撰歌合
建仁元年八月十五夜
全注解稿
(三)
奥野 陽子
情報科学部 情報システム学科
(2014 年 9 月 30 日受理)
Commentaries on the Works of the
Kennin Gannen Hachigatsu Jugoya
Senka-awase
(Part 3)
by
Yoko OKUNO
Department of Information Systems, Faculty of Information Science
Abstract
Gotoba-no-in established the Wakadokoro and set about compiling the Shin-Kokin Wakashū in full scale. Kennin Gannen Hachigatsu Jūgoya Senka-awase was held at the Wakadokoro shortly after its establishment.
Thirteen works from the contest were later included in the Shin-Kokin Wakashū. This paper interprets each poem in the contest carefully to understand the Shin-Kokin Wakashū and its era.
キーワード;和歌,撰歌合,注釈
Keyword; Tanka,Senka-awase,Commentary
Memoirs of Osaka Institute of Technology Vol.59, No.2(2014) pp.74~98
撰
歌
合
建
仁
元
年八
月
十
五
夜
全
注
解
稿
(三
)
一
本 稿 は 、「 撰 歌 合 建 仁 元 年八 月 十 五 夜 全 注 解稿 ( 二 ) 」( 『 大 阪 工 業 大 学紀 要 人 文社 会 編 』五 八 巻 第 二号 二〇 一 三 年 二 月) に 続い て 、 「撰 歌 合 建 仁 元 年 八月 十 五夜 」 全 五 十 番の う ち 、十 六 番 か ら卅 番 ま で の 注 解を 試 み る。 本 稿の 底 本 とし て は 、 一類 本 の 宮 内庁 書 陵 部蔵 智 仁 親 王筆 本 ( 五一 〇 ・ 五 〇 )を 用 い 、以 下 に 掲 げる 写 本 で校 合 し た 。底 本 は 、実 見 の 上 、写 真版 を 利 用 した 。 書 名の 下 の 記 号は 所 蔵 者 の整 理 番 号で あ る 。 →印 の 下 に 本 稿 での 略 称 を 示す 。 校 異は 、 和 歌 につ い て は すべ て 掲 げる が 、 複 数 の 写本 が 同 じ 本文 で あ る場 合 、用 字 につ い て は先 頭 に 掲 げる も の に従 う 。 和 歌 以 外の 部 分 ( 歌 題・ 作 者名 ・ 難 陳 、 判詞 ) の 校異 に つ い ては 、 私 意 に よ り主 要 な 部分 の み を 記す こ と に する 。目 次 ・集 付 の 校異 は 省 略 する 。 一 類 本 宮 内庁 書 陵 部智 仁 親 王 筆本 ( 底 本 ) 五 ○ 一 ・ 五○ 水 府 明徳 会 彰 考館 本 ( 国 文学 研 究 資料 館 紙 焼 写真 に よ る) 巳 一 二 → 彰 一 肥 前 嶋原 松 平 文 庫本 ( 同 右) → 松 賀茂 別 雷 神 社三 手 泉 亭文 庫 本 ( 同 右) → 三 二 類 本 水 府明 徳 会 彰考 館 本 ( 同右 ) → 彰 二 巳 一 三 国 立 公 文 書 館 内 閣 文 庫 本 ( 同 右 ) 二 ○ 一 ・ 二 一 〇 → 内 情 報 科 学部 情 報 シス テ ム 学科奥野陽子
(二〇一四年 九月三〇 日受理) 宮 城 県 図 書館 伊 達 文庫 本 ( 同 右) 伊 九 一 一・ 八 / 八 → 伊 神 宮 文庫 本 ( 神宮 文 庫 紙 焼写 真 ・ 和 泉書 院 影 印 叢刊 に よる ) 73 九五 六 ― 一 → 神 一 神 宮 文庫 本 ( 神 宮文 庫 紙 焼写 真 に よ る )九 三 一 ―一 → 神 二 篠 山市 立 青 山歴 史 村 本 (国 文 学 研 究資 料 館 紙焼 写 真 に よる ) 三 五 六 → 青 中間 本 宮 内 庁 書 陵部 本 ( 宮内 庁 書 陵 部紙 焼 写 真 によ る ) → 宮 一 五 〇一 ・ 五 八 宮 内 庁 書 陵 部本 ― 鷹 司本 ( 同 右 )二 六 六 → 宮 二 宮 内 庁書 陵 部 本 (同 右 ) 一五 一 ・ 三 六一 → 宮 三 兵庫 県 立 篠 山鳳 鳴 高 等 学校 青 山 文 庫本 ( 国 文学 研 究 資 料館 紙 焼 写 真に よ る )九 一 一 、 二五 一 ― 一 → 鳳 島 根 大 学 附 属 図 書 館 桑 原 文 庫 本 ( 同 右 ) 九 一 一 、 一四 七 ・一 五 四 → 桑 高 岡 市 立 中 央 図 書 館 本 ( 同 右 ) 九 一 一 、 一 、 八 → 高 名 古 屋 大 学 付属 図 書館 神 宮 皇 學 館文 庫 本 (同 右 ) 九 一 一、 一 八 ― Se → 名 本 文 の 校訂 は 、 底 本が 明 ら かに 誤 写 ・ 誤脱 し た と認 め ら れ るも の に 限 り、 そ の 旨 を校 異 の 欄に 示 す 。 本 文 は 、読 解 の 便 宜上 、 次 の よう に 処 置 した 。 ・用 字 は 通 行 字体 に 改 めた 。 ・ 仮 名 遣い は 底 本 のま ま と し、 歴 史 的 仮名 遣 い と 異な る 場 合に は 、 歴 史的 仮 名遣 い を ( ) に 入 れて 傍 記 し た。 ・私 意 によ り 清 濁 を 区別 し 、 句読 点 ・ 「 」等 を 付 し た。 ・ 仮 名に は 、 適宜 漢 字 を 宛て た が 、 底本 の 仮 名表 記 を 振 り仮 名 と して 残 し た。 ・ 反 復 記号 は 底 本の ま ま と した 。 但 し、 品 詞 の 変わ る 場 合と 、 漢 字 を宛 て る こと で 送り 仮 名 と な った 場 合 は仮 名 に 改 め、 記 号 は振 り 仮 名 とし て 残 し た 。 ・ 難 読 漢 字 そ の 他 に は 、 ( ) 内 に 読 み を 記 し 、 漢 文 体 の 箇 所 に は 訓 点 を 施 し た 。 ・ 底 本の 改 行 とは 無 関 係 に、 難 陳 と 判詞 の 箇 所で 改 行 し た。 ま た 、一 行 空き に す る など 、 割 付 を多 少 変 更 した 箇 所 があ る 。 ・ 和 歌 には 、 新編 国 歌 大 観 番号 を 付 した 。 注 釈は 、 校 異・ 他 出 ・通 釈 ・ 本 歌・ 語 釈 の順 に 掲 出 し た 。 語 釈欄 に は 、 用 例 を 出来 る だ け挙 げ て 、 その 語 句 の 和歌 史 に お ける 用 法 を抑 え た う え で 、当 該 歌 に おけ る 詞 続き や 修 辞 など か ら 生じ る 意 味 につ い て も解 説 し た 。 さ らに 必 要 に 応じ て 補 説の 項 目 を 付し た 。 引 用 は 、 和 歌 ・漢 詩 ・ 歌 合等 は 新 編国 歌 大 観 、 歌 学 書は 日 本 歌学 大 系 、 伊勢 物 語 等の 物 語 類 は新 編 小 学館 日 本 古 典文 学 全 集に 拠 る 。 但 し、 私 意 に よ り 表記 を 改め た 場 合 が ある 。 ま た、 次 の 略称 を 用 い た。 ・ 新 大 系 … … 田 中 裕 ・ 赤 瀬 信 吾 校 注 『 新 古 今 和 歌 集 』 ( 新 日 本 古 典 文 学 大 系 一 九 九 二年 一 月 岩 波 書 店 ) ・ 全 注 釈 … … 久 保 田 淳 『 新 古 今 和 歌 集 全 注 釈 』 ( 日 本 古 典 叢 書 二 評釈 全注 釈 〇 一一 年 一 〇 月 ~二 〇 一二 年 三 月 角川 学 芸 出版 ) ・ 訳 注 定 家 … … 久 保 田 淳 『 訳 注 藤 原 定 家 全 歌 集 』 ( 一 九 八 五 年 三 月 ・ 一 九 八 六年 六 月 河出 書 房 新社 )
二
十 六 番 左 海 辺 秋 月 右 月 下 擣 衣 左 勝 俊 成 卿 女 波の 上 は 千里 の ほ か に雲 消 て 月 影 か よ ふ 秋の 潮 風 うへ ち さ と かげ しほか ぜ 31 右 讃 岐 菅 原や 伏 見の 里 も 秋 の 夜は 月 に おき ゐ て 衣 打つ な り すが ふ し み う 32 又 以 左 為 勝 。 テ レ ヲ レ ト 【校 異 】 ○ 伊、 神 一 本は 十 六 番 ナシ ○ ち さと の ほ かに ―ち さ と の ほか も ( 彰 二) ち さ との ほ か も( 内 ) ○ 番 の 作 者を 、 彰 二・ 内 本 は 有 にイ 32 家 とす る ○ ふ しみ の 里 も ― ふし み の さ との ( 彰 二・ 内 ・ 神 二・ 青 ・ 宮 一 ・ 宮 二・ 宮 三 ・ 鳳 ・桑 ・ 名) ○ 又 以 左 為 勝 ― 底 本 に 「 ―本 無 し 雅康 卿 筆 に て入 之 」 と書 き 入 れ あり 他 本 はす べ て 「又 以 左 為 勝 」。 【通 釈 】 十六 番 左 海 辺 の 秋の 月 右 月 の下 に 衣 を 擣つ 左 勝 俊 成卿 女 海 の 波 の 上は 、 遠く は る か 彼 方に 雲 は 消え て 、 月 光の 上 を 通っ て く 31 る 秋 の潮 風 で ある よ 。 右 讃岐 伏 し て見 る と い う名 を 持 つ菅 原 の 伏 見の 里 で あっ て も 、 さす が に 秋 32 の夜 は 、 美 しく 明 る い月 の た め に 起き て いて 衣 を 打 つ 音が す る よ。 左 歌 を もっ て 勝と す る 。 【 語 釈 】○ 海 辺 秋 月 初 出 の 題 。「 海 辺 月 」( 千 載 集・ 和 歌 一字 抄 ・ 顕 輔 集 ・ 歌 仙 落 書 ・ 治 承 三 十 六 人 歌 合 ・ 源 三 位 頼 政 集 ・ 師 光 集 ・ 山 家 集 )、 「 海 辺 夏 月 」( 風 情 集 ・ 山家 集 ・ 鳥羽 殿 影 供 歌 合 ) 、「海 辺 明 月 」( 山 家 集 ) 、 「 海辺 夕 月 」( 慈鎮 和 尚 自歌 合 ) 、「 海辺 冬 月 」( 寂蓮 集 ) がす で に み られ る。 ○ 月 下 擣 衣 十 三 番 参 照 。 ○ 千 里の ほ か は るか 彼 方 の意 。 ふ す 床 をて ら す 月 にや た ぐ へけ ん 千 里 の 外を 分 くる 心 は ( 拾 遺愚 草 四 二 初 学 百 首) 我 が 心 お く ら ざ り せ ば 秋 の 月 ち さ と の 外 に 独 ゆ か ま し ( 「 俊 成 卿 十 首 歌 中、 月 」 林 葉 集 四 六二 ) 月 を み て 千 里 の 外 を お も ふ に も 心 ぞ か よ ふ 白 川 の 関 ( 「関 」 俊 成 五 社百 首 伊 勢 大 神宮 百 首 和歌 八 九 文治 六 年 ) など が 早い 例 で あ る 。こ の 詞 は、 漢 詩 の 「千 里 外 」を 歌 語 と した も の で あ ろ う。 三 五夜 中 新 月色 二 千 里外 故 人 心 ( 白 楽天 和 漢朗 詠 集 秋 二 四 二 ) 一 、 二 句は 水 平 線の 彼 方 ま で広 が る 海を イ メ ー ジさ せ る 。 ○ 雲 消 て 隈 なき 月 影 を登 場 さ せ る ため の 前提 に な る 常 套句 。 よ も す が ら 富 士 の 高 嶺 に 雲 消 え て 清 見 が 関 に す め る 月 か な ( 「家 に 歌 、 、 、 、 、 、 合 し侍 り け る によ め る 」左 京 大 夫 顕輔 詞 花 集 雑 上 三 〇 三 ) 嵐 吹 く 有 明 の 空 に 雲 消 え て 月 す み の ぼ る 高 円 の 山 ( 「 月 」 長 明 集 三 、 、 、 、 、 、 三 ) 一、 二 句 に続 く こ の 句に よ っ て、 見 渡 す 限 り遥 か に広 が る 海 の 、水 平 線 に 続 く 大 空 も が 暗 示 さ れ る 。 こ の 句 に よ っ て 、 「 月 」 と い う 詞 も な く 暗 い夜 の 海 が 、下 句 の 月光 満 ち る 海 に 一 転 す る。 効 果 的な 措 辞 。 ○ 月 影 か よ ふ秋 の 潮 風 「 月 影 か よふ 」 が 秀句 で 唯 一 例。 上 句 から 「 月 影 」 と 続 く と 、 波 の 上 一 面 に 月 光 の 美 し く 煌 め く 風 景 が 浮 か ぶ 。「 か よ ふ 」 の 主体 は 「 潮 風」 で あ るか ら 「 月 影( を ) 通 ふ」 の 意 。 月影 の 映 じ る 金 波銀 波 の 上を 風 が 通 うこ と を 、 直接 に 月 影を 通 う と 感覚 的 に 表現 し た 。 「 潮 風 」 は 通 常 、 「 波 の 上 」 を 恣 に 通 う の だ が 、 「 秋 の 」 潮 風 は 「 月 影 」 を 通う の だな あ 、 と い うの で あ る。 ○ 菅 原や 伏 見 の里 歌枕 「 伏 見 」は 、 山 城 国、 大 和 国 の 両 方 に ある が 、 「 菅 原 や伏 見 」 と詠 ま れ る のは 、 大 和の 方 で 、 現 在の 奈 良市 菅 原 町 に あ たる 。 い ざ こ こ にわ が 世 はへ な む 菅 原 や伏 見 の 里の あ れ ま くも を し (よ み 人 し らず 古 今 集 雑 下 九 八 一 ) 「伏 見 」 に「 伏 す 」 の意 を 響 かせ て 詠 ま れる こ と が多 い 。 恋 し きを な ぐ さ め かね て 菅原 や 伏 見 に きて も ね られ ざ り け り( 重 之 、 、、 、 、 、 、 拾 遺集 恋 五 九 三 八 ) わ す る なよ よ よ の 契を 菅 原 や伏 見 の 里 の 有明 の 空( 皇 太 后 宮 大夫 俊 成 千 載集 恋 三 八 三 九 ) 番 歌 は 、 同様 に 「 伏す 」 の 意 を掛 け た 「 伏見 の 里 」と 、 第 四 句「 お き 32 ゐ て 」 と の対 照 か ら 発想 さ れ てい る 。「 伏 見の 里 も 」 の 「 も 」 は 、「 伏 す 」 とい う 名を 持 つ 「 伏 見の 里 」 であ っ て も 、の 意 で ある 。 「 擣衣 」 は 、 六朝 の 漢 詩以 来 の 題 で 、李 白 「子 夜 呉 歌 」 がよ く 知ら れ て いる よ うに 、 夫 の 帰 りを 寂 し く待 つ 妻 の 秋の 夜 の 仕業 と し て 詠ま れ る こ と が 多 い 。 右 の 古 今 集 「 い ざ こ こ に 」 歌 が そ う で あ る よ う に 、 「 伏 見 の 里」 は 「 荒る 」 こ と との 縁 で 詠ま れ る の で 、古 郷 と して 「 擣 衣 」と の 連 想 が あ り 、「 伏 見 の里 」 の 「擣 衣 」 を 詠む 歌 も ある 。 秋 の 夜を ね ざめ て き け ば 菅原 や 伏 見の 里 に 衣 うつ な り (拾 玉 集 二四 一 文 治 三, 四 年 か) か り もこ ば ま てと ち ぎ り を菅 原 や 伏見 の 床 に 衣 うつ な り( 通 具 朝 臣 千 五 百 番 歌合 秋 三 一 三 七 一 ) 「 伏 見の 里 」 の場 所 と し ての 必 然 性 はこ こ に もあ る 。 ○ 秋の 夜 は 月 にお き ゐ て 衣打 つ な り ここ に 「 月 下擣 衣 」 題 を詠 み 込 ん で い る 。 「 月 に 起 き ゐ て 」 は 月 の 明 る さ 、 美 し さ に 寝 な い で 起 き て す わ って 、 の 意 。冬 支 度 のた め に 、 砧 で 衣 を 打 つ、 寂 し い女 性 の 夜 なべ 仕 事 で あ る 。「 な り 」 は 音 が 聞こ え る 意を 表 す 伝 聞 推定 の 助 動詞 。「 秋 の 夜 は 」 は 、月 の 美 し い秋 の 夜 を取 り 上 げ て、 他 の 季節 の 夜 は 伏見 の 里 だか ら 伏 、 し て い る と し て も 、 と い う こ と を 暗 示 す る 。 「 月 に お き ゐ て 」 の 措 辞 か ら は 、秋 の 夜 の、 男 を 思 慕す る 女 の 心情 は や や後 退 し て 、月 の 美 しさ が 前面 に 感 じら れ る 。 【 補 説 】左 勝 の理 由 は 判 詞 にな い が 、 番 歌 が 「伏 見 の 里」 の 名 を はじ 32 めと す る 歌 枕と し て のイ メ ー ジ にひ と え に 頼っ て 発 想さ れ て い るの に 対 し て 、 左 の 番 歌 は 、 上 下 句 の 転 換 も 鮮 や か で あ り 、 「 月 影 か よ ふ 」 の 31 感覚 的 表 現 も 珍し く 、 勝負 は 納 得 のゆ く も ので あ る と 思わ れ る 。 十七 番 題同 左 勝 越 前 紀 の国 や 秋 さへ 霜 を お きつ 風 吹 あ げ の月 の 有 明 の 空 き くに (ふき) 33 右 公 景 か りに 来 ん 人 のた め と や照 る 月 に 衣打 つ ら ん 深草 の 里 こ て う ふか さと 34 「 吹 上 の 月 」、 な ず ら へな ら ず お か し く 聞ゆ と て 、 又勝 と す 。 (を ) きこ 【 校異 】 ○ き のく に や ― 紀 のう み や ( 彰二 ・ 内 ・ 伊・ 神 一 ・神 二 ・ 青 ) ○ 秋さ へ 霜 を ―秋 さ へ 露 を( 伊 ・ 神一 ・ 神 二 ・ 青 ・ 鳳 ) ○ 吹あ け の
月 の ― 吹上 の 月 ○ 有 明の 空 ― 在 明 の雲 ( 三) ○ て る 月に ― てる 月 の (彰 二 ・内 ・ 伊 ・ 神 一・ 神 二 ・青 ) ○ 吹上 の 月 ―あ り 明 の月 ( 彰 二 ・内 ・ 神 一・ 神 二 ・青 ) ○ な す らへ な ら す ― な そら へ な ら す( 彰 二 ・内 ・ 神一 ・ 神 二・ 青 ・ 名 ) な ら ひな ら す ( 宮 一・ 宮 二 ・桑 ) な らひ な く ( 鳳 ) ○ 又 勝 と す ― 又 為 勝( 彰 二 ・内 ・ 伊 ・ 神一 ・ 神 二・ 青 ・ 宮 一・ 鳳・ 宮 二 ・ 桑・ 宮 三 ) 又 左 為 勝( 名 ) 【 他 出 】 新 続 古 今 集 雑 上 一 七 五 四 ( 「 建 仁 元 年 八 月 十 五 夜 歌 合 33 に 、海 辺 秋 月 」嘉 陽 門 院越 前 )・ 題林 愚 抄 四一 六 一 【 通 釈 】十 七 番 題 、同 じ ( 左 「海 辺 の 秋 の月 」、 右 「月 の 下 に 衣を 擣 つ 」) 左 勝 越前 紀 の 国 よ 、( 月 光 が霜 を 置 いて い る う えに ) 秋 さ えも 霜 を 置く 。 沖 33 か らの 風 に 。そ の 沖 つ 風の 吹 い て 吹き 上 げ る 吹上 の 浜 の有 明 の 月 が 在 る ― 有 明 の夜 明 け 前の 時 分 の 空よ 。 右 公 景 狩 と い っ てか り そ めに 来 る で あ ろう 人 のた め に と て 、照 る 月 に衣 を 34 打 っ てい る の で あろ う か 。深 草 の 里 よ。 ( 左 の ) 「 吹 上 の 月 」 が 、 ( ど の 歌 も ) こ れ に 匹 敵 す る こ と が で き な い ほ ど 趣 深 く 聞 こ え る と い う こ と で 、 又 ( 左 を ) 勝 と す る。 【 本 説 】 む かし 、 男 あ りけ り 。 深草 に 住 み け る女 を 、や う や う 飽 き 34 がた に や 思 ひ けむ 、 か かる 歌 を よ みけ り 。 年 を へ て すみ こ し 里を い で て い なば い と ど深 草 野 と やな り な む 女 、返 し 、 野と な ら ば うづ ら と なり て 鳴 き をら む か りに だ に や は 君は 来 ざら む ( 伊 勢物 語 第 百 二十 三 段 二 〇 六 ・ 二〇 七 ) 【 語 釈 】○ 題 同 左 「 海 辺秋 月 」。 十 六 番参 照 。 右 「 月 下 擣 衣 」。 十 三 番 参照 。 ○ 紀 の 国 や 紀 伊 国 。現 在 の 和 歌山 県 全 域 と三 重 県 南部 の 一 部 を指 す 。 こ こで は 、 吹 上浜 に 掛 かる 大 地 名 で あり 、 直後 に 小 地 名 が来 る のが 普 通 であ る 。 紀 の 国 や し ら ら の 浜 に 降 る 雪 の 消 ゆ と も ゆ き の と ど め お か な ん ( 「 海 、 、 、 、 、 辺雪 」 備 後守 為 経 為忠 家 後 度 百首 四 八五 ) 月 ぞ す む た れ か は こ こ に き の 国 や 吹 上 の 千 鳥 ひ と り 鳴 く な り ( 「 五 十 、 、 首 歌た て まつ り し 時 」 摂政 太 政 大臣 ( 良 経 ) 新 古 今集 冬 六四 七 ) しか し 、 番歌 で は 、小 地 名 「 吹上 」 は 第 四句 に あ り 、離 れ て いる 。 そ 33 の た め に、 初 句 切 れの 感 が 生じ る 。 二 類本 で は 「 紀の 海 や 」の 本 文 で あ る が 、 海 に 限 定 し て 霜 が 置 く と す る の は 不 適 切 な の で 、 「 紀 の 国 や 」 の 本 文 で よい だ ろ う 。 ○ 秋 さ へ霜 を お き つ風 「 さ へ」 は 添 加 であ る 。 すで に 霜 が 置い て い る 上に 秋 が 霜を 置 く 、 とい う の であ る 。 す で に置 い てい る 霜 は 、 月の 光 で あ る 。 月を 霜 に見 立 て る こ とは 常 套 で 、「 月 の 霜 」( 後 撰 集 二 一四 ) と いう 語 も あ る 。「 沖津 風 」 に「 置 く 」 を言 い 掛 けて い る 。「 おき つ 風 」は 沖 か ら 吹い て く る風 。 風 の 激し さ を 感 じさ せ る 。 ○ 吹 あ げの 月 の 有明 の 空 三 句「 お き つ 風」 は 四 句の 地 名 「 吹あ げ 」 に 対 し て 「吹 き 上 げ 」の 意 で 掛か っ て ゆ くか 。 風 が 月を 吹 き 上 げる と 詠 む 例 は 、後 の 歌 であ る が 、 秋風 に 波 よ り出 で て 澄む 月 を 雲 な き空 に 吹上 の 浜 ( 壬二 集 二五 〇 一 ) な ど と あ る 。 「 吹 上 」 は 「 吹 上 の 浜 」 で 、 紀 伊 国 歌 枕 。 現 在 の 和 歌 山 市 紀ノ 川 河 口 左岸 の 湊 から 雑 賀 に かけ て の 海 岸で あ る 。有 明 は 、 夜が 明 け か か っ て も 月 が 空 に 残 っ て い る 時 分 な い し そ の 月 自 体 を い う 詞 で あ る が、 こ こ で は 前者 で あ る 。「有 明 」 に は 「在 り 」 が掛 け ら れ てい る 。 ○ か り に 来 ん人 の た めと や 『 伊 勢 物 語』 百 二 十 三段 を 本 説 とし 、 深 草 の 女の 歌 を 本 歌と し て いる 。 本 歌 同 様 、「 か り 」 に 狩 りー 仮 り を 掛け る 。 三句 以 下 のこ と は 、 狩り と い って 仮 そ め に来 る 人 のた め に と のこ と な の だ ろ うか 、 の 意。 ○ 照 る月 に 衣 打つ ら ん 照 って い る 月光 の も と で衣 を 打 って い る の は、 一 、 二 句 の よ う な 理 由 か ら で あ ろ う か 、 と い う の で あ る 。 「 ら ん 」 は 原 因推 究 の 意 。 ○ 深 草 の 里 深 草 は 山 城 国 歌 枕 で 、 現 在 の 京 都 市 伏 見 区 深 草 。 『 伊 勢 物 語 』百 二 十 三 段の 舞 台 。俊 成 の 自 讃 歌 夕さ れ ば 野 辺の 秋 風 身に し み て 鶉鳴 く な り深 草 の 里 (千 載 集 秋 上
二 五九 ) によ っ て 、『伊勢 物 語 』 との 結 びつ き が 決 定 的と な っ た 。 番歌 で は 、「 月 34 下 擣 衣」 の 舞 台を こ こ に 設定 し て 、 女が 砧 を 打つ 理 由 は 『伊 勢 物 語』 の 狩に 来 る 男を 待 っ て のこ と か 、と 想 像 し た もの で あ る。 【 補 説 】「 吹 あ げの 月 」 は「 な ず ら へな ら ず お かし 」 と され た 。「 吹 上 」 とい う 歌 枕 と月 と の 組み 合 わ せ は、 紀 の 国 の 吹 上 の 浜 に 照 る 月 は さ わ ぐ ま さ ご の 数 を み よ と や ( 「人 の 歌 、 合 せん と て こ ひけ れ ば 」散 木 集 五〇 一 ) が 早 い 例 で あ り 、 「 紀 の 国 や 」 の 項 で 挙 げ た 「 月 ぞ す む 」 歌 の よ う に 千 鳥 が 登 場 す る 歌 も 詠 じ ら れ て い た 。 番 歌 は 、 掛 詞 を 駆 使 し つ つ 、「 吹 34 上の 浜 」 とい う 歌 枕 の重 要 な 要素 で あ る 「 強風 」 を月 に ま で 及 ぼし 、 そ の 月 の 美し さ も月 光 を 霜 に たと え る こと で 強 調 し、 か つ 季節 の 秋 の 実際 の霜 の 荒 涼 も加 え る とい う 巧 妙 な 手 法 を 駆 使し て い る点 を 、 認 めら れ た の で あ ろう 。 十 八 番 題 同 左 勝 宮内 卿 新 古 心 ある 雄 島 の海 士 の 袂 か な 月 やど れ と は 濡れ ぬ も のか ら を じ ま あ ま たもと ぬ 35 右 内大 臣 君 ゆ へ に 怨む る 槌 の音 は し て い かな る 里 の月 を 見 る らん (ゑ) うら つち をと み 36 「 月 や ど れと は 濡 れぬ も の か ら 」、 又 か ぎり な く お か し と て、 ぬ (を ) 勝 と す。 【校 異 】 ○高 本 、 乱 丁の た め 、 番 歌 の 下句 は 廿 九番 左 歌 上 句に 続 く 35 ○ 君 ゆ へに ― 野 辺行 に ( 彰 二・ 内 ・ 伊・ 神 一 ) 野へ 行 と (神 二 ) 野 へ行 か と ( 青) ○ うら む る つ ちの ―う つ な る つち の ( 彰二 ・ 内 ・ 伊 ・ 神 一 ・ 神二 ・ 青 ) ○ 又 か き りな く ― 限 り なく ( 名 ) 【 他 出 】 新 古 今 集 秋 上 三 九 九 ( 「 八 月 十 五 夜 和 歌 所 歌 合 に 、 海 35 辺 秋 月 とい ふ こ と を 」 )・ 自 讃 歌 八 四 ・ 定家 八 代 抄 一 六 七 三・ 続 歌 仙 落 書 一 〇 九 ・新 三 十 六人 撰 二 二 四・ 歌 枕名 寄 七 二 五五 ・ 題林 愚 抄 四一 五 八 【 通釈 】 十 八番 題 、 同じ (左 「 海 辺の 秋 の 月 」、右 「 月の 下 に 衣 を 擣つ 」) 左 勝 宮 内 卿 新 古 情 趣 を 解す る 雄 島の 海 士 の 袂で あ る な あ。 海 士 は袂 に 月 が 映っ て 宿 35 る よ うに と 潮に 濡 れ て い るわ け で はな い の に 。 右 内大 臣 ( 通親 ) 相 手の 訪 れ ぬ ゆえ に 怨 みに 思 う 気 持ち を 伝 え る砧 の 槌 の音 は し て 、 36 い っ た い ど のよ う な 里で 月 を 見 てい る の だろ う か 。 「 月 や ど れ と は 濡 れ ぬ も の か ら 」 が 、 又 こ の 上 な く 趣 が あ る と ぬ いう こ と で、 勝 と す る。 【語 釈 】 ○ 題 同 左 「海 辺 秋 月 」。 十六 番 参 照。 右 「 月下 擣 衣 」。 十三 番 参 照 。 ○ 心 あ る 情 趣を 解 す る 、の 意 。 次 の能 因 歌 が参 考 に な る。 こ こ では 袂 を 擬 人 化し て い る 。 心 あ ら む 人 に み せ ば や 津 の 国 の 難 波 わ た り の 春 の け し き を ( 「 正 月 ば かり に 津 の国 に は べ りけ る こ ろ 、 人 の も とに い ひ つ かは し け る 」能 因 法 師 後 拾 遺 集 春 上 四三 ) ○ 雄 島の 海 士 の袂 か な 雄 島は 陸 奥 国歌 枕 。 松 島湾 の 島 の 一 つ で 、 松 島 や 雄島 の 磯 に あさ り せ し 海士 の 袖 こ そか く は ぬれ し か ( 源重 之 後 拾遺 集 恋 四 八 二 七) 以 来 、 海士 や そ の 袖が 濡 れ てい る こ と を詠 ま れ る こと は 多 い。 海 士 は 賤 し い身 の 上 で ある か ら 、「 心な き 海 士 」 と詠 ま れる 例 も あ る 。 心な き あ ま のし わ ざ のも し ほ 草 法 の ひ か りに か き も す てな ん (隆 祐 集 二 六 八) 里 わか ぬ な さけ は 月 の なら ひ に て 心な き あ まの 袖 に す むら ん ( 保季 卿 相 侍 臣歌 合 建 永元 年 七 月 三 六 ) 番 歌 は 、 「 心 な き 」 海 士 の 着 衣 で あ り な が ら 、 そ の 袂 は 「 心 あ る 」 も 35 の だ と 感 嘆 し て い る の で あ る 。 「 袂 」 と 「 袖 」 は ほ ぼ 同 義 に 用 い ら れ た ( 「似 物 」( 和歌 初 学 抄 ) 、「 同じ 事 」( 古今 集 註 ) )。 ○ 月や ど れ と は濡 れ ぬ もの か ら 「月 宿 る 」と い う の は、 月 が 濡れ た 袂
に 映っ て い る 様子 で あ る。 袂 が 濡 れ たの は 海士 の 生 活 の 営み の せい で あ って 、 月が そ こ に 宿 れと 思 っ て濡 れ て い るの で は ない の に 、 とい う の で あ る 。次 の よ うに 、 恋 や 郷愁 の 涙 に 濡れ た 袖 に月 が 宿 る 、と い う 発想 の 歌が 多 い 。 あ ひ に あひ て 物 思 ふこ ろ の わが 袖 に や どる 月 さ へぬ る る か ほ なる ( 伊 勢 古 今 集 恋 五 七 五六 ) か り 衣 袖 の 涙 に 宿 る 夜 は 月 も 旅 ね の こ こ ち こ そ す れ ( 「百 首 歌 め し け る 時、 旅 歌 と てよ ま せ 給う け る 」 崇徳 院 千 載集 羈 旅 五 〇 九 ) 心 な き 者の 袂 で あ り 、濡 れ た原 因 も 涙 で はな い 、 その 袂 に 月 影が 宿 っ て い る 趣き 深 い 情景 を 、 袂 の心 あ る 仕 業だ と す ると い う 趣 向で あ る 。 ○ 君ゆ へ に 怨 むる 槌 の 音 はし て 砧を 打 つ 槌の 音 が 聞 こ える の を、 閨 怨 の 音 と 聞き 、 そ の 怨 む相 手 を 「君 」 と 表 現 して い ると 見 る 。 下 句 で 、「 い かな る 里 の 」 と疑 問 を 呈 して い る と ころ か ら は 、 特定 の 人 物 を指 す 「 君 」 と い う 措辞 は 、 不適 切 の 感 があ る 。 二 類本 の 「 野 辺行 く に 」の 異 文 も 、 そ の よ う な と こ ろ か ら 出 た も の か と 推 量 す る 。 「 君 」 を 通 釈 の よ う に 解 し た の はそ の た め であ る 。 ○ い か なる 里 の 月 を見 る ら ん ど の よう な 里 人 がこ の 月 を見 て い る のだ ろう か 、 の意 。 ど こ から か 聞 こえ る 砧 の 音の 、 衣 を打 っ て い る 里の 女 が こ の 月 を見 て いる と し 、 そ れは ど の よう な 里 で あろ う か 、と 思 い や って いる の で あ る。 十 九 番 海 辺 秋 月 左 持 釈 阿 たと へ て もい は ん か たな し 明 石 潟秋 の 最 中の 浪 の う への 月 あ か し が た 37 右 小 侍 従 お きつ 風 吹 飯の 浦 に 寄 る波 の よ ると も み え ず秋 の 夜 の月 ふ け ゐ よ なみ 38
又〳
〵可
為
持
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者申
之
。 シ レ レ ト ス レ ヲ 【校 異 】 ○ 右持 ―左 持 と 校 訂 左 持 (内 ・ 伊 ・ 神一 ・ 宮 一・ 鳳 ・ 宮 二 ・ 桑 ・ 宮三 ・ 三 ・高 ) 左 勝( 神 二 ・ 青) ○ あ か しか た ― 何 はか た ( 神 二・ 青 ) ○ 秋の 最 中 の ― 秋の な か はの ( 彰 二 ) 秋 の なか は の ( 内) も な か イ ○ 又〳
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可 為 持 判 者 申 之 ― 底 本 、 こ の 後 に 「 本 無 之 。 雅 康 卿 筆 ニ テ 入 之 」 と 書 き 入 れ あ り た ま〳
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持 た る 之 由 判 者 申 之 ( 彰 二 ・ 内 ) た ま〳
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為 持 之 由 判 者 申 ( 伊 ・ 神 一 ) た ま〳
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為 勝 の よ し 判 者 と 定 ( 神 二 ) た ま〳
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為 勝 の よ し 判 者 と て ( 青 ) 適 為 持 之 由 判 者 申 之 ( 宮 一 ・ 桑 ) 適 為 持 之 由 判 令 申 之 ( 鳳 ・ 宮 二 ・ 宮 三 ) た ま〳
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可 為 持 判 者 申之 ( 高 ) 【 他 出 】 新 勅 撰 集 秋 上 二 六 九 ( 「 和 歌 所 歌 合 に 、 海 辺 秋 月 と い 38 へる 心 を よみ 侍 り け る 」 )・題 林 愚 抄 四 一 六〇 【 通 釈】 十 九 番 海 辺 の 秋 の月 左 持 釈 阿( 俊 成 ) ( そ の 美し さ を )何 か に た と えて 言 お うに も た と えよ う も ない 。 明 37 石 潟 の秋 の 真 ん中 、 八 月 十五 夜 の 波の 上 に 映 る月 は 。 右 小侍 従 沖 から 吹 い て く る風 が 吹く 吹 飯 の 浦 に寄 せ る 波が 岸 に 寄 るが 、 寄 る 38 とも 見 え な いし 、 そ の明 る さ は 夜 と も 思 えな い 、 秋 の 夜の 月 よ。 又 こ れも 、 引 き 分 けが よ か ろう 、 と 判 者が 申 し ます 。 【 本 歌 】 水の 面 に 照 る月 浪 を か ぞふ れ ば 今宵 ぞ 秋 の 最中 な り ける ( 「 屏 37 風 に 、 八月 十 五 夜池 あ る 家 に人 あ そ びし た る 所 」源 順 拾遺 集 秋 一 七 一 ・ 和 漢 朗 詠 集 秋 二 五 一 ( 「十 五 夜 」 ) ・ 前 十 五 番 歌 合 二 六 ・ 俊 成 三 十 六人 歌 合 七七 ・ 時 代不 同 歌 合 二 〇 一 ・ 三十 人 撰 八 六 ・ 三 十 六 人撰 一 〇 四・ 深 窓 秘抄 四 五 ・ 童蒙 抄 一 四 七 ・ 古 来風 体 抄 三 五 九・ 和 漢兼 作 集 七 一九 ) 【語 釈 】 ○ 海 辺秋 月 十 六番 参 照 。 ○ た と へ ても い は ん かた な し 何 に も たと え よ う がな い 、 の意 。 似 る も のも な く 、 言い 表 し よう が な い 、 と 美 し さ を表 現 す る 。こ の 句 はす で に た と へ て もい は む かた な し 月 かげ に う す 雲か け て ふれ る し ら 雪( 仁 和 寺 後入 道 法 親 王覚 性 千載 集 冬 四 五 〇 ) に 用 例 があ り 、 俊 成 はほ か に二 度 ま で も この 表 現 を使 用 し て いる 。 た と へて も い ふ かた も な き玉 津 島 千 鳥な く な る 有明 の 空 (三 百 六 十 番 歌合 冬 五 二 六 )た と へて も い はむ か た な し山 桜 か す みに か を る 春の 曙 ( 千五 百 番 歌 合 春二 二 九四 ) ○ 明 石 潟 明 石 は播 磨 国 歌 枕。 明 石 潟は 現 在 の 兵 庫県 明 石市 あ た り の 海 岸 。 「 月 」 と と も に 詠 ま れ る 例 は 多 数 見 ら れ 、 明 る い の 意 の 「 明 か し 」 と 掛 け て用 い ら れる 例 も 多 い。 月 影 の 明 石 の 浦 にな が め つ つた ひ な が せる は 我 にや あ る ら ん( 延 喜 明かし― 明石 御 集 一 六) 秋 の 夜の 月 を みつ つ や い にし へ の 人も 明 石 の 浦 と い ひけ ん ( 木工 頭 明かし―明 石 播 磨 守 兼房 朝 臣 歌 合 四 ) お ぼ つ か な 都 の 空 や い か な ら む こ よ ひ 明 石 の 月 を み る に も ( 「 播 磨 明かし―明石 の明 石 と いふ と こ ろ に 潮湯 浴 に まか り て 月 のあ か か りけ る 夜 、 中宮 、 、 、 、 、 、、 、 、 の 台 盤 所に た て まつ り は べ りけ る 」 中 納言 資 綱 後 拾 遺 集 羈 旅 五 二三 ) 月 影 の 明 石 の浦 を こ ぎ 行け ば 千 鳥 し ば な く あけ ぬ こ の夜 は ( 「 千 鳥 」 明か し―明石 匡 房 堀 河 百 首 九 七 八) そ の よ うな 例 の 堆 積の 上 に 、 月 の 名 所 と して の 明 石潟 が 確 か にな り 、「 明 石 潟 」 と の 地 名 だ け で 、 「 明 か し 」 の 意 が 響 く こ と に な る 。 番 歌 は そ 37 のよ う な 明石 潟 で あ る。 ○ 秋 の 最 中の 浪 の う への 月 月 次 を 数え て 仲 秋 の八 月 の 十五 夜 今 宵 、明 石 潟 の 浪 の 上 に 映 る 月 、 の 意 。 本 歌 に 拠 る 。 「 秋 の 最 中 」 は こ の 歌 合 の 開 催 当 夜 で あ る 。 本 歌 の 「 秋 の 最 中 の 」「 水 の 面 に 照 る 月 」 を 具 体 的 に 「明 石 潟 」 の もの と 場 所を 極 め て いる 。 ○ お き つ 風 吹飯 の 浦 に寄 る 波 の 沖 か ら 吹 く風 が 吹 く、 と 地 名 「吹 飯 」 に 言 い 掛 け て い る 。 「 吹 飯 の 浦 」 は 和 泉 国 歌 枕 。 本 来 は 大 阪 府 泉 南 郡 岬 町深 日 の 入江 で あ る が、 平 安 時代 に な っ て地 理 的 に近 い 吹 上 浜と 混 同 さ ふ け れ た 例 が あ る 。 万 葉 集 か ら 「 時 風 吹 飯 之 浜 」 と 「 吹 く 」 を 掛 け る 類 ときつかぜ ふ け ゐ の は ま 型が 始 ま っ てい る 。「お き つ 風 吹飯 」 の 例も 少 な く はな い 。 沖 つ 風 吹飯 の 浦 に 立つ 波 の なご り に さ へ や我 は 沈ま む ( 伊 勢 集 三 四 八 ) 奥 つ 風 ふ け 井 の う ら の け は し さ に な ご ろ と と も に 千 鳥 た つ な り ( 「吹 飯 の浦 の 千 鳥 を 」散 木 奇歌 集 六 一 八) 月清 み 千 鳥 鳴く な り 奥つ 風 吹 飯 の浦 の 明 がた の 空 ( 長秋 詠 藻 五 四 ) 初 句 か ら 三 句 「 寄 る 波 の 」 ま で 、 「 寄 る 」 に 同 音 で 掛 か る 序 詞 の 形 で あ る。 ○ よ る と も み え ず 秋 の 夜 の 月 三 句 か ら は 「 波 が 寄 る 」 と 続 く が 、 「 よ ると も み えず 」 の 主 語は 結 句 「秋 の 夜 の 月 」で 、 次 の二 重 の 意 味を 表 現 す る 。 一つ は 、「 寄 る とも み え ず 」 で 、「 秋 の夜 の 月 」 が波 の 上 に 映 り な がら 、 波 は 寄せ る の に月 は 岸 に 寄 る と も 見 えな い 、 の 意。 い ま 一つ は 、 「 夜 と もみ え ず 」 で、 あ ま りに 秋 の 夜 の月 が 明 る いの で 、 今が 夜 だ と は 思 われ な い 、 の意 。 一 句に 意 味 を 重層 さ せ てい る が 、 ねら い は 明快 で 巧 み で あ る。 【 補 説】 俊 成 の判 は 持 で あっ た 。 右 の小 侍 従 の歌 は 新 勅 撰集 に 後 に入 る こと か ら も秀 歌 で あ ると 思 わ れる が 、 俊 成 は自 分 の歌 を 負 に は しな い で 持 に し てい る 。相 手 が 小 侍 従で あ る とい う 要 素 もあ る と 思わ れ る し 、俊 成の 歌 も 悪 くは な い が、 判 詞 の 「持 」 に は 自分 の 歌 を負 に は で きな い と い う 事 情 が あ る か と 疑 わ れ る 。 判 詞 の 「 又
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」 も そ の 意 味 か ら は 違 和 感 が あ る 。 数 番 前 か ら み て も 「 持 」 と い う 判 定 は な く 、「 又〳
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」 と 言 われ る 必 然 性が 見 当 たら な い か らで あ る 。二 類 本 は 全体 と し ては よ く 意 味 が と れ な い が 、 「 又〳
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」 の 部 分 を 「 た ま た ま 」 と す る 。 「 時 折 、 時た ま 」 と い う意 味 にな り 、 た ま には 持 が よか ろ う 、 と 自分 の 歌 を 「 負 」 に で き ない こ と を 婉曲 に 言 う口 吻 に な ろう か 。 こ のめ で た い歌 合 当 夜 と 同 じ 「 秋 の 最 中 の 月 」 を 詠 み 込 ん だ こ と が 、 「 負 」 に で き な い 気 持 に 影 響 し た と想 像 し て お きた い 。 廿 番 題 同 左 持 丹 後 新 古 39 忘 れじ な 難 波 の秋 の 夜 半の 空 こ と 浦に す む 月 はみ る と も な に は 右 雅経 秋 は こよ ひ 浦 は 明石 の 浪 のう へ に か ゝる 月 を ばい つ か な がめ ん あか し 40 「明 石 の 浪 」「か か る 」な ど 、 よ り所 な き には あ ら ね ど 、「こ と 浦 あか し に す む 」、 め づ らし く お か し と て、 持 と 定 申 。 ( を) メ ス【 校異 】 ○ 左 持 ― 左 勝( 彰 二 ・内 ・ 伊 ・ 神 一・ 神 二 ・青 ・ 名 ) ○ な に は の秋 の ―難 波 のよ は の ( 伊・ 神 一 ・ 神二 ・ 青 ) ○ 夜半 の 空 ―秋 の 月 ( 伊 ・ 神 一 )、 秋 の 空 ( 神 二 ・ 青 ) ○ こ と 浦 に す む ― こ と さ ら に す む ( 彰 二) ○ 月 はみ る と も ― 月は み な と も( 神 二 ・青 ) ○ 高本 、 乱 丁に よ り 、 番歌 は 六 番右 の 作 者 名( 権 大 納言 ) の 後 に丁 を 改 めて 続 く ○ 秋 40 は こ よ ひ ― 秋 は と よ ( 青 ) ○ 浦 は あ か し の ― あ か し の 潟 の ( 彰 二 ) 、 あ か し の浦 の ( 内 ・伊 ・ 神 一・ 神 二 ・ 青) ○ い つ か な かめ ん ― い つ か な か め し ( 彰 二 ・ 内 ・ 伊 ・ 神 一 ・ 宮 一 ・ 鳳 ・ 宮 二 ・ 桑 ・ 宮 三 ・ 名 )、 い つ か 詠 せし ( 神 二 ・ 青) ○ か ゝ る な と より 所 な きに は あ ら ねと ― 明 石 の 波 か ゝ る 月 な と よ り 所 な き に は あ ら ね と も ( 彰 二 ・ 内 ・ 伊 ・ 神 一 ) 、 あ か し の な み か と 疑 月 な と こ ろ 所 な き に は あ ら ね と も ( 神 二 ・ 青 )、 明 石 の 浪 か ゝ る 月 な と よ り 所 な き に は あ ら ね と ( 名 )、 あ か し の 波 か ゝ る な と よ り 所 な き に は わ ら ね と (高 ) ○ こ と 浦 に す む め つ ら し く お か し と て 持 と定 申 ― こ と うら に す むめ つ ら し と て勝 と 定 申( 彰 二 ・ 内・ 伊 ・ 神 一 ・ 神 二 ・ 青 ・ 名 ) 、 こ と 浦 に す む め つ ら し と て 持 と 定 申 ( 宮 一 ・ 鳳 ・ 宮 二 ・桑 ・ 宮 三 ) 【 他 出 】 新 古 今 集 秋 上 四 〇 〇 ( 「 八 月 十 五 夜 和 歌 所 歌 合 に 、 海 39 辺秋 月 と いふ こ と を 」) ・時 代 不 同歌 合 五 〇・ 六 華 集 七 八 二 ・題 林 愚 抄 四 一五 九 (第 五 句 「 月 はみ ず と も 」 )・ 女房 三 十 六 人歌 合 三四 ・ 歌 枕名 寄 三 五三 四 明 日 香 井 和 歌 集 一 〇 七 四 ( 「撰 定 歌 合 同 十 五 夜 海 辺 秋 月 」 第 五 40 句 「 い つ か な が め し 」 ) ・ 雲 葉 集 秋 中 五 六 九 ( 「 建 仁 三 年 八 月 十 五 夜 月 十 首 歌合 侍 り け るに 、 海 辺秋 月 」 第 五句 「 い つ かな が め し 」 )・ 夫 木 和 歌 抄 五 一 九 九( 「 月 歌中 」 第 五句 「 い つ かな が め し 」) 【 通 釈 】 廿 番 題 、 同じ ( 海 辺 の秋 の 月 ) 左 持 丹 後 新 古 39 決 して 忘 れ ま いよ 。 こ の難 波 の 浦 の秋 の 夜 中 の空 の け しき を 。 た と え 今 後 よ その 浦 に 澄む 月 を 見 るこ と が あ ろう と も 。 右 雅 経 秋と い え ば今 宵 八 月 十五 夜 、浦と い え ば明 石 の 浦 の波 の 上 にか か る 、 40 そ の よう な 月 をば い つ か 早く 眺 め た いも の だ 。 「 明 石 の 浪 」 「 か か る 」 な ど の 詞 は 、 言 葉 の 縁 が な い わ け で は な い が 、 「 こ と 浦 に す む 」 と い う 詞 が 、 新 鮮 で 趣 き 深 い と い う こ と で、 引 き 分け と 判 定 申し 上 げ ます 。 【語 釈 】 ○ 題 同 「 海辺 秋 月 」。 十六 番 参 照。 ○ 忘 れ じ な 忘 れ ま いよ 、 の 意 。こ こ で は 二、 三 句 の眼 前 の 風 景へ の 感 動 を述 べ る 。 初句 に こ の句 を 用 い た前 例 は 次の 歌 で あ る。 わ す れ じ な 君に ち ぎ りし 友 千 鳥 みく ま の 川に す ま ん かぎ り は (家 隆 老 若 五十 首 歌 合 四 一 七 ) ○ 難波 の 秋 の 夜半 の 空 難波 の 浦 の 秋の 夜 中 の 空の 景 色 を 、 の 意 。 下句 か ら 月 が夜 空 に趣 深 く 照 ら して い る こと が わ か る。 難 波 は摂 津 国 歌 枕。 現 在 の 大 阪 市 上 町 台 地 を 中 心 と す る 地 域 で あ る が 、 番 歌 で は 下 句 に 39 「 浦 」 とあ る の で、 難 波 の 浦― を 指 す 。難 波 江 、 難波 潟 と も詠 ま れ 、 大 阪 湾、 特 に 旧 淀川 河 口 付近 の 海 の 古称 で あ る。 葦 が 繁 茂し て い た。 な ぜ こ の 歌 で、 難 波 が 撰ば れ て いる の か は 、十 八 番 で も言 及 し た 心 あ ら む 人 に み せ ば や 津 の 国 の 難 波 わ た り の 春 の け し き を ( 「 正 月 ば かり に 津 の国 に は べ りけ る こ ろ 、 人 の も とに い ひ つ かは し け る 」能 因 法 師 後 拾 遺 集 春 上 四三 ) が 意 識 さ れ て の こ と と 思 わ れ る 。 「 難 波 の 浦 」 は 能 因 に 情 趣 深 い と さ れ た 「 春 の け し き 」 だ け で な く 、 「 秋 の 」 夜 半 の 空 の 月 の 風 情 も 忘 れ が た い と い う こ と で あ ろ う 。 「 難 波 の 秋 」 と い う 表 現 は 番 歌 が 初 出 で 、 そ 39 れ は 右 の能 因 歌 を 本歌 と し た 心 な き 我 が 身 な れ ど も 津 の 国 の 難 波 の 春 に た へ ず も あ る か な ( 「 百 首 歌た て ま つり け る 時 、春 歌 と て よめ る 」 藤原 季 通 朝 臣 千 載 集 春 下 一〇 六 久 安百 首 ) 津 の国 の 難 波の 春 は 夢 なれ や 蘆 の 枯れ 葉 に 風わ た る な り( 西 行 法師 新 古 今 集 冬 六二 五 ・ 西 行法 師 家 集 四 〇 八 ) など に す で に 使わ れ てい る 「 難 波 の春 」 の 対語 と し て 考え ら れ たの で あ ろ う ( 全注 釈 が 西 行歌 の 影 響を 指 摘 し てい る ) 。「 夜 半 の空 」 は ひ と しれ ぬ ね ざ めの 涙 ふ りみ ち て さ もし ぐ れ つ る夜 半 の 空か な ( 一 条 摂政 御 集 一 六 九 )
が 早い 例 で あ る。 ○ こと 浦 に す む月 は み ると も 「こ と 浦 」 は異 浦 で 、よ そ の 浦 であ る 。 先 例 とし て 、 し ほた る る 我が 身 の か たは つ れ な くて 異 浦 にこ そ 煙 た ちけ れ ( 「返 事 せ ぬ 人 の こ と 人 に は や る と き き て 」 道 命 法 師 後 拾 遺 集 恋一 六 二 六) が あ る 。恋 の 歌 で 、自 分 に は返 事 し な いの に 、 他 の人 に は 返事 を や る と 聞 い て 恨 み ご と を 詠 ん だ の で あ る 。 「 異 浦 」 は 、 こ こ で は 自 分 以 外 の 別 の 恋 人 を指 す 比 喩 で ある 。 番 歌 は 難 波 の浦 以 外 のよ そ の 浦 の意 味 で 使 39 っ て いる 。 あ まり 例 の な い詞 で あ り 、判 詞 も 「め づ ら し くお か し 」と す る 。「す む 」 は「 澄 む 」「住 む 」 の掛 詞 に な って い る 。例 を あ げ てお く 。 と ふ ひ とも く る れ ばか へ る 山ざ と に も ろと も に すむ 秋 の 夜の 月 ( 「山 住 む―澄む 寺 には べ り ける に 人 人 まう で き てか へ り け る によ め る」 素 意 法 師 後 拾 遺 集 秋 上 二 五 九 ) さ ざ 浪や く に つみ か み の うら さ び てふ る き 都 に 月ひ と り す む ( 「 月 の 住む―澄む 歌 あ ま た よま せ 侍 りけ る 時 、 よ み侍 り ける 」 法 性 寺 入道 前 太 政大 臣 ( 忠 通) 千 載 集 雑 上 九八 一 ) ○ 秋は こ よ ひ 浦は 明 石 秋の 中 で も 今宵 八 月 十五 夜 、 浦 の中 で も 明石 の 浦 、 と 、月 の 最も 美 し い 時 と場 所 を 提出 し て い る。 番 俊成 歌 と 同 様の 37 設定 で あ る 。「秋 は こ よ ひ」 の 句 は、 こ れ 以 前に は ひ と と せを ひ と よ にこ め て た なば た の あ きは こ よ ひの 月 日 な らぬ か ( 「 七月 七 日 」 元真 集 一 〇) の よ う に 、 七 夕 を 詠 むも の は あっ た が 、 名 月 に 詠 むも の は 見当 た ら な い 。 雅 経は の ち に もこ の 句 を詠 ん で い る 。 よろ づ よ は まだ な か ばに も あ ら なく に 秋 はこ よ ひ と す める 月 かな ( 「 見 月 」 明日 香 井 和 歌集 一 二九 〇 承 久 二年 内 裏 御会 ) ○ 浪 のう へ に かゝ る 月 波 の上 の 空 にか か る 月 であ り 、 波 の 上 に 映 じて か か る 月 で あ る 。 「 か か る 」 は 波 の 縁 語 で も あ る 。 判 詞 の 「 拠 り 所 」 は 詞の 縁 が あ る こと を 指摘 し て い る 。 ○ い つ か な がめ ん い つ 眺 める で あ ろ うか 、 早 く 眺め た い もの だ の 意 。 「 いつ か 」 は 早い 実 現 を願 う 気 持 を こめ た 例。 雅 経 に は この 句 を後 に も 使っ て いる 。 夏 は うし う し とお も ひ し 山の 端 に い るま で 月 を いつ か な がめ ん ( 明 日 香井 和 歌 集 一 一 一 八 建 仁 三 年) ま ち いで て い つ かな が め んひ さ か た の あま り ふ けぬ る や ま のは の 月 ( 「夜深 待 月 」明 日 香 井和 歌 集 一二 七 一 建保 五 年 ) 【 補 説 】① 二 類本 の 本 文 では 「 左 勝」 と な っ てい る 。 判詞 か ら は その よう で も あ りう る と 思わ れ る 。 ② 番歌 に よ っ て、 宜 秋 門院 丹 後 は 「異 浦 の 丹 後」 と 呼 ばれ た と 言 わ 39 れ てい る ( 『 安 齋随 筆 』 巻八 ・ 因 歌 得 名 ・ 『二 上峯 』) レ レ 廿一 番 題同 左 勝 鴨 長 明 新 古 41 松 島 や し ほく む 海人 の 秋 の 袖 月は 物 思 ふな ら ひ の みか は まつしま あ ま おも 右 讃 岐 松 島 や 雄 島の 海 人 も心 あ ら ば 月 にや 今 夜 袖 ぬ ら すら ん しま を じ ま あ ま (こよ ひ) 42 左 歌 、殊 に よ ろし 。 仍 為 勝 。 テ レ ト 【校 異 】 ○ 月は 物 お もふ ―月 に 物 思 ふ( 神 二 ・青 ) ○ 松し ま や ―松 嶋 の ( 宮 一・ 桑 ・宮 三 ) ○ を し ま のあ ま も ― を し まの 蜑 の( 彰 二 ・ 内 ・ 伊・ 神 一 ・ 神二 ・ 青 ) ○ 殊に よ ろ し ― 又宜 ( 彰 二・ 内 ・ 伊 ・神 二 ・ 青 ・ 宮 一 ・鳳 ・ 宮 二・ 桑 ・ 宮 三・ 高 ) ○ 仍 為 勝 ― 仍 為 勝〳 〵 ( 彰二 ・ 内 ・伊 ・ 神 一 ) 【 他 出 】 新 古 今 集 秋 上 四 〇 一 ( 「 八 月 十 五 夜 和 歌 所 歌 合 に 、 海 41 辺 秋 月 と い ふ こ と を 」 ) ・ 続 歌 仙 落 書 八 四 ( 「八 月 十 五 夜 和 歌 所 歌 合 に 海辺 秋 月 を 」 )・新 三 十 六人 撰 正 元二 年 三四 三 ・ 歌 枕名 寄 七二 四 〇 【 通 釈】 廿一 番 題 、同 じ ( 海辺 の 秋 の 月) 左 勝 鴨 長 明 新 古 41 松 島 の 藻 塩を 汲 む 海人 の 濡 れ た秋 の 袖 よ。 月 は 、 物思 う 人 のな ら い で あ る涙 に 濡 れ た袖 に 映 じる と ば か りは 限 ら な いこ と だ よ。 右 讃岐
松 島の 雄 島 の 海人 も 、 もし 情 趣 を 解 する 心 が ある な ら 、 この 美 し い 42 月の た め に 今夜 は 涙 して 袖 を 濡 らし て い るこ と で あ ろう 。 左 歌 が、 特 に 優れ て い る 。従 っ て 左 を勝 と す る。 【 語 釈 】○ 題 同 「 海 辺 秋月 」。 十 六 番参 照 。 ○ 松 島 陸 奥 国歌 枕 。多 く の 島 が 点在 す る 宮城 県 松 島 湾一 帯 の 景勝 地 。 次 の 番歌 の 雄 島 はそ の 中 の最 大 の 島 。 42 ○ し ほ くむ 海 人 「 しほ く む 」 は、 藻 塩 を 焼い て 製 塩す る た め に海 水 を 汲 む 海 人の 営 み を い う 。。 ○ 秋 の 袖 家 隆 に先 例 が あ る。 月 の か げ 露 の や ど り と な ら し き て 別 に た へ ぬ 秋 の 袖 か な ( 「九 月 尽 」 壬 二 集 一 〇 七 七 建 久 八 年) 雲 きゆ る そ らを か ぎ り とす む 月 の ひか り も な るる 秋 の 袖か な ( 千 五 百 番 歌 合 一 二 三一 ) ○ 月 は 物思 ふ な らひ の み か は 次 の 伊勢 の 歌 のよ う に 、 月は 物 思 う袖 に 映 る の がな ら い で ある が 、 月が 袖 に 映 るの は そ れ にか ぎ ら な い、 物 思 わ な い 海人 の 潮 で濡 れ た 袖 にも 映 る の だと い う ので あ る 。「 か は 」 は 反 語 。 あひ に あ ひ て物 思 ふ ころ の わ が 袖 にや ど る月 さ へ ぬ る るか ほ な る( 古 今 集 恋五 七 五六 ) ○ 松 島や 雄 島 の海 人 番 歌参 照 。 35 ○ 心 あ ら ば 海 人 は 賤し く 心 なき 者 で あ る が、 も しか り に 情 趣 を解 す る 心が あ れ ば 、 の意 。 番歌 参 照 。 35 ○ 月 に や 今 夜袖 ぬ ら すら ん 心 な き 海 人は 仕 事 を して 潮 で 袖 を 濡 ら す の だ が、 も し 心 があ れ ば 、今 宵 の 月 の 美し さ に 感じ て 、 涙 で袖 を 濡 らし て いる の で はな か ろ う か、 と い うの で あ る 。 【 補 説】 番 歌に つ い て は「 物 思 わ ぬ海 人 の 袖 に月 の 映 るあ わ れ さ を 嘆 41 賞し た も の 」と い う 新大 系 の 評 が 要 を 得 て いる 。 番 歌 は 、心 な き 海人 に も し 心が あ れ ば 、と 仮 定 する が 、 月 の情 趣 を 42 強 調 す る の で あ れ ば 、 西 行 の 「 心 な き 身 に も あ は れ は 知 ら れ け り 」( 新 古 今 集 秋 上 三 六二 ) の よう に 表 現 する の が 効 果的 で は なか っ た か 、 と 考え る 。 俊 成は 右 を 貶し て は い な いが 、 左が 勝 で 当 然 であ ろ う。 廿二 番 題 同 左 藤 原 秀 能 海 人の 焼 く藻 塩 の 煙 我 か ら に時 し も わ か ずお ぼ ろな る 月 あ ま や も し ほ けぶり 43 右 勝 内大 臣 あ ま人 も 月 に心 の あ れ ばこ そ 名 高 き 秋 を ま つ が浦 島 だか うらしま 44 左 の 月 の おぼ ろ な るば か り 、 歌の さ ま を しら ず 。 右勝 と す べ き かち よ し 、こ れ を 申 。ス 【 校 異 】○ あ ま の や く ― あ ま の か く( 彰 二 ・ 内 ・ 伊 ・ 神一 ・ 神 二・ 青 ) ○ 我 か らに ― 我 なか ら (鳳 ・ 宮二 ) ○ 時 し もわ か す ― 時 しも あ か す (宮 一・ 宮 三 ○ おほ ろ な るへ き ―底 本 の 異 文 や二 類 本 によ り 、 校 訂し た 月 お ぼ ろ なる 月 (松 ・ 彰 二 ・ 内・ 伊 ・ 神一 ・ 神 二 ・青 ・ 宮 一・ 鳳 ・ 宮 二・ 桑・ 宮 三 ・ 高・ 名 ) ○ あ ま人 も ― あま の か く人 も ( 伊 ) ○ 月に 心 か のイ ― 底 本 の異 文 、 二類 本 に よ り校 訂 月 に心 の ( 彰 二・ 内 ・ 伊・ 神 一 ・ 神 二 ・青 ・ 宮 一 ・鳳 ・ 宮 二・ 桑 ・ 宮 三・ 高 ・ 名) ○ 左 の 月の お ほ ろな る は か り ― 左 月 のお ほ ろ な るは か り に て( 彰 二 ・内 ・ 神 二 ・青 ) 左 の月 の お ぼ ろ 成 斗 に て ( 伊 ・ 高 ) 、 右 月 の お ほ ろ な る 斗 に て ( 神 一 ) 左 の 月の お ほ ろな る 斗 は (宮 一 ・ 鳳・ 宮 二 ・ 桑・ 宮 三 ) 左 月 の お ほろ な か は か り にて ( 名) ○ 歌 の さ ま ― か た のや う ( 彰 二) う たの や う ( 内 ・ 神 一 ・ 神 二 ・青 ) 歌 之 様 ( 伊 ) ○ 右 か ち と す へ き よ し こ れ を 申 ― 右 可 然 之 由申 之 ( 彰二 ・ 内 ・ 神一 ) 右可 然 之 由 申 (伊 ) 右 可 然 の よ し 申了 ( 神 二 ) 右 可 然 のよ し 申 也 ( 青 ) 右 可勝 由 申 也 (宮 一 ・ 鳳・ 宮 二 ・ 桑 ・ 宮 三 ) 右 は こ と に 殊 に 可 勝 之 由 申 之 ( 高 ) 右 歌 勝 之 由 申 之 イ ( 名) 【通 釈 】 廿二 番 海 辺の 秋 の 月 左 藤 原 秀 能 海 人 が 焼 く 藻 塩 の 煙 よ 、 自 分 自 身 が 原 因 で 、 ( 今 は 月 の 美 し い 秋 な 43 の に 時 節の わ き ま えも な く )い つ で も お ぼろ 月 であ る よ 。 右 勝 内 大 臣 (通 親 ) 心 な き 海 人も 、 月 に対 し て は 心が あ る から こ そ 、 名月 と 名 高い 秋 を 44 待 っ てい る 松 が 浦島 で あ るよ 。 左歌 の 月 が、 い つ で もお ぼ ろ で ある ば か りな の は 、 歌と い う も
の の有 様 を 知 らな い 。 右を 勝 と す る のが よ い由 を 、 申 し あげ る 。 【本 歌 】 音 に き く松 が 浦 島け ふ ぞ 見 るむ べ も 心あ る あ ま はす み け り 44 ( 「 西 院 の 后 、 御 ぐ し お ろ さ せ 給 ひ て お こ な は せ 給 ひ け る 時 、 か の 院 の 中島 の 松 をけ づ り て かき つ け 侍り け る 」 後 撰集 雑 上 一 〇 九 三・ 素 性 集 四 六・ 五 代 集歌 枕 一 五一 八 ・ 定家 八 代 抄 一 六 七 二・ 歌 枕 名 寄 七二 六 九 ・ 歌林 良 材 六 六 二 ・ 雲玉 集 二 七・ 源 氏 釈 九 四 / 一八 二 ・ 奥 入 四六 五 ) 【 語 釈 】○ 題 同 「 海 辺 秋 月 」。 十 六 番 参照 。 ○ 海 人 の焼 く 藻 塩 の煙 製 塩 のた め に 立 つ煙 は 、 月の 美 し さ を妨 げ る も のと し て 詠ま れ る 。 宮 こ に て み し に お と ら ぬ 月 な れ や 藻 塩 の 煙 立 ち ま が ふ と も ( 「同 じ 国 、 の みは ら の みな と と い ふ所 に て 、 月 の あ か き に」 為 仲集 三 〇 ) 藻 塩 や く 浦 わ に 秋 は 舟 と め じ 月 も て や つ す 煙 た つ な り ( 「海 辺 月 」 公 、 、 、 、 、 、 重 治 承 三 十 六人 歌 合 三 〇 〇 ) 藻 塩 や く 煙 な た て そ あ ま 人 よ 明 石 の 月 の く ま と も ぞ な る ( 「海 辺 の 月 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 と い ふ心 を 」 大 納言 実 家 卿 玄 玉 集 二 〇 一 ) ○ 我か ら に 自分 自 身 の行 為 の せ いで 。 海 人の 煙 を 立 てる と い う行 為 が 原 因 で 、の 意 。 ○ 時 しも わ か ずお ぼ ろ な る月 「 時し も わ かず 」 は 時 節の 区 別 もな く 、 い つ で も、 の 意 。 番 歌 の 場合 、 秋 とい う 月 の 美 しい 季 節で あ る こ と の 43 わき ま え も な く、 の 意 。 時 わ か ず ふ れ る 雪 か と 見 る ま で に か き ね も た わ に さ け る 卯 花 ( 「卯 花 の かき ね あ る 家 にて 」 よみ 人 し ら ず 後 撰 集 夏 一 五 三) これ は 、 今は 夏 な の に時 節 の わき ま え も なく 降 っ た雪 か 、 と 卯花 を 見 立 て て いる 歌 で ある 。 「お ぼ ろ な る月 」 は 、『 正治 二 年 初度 百 首 』 の後 鳥 羽 院の 例 が あ る 。 む か し より い ひ し はこ れ か 夕霞 か す め る 空の お ぼろ な る 月 ( 春 六 ) 朧月 は 、 霞 や 雲で ぼ うっ と は っ き りし な い 月で 、 春 の 月に 詠 ま れる 。 て り も せ ず く も り も は て ぬ 春 の 夜 の お ぼ ろ 月 よ に し く 物 ぞ な き ( 「文 集 、嘉 陵 春 夜 詩 、不 明 不暗 朧 朧 月 と いへ る こ とを よ み 侍 りけ る 」 大江 千 里 新 古 今 集 春 上 五 五) ○ 月 に 心 の あ れ ば こ そ 海 人 も 月 に 対 し て は そ の 情 趣 を 解 す る か ら こ そ、 の 意。 こ の 詞 続 きは 、『正 治 二年 初 度 百 首 』の 俊 成 の あ き の夜 は 雲 も 心の あ れ ばこ そ 月 の あ たり は と ほざ か る ら め( 秋 一 一 五一 ) の 影 響 があ ろ う か。 ○ 名 高 き秋 を まつ が 浦 島 「名 高 き 秋 」は 、 名 月 の夜 を 指 す 。 名 に 高 き ふ た 夜 の ほ か も 秋 は た だ い つ も み が け る 月 の い ろ か な ( 「 秋 の 月あ か き 夜 」建 礼 門 院右 京 大 夫 集 六 五 ) 「 名 に 高 き ふ た 夜 」 は 八 月 十 五 夜 と 九 月 十 三 夜 で あ る 。 「 秋 を 待 つ 」 と 地 名 「 松 が 浦 島 」 に 言 い 掛 け て い る 。「 松 が 浦 島 」 は 、 陸 奥 歌 枕 。 現 在 の宮 城 県 の松 島 。 本 歌の 「 あ ま」 は 海 人 と 尼を 掛 詞に し て い る 。 番 歌 44 に は 本 歌に よ り、 心 あ る 海 人が 住 む 所と し て 撰 ばれ て い る。 ま た 「 名高 き」 も 本 歌 の「 音 に きく 」 と 縁 のあ る 詞 で ある 。 ○ 歌 の さ ま をし ら ず 歌 の 姿 、 あり よ う を 知ら な い 、ど の よ う に詠 め ば 歌 の姿 に な る のか 知 ら ない 、 の 意 であ ろ う 。 歌 の さ ま を 知り 、 事の 心 を 得 た らむ 人 は …… ( 古 今 集仮 名 序 ) 俊 成 は、 永 万 二年 の 『 中 宮亮 重 家 朝 臣家 歌 合 』で 「 歌 の さま 」 を 判詞 に 多用 し て いる が 、 そ こで は 肯 定的 な 使 い 方で 、 歌 の全 体 的 な 姿 の意 で 使 っ て い る。 本 歌合 で も 廿 九 番判 詞 に 猶 歌の さ ま よろ し と て 、勝 と す べ きよ し と い う 用例 が あ る。 【 補 説 】「 歌の さ ま を し らず 」 とい う の は 厳 しい 評 語 であ る 。「海辺 秋 月 」 と い う 題な の に 、 秋月 の 美 しさ を 詠 む とい う 、 題 の本 意 を はず し て し ま っ た基 本 的 な 過ち を 咎 めて い る の で あろ う 。 負の 判 定 理 由を 述 べ て勝 負 をつ け た 例で あ る 。 廿 三 番 湖 上 月 明 左 勝 丹 後 夜 も す が ら浦 こ ぐ 舟は 跡 も な し月 ぞ 残 れる 志 賀 の 唐崎 のこ し が からさき 45 右 内 大 臣 夜も す が ら比 良 の 山 風海 ふ け ば 月も て よ する 志 賀 の さゞ 浪 ひ ら うみ し が 46
「 海ふ け ば 」 など 、 古 体な る さ ま に 侍れ ど も、 め づ ら し き所 な け こ た ひ れば 、 猶以 左 為 勝 。 テ レ ヲ レ ト 【 校 異】 ○ 跡 も なし ― □ もな し ( 神 一) ○ 月 そ のこ れ る ― 月 にの こ れ る( 神 一 ) ○ ひ らの 山 風 ―ひ ら 山 風の ( 宮 一 ・ 鳳・ 宮 二・ 桑 ・ 宮 三 ・ 高 ) ○ し か の さゝ 浪 ― う ら のさ ゝ な み (彰 二 ・ 内・ 伊 ・ 神 一・ 神 二 ・ 青 ) 浦 の さ ゝ 浪 ( 名 ) ○ こ た ひ な る さ ま に ― 古 体 な る や う に ( 彰 二 志賀イ ・ 内 ・ 伊 ・ 神 一 ・ 神 二 ・ 青 )、 こ た い な る さ ま に は ( 宮 一 ・ 鳳 ・ 宮 二 ・ 桑 ・ 宮 三 ・ 高 ) ○ 侍 れ と も ― は ん へ れ と も ( 神 二 ・ 青 )、 侍 れ と ( 宮 一 ・ 鳳 ・ 桑 ・ 宮 三 ・ 名 ) 、 付 れ と ( 宮 二 ) ○ 猶 以 左 為 勝 ― 猶 以 以 左 為 勝 ( 高) 【 他 出 】 新 古 今 集 雑 上 一 五 〇 七 ( 「 和 歌 所 歌 合 に 、 湖 上 月 明 と 45 い ふ 事 を 」 )・ 定 家 十 体 見 様 一 七 一 ・ 定 家 八 代 抄 一 六 七 六 ( 「湖 上 月 と い ふ 心 を 」 ) ・ 続 歌 仙 落 書 一 一 八 ( 「 和 歌 所 の 歌 合 に 湖 上 明 月 と い ふ こ と を 」 )・ 歌 枕名 寄 五 九六 六 ・ 題林 愚 抄 四 一三 〇 【 通釈 】 廿 三 番 湖 上 、月 明 ら か なり ( 湖 の上 に 月 が 明る く 照 らす ) 左 勝 丹 後 一 晩 中、 浦 を 漕 いで い た 舟は 、 そ の 航跡 も な い。 月 だ け が残 っ て 明 45 るく 照 ら し てい る 志 賀の 唐 崎 で あ るよ 。 右 内 大 臣 ( 通親 ) 夜 通し 比 良 の山 風 が 海 の上 を 吹 くの で 、 志 賀の さ ざ 波が 月 を 持 って 46 ( 岸 辺 に) 寄 せ る こと よ 。 「海 ふ け ば 」 など あ る のは 、 古 風 な歌 の 姿 です が 、 目 新し い 所 が な い の で、 や は り 左を も っ て 勝と す る 。 【 本歌 】 世の 中 を なに に た と へ むあ さ ぼ らけ こ ぎ ゆ く舟 の あ との し 45 ら 浪 ( 「題 し ら ず 」 沙 弥 満 誓 拾 遺 集 哀 傷 一 三 二 七 ・ 萬 葉 集 巻 三 三 五 四( 三 句 以 下 「旦 開 榜 去 師船 之 跡 無 如 」 )・ 古今 六 帖 一八 あ さびらき こ ぎ い に し ふ ね の あ となきがご と 二 一・ 新 撰 髄脳 四 ・ 金玉 集 四 九・ 和 漢 朗詠 集 七 九六 ・ 奥 義抄 七 九 ・ 古来 風 体 抄 四 四 ・ 定家 八 代 抄 六三 四 な ど ) 楽 波 之 平 山 風 之 海 吹 者 釣 為 海 人 之 袂 変 所 見 ( 「槐 本 歌 一 さ さ な み の ひ ら や ま か ぜ の う み ふ け ば つ り す る あ ま の そ で か へ る み ゆ 46 首 」 万 葉 集 巻 九 一 七 一 五 ・よ み 人 し らず 新 古今 集 雑 下 一 七 ・ 奥 義抄 六 一 七・ 童 蒙 抄 一 八 一 ・和 歌 初 学 抄 一 〇 〇・ 袖 中 抄 四七 九 ・ 和 歌色 葉 八〇 ・ 定 家 八代 抄 一六 三 八 童蒙 抄 以 下第 二 句 「 ひ らの や ま かぜ 」) 【 語 釈 】 ○ 湖 上 月 明 本 題 で は 初 出 で あ る が 、 類 似 の 「 湖 上 月 」 ( 三 井 寺新 羅 社 歌合 な ど )「湖 辺 月 」(林 葉 集 など ) は 既 出。 ○ 夜 も す がら 一 晩 中 、夜 ど お し 。「 浦 こぐ 」 に 掛 かる 。 ○ 浦 こ ぐ舟 は 跡も な し 本 歌で は 、 舟と そ の 航 跡 が見 え てい る が 、 番45 歌 で は 舟の 姿 は も ちろ ん 航 跡も な い 、 と変 化 さ せ てい る 。 ○ 月 ぞ 残れ る 志 賀の 唐 崎 月 だけ が 残 っ てい る 志 賀の 唐 崎 よ 、 の 意 。「月 明 」 の 題に か な う ほ どの 明 るい 有 明 の 月 であ ろ う 。志 賀 の 唐 崎は 、 近 江 国 歌 枕。 現 在 の滋 賀 県 大 津市 唐 崎 の 唐崎 神 社 のあ た り 。 琵琶 湖 西 岸。 月 と唐 崎 を 詠む 例 と し ては 月 き よ み志 賀 の 唐 崎こ ぐ 船 は氷 に 棹 を さす か と ぞみ る ( 出 観集 四 二 、 九 ) 月 か げ は き え ぬ こ ほ り と み え な が ら さ ざ 浪 よ す る 志 賀 の 唐 崎 ( 「 湖 上 、 、 、 月 とい へ る こ ころ を よ める 」藤 原顕 家 朝 臣 千 載 集 秋 上 二 九四 ) な ど が ある 。 ○ 比 良 の山 風 海 ふ けば 比 良 は近 江 国 歌 枕。 大 津 市か ら 高 島 市に 至 る 、 琵琶 湖 西 岸に 沿 う 連 山で 、 こ の山 か ら 琵 琶湖 に 吹 きつ け る 風 の 激し さ は 有 名 で ある 。 古く 万 葉 集 の 本歌 か ら 詠ま れ て い る。 比 良 の山 風 と 湖 上の 景物 を 詠 む 歌は 、 花 に関 し て 桜 さ く 比 良 の 山 風 海 ふ け ば 花 も て よ す る 真 野 の 浦 波 ( 「海 の 上 に 落 つ る 花」 有 房 集 三 六 ) 桜 さ く 比 良 の 山 風 吹 く ま ま に 花 に な り ゆ く 志 賀 の 浦 浪 ( 「 花 の 歌 と て よ み侍 り け る 」 左近 中 将良 経 千 載 集 春 下 八 九 ) 花 さ そ ふ 比 良 の 山 風 吹 き に け り こ ぎ 行 く 船 の あ と 見 ゆ る ま で ( 「 五 十 首 歌 たて ま つ り し中 に 、 湖上 花 を 」 宮 内卿 新 古今 集 春 下 一 二 八 仙 洞 句 題五 十 首 ) な ど す でに あ る 。月 に 関 し ても 次 の よう な 例 が ある 。 さ ざ 浪や 比 良 の高 根 に 月 すめ ば し がつ の 浦 に 雪ぞ 降 り しく ( 「 湖 上月 」 、 、、 、 林 葉 集 五〇 四 ) 雲 晴 る る 比 良 山 風 に 余 呉 の 海 の 沖 か け て す む 夜 半 の 月 か な ( 「 水 月 」 、 、 、 、 風情 集 ( 公重 ) 二 九 九)
○ 月 も てよ す る 志賀 の さ ゞ 浪 月 を 映し た 湖 面の さ ざ 波 が、 月 を 岸 に運 んで 来 るよ う に 見 え る様 子 を いう 。 こ の 表現 は 、 右に あ げ た 有房 歌 と の 類 似 が歴 然 と して い る 。 【 補 説 】 ① 番 歌 の 見 所 に つ い て は 、 新 大 系 「 本 歌 の 「 舟 」「 あ と の 45 白 波 」 を打 消 し て、 残 月 の みの 「 あ さぼ ら け 」 の景 に 転 じた 趣 向 の 興」 と い う 評 が 要 を 得 て い る 。 ま た 、 こ の 歌 が 、 『 新 古 今 集 』 雑 部 に 入 集 す る こ と に つ い て 、 全 注 釈 が 、「 純 然 た る 叙 景 歌 で あ っ て 、 本 来 秋 歌 の 部 に 入 れ ら れ て も よ か っ た 歌 で あ る 。 『 定 家 十 体 』 で 見 様 の 例 歌 と さ れ て い る の は当 然 で あ る と思 わ れる 」 と 指 摘 して い る こと に も 注 意さ れ る 。 ② 結果 的 に 番 歌 が 新 古今 入 集 を 果 た し た が、 俊 成 の 判詞 は 、 番 歌 45 46 の 弱 点 に 向 け ら れ た も の で あ る 。 「 古 体 な る さ ま 」 と 評 す る の は 、 全 注 釈 ( 一 五 〇 七の 鑑 賞 ) の 指 摘 の通 り 万 葉 の本 歌 を 取る か ら で あろ う 。「 め づら し き 所 なけ れ ば 」と い う の は 、 こ れ も 万葉 の 本 歌を 取 っ た 有房 歌 と 詞 の 上 でも 発 想 でも 変 わ る とこ ろ が な いか ら で あ ろう 。 的 確な 指 摘 で あ る 。 廿四 番 題同 左 勝 女 房 唐 崎や に ほ の水 う み の 水の 面 に 照 る 月 な み を秋 風 ぞ 吹 からさき おも て (ふく) 47 右 讃岐 を ちか た や 雲 もへ だ て ぬ志 賀 の 浦 の波 と 空 と にす め る 月か げ 48 「 に ほ の 水う み の 水の 面 」、 め づ らし と て 、 左 為 勝 。 おも ヲ レ ト 【 校 異 】 ○ に ほ の 水 う み ― 底 本 の 異 文 、 二 類 本 に よ り 校 訂 に ほ の のイ 水う み ( 彰一 ・ 高 ) 鳰 の 湖 の( 彰 二 ・ 内・ 伊 ・ 神一 ・ 神 二 ・青 ・ 宮 一 ・ 鳳 ・宮 二 ・ 桑・ 宮 三 ・ 名) ○ 波 と 空と に ― ― 波と 雲 と に ( 神一 ) ○ に ほの 水 う みの 水 の お も ―鳰 の 湖 の 水に お も ( 彰二 ) にほ の 水 海 の お も ( 鳳・ 宮 二 ) ナ シ ( 高) ○ め つ ら しと て ― 返 々 てる 月 波 に立 な らふ も の な し とて ( 伊・ 神 一 ・ 神 二・ 青 ・ 名) て る 月な み に 云な ら ふ 物 な し とて ( 彰 一 ) 返 々 てつ 月 な み に云 な ら ふ 物な し と て( 内 ) 返 々 も又 ま な ふ もの な し とて ( 宮 一 ・ 桑・ 宮 三) 返 々 又 まな ふ もの な し と て ( 鳳 ・ 宮 二 ) 波 に た ち な ら ふ へ く も な し と て ( 高 ) 、 め つ ら し と て ( 三) ○ 左 為勝 ― 以左 為 勝 ( 彰二 ・ 内 ・伊 ・ 神 返々てる月 なみにたち ならふへくも なしとて 一・ 神 二・ 青 ・ 宮 一 ・鳳 ・ 宮 二・ 桑 ・ 宮 三・ 高 ・ 名) 左 為 勝( 三 ) 以 左 為 勝 【 他 出】 から さ き や にほ の 水 う みの 水 の おも に て る 月な み を 秋風 ぞ 47 吹く ( 「 湖 上月 」 後鳥 羽 院 御 集 一 五 五 四) 【 通 釈 】廿 四 番 題 、 同 じ ( 「 海 辺 の 秋の 月 」) 左 勝 女 房( 後 鳥 羽 院) 唐 崎 よ 、 鳰の み づ うみ の 水 の おも て に 照る 月 の 、 秋の 最 中 の名 月 が 47 映 る 波を 、 秋 風が 吹 い て いる よ 。 右 讃岐 ( 志 賀の 浦 を ) みわ た す はる か か な たよ 、 そ の、 雲 も ( 月は も ち ろ 48 ん 何 物 を も ) 隔 て て 隠 し は し な い 、( 空 と 湖 の 交 わ る 水 平 線 ま で 見 通 せ る ) 志賀 の 浦 の 、波 の 上 と空 の 下 に 澄み わ た る月 の 光 よ 。 「 にほ の 水 うみ の 水 の 面」 と い う 表現 が 新 鮮 だと し て 、左 を 勝 と す る 。 【 本歌 】 「水 の お もに て る 月 浪を か ぞ ふれ ば こ よ ひぞ 秋 の もな か な 47 り け る 」( 「 屏 風 に 、 八月 十 五 夜池 あ る 家 に 人あ そ びし た る 所 」 源順 拾 遺 集 一 七 一 ・和 漢 朗 詠 集 秋 二 五一 ・ 順 集 二 八 九 ( 「 八 月 十五 夜 、 人の 家 に 蓮あ り 、 木 の葉 浮 か ぶ、 月 影 お ちた り 、 男女 こ こ ろ ご ころ に あ そ ぶ 、 簾の 外 に居 て 、 物 語 りす る も あり 」 第 一 句「 池 の 面に 」 )・ 前 十 五 番歌 合 二 六・ 俊 成 三十 六 人 歌 合 七 七 ・ 時代 不 同 歌合 二 〇 一・ 三 十 人 撰 八六 ・ 三 十六 人 撰 一〇 四 ・ 深窓 秘 抄 四 五・ 童 蒙抄 一 四 七 ・ 古来 風 体 抄 三五 九 ・ 和漢 兼 作 集 七 一 九 【 語釈 】 ○ 題 同 「 海辺 秋 月 」。 十六 番 参 照 。 ○ 唐崎 番歌 参 照 。初 句 で 切 れる 。 二 句 以下 は 唐 崎の 風 景 。 45 ○ に ほ の水 う み の 水 の面 判 詞 の引 用 に 「 にほ の 水 うみ の 水 の 面」 と あ 、 り 、 後 鳥 羽 院 御 集 に も そ の 形 で 入 る の で 、 「 の 」 の あ る 異 文 な い し 他 本 の 形 が 適切 で あ る 。「 鳰 の湖 」 は 琵 琶湖 。「 に ほ のう み 」 の例 が 多 い 。 し な てる や に ほの 湖 に 漕 ぐ舟 の ま ほな ら ね ど もあ ひ 見 しも の を ( 薫 源 氏 物 語 早 蕨 巻 六 九 八 ) が 早い 例 で 、 新古 今 時 代に な っ て 、 雲 の 波 煙 の 波 や 散 る 花 の 霞 に し づ む に ほ の み づ う み ( 「湖 上 花 」 秋