• 検索結果がありません。

訪問活動における理学療法の専門性と可能性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "訪問活動における理学療法の専門性と可能性"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに  現在,理学療法士をめぐる状況は様々な面からかなり厳しい ものになっている。理学療法士の有資格者の急速な増加,そし て理学療法の効果とその役割について,活動分野の拡大とその 多様化といった課題も含めて今後の展望を明確に打ちだすこと が求められている。今回,こういった観点から理学療法の原点 および変遷を再確認し,現在の課題を模索し,今後の活動分野 の拡大も視野に入れた具体的な展望について考えていきたい。  昭和 40(1965)年 6 月に我が国において理学療法士という 専門職が法令化されてから 50 年目を迎えようとしている。当 初はリハビリテーションという考え方自体の知名度もきわめて 低く,ましてや理学療法に関しては物理療法を主体にしたマッ サージという目で見られていた。その後,病院を中心に理学療 法士の数も増加し,知名度も向上するとともに診療報酬的にも 評価されていくようになった。骨折などの整形外科分野から脳 卒中に代表される中枢神経疾患の機能障害を治療する専門技術 を前面にして発展してきた経緯がある。その過程で要素的機能 障害に対する治療手技,つまりボバースやボイタ,ルードやブ ルンストロームといった治療技術の習得とその実践の方向に向 かった時期もあった。  理学療法も病院を中心に入院と外来というスタイルで,あく まで訓練室で提供されていた。その後,地域リハビリテーショ ンという活動が各地で実践されるようになった。その背景には 昭和 58(1983)年の「老人保健法」による機能訓練事業が大 きな影響を与えたといえる。保健事業として各地で展開された この活動に理学療法士も関与を余儀なくされ,その活動の中で 病院から退院して在宅に戻った障害者や高齢者の実態を目のあ たりにして,在宅でのリハビリテーションの必要性が叫ばれる ようになった。  理学療法をめぐる状況について,リハビリテーション医療の 変遷を絡めて紹介し,今後の理学療法士の活動の方向性につい て若干の私見も交えて考えていきたい。 理学療法を取り巻く社会背景とその変化  我が国における理学療法はリハビリテーションというくくり の中で,医療という分野で発展してきたという背景がある。リ ハビリテーション医療はこの十数年で大きな変革を強いられ, 毎年のように実施される診療報酬改定や医療制度改正の中で変 革を余儀なくされてきた。主な要因を挙げると,まず医療にお ける主たるターゲットが急性期の感染性疾患から慢性疾患へと 変化し,疾病の治癒を第一義とするモデルから疾患をコント ロールしながら生活の再建を図るというモデルに重点が大きく 変化していったことがある。さらに「2025 年問題」に代表さ れるような高齢化と少子化,核家族化といった傾向がさらに今 後の社会保障のあり方に大きな変革が求められるようになり, 医療も生活の再建を治療の過程でしっかりと担っていかねばな らないという状況になっている。リハビリテーション医療が医 療の分野でこの立場をしっかりと堅持していく役割が見直され ている。さらにマイナスの材料としては毎年の診療報酬や介護 報酬の改定に示されるような我が国における経済基調の継続的 な低迷化傾向がリハビリテーション医療提供体制にも大きな影 を落としていることは自明である。  一方,北欧ではじまった「ノーマライゼーション」に示され るような国民の障害者や高齢者に対する意識の変化とそれとあ いまって医療に対する意識の変化がリハビリテーションに関す る評価とこれまでの医療のスタンスに大きな変化を求めてきて いる。「2025 年問題」はいわゆる団塊の世代が後期高齢者に突 入しはじめて,大量の要介護者が発生しその介護のために多く の社会資源が必要になるという量的な側面が強調される。しか しそれと同時に戦後に生まれ高度経済成長を支えてきた団塊の 世代は,青春期にその多くが学生運動を経験し,権利意識が非 常に強い高齢者といった精神面の特徴も重要になってくる。リ ハビリテーション医療についても,これまでのプラスアルファ の医療ではなく,費用対効果の結果を求められる分野として効 果をシビアに要求されるようになってくる。予後の予測といっ た面でも本来は担当の医師の役割とされてはいるが,現実には 担当する理学療法士にそれまでのプロセスも含めてきちんとし た説明と結果に対する責任も追求されるような方向性に向かっ ている。リハビリテーション医療はチーム医療といわれるが, 理学療法が個別アプローチを基本としている現状の制度の下で はこれまで以上に個々の技術のあり方が厳密に問われてくるよ うな場面が今後は拡大していくことが十分予測される。

訪問活動における理学療法の専門性と可能性─ 10 年後を見据えて

伊 藤 隆 夫

**

大会テーマ

The Specialty and Possibility of Physical Therapy at Home Visiting Rehabilitation: To Consider the Situation Concerning Physical Therapy 10 years Later

**

船橋市リハビリセンター

(〒 274‒0822 千葉県船橋市飯山満町 2‒519‒3) Takao Ito, PT: Funabashi Municipal Rehabilitation Center キーワード:生活期リハビリテーション,理学療法,訪問活動

(2)

ン医療は民間の医療機関ではまったく採算が取れないのが通常 で,国立や県立(都立)といった公的な医療機関が政策的な医 療として実施していたという時期があった。公的医療機関にお いてはリハビリテーション専門職を主として配置人員基準が厳 密で,濃厚なリハビリテーションの提供が必要と判断されても なかなか現場のニーズが人員の増加といったところに結びつ いていかなかったし,365 日実施体制などもまったく問題外と いった状態であった。  一方で老人保健事業において,保健活動として現在の通所や 訪問リハビリテーションの原型となる機能訓練事業や訪問指導 事業が展開されていった。保健師(婦)が調整役となって理学 療法士や作業療法士といった専門職が地域にかかわっていく活 動の原点となっていった。高齢者や障害者の在宅での状況を目 のあたりにする機会となり,在宅への理学療法士のかかわりの 必要性を考えていく大きなきっかけとなっていった。病院に入 院してのリハビリテーションが主流であったその当時は在宅に 復帰した後はヘルパーや福祉用具や特別養護老人ホームなどの 入所や通所など福祉制度で支えるのが常識で,地域におけるリ ハビリテーションという発想は皆無であったが,この老人保健 法の機能訓練事業が在宅での理学療法という分野の端緒となっ ていった。理学療法士や作業療法士の訪問での在宅支援活動が 徐々にはじめられていったが,訪問看護ステーションが制度化 されるとそこからの訪問として制度に乗っていくようになる。  その後,急性期病院における早期リハビリテーションサービ スの重要性が指摘されたが,一般病院における急性期の早期離 床や早期リハビリテーションは診療報酬における加算などの経 済誘導が報酬改定のたびに示されて,量的な拡大は若干あった が,十分な進展は見られないまま現在に至っている状況であ る。一方で先駆的な急性期病院では徹底的な早期リハビリテー ションと早期自宅復帰を推進し,訪問リハビリテーションを充 実させて退院直後から在宅での支援を実施し成果を挙げている 病院も見られるようになっている。  平成 12(2000)年の介護保険制度の開始と同時に回復期リ ハビリテーション病棟も制度化されていった。この制度化はリ ハビリテーション医療の大きな転換点となったといえるだろ う。回復期リハビリテーションはそれまでの病院における理学 療法士の役割と活動スタイルに大きな変化を求めるようになっ た。それまで訓練室に閉じこもっていた理学療法士に病棟での 医師やケアスタッフとのチームアプローチを展開するとともに 病棟での患者の日常生活活動(以下,ADL)の実際にかかわっ ていくスタンスが求められていった。つまり,機能訓練に偏重 していた視点から患者の生活の実際に着目し,その自立と在宅 への移行を想定した理学療法の展開が求められるようになって いった。1 日 3 時間の個別リハビリテーションの提供や 365 日 体制でかかわり,徹底的に自宅復帰をめざすことが打ちださ れ,そのため回復期リハビリテーション病棟を有する病院では 多くの理学療法士が配置され,急速に養成される理学療法士・ 作業療法士・言語聴覚士の有資格者の大きな受け皿となって いった。  回復期リハビリテーションが普及していくとともに急性期・ 回復期・生活期リハビリテーション,その流れの重要性と各ス テージでのリハビリテーションの役割について,平成 16(2004) 年に厚生労働省がまとめた「高齢者リハビリテーションのある べき方向」1)において提示された(図 1)。予防的活動として は老人保健事業,介護予防事業,健康増進法による諸活動が挙 げられ,この部分は介護保険に色濃く反映され保険者である市 区町村における独自の予防活動の実践とともにそれなりの成果 を上げているといえるだろう。治療的活動としてはおもに医療 保険による急性期・回復期リハビリテーション,それに継続的 に実施されるおもに介護保険分野で提供される生活期リハビリ テーションの重要性が強調されている。この急性期から生活期 へと一連の継続的なリハビリテーションの流れについては脳卒 中に代表される急性発症し後遺障害を呈する疾患を想定し,そ れぞれのステージでのリハビリテーションの充実と連携が強調 された。発症後早期に急性期病院において早期離床そして急性 期リハが実施され,必要があれば回復期リハビリテーション病 院へ転院して病棟 ADL 訓練も含めた集中的なアプローチを通 じて早期歩行・早期 ADL 自立をめざす。廃用症候群の防止・ 寝たきりを防止してできるだけ自宅復帰をめざすのが回復期リ ハビリテーションの重要な使命といえる。さらに自宅に帰って からあるいは介護保険施設に入所後や療養病院などに転院した 後もリハビリテーションが必要であれば地域における介護保険 を中心とした生活期リハビリテーションが実施される。 生活期リハビリテーションの現状と課題  生活期リハビリテーションの目的は在宅での様々な要因によ る活動性の低下によって生じる廃用症候群の防止と身体面,精 神面の活動性の向上にあるといえる。在宅での理学療法士等の 専門職の関与も重要であるが,生活に直接的に関与する介護や 図 1 高齢者のリハビリテーションと介護予防

(3)

看護スタッフそして生活の活性化に重要な役割を果たす通所活 動における支援,そしてかかりつけ医やケアマネジャーとの チームでのかかわりが重要となってくる。家族も含めて在宅で の生活の活性化と社会的活動への参加やその人らしさをもう一 度取り戻していく活動が重要となってくる。  生活行為を規定する要因として,竹内2)は 3 つのポイント を指摘している(図 2)。麻痺や筋力低下といった身体機能的 要因とやる気や意欲といった精神・心理的要因,近隣の住民や 友人,かかわる専門的スタッフ,家族といった人的な環境と家 屋の立地や住宅構造といった物理的な環境といった環境的要因 が相俟って,具体的な生活機能低下につながっているとしてい る。脳卒中に代表される急性発症する疾患を想定した場合,発 症早期と機能回復がほぼプラトーとなる在宅への移行期では理 学療法等のリハビリテーションアプローチの重点が大きく変 わってくる。発症早期においては麻痺や筋力低下などの身体機 能的要因への積極的なかかわりによって,徹底的に機能回復を 図りそれを実際の生活に反映していくことが重要となってくる (図 3)。しかし生活期におけるアプローチにおいては精神・心 理面の活性化と家族や介護者のかかわりや専門職のかかわりの 頻度の低下などの人的な問題や自宅の住宅環境の問題つまり後 遺障害と家の構造とのミスマッチといった物理的な環境の要因 が生活機能の低下と自宅での活動性の低下につながっているこ とが多い(図 4)。  次に生活期におけるリハビリテーションの現状について触れ ておきたい。まず,第一に在宅生活を継続している過程で,不 活発な生活習慣や障害を負っていることでの生活の狭小化や活 動性の低下により徐々に生じる廃用症候群に対応できていない 現状が挙げられる。生活期におけるリハビリテーションサービ スの提供体制が不十分であることと介護保険における給付限度 額上限の設定によって,訪問リハビリテーションなどの頻度の 引き上げが状況に応じて即対応できない状況が挙げられる。  第二に慢性期,軽度の傷病などで急速かつ容易に生ずる廃用 症候群に対応できていない。在宅で生活している中で風邪をこ じらせて肺炎になったり,転倒をして痛みのために寝たきりに なったりすることで急速に生活機能が低下したときに十分な対 応ができていない。給付限度額の問題ですぐにリハビリテー ションサービスの提供に結びつかないこともあるが,このよう な状態に直面したときに安静至上主義が支援者側にも浸透して いるためかリハビリテーションサービスに結びつけたり,積極 的に動かしていくという発想に結びつかない支援者側の意識に も問題がある。  第三に介護保険事業所における理学療法士等のリハビリテー ション専門職の配置が不十分であり,かつ教育もきちんとされ ていないことが挙げられる。第一や第二の問題とも関連するが, 必要なときに即対応できるような在宅支援のためのリハビリ テーション提供体制が十分に充実できていない。訪問リハビリ テーションに関しては量的な整備がまだまだ十分にされておら ず,通所リハビリテーションに関しては理学療法士など専門ス タッフの配置が不十分などの提供側の問題が指摘されている。  第四にかかりつけ医におけるリハビリテーション医療への関 心が必ずしも十分でないため,リハビリテーションの適応の判 断や ADL の自立や QOL の向上といった視点が不十分である。 生活期におけるリハビリテーションはかかりつけ医の直接的な 指示や診療情報提供書による指示が不可欠だが,その適応につ いての医師の判断が適切になされていない,その必要性につい ての認識が必ずしも十分ではないというのが現状といえる。同 様のことがケアマネジャーにもいえるのは,医療とりわけリハ ビリテーションの領域に精通している在宅支援者が少ない現状 にも問題がある。 在宅での理学療法士のかかわりでより広い可能性を引 きだす  さて,ここからは在宅の高齢者や障害者に対する生活期リハ ビリテーションの一環としての通所や訪問といった形での支援 における理学療法士のかかわりの重要性について触れていき たい。 図 2 生活行為を規定する要因 図 4 生活期におけるアプローチ 図 3 発症早期におけるアプローチ

(4)

関節可動域,痛みを把握して起き上がりから座位,立ち上がり から立位といった基本動作能力の向上を図る。さらに昨今は急 性期病院の在院日数の短縮が進められ,発症から短期間で在宅 へ移行する傾向が見られ,十分なリハビリテーションを提供さ れることなく自宅への退院を余儀なくされるという話もよく聞 かれる。さらに回復期リハビリテーション病棟の実態調査にお いても,退院した脳卒中患者の 7 割は発症から 4 ヵ月程度で自 宅復帰しているという結果が示されている。一般的には発症 4 ヵ月の時点ではまだまだ機能回復が継続している状態の場合 が多いとされ,継続的な機能向上のためのアプローチが必要と されるだろう。つまり在宅においても生活機能面へのアプロー チだけでなく,必要に応じて機能障害に対する機能訓練アプ ローチの実施も必要な状況がうかがえるのである。 2.ADL と手段的日常生活活動(以下,IADL)  さらに食事,排泄,移動,更衣,入浴,整容,コミュニケー ションといった在宅での ADL の維持もしくは改善へ働きかけ る。ADL つまり日常生活活動の基盤となっているのは,それ を行うのにもっとも相応しい場所まで移動できるというのが大 きな条件となってくる。つまり,排泄であればトイレまでの移 動であり,便器への立ちしゃがみといった基本的な動作能力が 求められる。清潔の保持のための入浴については浴室までの移 動,そして浴室内での立ち座りや浴槽の跨ぎであったり,座っ ての浴槽内への移動といった動作能力が必要となる。実際に生 活を行っている家という場で,実際に動作を行っている環境 で,直接的に ADL の評価を行い,それに働きかけていくこと が在宅支援では可能である。  さらに炊事,掃除,洗濯,外出,買い物といった IADL の維 持・改善も重要である。IADL へのアプローチを通じて閉じこ もりの改善や家族も含めた地域や社会からの孤立化防止にもつ なげられ,そこから社会参加への糸口にもつながる可能性を拡 大していけるのではないか。可能性を拡大していける期待感に もつながり,生活の質(以下,QOL)の向上も図っていけるの ではないだろうか。このような ADL や IADL のバリエーショ ンを拡大させて,その質を高めるために移乗や移動能力の向上 や自立の可否が鍵を握ってくる。屋内での移動はもとより屋内 外の出入りから屋外へと活動範囲を拡大していくことは在宅で の QOL の向上に大きな影響をもたらすだろう。そして,閉じ こもりを解消し,人と触れ合う機会を増やし社会参加へとつな がっていく可能性を拡大していく。 3.家族,介護者への介助方法の支援  これまで病院を中心に活動を展開し標準的な手法も確立して きた理学療法士にとって,疾病や障害に対する治療技術の確立 を主軸として自分たちの基盤を築いてきた。病院といういわば ホームグラウンドで,疾病や障害をもった本人,つまり患者に 対する直接的なアプローチが日常的で,自宅退院の直前に家屋 チェックや家族・介護者への指導がされるのが一般的といえ る。しかし,在宅でのアプローチにおいては家族・介護者の介 護負担にも十分な配慮をして介助方法やその要領を提案し,で きるだけ自立度の高い ADL 指導や介護負担を軽減するような アプローチが可能である。  本人の生活機能がいくら向上したといっても家族・介護者の 介護負担による身体面・精神面の疲弊によって在宅の継続が不 可能になることをよく経験する。こちらの価値観を一方的に押 しつけることは厳に慎むべきだし,在宅では直接的な対象は本 人ではあるが家族・介護者も我々が支援していく対象であるこ とをしっかり認識しておかねばならない。寝かせきり,過剰な 介助,無理な介助等,過剰な自主トレーニングの指導や体位変 換などの指導も介護負担の増大につながる危険性があるので, 慎重にすべきである。 4.住宅改修の助言,指導,支援  在宅での生活を大きく左右する要因として取り巻く物理的環 境の問題が挙げられる。とりわけ日本の住居は一般的に居室や 移動動線である廊下などが狭く,家屋内に段差も多く,扉の形 状なども阻害要因となることも多い。屋内外の出入りでは玄関 先の上がり框という大きな段差が障壁となったり,敷地から道 路に出るまでに階段があったりすることも一般的といえる。病 院入院中は一般的には物理的環境が整備されているため車椅子 レベルであっても移動能力はある程度自立度の高い生活をして いても,自宅に帰ると住宅環境と身体機能のミスマッチによる 移動能力の極端な低下につながる場合が往々にしてある。機能 障害や能力障害を踏まえて適切な住宅改修のアドバイスをする ことは在宅リハビリテーションの重要な役割である。在宅で住 宅改修することのメリットは生活を継続している中で理学療法 士が直接的に改修のプランを提示でき,改修後に必要な動作指 導も同時に実施していける。そして,住宅改修後にその環境の 中で実際の動作の訓練ができるので,必要最低限の改修で大き な効果を上げることが可能である。 5.福祉用具利用の助言,指導,支援  環境調整の一環として福祉用具など道具の利用の提案も重要 である。ベッドや車椅子,杖など利用者の現在の身体機能や予 図 5 介護保険の居宅支援とリハビリテーション

(5)

後などを適切に評価したうえで導入し,さらには自宅という環 境の中で住宅改修等にも絡めて,実際の ADL 向上のための動 作指導を行うことも効果的である。特に理学療法士としては移 動や移乗を安全に実施するための福祉用具の導入とそれを使用 しての動作練習をしっかりと行い実用的にしていくことは大き な役割といえる。  特に活動性を拡大して社会参加をめざしていくといった大き な目的のためには屋内外の出入りに関連した環境調整と動作練 習の実施は重要となってくる。 6.家族介護者への精神的支援  在宅での理学療法士のかかわりで特徴的なのは,利用者のみ ならずその家族・介護者への配慮や直接的な支援が挙げられ る。家族・介護者の介護負担の軽減を図るとともに精神的な支 援も重要である。特に介護する家族は孤立感が強く,様々な不 安を抱えて生活している場合が多く,話をじっくり聞くなどの 精神的支援が重要となってくる。 7.地域の専門スタッフとのチームアプローチ  図 5 にオフィシャルな介護保険サービスと訪問や通所リハビ リテーションの関係を示す。介護支援専門員や訪問介護,通所 サービススタッフ,さらにはかかりつけ医や訪問看護において も在宅でのリハビリテーションの役割やその効果について十 分理解されているとはいえない。ADL の自立,活動性の拡大, QOL の向上といったリハビリテーション的な視点を共有する 中でそれを定着させていくことも「地域リハの推進に向けて」 理学療法士の果たすべき大きな役割のひとつといえる3)。  平成 27 年度の介護報酬改定ではリハビリテーションマネジ メントが再評価され,新たな重みづけがされて在宅支援におけ る理学療法等の専門職の役割が強調されている。リハビリテー ション会議の実施を積極的に評価するなど理学療法士などの専 門職による活動と社会参加へ向けた具体的な支援活動の実施が 期待されているといえる。 おわりに  我が国で理学療法士が誕生してからほぼ 50 年経つが,資格 保持者は平成 26(2014)年で約 11 万人を超え,年間 1 万人の ペースで増加している。増加のパターンとしては平成 12(2000) 年をひとつの区切りと考えると 35 年で 3 万人になり,以降の 15 年で 3 万人から 11 万人と急速な増加を示している4)。この 急激な増加には医療・介護保険における報酬改定での理学療法 等の必要性の評価が影響している(図 6)。平成 12 年の介護保 険制度のスタートと回復期リハビリテーション病棟の制度化は 我々理学療法士にとってその専門職としてのあり方を問われる 大きなターニングポイントとなったのではないかと考える。急 速に増加した理学療法士の有資格者は全国的な回復期リハビリ テーション病棟の基盤整備に伴う専門職種の大量の雇用によっ て均衡がとられたといえる。一方で訪問・通所リハビリテー ションといった介護保険領域でのサービスに従事するスタッフ としても雇用が拡大していった。しかし,今後もこのような方 向性で理学療法士の雇用が自然に増加していく可能性はきわめ て少ないだろう。10 年後,つまり平成 37 年の 2025 年問題の 真只中で理学療法士になにが求められているのか。後,約 10 年で理学療法士の活動分野がどのように拡大しているのか,そ して専門性としての理学療法技術がどのように確立されている のか,現時点からきちんとその立ち位置を見据えておかねばな らない。 文  献 1) 高齢者リハビリテーション研究会:高齢者リハビリテーションの あるべき方向.社会保険研究所,2004. 2) 竹内孝仁:通所ケア学.医歯薬出版,東京,1996. 3) 伊藤隆夫,吉良健司:訪問リハビリ入門─脱寝たきり宣言.日本 看護協会出版会,2001. 4) 森本 榮:理学療法における人事労務管理─メンタルヘルス不調 を中心に.PT ジャーナル.2014; 48: 927‒934. 図 6 理学療法士国家試験合格者数と診療報酬の変遷

参照

関連したドキュメント

はじめに

 このようなパヤタスゴミ処分場の歴史について説明を受けた後,パヤタスに 住む人の家庭を訪問した。そこでは 3 畳あるかないかほどの部屋に

では,訪問看護認定看護師が在宅ケアの推進・質の高い看護の実践に対して,どのような活動

「養子縁組の実践:子どもの権利と福祉を向上させるために」という

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

LUNA 上に図、表、数式などを含んだ問題と回答を LUNA の画面上に同一で表示する機能の必要性 などについての意見があった。そのため、 LUNA