40) となります.ここで式(1.36)より 1 gR = − 1 4πlog( µ 2 |EB|)なので,これを式(1.40)に代入すると f(k) = − v t2π k 1 log|EB| −k2 (1.41) となって繰り込まれた結合定数 gR を全く含まない形に書けることに注意しましょう.これ は結合定数の代わりに EB を理論の基本的なパラメータとみなすことが出来るのではないか, ということを示唆していて,実際,散乱振幅だけでなく波動関数からもgR を消し去って,代 わりに EB だけをパラメータとして含む形にすることが出来ます.このように,元々のハミ ルトニアンでは無次元の結合定数 g が基本的なパラメータであった理論が,繰り込みを経て, 基本的なパラメータが次元を持った量 EB になる現象を次元転化と言います. 1.3. 繰り込み群方程式と β 関数 さて,正則化と繰り込みの過程で新たに長さの次元−1 を持った任意のスケールµ を導入し ましたが,そもそもエネルギー固有値 EB を決める式(1.10)には µ などどこにも入っていな かったので,実際は EB は µ には依存していないべきです.そこで,EB は µ で微分すると ゼロになれ,と要請しましょう: µ d dµEB= 0. (1.42)
微分を d dµ ではなく µddµ としたのは,単に微分演算を無次元の量にしたかったからです. 式(1.42)は,物理量は繰り込みスケール µの選び方に依るな,という要請を表しています. EB は繰り込みスケールµと繰り込まれた結合定数gR(µ)の関数 EB(µ,gR(µ))なので,チェ イン・ルール µd EB dµ = µ ∂ EB ∂ µ + µd gdµR ∂ E∂ gBR を使うと式(1.42)は次の偏微分方程式になります: µ ∂ ∂ µ+ β(gR) ∂ ∂ gR EB= 0. (1.43) これを繰り込み群方程式と呼び,β(gR)は β 関数と呼ばれるもので次式で定義されます: β(gR) := µ d gR dµ . (1.44) 今の場合,エネルギー固有値 EB は(1.37)で厳密に求めているので,これを µと gR で偏微分 することでβ 関数は厳密に求めることが出来ます: 0= µ∂ EB ∂ µ + β(gR) ∂ EB ∂ gR = −2µ 2e4π/gR+ β(g R) −µ2e4π/gR −4π gR2 = 2−4π gR2β(gR) EB. (1.45) 従って,等式(1.45)が成り立つためにはβ 関数は β(gR) = 1 2πg 2 R (1.46) でなければなりません. さて,式(1.46)は 1 階の微分方程式 µd gR dµ = 1 2πg 2 R (1.47) なので,これは解くことが出来ます.式(1.47)を d gR g2 R = 1 2πdµµ と書き直して,µ から µet (−∞ < t < ∞) まで積分しましょう: ∫ g¯(t ) gR d ˜gR ˜ gR2 = 1 2π ∫µet µ d ˜µ ˜ µ . (1.48) ここでg¯(t )は繰り込みスケールµet での結合定数の値です.積分は簡単に実行できて,少し 整理して次の式を得ます: ¯ g(t ) = gR 1−gR 2πt . (1.49)
この g¯(t ) を有効結合定数または走る結合定数 (running coupling constant) と呼びます.g¯(t )
は運動量スケールを et 倍したときの結合定数を表すのですが,これは次の様に理解できま す.散乱振幅の入射粒子の運動量の絶対値 k を et 倍してみましょう.k を k et に置き換え た時の表式は次の様になります: f(ket; gR) = − 1 p 8πket 1 1 gR + 1 4πlog µ2 −k2e2t = − e− 1 2t p 8πk 1 1 gR − t 2π+ 1 4πlog µ2 −k2 = − e− 1 2t p 8πk 1 1 ¯ g(t )+ 1 4πlog µ2 −k2 = e−12tf(k; ¯g(t )). (1.50)
t ¯ g(t ) 0 gR gR 2π gR 2π gR Figure 1: 有効結合定数 ¯g(t ) = gR 1−gR 2πt. t= 0 の初期値 gR が正の場合 (青色の曲線) と負の場合 (赤色の 曲線) で振る舞いが異なる. 全体に掛かる因子 e−12t は散乱振幅が運動量次元 −1/2を持っていることから来る自明な因子 です.従ってこれを除けば,式(1.50)は,入射粒子の運動量k を et 倍するということは,入 射粒子の運動量 k をそのままにして結合定数を g¯(t )にすることに等しい,ということを表 しています.有効結合定数g¯(t )の t 依存性を知るということは,入射粒子の運動量スケール を変えていった時に理論がどう変わっていくかを知ることと等しいわけです.図1を見ると明 らかですが,gR が負の場合,g¯(t )は高運動量極限 (即ち高エネルギー極限または短距離極限) でゼロになります.このように高エネルギー極限 t → ∞ で結合定数がゼロになって自由粒 子の理論になるような理論を,漸近的自由な理論といいます. 2. 参考文献 • 私の知る限り,2 次元デルタ関数ポテンシャルの量子力学系における正則化や束縛状態 のエネルギー固有値の計算は,クォーク閉じ込めの文脈で初めて行われました:
C. Thorn, “Quark confinement in the infinite-momentum frame,” Phys. Rev. D19 (1979) 639-651 [INSPIRE].
その後,2 次元デルタ関数ポテンシャルの正則化や繰り込みについては幾つも論文が出 ていますが,次の Roman Jackiw の 1991 年の論文が最も有名です:
R. Jackiw, “Delta function potentials in two-dimensional and three-dimensional quantum mechanics,” in M. A. B. Bég Memorial Volume, A. Ali and P. Hoodb-hoy, eds. World Scientific Publishing, 1991 [INSPIRE]; scanned version avail-able in the KEK library:
http://ccdb5fs.kek.jp/cgi-bin/img_index?200032443. 2 次元デルタ関数ポテンシャルの正則化や繰り込みの数学的に厳密な取り扱いは,2 次 元ラプラシアンの自己共軛拡大 (self-adjoint extension) の話 (簡単に言うと波動関数の 原点での境界条件の話) になるのですが,Jackiw の論文ではそれについても簡単に議論 されています. • Schrödinger 方程式(1.3)はデルタ関数ポテンシャルで 2 体相互作用する 2 粒子系の,相 対座標での Schrödinger 方程式とみなすことも出来ます. 興味深いことに,この事は場 の量子論の結果とも関係しています.次の作用で記述される 2 体相互作用項のみの非
相対論的ボゾン場の量子論 S[ψ,ψ∗] = ∫ d t d2xiψ∗∂tψ − |∇ψ|2− g |ψ|4 (2.1) では 4 点関数Γ(4)が厳密に計算できて,Γ(4) から 2 体の散乱振幅および 2 体の束縛状態 のエネルギーを読み取ると,量子力学で計算した厳密な結果と完全に一致する,という ことが Oren Bergman の 1992 年の論文
O. Bergman, “Nonrelativistic field theoretic scale anomaly,” Phys. Rev. D46 (1992) 5474-5478 [INSPIRE]
で示されています.
• 節1.1.2で使った Lippmann-Schwinger 方程式については,Bernard Lippmann と Julian Schwinger の原論文
B. A. Lippmann and J. Schwinger, “Variational Principles for Scattering Pro-cesses. I,” Phys. Rev. 79 (1950) 469-480 [INSPIRE]
を読むと良いでしょう.量子力学の散乱理論を教科書できちんと学びたい人は Steven Weinberg の教科書 “Lectures on Quantum Mechanics” をお薦めします.
• 節1.2.3で出て来た次元転化の概念は,Sidney Coleman と Erick Weinberg が 1973 年に 発表した Coleman-Weinberg 有効ポテンシャルで有名な論文
S. Coleman and E. Weinberg, “Radiative Corrections as the Origin of Sponta-neous Symmetry Breaking,” Phys. Rev. D7 (1973) 1888-1910 [INSPIRE] で初めて導入されました.この論文は非常に素晴らしいので,一読を薦めます. • 最後に,2 次元デルタ関数ポテンシャルの量子力学系から繰り込み操作の雰囲気を学ぶ
ことは出来ますが,繰り込み群を理解することは出来ません.特にスケーリング則の描 像が欠落しています.繰り込み群を理解したい人は Kenneth G. Wilson の講義録
K. G. Wilson and J. B. Kogut, “The renormalization group and the ε expan-sion,” Phys. Rep. 12 (1974) 75-199 [INSPIRE]
を熟読しましょう. A. Green 関数の計算 束縛状態 Green 関数GB を導出しましょう.GB は次の微分方程式の解です: (−κ2+ ∇2 x)GB(x ,y ;κ) = δ(D )(x − y ). (A.1) Fourier 変換を使うと,解は容易に次の積分で与えられることが分かります: GB(x ,y ;κ) = − ∫ dDp (2π)D ei p·(x −y ) κ2+ p2. (A.2) この積分を計算していきましょう.計算の仕方は色々ありますが,ここでは所謂 Schwinger のパラメータ表示を使って計算して行くことにします. まず次の等式が成り立つことに注意しましょう: 1 κ2+ p2= ∫ ∞ 0 d t e−t (κ2+p2). (A.3)
これを Schwinger のパラメータ表示と言い,非常に有用なテクニックです.t は Schwinger の固有時間と呼ばれます. 式(A.3)を(A.2)に代入して,まず運動量積分を実行していきましょう: GB(x ,y ;κ) = − ∫ dDp (2π)D ∫ ∞ 0 d t e−t (κ2+p2)+i p ·(x −y ) = − ∫ ∞ 0 d t e−t κ2−|x −y |24t ∏D j=1 ∫ ∞ −∞ d pj 2π e −tpj−ix j −yj2t 2 = − 1 (4π)D/2 ∫ ∞ 0 d t tD/2e −t κ2−|x −y |2 4t = − 1 4π κ 2π|x − y | D 2−1∫ ∞ 0 d s sD/2e− κ|x −y | 2 (s+1s). (A.4) 最後の等式で変数変換 s= 2κt /|x − y |を行いました.最後の積分は第二種変形ベッセル関数 の積分表示に他ならないので,束縛状態 Green 関数は GB(x ,y ;κ) = − 1 2π κ 2π|x − y | D 2−1 KD 2−1 κ|x − y | (A.5) で与えられることが分かりました. 幾つか例を上げておきましょう.1 次元,2 次元,3 次元の場合は次の様になります: GB(x ,y ;κ) = − 1 2κe −κ|x −y | forD= 1; − 1 2πK0 κ|x − y | forD= 2; − 1 4π|x − y |e −κ|x −y | forD= 3. (A.6) ここで K1/2(z ) = K−1/2(z ) = Æπ 2ze−z を使いました.