『三四郎』 : 現代史としての文学史(2) : 熊谷孝著『現代文学にみる日本人の自画像』の再検討 : 文学史を教師の手に!

Bungaku Kyouiku Kenkyuusya Syuudan

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始

ま っ た 。 以

下

は 、 そ の

摘

記 で あ る （ 「 文 学 と 教 育 」 ｝ 二 七 号 佐 藤 嗣 男 氏 論 文 に よ る ） 。   一 九 七 二

年

三 月

　

文 教 研 ・ 春 季

合

宿 研 究

会

、 熊 谷 氏 報 告 　 レ ジ ュ メ 「 芥 川 文

学

の 誕 生 」 ／ 「 文 学 と

教

育

」 七 四 号 。   一 九 七 二 年 八 月

　

文 教 研 ・ 第

21

回 全 国 研 究

集

会_、 熊

谷

氏

　

講

演 、 「 芥 川 文

学

の

成

立 に 関 す る 若

干

の 証 言 」 ／ 「

文

学 　 と 教 育 」 七 六 号 。   一 九 七 三

年

五 月 熊 谷

氏

著 『 芸 術 の 論 理 』

　

  を さ ら に 　 詳 細 に

論

じ た も の 。

 

一 九 七 八 年 十 一 月

　

国 立 音

楽

大 ・ 芸

術

祭

に お け る

熊

谷

氏

　 講 演 。 「 日 本 近 代 文

学

に お け る 異 端 の

系

譜 」 ／ 「

文

学

と 　 教

育

」 　 一 〇 七 号 。

 

→ 九 八 〇 年 八 月

佐

藤

嗣 男 氏 論

文

「 『 大

導

寺

信 輔 の 半 生 』 　 の 場 面

規

定 」 ／ 「

文

学

と 教 育 」 一 一 三

号

。   一 九 八 三 年 八 月 文 教 研 ・ 第

32

回

全 国 研 究

集

会 、 荒 川 氏 　 講 演 。 「 文 学 事

象

と し て の 大 逆

事

件 」 ／ 「 文 学 と 教 育 」 　 ＝ → 六

号

_、 ］ 二 七 号 。   一 九 八 三

年

十 一 月 　 熊 谷

氏

小 論 。 「 な ぜ 、 い ま_、

芥

川 文 　 学 か 」 ／ 「 赤

旗

」

26

日 付 。   一 九 八 四 年 二 月

佐

藤 氏 論 文 「 芥 川 文 学 と 『 謀 叛 論 』 」 　 ／ 「 文 学 と 教 育 」 一 二 七 号 。 　 こ れ ら は

多

く は 芥 川 文 学 の 成 立 に ふ れ て 述 べ ら れ て い る 現 代 史 と し て の 文 学 史

 

　 　 『

三

四

郎

』 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　

橋

　

本

　

伸

弥

　 自 由 民 権 運 動 を 敗 退 さ せ_、 日 清 、 日 露 戦 争 へ と 突 き 進 ん で 行 っ た 日 本 的 近 代 が_、 露 骨 に そ の ど す 黒 さ を 顕 示 さ せ た 事 件

ー

そ れ が 幸 徳 事 件 で あ っ た 。 　 漱 石 の 『 三 四 郎 』 は 、 そ の 幸 徳 事 件 の 前 夜 と も 言 え る 、 ］ 九 〇 八 年 に 発 表 さ れ て い る 。 『 自 画 像 」 で の 『 三 四 郎 』 紹 介 は_、 こ の 作 品 の エ ッ セ ン ス と も い う べ き 部 分 に ス ポ ッ ト が あ て ら れ て い て_、 楽 し さ が 増 大 す る 。 大 学 進 学 の た め_、 熊 本 か ら 上 京 す る 小 川 三 四 郎 は_、 汽 車 の 中 で 「 髭 を 濃 く 生 や し た 四 十 が ら み の 」 男 と 話 を 交 わ し た 。 こ の 男 が 「 偉 大 な 暗 闇 」 と い う ニ ッ ク ネ ー ム を 持 つ 広 田 先 生 で あ る こ と に 三 四 郎 は 気 が つ い て い な い 。 　

ー

「 い く ら 日 露 戦 争 に 勝 っ て_、 一 等 国 に な っ て も 駄 目 　 で す ね 。 」 そ れ か ら_、 こ う 言 っ た 。 　

ー

「 あ な た は 東 京 が は じ め て な ら_、 ま だ 富 士 山 を 見 た 　 事 が な い で し ょ う 。 今 に 見 え る か ら 御 覧 な さ い 。 あ れ が 　 日 本 一 の 名 物 だ 。 あ れ よ り 外 に 自 慢 す る も の は 何 も な い 。 　 と こ ろ が 其 富 士 山 は 天 然 自 然 に 昔 か ら あ っ た も の な ん だ 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 こ し ら か ら 仕 方 が な い 。 我 々 が 拵 え た も の じ ゃ な い 。 」 一

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の で あ る が 、 国 立

音

楽

大 の 講 演 で 熊 谷 氏 が 述 べ て い る よ う に 、 「 鵬 外 に お い て も 、 大 逆

事

件 は_、

自

己 の 文 学 を 見 つ め 直 す 大 き な 契 機 と な っ た 」 （ 「 文 学 と 教 育 」 一 〇 七 号 ） 。 永 井

荷

風 、 石 川 啄 木 、 佐 藤 春

夫

等 々 に と っ て も 自 己 の

文

学 を 見 つ め 直 す 大 き な

契

機

、 主 題 的 発 想 の 転 換 を う な が す 大 き な 契 機 に な っ て い る 。 こ う し た 、 文

学

史 的

事

実 が あ る 故 に 、 幸 徳 事 件 は 「 文 学

史

的

事 象 と し て の 幸 徳

事

件 」 な の で あ る 。 こ の 期 の 文 学 は 、

幸

徳 事 件 を ぬ き に し て は 考 え ら れ な い 。 文 教 研 の 月 例 研 究 会 で 、 井 筒 氏 が 、 「 反 近 代 主 義 の 文 学 を 生 み 出 し て い く

決

定

的

契 機 」 と 位 置 づ け た の も 、 同 じ 理 由 か ら で あ ろ う 。

幸

徳

事

件

に

対

す

る

様

々 な

対

応

〈 永 井 荷 風 の 場 合

V

　 幸 徳 事 件 に 最 も

深

刻

な 対 応 を し た 一 人 は_、 永

井

荷 風 だ っ た と い っ て よ さ そ う で あ る 。 　 九

〇

二

年

に 『 地

獄

の

花

』 を 発

表

し た

荷

風 は 、 銀 行 員 と し て ア メ リ カ に 渡 り

2

九 〇 三 年 九 月 〜 一 九 〇 七 年 七 月 ） 、 次 い で フ ラ ン ス の リ ヨ ン に 転 勤 と な り 、 一 九 〇 八 年 三 月 に 銀 行 を

辞

職

し 、 あ こ が れ の パ リ に 赴 い た 。 二 か 月 過 ご し 、

　

一 九 〇 八

年

五 月 に 帰 国 し た 。 そ の

後

す ぐ に 次 々 と 短 編 を 発 表 し 、 そ れ ら を ま と め て 『 ふ ら ん す 物 語 』 を 刊 行 し た （ が_、 直 ち に 発 売

禁

止 処 分 を

受

け 、 　 三 四 郎 は 日 露 戦 争 以 後 こ ん な 人 間 に 出 会 う と は 思 っ て も 　 み な か っ た 。 こ れ が 日 本 人 の 口 に す る こ と か ？ 　 　 　 こ れ 　 「 然 し 是 か ら は 日 本 も 段 々 発 展 す る で し ょ う_。 」 　

ー

「 滅 び る ね 。 」 　 笑 い な が ら 語 る 広 田 先 生 の こ と ば は_、 結 果 と し て そ の 後 の 日 本 の 歴 史 を 暗 示 す る よ う な 表 現 と な っ て い る 。 日 本 的 近 代 を 肯 定 で き な い 立 場 で 思 索 し 続 け る 人 と し て_、 今 、 彼 は 三 四 郎 の 眼 前 に 、 異 邦 人 の ご と く 登 場 し て い る の で あ る 。 　 広 田 先 生 と の 出 会 い は 、 若 い 三 四 郎 の 人 生 に と っ て 決 定 的 な も の に な っ て い く 。 近 代 的 自 我 の 目 ざ め で あ る 。 し か し_、 車 中 で の 三 四 郎 は_、 読 者 で あ る 私 た ち 同 様、 そ れ が 大 き な 意 味 を 持 つ こ と に 気 づ か な い で 別 れ て い く の が お も し ろ い 。 三 四 郎 は そ の 意 味 で 私 た ち 自 身 な の で あ る 。 　 と こ ろ で 、 例 会 で 話 題 に な っ た こ と の 一 つ は_、 三 四 郎 を 翻 弄 す る 美 禰 子 と_、 汽 車 の 中 の 女 と の 同 質 性 で あ る 。 漱 石 は お そ ら く 意 識 的 に 書 い た わ け で は な い だ ろ う 。 し か し_、 読 者 に は 重 な り 合 う イ メ ー ジ と し て 映 っ て く る の だ 。 強 引 に 同 宿 し_、 あ げ く に 「 度 胸 の な い 方 ね 」 と 三 四 郎 に 捨 て ゼ リ フ を は い た 「 汽 車 の 女 」 は_、 美 禰 子 の よ う に 日 本 的 近 代 に は 毒 さ れ て い な い と は い え_、 三 四 郎 を 苦 し め る に は 充 分 の 女 性 で あ っ た 。 美 禰 子 は 既 に 車 中 に い た の で あ る 。 一

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